1つは解決…
亀一と鸞、洞窟から巨大ウツボを撃ち始めたが、全く効かず、弾は跳ね返され、巨大ウツボはそれによりもっと怒り、凶暴化してしまう。
「こりゃ捕獲は無理だな!きいっちゃん、ランチャーだ!」
亀一がランチャーを取りに行こうとしたところで、瑠璃から知らせを受けた寅彦が、巨大ウツボの小さな目を狙ってランチャーを構えていた。
真行寺が少し笑って言った。
「退避!」
龍介達が退避したのを確認し、寅彦が大きく仰け反って、遥か頭上の巨大ウツボの目を撃ち抜くと、巨大ウツボは七転八倒しながら沈もうとしたので、龍介達がすかさずワイヤーで縛り上げ、洞窟に全員で引き入れると、巨大ウツボは、真っ白になって死んでいた。
「ありがとな、寅。」
京極に頭をガシガシ撫でられ、全員に微笑みかけられ、恥ずかしそうに俯く寅彦の代わりに、瑠璃が言った。
「この巨大ウツボの映像、加来君に送って見てもらったら、加来君がね、必ず目を隠す様にして攻撃を避けてる事に気付いたの。
銃じゃ、あの大きさだと避けられちゃうから、ランチャーなら行けるかもしれないって言って、来てくれたのよ。」
「偉いじゃねえか、寅。あんないるのにさあ。」
亀一のセリフに、海中組と寅彦は、漸く洞窟の中の男達に気付いた。
「かっ…唐沢…、何故言わない…。」
寅彦は微かにそう言い残して、とうとう泡を吹いて、白目まで剥いて倒れてしまった。
「もー、最後までかっこよくいてよー。」
ブツブツ言いながら鸞が介抱し始めると、京極が興味深そうに5人に寄って行った。
真行寺はとういうと、必要以上に忙しなく、方々に電話を掛け、ランチャーの爆発音の隠蔽と、巨大ウツボの引き取りという事務的な仕事を始めた。
5人の亡霊に背中を向けて。
龍介は心の中で思った。
ーこういう所爺ちゃんと同じだ…。無かった事にしてえんだな…。
恐れを知らぬ男、京極は5人に話し掛けている。
「なんか言いたい事があるから、そんな凄え姿で出てきたんだろ?
言ってみな。
分かってやれるかどうか分かんねえけど。」
しかし、亡霊達が何か言っているのは分かるのだが、流石に霊感なんか殆ど無い人間が聞いても、よく分からない。
「うーん、分かんねえな…。あんたら殺した犯人の事?」
亡霊達が頷いた様に見えた。
龍介はふと思いつき、亡霊達にこの近辺の地図を見せた。
亡霊達は、ある一点を指差した。
そこはこの洞窟の斜め前に、本州からせり出している岬の突端だった。
「ここに犯人が居る?」
龍介が聞くと、微かに頷いた。
龍介は振り返り、必死に亡霊達を無視している真行寺に向かって、遊びに行こうとでも言う様な口調で言った。
「グランパ、ここに犯人居るんだってさ。捕まえに行こうぜ。」
真行寺の肩がビクっとなって固まり、ロボットの様なカクカクとした動きで、龍介の方を振り返った。
「ーん…?」
「ーお化けさん達が言ってる。犯人、ここに居るんだって。」
もはや逃げ道を失った真行寺。
可愛い孫の言葉には真剣に、誠意を持って答えねばならない。
京極に笑いを噛み殺されながら、必死に冷静に話し始めた。
「龍介…。
お化けさん達が嘘をついているとは、俺も思わん…。
しかし、日本は法治国家であって、サイキック捜査というのは、まだ導入されていないし、多分今後も無い…。
お化けさん達が、あなたを犯人だと言ってますと言って、逮捕は出来ないんだよ…。
証拠というものが無いとね…。」
助け舟を出す気になったのか、京極が突然言った。
「だったら、自白させりゃあいい。
霊感なんて無え俺たちにこんだけ見えてんだ。
この人達、その犯人の所に連れてって、取り殺すぞ、この野郎的に迫りゃあ、自白に持ち込めんじゃないですか。
そうしましょ。
おい、行くぞ、お化けさん達。
龍介君と瑠璃ちゃんも来て。」
動かない真行寺の肩をポンと叩いて、京極はニヤリと笑った。
「嫌だなあ、顧問。
俺、外務省ですよ?
国内での逮捕権なんてありませんから、来て下さいね。
日本の警察関係も知らねえし。」
「う…。」
「はい、お化けさん達もおいで~。鸞、きいっちゃん、ここ頼むな。自衛隊がウツボの死体取りに来るだろうから。」
「はーい。」
青い顔の真行寺が運転するカイエンに乗り込むと、亡霊達も後部座席に乗り込んだ。
更に青くなる真行寺の顔色。
「グランパ?」
「す、すまんが龍介!
お化けさん達と位置を代わって貰えないだろうか!
ルームミラーにお化けさんしか映っていないんだあ!」
「あ、ごめんごめん、そうだよね。」
位置を入れ替わり、真行寺が幾分かほっとすると、京極がまた笑いをかみ殺して肩を揺らしている。
「恭彦お!早く道案内しろお!」
「はい。失礼しました。」
亡霊達は、車を停めると、言われるまでも無くその家の玄関に向かって行った。
真行寺が呼び鈴を押し、警察だと名乗るまでも無く、出て来た中年の男は、真行寺達の後ろに居る亡霊達を見て、顔色を失くした。
「な…、なんで…。」
亡霊達は、中年男を取り囲み、首を絞めたり、上に乗っかったりし始めた。
中年男は叫び声を上げて、泣き叫びながら言った。
「悪かった!俺が悪かった!」
京極がすかさず畳み掛ける。
「8年前に洞窟で見つかった死体を遺棄したのも、殺したのも、あなたか!」
「そうだ!私がやった!だから許してくれ!殺さないでくれ!頼む!」
真行寺が瑠璃に指示を出す。
「竜朗に言って、ここの警察の人間回してくれるように言ってくれ。」
「はい。もう手配してあります。龍がしとけって言うので。」
真行寺は嬉しそうに微笑み、2人の頭を撫でた。
「顧問、手錠あります?」
京極に聞かれ、一応出す。
「グランパ、手錠持ってるんだ…。」
「一応ね。Xファイルと言っても、生身の人間確保しなければならん事もあるからな。手帳とセットみたいなもんなんだよ。」
「そっか。」
京極が手錠を嵌め、程なくして警察が到着し、中年男が連行されると、亡霊達は生前の姿に戻り、霞んで行った。
皆、頭を下げ、微笑みながら消えてしまった。
「成仏出来たのね…。」
「良かったな…。」
龍介の言葉に激しく頷く真行寺を見て、京極がまた笑っていると、亀一から真行寺に電話が掛かって来た。
「グランパあ!ウツボが縮んじまったあ!」
「縮んだ!?どういう事だ!?」
「分かんないです!さっき、突然光の玉が出だして、縮んじゃったんですよ!寅次郎さんも見てますから、幻じゃないです!今は少々デカ目のウツボの大きさですね。1.5メートル位の。」
「海は。」
「装置はウツボが出てくる時に飛ばされちまって、海中の事は分かりませんが、海はとても静かです。」
「うーん…。全然分かんねえな…。」
龍介がスピーカーにしている真行寺の電話で、亀一に話しかけた。
「それ、何時何分?」
「12時46分だ。」
「ーグランパ、犯人の逮捕時刻と同じだ。お化けさん達が消えた時刻とも一致する。」
「龍介…。グランパには分からない…。この件は封印ファイルにしようぜ…。」
「グランパ…。
もしかしたら、地球温暖化も絡んでるかもしれねえじゃん…。
もうちょっと調べたほうがいいんじゃねえの?
実際、ウツボの方は実体があった訳だし、小さくなってもまだあるんだし。」
「う…。」
「だってさ、あいつは身体が焼ける様に真っ赤になって、200度になったのを冷やす為に海中に出てきて、結果的に水柱になってたって事だろ?
て事は、あいつが自分で発熱したにしても、外部の問題にしても、なんらかの原因がなきゃ考えられねえんじゃねえの?」
京極が楽しそうに真行寺の両肩を掴んで、車の方に押した。
「そういう事です。さ、戻って調べましょう。」