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龍介くんの日常  作者: 桐生初
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作戦成功!でも新たな謎が…

それからは、毎日チェロの先生の所に通い、2人で猛特訓する日々が始まった。

激しい演奏で、指は切れる。

弦も切れる。

何故か肩も凝るし、腱鞘炎にもなりそう。

しかし亀一は泣き言1つ言わずに頑張っている。

やはり龍介の方は、亀一ほどは苦労せずに済んでいる。

可能な限り、亀一分の演奏も引き受けているが、例の器用さでなんとかやれている。


「きいっちゃん、休憩入れよう。」


「いや、もう少し。龍は休んでろ。」


加納家でやると、龍介に殆ど構って貰えなくなった苺と蜜柑とポチが一生懸命邪魔するので、龍介は毎日長岡家に来てやっている。

亀一がまだまだ!と引き延ばすので、必然的に、夕食まで頂いてしまっているが、優子は快く龍介の好物を作ってくれて歓待してくれている。


リビングと続いているダイニングに行くと、キッチンに入っていた優子が拓也と一緒にアイスコーヒーとクッキーを持って来てくれた。


「拓也が焼いたのよ。」


「へえ。拓也、お菓子なんか作るのか。」


「最近調理実習で目覚めたんですよ。食べて。龍さん。」


「はい。頂きます。」


期待に満ち溢れ、大注目で龍介を見つめる。


「うまい。適度な甘さで。」


「やったあ!」


龍介は、優子を申し訳なさそうに見つめた。


「ごめんね、優子さん。毎日、毎日。」


「いいのよお、全然。毎日私も楽しいわ。龍君が食べるとなると、拓也も手伝ってくれるし。」


「すいません…。しかし、きいっちゃん、よく続くよな。途中で嫌だって言うかと思った。」


「私も思ったわ。あの子、意外と龍君達四人の中で1番子供っぽいし、我儘だから。よっぽど栞ちゃんが好きなのねえ。」


「栞さんに会った?」


「会ったわ。何度かデートの途中で連れて来た事があって。

とってもいいお嬢さん。

おっとりしてて、頼りなく見えるけど、あの甘ったれの我儘亀一を上手に甘えさせてくれてるなって感じがしたわ。」


「そうなんだよね。

栞さん、俺たちと会っても、お姉さんになってくれるし、きいっちゃん、『栞は俺が居てやらねえと!』とかよく言うけど、実際きいっちゃんの方が栞さんに頼ってる気はする。」


「そ。そこが上手なの。栞ちゃんは。

亀一の高~いプライドを傷つけない様に、甘えさせてくれえるんだもの。

栞ちゃんとお付き合いする様になってから大分落ち着いたしね。

栞ちゃん様様ですわ。」


「長岡家でも歓迎されてんだ。良かった。」


「うん。嫁姑問題は大丈夫よ。」


「優子さんは逆に嫁にいびられそうだから、そっちが心配だって母さんも言ってたけど、じゃあ、安心だな。」


「ふふふ。私も安心しました。でも、栞ちゃんて、しずかちゃんのあれくらいの頃によく似てるわ。」


「えー?母さん?」


「そうよ。今も可愛いけど、あれくらいの時は、大変だったんだから。」


「優子さんの方が大変だったんだろ?

母さん言ってたぜ?

2人で出掛けると、ナンパ野郎が優子さん目掛けて束になって襲って来るから、千切っては投げだったって。」


「まあ、そんな時代もあったわね。」


「今も綺麗だよ。優子さんは。」


「まっ。」


龍介の煩悩が無い故の、キザなセリフに頬を染める優子を、拓也が冷めた目で見ている。


「龍、もう一回合わせてくれ。」


亀一に呼ばれ、龍介はアイスコーヒーを飲み干し、戻って行って弾き始めた。


それを親子してうっとりと眺める。


「素敵よねえ、龍君…。」


「うん…。」


はっとなって拓也を見る優子。


「た、拓也…。お母さんに何か言ってない事は無いわよね…?」


「え?言わなかったっけ?僕、龍さんが好き。」


「ーえっ!?」


「でも、龍さんは唐沢さんと結婚を前提としたお付き合いをしてるみたいだから、諦めたけどさ。

いいじゃない。

好きでいるだけなら。」


うっとり顔から一転して、真っ青になる優子。


「どうして兄弟揃って、道を踏み外した様な恋を…。

亀一がやっと普通になったと思ったのに…。」


優子の苦労は絶えない。




2人の演奏に寄る身体の故障は、長岡家の下宿人の宇宙人、スポックが治してくれるので、2人は練習も続けられ、無事音楽祭当日を迎えた。


龍介のクラスの合唱が終わり、例のオールドミスの音楽教師が、精一杯の着飾った格好で出て来て、意気揚々と言った。


「加納龍介君は事情があって合唱に参加出来ないので、チェロの独演をしてくれます。曲目は、バッハの無伴奏組曲1番です。」


教師が去ると、幕内にチェロと椅子を持った亀一が駆け付け、2人で登場する。

反対側の幕内に居た音楽教師が少し慌て始めているが、無視して2人で座り、龍介が音楽教師が言ったバッハを少し弾き始めた所で、亀一がスムースクリミナルの出だし部分を演奏し始め、一気に盛り上がっていく。

亀一が弾く主旋律は、聴きなれたチェロの音ではあるのだが、ロックらしくかなりの早弾き。

そして、ベースの龍介の方は、かなり低く、太い音で、しかも相当な早弾きで一気に駆け上がって行くようなリズム感で、エレキギターの音の様にも聴こえる、ずっしりと響き渡る音色だった。

生徒達は立ち上がって乗りまくり、先生方まで乗りまくった。

会場内は1つになって、手拍子が入り、真っ青になって、慌てまくっている音楽教師が止める隙は無い。

しかも、校長や理事長まで率先して立ち上がって喜んでいるのだから、代替教員の音楽教師になす術は無いだろう。


「やるなあ、龍介。きいっちゃんも、よく練習したね。」


話を聞きつけて、わざわざ一時帰国した龍彦が言うと、しずかと優子が頷いた。

しかし、優子の笑顔が微妙だ。


「どうしたの?優子ちゃん。そう言えば、栞ちゃん見ないわね。」


「そうなの…。

亀一が絶対来いって言ってたし、最近デートも縮小気味だから、何かを頑張ってるんだとは思ってたみたいで、絶対行かなきゃって思っていてくれたらしいんだけどね…。

熱出しちゃったんですって。

亀一には言いづらくなっちゃったみたいで、さっき私のLINEに…。」


「あららら~。それは困ったわね…。ビデオ撮影禁止だしね…。」


「そうなのよね…。怖いわ…。しずかちゃんから言って…。」


「う…?私?」


「うん。だって、私が言うよりまだマシそうじゃない…。」


「そうかなあ…。栞ちゃんの出現で、私効果なんかもう無い気がするけどなあ…。」


スタンディングオベーションで2人の演奏は終わり、アンコールの声まで上がったが、流石に音楽教師が黙っていない。

眉を吊り上げて、出て来たが、表だって文句も言えず、


「時間の都合がありますので、アンコールは無しです!」


と、金切り声を上げると、ブーイングの嵐。

中でも一際ブーブー言っているのが理事長だから、立つ瀬が無い。

龍介の作戦は見事に成功した。




目の悪い亀一は、観客席に栞がいるかどうかなど眼鏡をかけていても見えない。

音楽祭が終わり、優子達の元に駆け寄って来て、漸く栞が居ない事に気が付いた。


「あれ?栞は?。お袋と見るって言ってたろ?」


「う…。あの…、亀一…。」


見るからに言いづらそうな優子が可哀想になり、結局しずかが言った。


「きいっちゃん、栞ちゃん、本当に絶対来ようとしてたらしいんだけど、お熱出して、どうしても動けなくなっちゃったんですって。

優子さんの所に号泣してるスタンプが来たらしいよ。

お熱、40度もあるんですって。」


今迄の亀一なら癇癪を起こす所だが、亀一は怒らなかった。

のみならず、逆に心配し始めた。


「40度?風邪?大丈夫かな…。」


優子としずかは驚きながらも、嬉しそうに顔を見合わせた。


「大人になったじゃん、きいっちゃん。」


「ほんとね。」


亀一は歩き出しながら言った。


「俺、スポックさんに薬貰って、見舞い行って来る。」


そして行ってしまった。


「ああ、栞ちゃん様様よお。」


「良かったねえ、優子ちゃん。」


龍彦に抱き締められ、スリスリされていた龍介も青ざめた顔のまま言った。


「本と、きいっちゃん、栞さんとお付き合いする様になったら、穏やかで優しくなったよね…。」


優子もしずかも頷きながら龍介を見て笑った。

龍介もいい年をして、父親に抱き締められてスリスリされているという図が、恥ずかしくて堪らないのだが、諸事情を鑑み、必死に耐えているのだった。


「龍介、凄いよ、お前。お父さん、誇らしい!」


「う、うん…。ありがとう…。」


「またイギリス戻るけど、今度来た時はお父さんとも演奏しようぜ?!」


「は、はいはい…。」


真行寺が、龍介が可哀想になったらしく、苦笑しながら龍介を引っ張った。


「それくらいにしなさい、龍彦。飛行機の時間があるだろ。」


龍彦は龍介から名残惜しそうに離れ、手を振りながらしずかと一緒に車に乗って去った。


龍介は龍彦を見送った後、熱い視線にふと振り返った。

瑠璃の目がハートになって、龍介を見つめている。


「龍、すっごく素敵だった…。私、龍の婚約者で本当に幸せ。カッコ良かったわああああ…。」


亀一が切望していたセリフは、龍介が受ける事になってしまったが、後で栞が良くなってから、仲間と栞を集めて長岡家で再演を行い、亀一も遅ればせながら、その類いのセリフを言って貰い、満足して、めでたしめでたしで終わったのだが…。

栞の元気があまり無い。


「どうした?」


亀一が聞くと、言いづらそうに話し始めた。


「最近、誰かに尾けられてる気がするの…。でも、人間じゃないと思うの…。」


途端に真っ青になった寅彦は耳を塞いでいる。


「なんで人間じゃねえと?」


亀一の問いに迷いながらという様子で答える。


「足音がね、ヒタヒタ言ってるの…。

水っぽい裸足みたいな。でも、振り返ると誰も居なくて…。

だから、お兄ちゃんや両親も気のせいか、お化けじゃないかって言って…。」


瑠璃が手を挙げた。


「うちの母に頼んでみましょうか?」


栞より先に亀一が頷いた。


「頼む。」


瑠璃が早速電話し、スピーカーにすると、母は暫く黙って霊視した後、言った。


「それ、お化けじゃないわ。生きてるわよ。」


「え?お母さん、生きてるってどういう事?振り返ると見えないんだよ?」


「でも、生きてる物だわ。死んでない。」


電話が終わり、亀一が龍介を見た。

龍介は少し笑うと言った。


「きいっちゃんの大事な婚約者に何かあっちゃ困る。調べよう。」





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