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龍介くんの日常  作者: 桐生初
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調査開始

水柱は、その日の夜も時々上がっていて、生徒達を怯えさせていた。


こうなると、もう4キロ皆泳は完全に中止である。


翌朝には、ワカメ採りで真っ黒に日焼けした校長と教頭までやって来て、安全確保の為、生徒達を駅まで送ってくれる事になった。


しかし、龍介達は残った。


何故かと言えば、真行寺と京極が現れて、水柱の調査をするというからだ。

乗りかけた船なので、吝かではないが、何故真行寺がと聞くと、引き攣った笑みで答えた。


「昨日、きいっちゃんが長岡君にメールしてくれたろ?

そしたら、加納一佐が興味を示してね…。

示したものの、自分は忙しくて行けないから、龍介に調べさせてくれとか、危ねえ事言いやがるからだな…。

恭彦も鸞ちゃん迎えに帰って来てたから、応援頼んだというわけだよ…。」


「父さんまた…。すみません…。」


「龍介が謝んなくていいぞお!?俺は加納一佐が嫌いなだけだあ!」


笑顔がとても怖い…。

相当嫌いな様である。

しかし、それに反して、京極は楽しそうだ。


「機材はありったけ借りてきたぜ。まずはあそこの洞窟みてえな所、本部にして海水を調べようぜ。」


京極が嬉々として言うと、寅彦が真っ青になって、泣き出さんばかりに、首を横にブンブン振った。


「どした、寅。」


「組長!本部は別の所にしましょう!」


「なんで。

だって、水柱が立ったのって、あそこの近くなんだろ?

パソコンとか、水浸しなったら、困る機材だってあんだろうがよ。

洞窟にテーブル出せば、濡れ辛えし、近いし、一挙両得だろ?。」


「嫌だあああ~!それだけは勘弁してええ~!」


鸞が呆れた口調で言った。


「お父さん、寅はね、お化けが怖くて、全然駄目なの。

そこの洞窟で死体が5人分流れついて、私と龍介君が、そのお化けに触られたらしいから、そこの洞窟は嫌なのよ。」


「寅あ、バケモンなんか怖かねえぞ?

生きてる人間の方がよっぽどおっかねえだろ。

そんな風に人殺して平気で生きてんだから。」


寅彦は涙目で、首が折れそうな位ブンブンと激しく横に振っている。


「もう…。寅はこの件降りなさい。先帰ってなさいよ。さよなら。」


「え…。あ…。鸞…。」


完全に呆れられてしまい、鸞はボートに装備を積む手伝いに行ってしまった。


京極はクスッと笑うと、寅彦の頭を撫でた。


「誰だって苦手なもんはあんのにな。

じゃあ、寅は、あそこのホテルでサポートしてくれ。

無線は繋がるし、多分こっちの事も窓から見える。」


苦手な物なんか無さそうな京極はそう言って、部屋の鍵を渡した。




寅彦がホテルに入ると、ラウンジで栞と兄が朝食を食べ終えて、出ようとしている所に会った。


「あ、そっか。ここにお泊まりだったんですね。」


「どしたの、寅ちゃん。浮かない顔して…。アルバイトで、あそこ、きいっちゃんと調べるんじゃなかったの?」


「ー諸事情により、鸞に降りろと言われ、アルバイトの親分にここのホテルでサポートしてればいいと言われ…。」


「あら…。喧嘩しちゃったの…。元気出して?」


「はい…。」


「んじゃあ、俺達も、寅ちゃんと一緒居ていい?」


兄が元気良く言った。


「ああ、いいですけど…。お帰りになるとかって、きいっちゃんに聞きましたが…。」


「俺の明日からの予定、バンド練習だったんだけど、ボーカルが夏風邪ひいて声が出ねえっつーからさ。無くなったから、きいっちゃんの仕事終わったら、合流する事んなってさ。

俺、ロッカーだから、日に焼けたくねえし。

ホテルに居ようぜって言ったんだけど、栞がそれじゃつまんねえ、フラワーパーク行こうとか言うからさあ。

んなもん、明日からきいっちゃんと行けばいいのにさあ。

けど、俺も本と人がいいよね?

妹のデートのドライバーまでしてやるんだもん。

まあ、安明は嫌だったから、そんな事絶対しなかったけどさ。

あいつは虫が好かねえんだよな。」


この兄、実はものすごくよく喋る。

初めて会った時には、亀一と龍介がかなり凄い印象を与えてしまったので、その時だけは呆然として黙っていたが、栞の彼氏と知ると、亀一だけでなく、龍介や寅彦もかなり気に入ったらしく、ずっと喋っていた。


それからも、亀一は会う度に話し込まれているとは、寅彦達にも話していた。

その亀一の友達だから、寅彦と龍介まで、兄の超知り合いになっているらしい。


人はとてもいいが、これと思った人間には只管喋りまくっているし、妙に人懐っこい。


若干バカなんじゃないかと思う位に。


ほっといたら、まだ喋っていそうなので、寅彦は京極の部屋に2人を連れて入った。


「きいっちゃんがお仕事してる所、見えるかしら?」


栞は早速、窓から身を乗り出して言った。


「そこの洞窟でやってんですよ。

海中入るのは龍だろうから、きいっちゃんは中で機械の操作だから、どうかなあ…。」


「ああ、残念。流石に洞窟の中は見えないわ。」


自前の双眼鏡で覗く栞は、残念そうに、寅彦の前のソファーに座った。

一緒に来たものの、やる事の無い兄は、また喋りだしそうになっているので、栞が言った。


「お兄ちゃん、お母さんに海産物頼まれてたじゃない。

買い物して送っておいでよ。

ついでに海辺でギターかき鳴らしてくれば?

誰も文句言わないんじゃない?」


「だから、海辺でギターは焼けるだろ?ロッカーは青白くねえとさあ!」


どうも格好から入る人の様である。

ロッカーが不健康に青白い…、それは単なる彼のイメージ…。


「いいからお買い物行って来て!」


「はーい。」


素直に行ってしまった。


「ごめんなさいね。あの人、気に入った人にはずっと喋り続けちゃうから、うるさいでしょう…。」


「いや、いいんですよ。」


寅彦は準備をしながら笑った。


「でも、不愉快にさせる様な事は言わないし、秘密も漏らさないタイプじゃないですか。」


「まあ、そこはね…。うちも寅ちゃん達のおうちと同じ感じだし。」


実は、蓋を開けてみてびっくりだったが、栞の父は、悟の父同様、民間で龍太郎達に協力している技術者だったのだった。

ソーラーパワーらしいが、詳しい事は教えて貰っていない。


「でも素直に栞さんの言う事聞くんですね。」


「うん…。ちょっとおバカさんなので、素直な所位無いとね…。」


「いや、でも聞くってのが偉いですよ。文句も言わず。」


「何故か、不思議と、私の言う事だけは聞いてくれるのよね。

今回だってきいっちゃんに会いたいって言ったら、ホイホイ連れて来てくれちゃうし。

あ、ごめんね。もう話しません。お仕事して。」


「いや…。殆ど俺はする事無いんです…。唐沢があっち居るから、十分…。」


どよーん…。


ーうっ、これが噂の寅ちゃんのどよんなのね!?ううーん、なかなか凄まじいものがあるわね。どうしようかしら…。えー…。


「どうしたの?鸞ちゃんと何かあったの?」


「呆れられちゃって…。」


「あら、どしてまた…。」


「俺、お化け関係ってダメなんですよ…。凄え苦手で…。なんか訳分かんねえから、余計恐ろしくて…。」


「それはそうよね…。」


「だから、あの洞窟って死体が流れついて来たらしいし、お化け現象の総本山みてえだから、嫌だっつったら、もう降りなさいよってプイ…。

まあ、その前から随分醜態は晒してるんですけど…。」


「大丈夫よ…。誰にだって苦手な物位あるわ。鸞ちゃんはお化け怖くなくても、他に怖い物があるかもしれないし…。」


「あいつ基本、無いです…。」


「いっ?」


「無いんです…。

しずかちゃんですら、虫出ると怖がって泣いちゃうのに、鸞は全然平気です。

ゴキブリだって、銃あったら、平然と撃ち抜くと思います…。

京極組長そっくりなんです…。」


どよーん…。


ーおわわわ…。どうしよう…。この、どよん、噂通り、なかなか根っこが深いわよ~!?




その頃、亀一は、龍介が海上で持っているサーモグラフィー装置を使って、海中の温度を測っていた。


「はーん。

これじゃねえかな。

間欠泉と同じシステムだ。

ほら。この海底部分、凄い熱くなってんでしょ?

ここからの溜まった熱水が放出される事に寄って、周りの海水が一瞬にして水蒸気になって、一気に噴出してんですよ。」


一緒に見ていた京極が誰よりも早く言った。


「て事はきいっちゃん。

つまりこの海底の下はどうなってんだ。

なんでそんな熱湯みてえのが出来た?」


「ここらに温泉は無いはずだし、火山もありませんので…。」


「だろ?やっぱ、Xファイルですね、顧問。海底の下で、ここで起きちゃマズイ事が起きてんだ。」


「その様だな。じゃあ、潜るか。」


と言いながら、潜水服を着ている龍介を見て目を剥く真行寺。


「龍介は待ってなさい!?」


「いや、行きます。グランパ、見た目若いけど、もう古稀だぜ?グランパこそ、ここに居なさい。」


「年寄り扱いすんな!龍介が行くのなら、俺も絶対行く!」


結局2人とも一歩も引かないので、3人で海中へ。


海底に潜ると、龍介が抱えて来た装置を3人で設置。

これは、地雷除去にも使われる装置の進化版で、こちらから電波を出し、その電波が跳ね返って来る時間から障害物の大きさや形を測定し、地中の中の様子がカメラで見れて、ある程度分かると言う物だ。

進化版なのは、その判定距離とサーモグラフィー装置も兼ね備えている点である。

従来品よりも、大幅にその範囲も深度も上げてある。


「映像来ました。」


亀一の声が無線から聞こえた。

京極達は話せないが、上からの無線は聞こえる。

映像を見出した亀一は我が目を疑い、目を擦った。


「なんだコレ…。中に大きな熱源があります。200度の…。でも、それ、蛇みてえな変な動きしてて…。」


亀一が更に説明しようとした時、亀一の肩に冷たい手が触れた。

ポロシャツの上からも分かる位冷たくて、濡れている様な気もした。


「唐沢?鸞ちゃん?寒いのか?随分冷めてえ手だな。なんか着た方がいい。」


「え?」


瑠璃と鸞の返事が前方から聞こえた。


「え?」


顔を上げると、瑠璃は洞窟に設置したテーブルの亀一の斜め正面に座り、鸞もその隣に座ったままだった。


亀一の様子がおかしいと感じた瑠璃と鸞は顔を上げ、そして真っ青になって固まった。

その目は亀一の背後に注がれている。

亀一はゆっくりと後ろを振り返った。




その頃、龍介達もまた、海底の異変に気付いていた。

なだらかだった海底がモコモコと出っ張ったり引っ込んだりし始めたのだ。

真行寺が身振りで離れる様に言い、3人ともその部分から離れた時、海底はグイグイ盛り上がって行き、真っ赤な何かが立ち昇る様に一直線に上がって行った。

その真っ赤な物の昇り方は、アニメで見る龍が空を昇って行く姿とよく似ていた。

そして、その何かは海水で冷やされて行くのか、海水の表面に近付く頃には、灰色の様な透明な様な、海の色に近い色になり、水柱になった。

3人は顔を出し、ソレを見つめた。

丸で大きなウツボの様な感じだ。


「どうします?顧問。」


「捕まえるしかねえだろうな…。」


「了解!」


京極は嬉しそうに返事をすると、龍介を促して、真行寺と3人で、念のため持って来ていた麻酔銃で巨大ウツボを撃った。

しかし、麻酔銃は跳ね返され、巨大ウツボは龍介達の方を向いた。

そして大きな口を開け、龍介達目掛けて襲い掛かって来た。




亀一の背後には、ずぶ濡れの男が5人立っていた。

正確に言うなら、男と表現していいのか分からない。

というのも、その男達はどう見てもこの世の物では無いからだ。

目玉は無くなり、腹から内臓が飛び出し、身体中にワカメが付いている。

なのに5人とも立って、何か言っているのだから、取り敢えず、生きていないのは確かだろう。


しかし、海上では、龍介達が、大きな水音を立てて、何故だか分からないが水柱と戦い始めている。


水柱が丸で大蛇の様にうねって大きな口を開け襲っているのを、ワイヤーでなんとかしようと、3人は死闘を繰り広げているのだ。


亀一は咄嗟に判断し、男達に向かって言った。


「あんた達の話は後で必ず聞いてやる。

こっちの問題が片付くまでちょっと待ってろ。

鸞ちゃん、アレ、こっちからも攻撃しよう。」


「ーは…はい…。」


流石の鸞も青い顔で凍りついていたが、亀一に促され、銃を取り、応援に行ってしまった。


銃の扱えない瑠璃は1人残され、5人と対峙していなければならない。


亀一の言った事を納得してくれたのか定かでは無いが、5人はそのまま立っている。

つまり、瑠璃の目の前に…。


「怖いっつーより、グロいんだよな~。なんかお仕事してよう…。」


瑠璃は頭をフル回転させ、仕事を探し始めた。













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