きのこ事件発生!?
怒涛の4キロ皆泳から帰って来て、長かった梅雨も明け、いきなりの猛暑になった。
瑠璃はいつもの様に、夕方少し日が陰ってから、セーラと散歩に出た。
いつもいそいそと、止まる事なく歩くセーラが、マンションの植え込み前でピタリと足を止めた。
「どしたの?セーラ。」
セーラが瑠璃を見上げたので、瑠璃も植え込みを覗いてみた。
「んん!?なんだこれは!」
瑠璃の目に飛び込んで来たのは、真っ白な、見るからにヤバそうなきのこだった。
しかも大きい。
傘の部分の直径は10センチ以上はある。
真っ白な傘には茶色の様な黒っぽい点々があり、その点々は出っ張ってボコボコしている。
茎も太くて、傘が開いて居ないのは、卵型をしており、尚、気持ちが悪い。
それが5つ位生えていた。
「こんなの昨日生えて無かったよね?急に生えたのかしら…。なんで?どうして?うーん…。」
首を捻りながら一度は通り過ぎた瑠璃だが、ふと思い付き、また戻った。
「これは…、写メらなければ…。」
携帯で写真を撮り、龍介に送ると、すぐに返事が来たが…。
ー食うなよ!?今行く!
瑠璃はセーラにそのラインを見せながらため息を吐いた。
「食う訳ないじゃんねえ。見るからに毒きのこなのに…。」
セーラも、なんだかバカにした様な笑顔で首を傾げた。
「まあ、心配してくれてるのよ。」
そうねって感じの笑顔。
セーラを撫でながら待っていると、5分もかからず、龍介がポチを連れて走って来た。
なんだか大荷物を抱えている。
「どしたの、龍。」
「お前だけでなく、お袋さんも料理に使ったら大変だろ!?それ絶対毒だから!」
ーだから、見ればそう思うから、いくらうちのお母さんが買い物嫌いでも、これを椎茸の代わりにしようとは思わないから…。
目を伏せる瑠璃には構わず、龍介は瑠璃とセーラとポチにまで防塵マスクを嵌め、自分も嵌めると、肘までの手袋をし、きのこをそっと抜き取り、危険物を入れる専用の様なビニール袋に入れ、厳重に封をした後、辺りに何かのスプレーをかけた。
「そのスプレー何?」
「除菌スプレー!」
ー効くのか、それ…。
瑠璃だけでなく、ポチとセーラまで首を捻っているが、龍介はこれでもかという程除菌スプレーを撒き散らすと、自分の手袋や瑠璃たちに嵌めた防塵マスクをまた仰々しいビニール袋に入れて厳重に封をした。
「ん。これで安心。ではついでだから一緒に散歩に行こうか。」
「はい…。」
暫く歩いて、瑠璃がやっぱり不思議そうに言った。
「でもなんで生えたのかなあ。菌があったって事よね?」
「きいっちゃんと優子さんにも送ってみたから、意見は来ると思うけど…。
ずっと雨続きで、いきなりこの暑さだからかなとは思うが…。
菌があったっつーのは、俺もよく分かんねえなあ。
あんな人工的な植え込みに…。」
「そこよねえ。ところで、どうして長岡君のお母様?」
「優子さん、なんでも知ってるから。あ、来た。」
優子からのラインを見て、龍介は笑い崩れてしまった。
「どうかした?」
ラインを見せられ、瑠璃も笑い出した。
ーうわっ、気持ち悪っ。寒くなったわ。でも、コレ、野生のうずらの卵に似てる~。擬態してるのよ~。
と、笑顔のスタンプ付き。
「面白いね、長岡君のお母様。」
「流石母さんの親友だろ…?なんの為にうずらの卵に擬態化するんだ…。優子さんが言うだけに、一瞬本気で考えちまったじゃん。」
「あ、長岡君からも来たよ。」
2人で見る。
ーお袋の説は置いて置け。
調べた所、そのきのこは、オオシロカラカサタケというもんだと思う。
立派な毒きのこだ。
胃腸に症状が出て、生死の境を彷徨う場合もあるらしいから食うなよ?。
瑠璃はまた目を伏せる事になった。
ーだからどうして食うって話になっちゃうのかなあ、この人達は…。
こんな見るからに怪しいきのこ、食わないっつーの…。
「取り敢えず、胞子吸う位なら大丈夫そうだな。良かった。」
「う、うん…。」
ーきっと龍は、あの謎のサバイバルキャンプとやらで、もっと危険なきのこに遭遇してるのね…。
だからあんなに用心したんだわ、うん…。
瑠璃はそう思う事にして、話を変えた。
「イギリス、夏休みはもう行かないの?」
「うん…。お父さん泣いてたけど、あと1週間で剣道部の合宿だし、写真部の方もチマチマあるからさ。」
「そっかあ。」
瑠璃がにんまり笑うと、龍介はかがみ込んで、瑠璃の顔を覗き込んで笑った。
「何?」
「蜜柑の悪企みしてる時の顔そっくり。」
「いいいい~!?」
ーあんないたずらっ子丸出しみたいな顔してるの!?私~!
「可愛いよ。」
「ーはう!?」
龍介の可愛いは何処か違っている様なので、助かる瑠璃だった。
「じゃ、じゃあ、お祭り一緒行く?」
いつもお祭りの時期は、イギリスに行ってしまっていたので、2人で行った事は今の所無い。
「ああ、行こうか。」
「やった…。ぬふふふふ…。」
また悪企みの顔なっていた様で、龍介が爽やかに笑っている。
その翌日、いつもの様に竜朗と母屋から道場に行こうとしていた龍介は、竜朗と共に、庭を見て足を止めた。
「凄えな、なんだこりゃ…。」
珍しく竜朗が驚いてしまう様な驚愕の景色だった。
昨日、瑠璃のマンションの植え込みに生えていたきのこが、庭一面に生えているのだ。
「龍、昨日のきのこ、燃やしたんだよな?」
「うん。一応胞子飛ばねえ様に、あの袋ごと密閉状態にして燃やした。」
「うーん…。うちだけかね…。」
竜朗とそのまま外に出て、流石に2人して目を擦ってしまった。
前の林も、道路脇の街路樹の根元にも、土がある所全てに、あのきのこが生い茂る様に生えている。
両隣の家の庭も覗いてみたが、やはり同様に、一面のオオシロカラカサタケ畑なってしまっている。
「危ねえな、こりゃ。誰か食わねえ内に注意喚起しねえと。」
竜朗はそう言って、警察に電話した後、真行寺にも電話した。
「龍、Xファイルだが、爺ちゃんも協力する。亀一達に招集かけてくれ。」
「はい。」