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龍介くんの日常  作者: 桐生初
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アレの音…

「栞さん、尾けられてんのは、いつ頃から?場所はどこら辺でとか決まってる?」


龍介が聞き取り調査を開始した。


「一昨日からよ。場所は、川沿いや川の近くを歩いている時。それ以外では今の所無いわ。」


「寅、あの辺りに監視カメラは?」


「お待ちを…。」


直ぐに調べて答える。


「無えな。」


「じゃあ、付けがてら見に行こう。

実際見れりゃ儲けもんだ。

寅と瑠璃はここ残って、ネットで似たような話が無いか調べて。」


「了解。」


龍介と亀一、栞が立ち上がると、再演奏会に同席していた、音楽祭に行きたくても行けなかった宇宙人2人が、笑顔で龍介に言った。


「付いていってもいい?車運転してあげるから。」


そして鸞も聞く。


「龍介組長、私は?」


「鸞副組長は残って、寅と瑠璃が調べた事を纏めつつ、調べといた方が良さげな事を指示しといて。」


「はーい。」


鸞は上機嫌で返事をした。

副組長とはなかなかいい響きである。


鸞の方は片付いたが、問題は宇宙人2人である。

大分地球での生活も慣れて来たとはいえ、このなまっちろいモヤシの様な外人2人は、かなり目立つ。

監視カメラ設置など、あんまり目立ってやりたく無い事も多いので、出来たら連れて行きたくは無いのだが、行きたそうにニコニコされてしまうと、きっぱり断るのも可哀想な気がしてしまう。


救いの手を求めて、チラッと和臣を見たが、和臣は面白そうに見ているだけで、助けてくれる気配は無い。


どうしようかと悩んでいると、更に朱雀が言った。


「龍、僕達は?」


そして拓也まで…。


「僕も手伝います!」


面倒になった龍介は、ぞんざいに言った。


「みんな来い。」


宇宙人2人はハイタッチ。

あんまりお出掛けは出来ないので、嬉しいらしい。


結局、和臣の車であるモカブラックのMercedes-AMG E 63と、優子の車である白のフォルクスワーゲンゴルフR32に分乗して出ようとした所で、珍しく悟と龍介が揉め出した。


2人して、AMGの助手席に乗りたがっているのである。


「俺の方が足長えし、背も高いんだから、助手席譲れよ。」


「関係無いだろ、んな事!僕だってAMGの助手席乗りたいよ!」


「嫌だ!俺が助手席乗るの!」


珍しい龍介の駄々っ子の様な我儘に、亀一が笑い出した。


「じゃ、龍、じゃんけんだ。」


また龍介が負けるかなと思っていたら、必ずパーの龍介に対し、なんと悟は必ずグー男だった。


勝った龍介はパーっと可愛い顔で嬉しそうに笑うと、亀一を振り返った。


「わあ…。俺勝った!きいっちゃん!初めてじゃんけんで勝ったぜ!?」


完全に幼児。

亀一は引きつった笑みを浮かべた。


「よ、良かったな、早く乗れ…。」


ーこれがうちの組長だもんなあ…。


亀一の隣の栞も笑いを堪えて、肩を揺らしている。

龍介ラブの拓也ですら情けなさそうな顔で笑っているのも気にも留めず、龍介は嬉々として助手席に乗り込みながら言った。


「じゃあ、スポックさん、行こう。」


「はいよー。」




鸞は寅彦と瑠璃が出して来る目撃談や情報を纏めていた。


「ふーん…。どうもこの川沿いの200メートル辺りであるようね。その変な足音っていうのは。組長に報告しておきましょう。監視カメラの設置場所が絞れるわ。」


鸞は龍介に連絡した後、寅彦と瑠璃に聞いた。


「現物見たって人は居ないのね?」


「居ないわ。」


「居ねえな。」


「なんか引っかかるのよねえ…。瑠璃ちゃんのお母様も、凄いぼやけてて、実体は無いけど、生きてるって仰ってたでしょう?例の地球温暖化に寄る異生物なら、実体はあるはずで、当然、瑠璃ちゃんのお母様に見える筈なのに…。」


「そうなのよねえ…。」




AMGの助手席で現場に着いて、ご機嫌な龍介は、亀一と監視カメラを設置しつつ、鸞が知らせてくれた200メートル区域に栞以外の全員を見張りに就かせた。


亀一が少し呆れた様な笑顔で聞いた。


「どうだった?AMG(アーマゲー)は。」


「エンジンは好きだけど、やっぱ足回りが硬いな。ブレーキも急にガッて効くし、爺ちゃんのと同じ感じ。」


「それがドイツ車のいい所。」


「好みなんだろうな。俺はフランス車の猫足が好き。」


「あれ酔うよ、俺は。」


「ドイツ車慣れしてるとそうなんだろうな。でも、いいエンジンだあ…。流石AMG。寅、どうだ?」


話しながら寅彦に電話で確認。


「うん。映像来た。」


龍介達はそのまま暫くそこで間隔を開けて見張っていた。

後は監視カメラに任せて、もう帰ろうかという日が暮れかかった頃、200メートル区域の端っこの、丁度龍介が見張っている所で、ブンという音が微かにした。


このブンという音、龍介達には聞き覚えがある。


そしてその音の後、目を擦りたくなる様な、画像乱れの様な、妙な感じで空間が歪む様な情景になり、薄ぼんやりと、二本足で歩く何かがヒタヒタと歩き始めた。


龍介は慎重に追いかけ始めた。

だが、目を凝らしていないと、見失ってしまいそうな状態だ。

朱雀は怯えてしまい、悟に抱きついて離さないから、悟は身動きがとれない。


亀一は栞を拓也に頼み、龍介が構えている網の片側を持った。

200メートル中程に来た所で、相手は気付いていない様子なので、龍介は亀一に目配せし、網を放り投げ、ソレを捕まえようとした。


「あれ!?」


ところが、ソレは捕まる事無く、そのまま歩き続け、200メートルの終わりの所で、また映像が乱れるような歪んでいる様な状態となり、消えてしまった。


龍介にも何がなんだか分からなかったが、確認したい事があった。

最後の地点に居たスポックとジョーンズに聞いてみる。


「アレが消える時、ブンて音しなかった?」


ジョーンズはしたと言った。

だがスポックは聞いていないと言う。


「そう?僕には全然聞こえなかったけどな。」


「スポック、君の耳は興味のある事しか聞こえないんだよ。確かに聞いたよ。でも、龍、あのブンて音がなんなんだい?」


龍介が答えようとすると、また最初の地点の空間が歪み、薄ぼんやりした何かが歩いて来た。

だが、秋の夕暮れで暗くなりだすと、さっきよりもっと見えなくなり、ただ足音だけが聞こえ、また最終地点でブンと言って、足音が消えた。

そして今度は龍介達が立っている最終地点でブンという音がし、足音が聞こえ始めた。


「龍、この音…!」


「だろ?きいっちゃん。」


亀一は辺りをくまなく見回し、首を捻った。


「暗くなると姿は見えない。確かに足音だけだ。ー鸞ちゃん。」


龍介が鸞に電話する。


「はい、組長。」


「その証言、時間はいつなんだろう。」


「全部夕方から夜にかけてね。」


「見えづらくなってきてからか…。昼間のは無い?」


「無いわ。」


「そうか。瑠璃に代わって。」


「はーい!」


嬉しそうに出る瑠璃。


「寅死んでる?」


寅彦はお化けだと思ってしまい、部屋の隅で小さくなって、長岡家のクッションを頭から被ってしまっている。


「ちょ…ちょっとね…。なんで分かったの…?」


「鸞ちゃんの声がイラついてた。で、カメラの映像はどうだった?」


「画像が乱れたのかと思ったけど、確かに何かが歩いていたわ。

でも、いくら解析してもなんなのかは分からないの。

龍と長岡君が網を被せたのは、スカッと、なんの引っかかりも無く、通り過ぎて行く感じだったわ。」


「うーん。分かった。有難う。」


付近を拓也と一緒に探し回っていた亀一が言った。


「無えぞ、アレは。何処にも。」


「しかし、アレの音だったぜ…。やっぱ、なんかあるな…。」


またしてもアレ。

遺伝的にアレという表現が好きなのかもしれない。













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