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龍介くんの日常  作者: 桐生初
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龍介の七不思議

「唐沢の親父さんて、何してる人なんだ?」


龍介は戻って来て、再びタイムマシン製作に入ると、悟が居ない事を確認した。


悟は今日は家族旅行だから来ないと言っていたと、朱雀が告げると、話し始めた。


「何?龍、唐沢さんに興味持ったの!?」


期待に満ちた目で言う朱雀を訝しげに見ながら答える。


「いや、そういうんじゃなくて。佐々木は部外者だし、まあ、爺ちゃんが全く信用してねえし、どっかで喋っちまうと困るから、見せなかったのは分かるけど、だったら唐沢は?女だから落とすのが憚られるなら、爺ちゃんが先に入って来た時に、薬で眠らせりゃいい話だ。なのにあの箝口令の飛行機は見せちまうし、乗せてから、酔い止めとして寝かせてる。親父さんも自衛隊関係とかなのかなとね。」


寅彦が龍介の質問に答えた。


「JAXAって言ってたぜ?」


「相模原の?」


「うん。」


すると、満を持して亀一。


「そりゃ、表向きだ。殆ど自衛隊だろ。多分偵察衛星の方の技術者だ。つまり、うちの親父達側の、まあ、なんらかの国家機密関係の人間だから、俺達同様、ガキと言っても、口は固えと。」


「なるほどね。」


「しかし、ありゃどう見たって、宇宙船だ。一体うちの親父共は何やってんだか。ありゃ、絶対UFOだ。飛び方といい、見た目といい。多分あの見た目から行くと、レーダーにも引っかからねえんだろう。あの通り悪天候も関係無しで飛ばせるってのも、未知の技術だ。乗り心地は最悪だから、まだ開発途上なんだろうが、なんでUFOなんか作ってんだか。」


付け加えるように寅彦が言った。


「それに、瞬間移動する時の地震。あれ、地震じゃないぜ。あの時のあの時間、日本各地のどこにも地震があったなんて記録無えし。なんか怪しい地震なんだよな。」


龍介が難しい顔で唸ってしまった。


「なんか父さんが絡んでる気がすんだよな、あの地震。爺ちゃんがもの凄い殺気立った目で父さんの事見てて、珍しく父さんが小さくなってんだよ。全くあの地震のせいでって、母さんに話してるのも聞こえた。」


「うちもだ。」


と亀一。


「お袋が親父に異様に冷たく、親父も小さくなってる。まったくあなた達のせいで、亀一達があんな危ない目にって言ってんのが、お説教部屋から聞こえた。」


亀一の家には、通称お説教部屋と呼ばれる謎の部屋がある。

亀一はしょっ中、母優子にそこに入れられ、実験で使った危険物の扱いがなっていないと怒られている。

怒られる理由が、一般のご家庭とはちょっと違うが。


「そっかあ…。うちの親父も加奈ちゃんも特にコメントは無えけども…。」


「僕のパパは龍のパパの事、やっぱ運動会で殺しとくべきだったって呟いてたよ。」


朱雀があっけらかんとした口調でカラッと言った。


「やっぱ父さんは殺意をもって、追いかけられてたのか!」


「みたいだねえ。ママが、『お願いだから、ああいう恥ずかしい殺し方はやめて。』って泣いてたけど。」


3人は同時に同じ事を思った。


ーおばさん…。やめてって言う部分がずれてる…。殺し方次第では殺していいという事になる発言だぜ…。


気をとり直して、龍介が言った。


「まあ、国家機密には違いねえようだから、詮索しないで置いとこ。その内教えてもらえるよ。」


一応3人共納得した。


「しかし、唐沢が見たって言う、30センチの巨大ヤモリっつーのはなんだろうな。南国だから?」


珍しく龍介が聞いた。


「珍しいな、龍。気になんのか。」


亀一が聞くと、力強く頷いた。


「うん。だってさあ、凄えスケベじゃん。俺達の時は出て来なくて、唐沢の時だけ出て来るなんて。しかもすっげえガン見されてたっつーし。」


「よく分からんが、言葉が分かる熊が居る位だから、スケベで巨大なヤモリ位いんじゃねえの?地球温暖化だし。」


寅彦がパソコンから目を離し、笑いながら亀一を見た。


「きいっちゃんにしちゃ珍しく適当だな。興味無いのか。」


「俺は、変わった生物ってのはなんか嫌だ。気色悪い。ていうより、龍は唐沢の裸をヤモリがガン見してたから気になんだろ。」


亀一が揶揄い気味に言うと、真っ赤になって怒り出した。


「そうじゃなくてえ!女が風呂に入った時だけ出て来て、じっと見るっていう、そのスケベ根性が気に入らねえだけだあ!ポチの散歩もあるし、爺ちゃんに唐沢の様子見て来いって言われたから、今日はもう終わり!行くぞ!」


そう言って、亀一や朱雀を引っ張って無理矢理立たせた。


「ちょっとお、龍1人で行けばいいじゃないのお。」


「お前らも行くんだよ!ほら、寅!さっさと立つ!」




仕方なく付き合って瑠璃の家に行くと、瑠璃はとても元気そうで、自分で作ったというチェリーパイとクッキーを出してくれた。


「どうかなあ?甘くなさすぎ?。売ってるケーキが甘過ぎて好きじゃないので、作ってみたんだけど…。」


「いや、凄え美味いよ。」


亀一と寅彦も美味い美味いと言っている。

朱雀はここぞとばかりに、龍介に瑠璃をアピール。


「龍も甘いの嫌いなんだよね。ケーキもこんな上手に龍好みに出来るなんて、唐沢さんはお嫁さんにピッタリなんじゃないかな、龍。」


「お嫁…。」


2人して真っ赤になると、龍介はキッと朱雀を睨んだ。


「んな先の事知るか。で、唐沢はあれから大丈夫か?熱が出たり、身体だるかったりは?」


「大丈夫です。有難う。長岡君のお父様が精密検査みたいなのもして下さったし、問題無いよ。」


亀一が情けなさそうな顔をして呟いた。


「そりゃ、データ取りだな…。」


「なあに?長岡君。」


「物質瞬間移動なんて、成功して、実用化出来たら、凄え便利じゃん。不具合が出た唐沢に、その後異常が出なくて、俺達が移動した時の正確なデータが取れりゃ、それも夢じゃなくなるって事。」


「なるほど…。でも、きっといい事に使って下さるわ。」


「だといいけどねえ。居るのが自衛隊だからな。」


アイスティーを持ってきた、瑠璃の母が笑顔で言った。


「駄目よお?長岡君。あまり詮索しちゃあ。」


ーここにも知ってて監視している大人が居る…。


4人共そう思い、思わず全員で何度も頷いてしまった。


「ところで加納君。瑠璃から聞いたわあ。本当、頼もしくてカッコいいのね。もう瑠璃が羨ましくなっちゃった。という訳で、私もファンクラブに入りましたあ。」


「うっ…。」


青くなる龍介と頭を抱える亀一。

実は龍介には、お母様方専用のファンクラブがある。

その会長は亀一の母、優子だ。


「ごめんな、龍…。うちのお袋の爪痕がどんどん広がって…。」


「ほんとだな…。優子さんと朱雀の母ちゃんだけの筈だったのに…。」


いまでは会員50名を越えるかなりの組織になっている。





タイムマシン計画が軌道に乗ると龍介の仕事は殆ど無い。

ネジ止め位だが、亀一が龍介には任せないので、龍介はふらっと現れて調達物資が無ければ、帰ってしまう様になっていた。


「加納は1人で何してんのかな…。」


悟が若干心配そうに言うのがちょっと嬉しくて、3人は自然と笑顔になった。


「龍はああ見えて忙しいんだよ。ポチの散歩もあるし、チビ達の遊び相手もしてやってるし、チェロもあるし。」


「ああ、チェロね。」


音楽会などで龍介がいるクラスはピアノの伴奏の他、龍介のチェロの伴奏もついて、ゴージャス感を増していた。


「全く…なんでも出来んだから…。」


大分龍介とは打ち解けてきたものの、結局憎々しげに言う悟に、寅彦が笑いながら言った。


「でも無いぜ。な?きいっちゃん。」


「そ。何故常にチェロで伴奏になっているかが鍵だ。」


「は?どういう事?」


朱雀が笑いながら暴露する。


「龍はね、音痴なんだよ。」


「音痴⁈あの顔で⁈」


驚く悟に亀一が説明し始めた。


「そう。凄え音痴。いくら指導しても何歌ってんだか分からん。あまりの深刻振りに、先生も諦めて伴奏させる事にしたんだ。」


「あんなにチェロが上手く弾けるのに、なんで音痴…。」


「分からん。七不思議の一つだな。」


「はあああ…。びっくりだな。面白い…。」


その頃龍介が酷いくしゃみをしていたのは、お伝えするまでもないだろう。







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