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龍介くんの日常  作者: 桐生初
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龍介が行った理由

ジョーンズはいつものような静かな口調で、亀一達に話し始めた。


「そうだな…。

もう30年位前だ。

人工の星でなく、元の住んでいた星が大分回復したからという事で、移住する人達が出だして、暫くした時だった。

大きな二本足で歩く猿が出始めたんだ。

その猿の餌は人間。」


朱雀はもう既に泣き始めている。


「日が暮れ出すと、山から出て来て、歩いている人を襲う。

でも、家の中にまでは入って来なかった。

軍が出て、日中の猿が寝ている時間に山に入り、殲滅を試みたが、その時居なくなっても、また数日すると現れた。

一体何だろうと色んな人が調べた結果、ある事が分かった。」


「なんだったんですか…。」


「世界中でその猿は出たんだが、その猿が出た場所は、全てゴミ廃棄場にされた山だった。

あれだけ環境を破壊して、排ガスを出して、星を住めない所にしてしまったくせに、また住み始めた人間たちは、ゴミ処分場などを作る前に住み始めてしまった為に、適当に建築資材や、様々な産業廃棄物とも言えるような物を棄ててしまっていたんだ。

そして、元々温暖化の劣悪な環境で生き延びていた猿達は、それらが染み出した水を飲みながら生きながらえ、どんどん巨大化して行き、次第に、それらの産業廃棄物や有害物質を餌にする様になり、身体が産業廃棄物で出来上がってしまった。

だから、どんなに殲滅しても、産業廃棄物や有害物質があれば、奴らはまた産まれてきてしまうんだ。

奴らを倒すには、産業廃棄物と有害物質を完全に綺麗に無くさない限り出来ない。

それが分かって、地球に移住した人達は全員で産業廃棄物を片付け、有害物質を無くす様努力した。

だけど、川や海を汚染し、山の土を汚してしまったのを元に戻すには、何百年とかかる。

結局、反省も含めて出来るだけ綺麗にした状態で、星を離れるしかなかったんだ。」


「30年経った今はどうなっているんですか?」


亀一が聞いた。


「取り敢えず、私が人工星を出た、今から3年前の段階では未だだったね。

無人カメラが送って来る映像には未だ猿は映っていた。」


亀一は必死に考えた。

でも分からない。


「でも、なんで龍なんだ。あいつが行っても、仮に俺が行ったとしても、そんな環境破壊が原因じゃ、助けようが無い。」


「今回は助ける為では無いのかもしれないよ。」


そう言ったジョーンズを全員が不思議そうに見た。


「ジョーンズさん、龍と言えば、助ける人だよ?助けられないで帰って来るかな…。」


「その為のスポックなんだ。だから大丈夫。」


亀一がそれはどういう事かと食い下がったが、ジョーンズは朱雀の頭を撫で、和臣に電話し、子供たちを連れて帰る算段を付けた。




話を聞いた龍介はスポックを不安そうな目で見つめた。


「じゃあ…。ここに居て、俺に出来る事は何も無いんですか…。」


「ここではそうだね。ここの人達は気が付かなければ、あいつらと共存して行くか…、滅びるか…。」


「そんな…!だってここんちには赤ちゃんだって産まれるのに…!」


スポックは辛そうな顔で言った。


「あのお腹の中の赤ちゃんは産まれても、直ぐ亡くなってしまうだろう…。」


そう言えば、スポックは奥さんのお腹を触らせて貰っていた。

診察目的だったのだという事を、龍介は今知った。


「どうしてですか…。」


ショックで声が震える龍介の頭を撫で、スポックは言った。


「この世界の食べ物にはみんな、さっき言った有害物質が入ってしまっている。

それは当然だろう。

川も海も汚染されて、あんなのが生まれてしまうんだもの。

少しずつ摂取して行く内に、大人は徐々に耐性が出来るが、お母さんとへその緒で繋がっている赤ちゃんには、耐性なんか出来る前に毒でやられてしまう。」


それでスポックは食事の後、龍介に解毒剤だと言って、錠剤を飲ませたのかと合点が行ったが、龍介は悲しくなった。


「可哀想だ…。あんなに楽しみにしてるのに…。そしたらもう赤ちゃんは産まれない世界になってしまうって事ですか。」


「そういう事だね。」


「ーあれ…。でもちょっと待って、スポックさん…。

耐性が出来るって、丸で、スポックさん達の星の猿や、あの半魚人達と同じじゃ…。」


「流石龍。その通りだ。

ここの人達が半魚人なる日もそう遠くないだろう。

半魚人になれば、産業廃棄物や有害物質がある限り、種の保存は出来る。」


「半魚人の星になってしまうという事ですか!?」


「そういう事だ。

この世界、とても空気が悪いね。

工場の排水も川に垂れ流している様だ。

龍の世界の人達は気が付いたけど、ここの人達は気が付かないのか、大した健康被害も出なかったからなのか知らないが、なんの対策もしていない。」


「ーそっか…。パラレルワールドは可能性の世界だ…。

環境破壊をそのままにしていたら…の世界なのか、ここは…。」


「そう。そしてもう一つ。

何故、栞ちゃんの近所の川とこの世界が、変な具合に繋がったかって事だ。

君がここに呼ばれたのは、それが目的なんじゃないのかな。」


「ーん…?」




亀一の自転車を漕いで迎えに来てくれた和臣に促され、栞を送ろうとして、川を見た亀一は突然閃いたらしく叫んだ。


「親父!なんでここと龍が行っちまった世界とが繋がったか分かった気がする!」


「おお!なんだ、亀一!」


「見ろ、これ!」


亀一が指差した川には、魚が腹を出して死んで浮かんでおり、よく見ると、変な油が浮いている。


栞が言った。


「そう言えば最近、変な臭いがするの。」


「だろ!?親父!この川のどっかに、工場排水かなんか分かんねえけど、有害物質出してる所があんだよ!」


「ほう!それとどういう関係が!?」


和臣、全く分かっていない様子だが、ノリだけはいい。


「だからあ!龍が行っちまった世界みてえにならねえようにって警告なんじゃねえのか!?」


「はて?龍介君、どういう世界に行っちゃったんだっけ?」


「親父~!!ジョーンズさんの話聞いてなかったのかあああ!」


「半魚人の世界に行っちまったんだろ?人助けに。」


「だから、実際問題、龍や俺たちに助けられる様な事が原因じゃねえだろ!?

破壊しちまった環境はどんなに技術が進んだって、元に戻すには100年くらいかかるんだから!

そうして、酷え世界になっちまった所もあるって知った上で、俺達の世界も環境破壊から脱しねえと!

小さな芽も摘まねえとってこったろう!?」


ジョーンズがニヤリと笑って、頷いた。


「おお。流石だな、亀一。」


「感心してねえで、なんとかしろ、自衛隊!」


「ほいほい。まずはここの水質を調べなさい。」


そう言って、自分のAMGから検査キットを出して、亀一と拓也に渡す。

和臣、相変わらず、どこまで分かっていないんだか、分からない。


亀一と拓也が調べ始めた所で、龍介とスポックがブンという音と共に戻って来た。

龍介は戻るなり言った。


「きいっちゃん!分かった!この川になんかあんだ!食い止めろって事なんだ!」


「俺もさっきジョーンズさんから話聞いてそう思った!今調べてる!」


龍介はニヤリと笑った。


「流石きいっちゃん。」


すると、和臣はまた自転車に跨った。


「そしたら俺、帰るね。」


「え…。おじさん…。来たばっかなんでしょ…?」


「だって組長戻って来たみたいだし。

調査して分かったら、加納先生に報告して、テコ入れして貰って。

じゃあねえ~。」


「え…?おじ…おじさん…?」


後手に手を振りながら、本当に行ってしまった。


龍介は苦笑すると、寅彦に連絡した。


「寅、もう遅くなるから、佐々木と朱雀と栞さんは帰す。

瑠璃と鸞ちゃんも帰して、送りがてらうちに本部移せ。

優子さんに申し訳ねえから。」


「あ、いや、龍…。優子おばさん、張り切って、龍の好きなビーフカレー作るって…。」


「ええ…。毎日の様に申し訳ねえな…。ちょっと優子さんに代わって。」


しかし優子はいつもの優しい声で機嫌良く、みんなで食べて行ってと言う。

有難くご馳走なる事したが、取り敢えず、朱雀と悟は必要無いので、帰す事にした。


亀一に栞を送って貰う事を告げ、ジョーンズに3人を送りがてら先に帰って貰うと、龍介は寅彦に言った。


「この川に工場用水を流しそうな業者を洗い出してくれ。小さな所も逃さない様に。」


「ラジャー。」









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