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龍介くんの日常  作者: 桐生初
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亀一の嫁候補登場!?

中3になって、梅雨に入った頃、亀一は、通学電車の中で、ボーッと車窓から見える見飽きた景色を眺めていた。


正確には、景色を眺めていたのではないかもしれない。

窓に映る、龍介達4人を眺めていたのだ。


ー寂しい…。

あのパソコンオタクで、女なんか殆ど興味無かったはずの寅にも…。

あの化石で、ロスト煩悩男の龍にですら、つがいが出来たというのに…。

何故、俺は1人…。

しずかちゃんがスケベ親父に飽きが来るのを待ってみたが、一向に来ないどころか、いつまで経っても新婚さんだし…。

万が一スケベ親父が死んだって、結局は龍太郎さんには勝てねえし…。

あああ…。


「どしたきいっちゃん…。」


あまりに憂鬱な顔をしていたのか、会話にも加わらずに珍しく大人しくなっていたので、龍介が心配そうに聞いてきた。


「いや別に…。」


「大丈夫か?具合でも悪いんじゃ…?」


「大丈夫だよ。お前はどうしてそう心配性なんだかな…。」


と言いながら、亀一はふと、龍介の後ろ立っている英学園の隣の私立の制服を着た女の子の異変に気が付いた。

変な中年サラリーマンがお尻を触っており、泣き出しそうになっている。


亀一は龍介を押し退け、そのサラリーマンの手を掴んで捻り上げた。


「いたたたた!。」


「痛えじゃねえ。あんた何やってんだ。今この人に痴漢してただろ。見てたからな。次の駅で降りて、駅員に突き出してやる。」


「有難うございます。」


女の子が目を潤ませて、亀一に頭を下げた事で、サラリーマンは言い逃れが出来なくなった。


亀一は遅刻するとだけ言って、本当に次の駅で女の子を伴い、サラリーマンの腕を捻り上げたまま降りてしまった。


「きいっちゃん、かっこいい。」


鸞のセリフに頷きながら龍介達は先に行った。




本来なら、亀一は駅員に痴漢を突き出したら帰っていいはずだったのだが、女の子に無言のうるうる目で見つめられ、立ち去りづらくなってしまった。


ーな、なんだこの目力は…。そんな目で見られたら、行けねえじゃん…。


「お、俺も居ようか…?」


「いいんですか?宜しければお願いします。」


よくよく見ると、その子はとても可愛かった。

清楚な感じで。

鉄道警察官の質問に答えている様子も上品だし。

隣に座って、その子が少し身動きする度に、長い髪からいい香りが漂って来る。


名前や住所を書いているのを見て、結構驚いた。

名前は、園田栞。

大人しく、可愛らしい彼女によく似合っている。

驚いたのが、年齢だ。


ーへっ!?17歳!?高3!?嘘だろ!幼くねえ!?背も小せえし!


「君も書いてくれる?本部の方からお礼が行くと思うから。」


警察官に言われ、亀一も書き始めると、覗いていた栞が、亀一が思った事と同じ事を声に出した。


「え!?中3!?同い年かと思ったのに!」


確かに亀一は背も170近くにはなっているし、変声期も終わっているし、顔も童顔では無い。


「いや、あんたこそ中学生だと思ったぜ?」


「よく言われます…。」


取り敢えずの事情聴取などが終わり、警察の方から学校に連絡もしてくれていたので、亀一はそのまま栞と電車に乗り、学校へ向かった。


ーそういやこの子…。しずかちゃんが高校生の時に似てんな…。まあ大人しそうなのが違うけど…。


「学校で部活って何やってんの?」


「あ、茶華道部よ。あなたは?」


「剣道部と科学部。」


「あら、素敵ね。私、剣道ってやってみたかったの。」


「なんでやんなかったんだ。」


「うち女子校でしょ?薙刀部はあるけど、剣道部は無くて。」


「俺で良けりゃ教えてやろうか。」


「ほんと!?お願い。あ、科学部って何してるの?」


「それはだな…。」


と、到着するまで延々と続く亀一の薀蓄話も、ニコニコと楽しそうに聞いてくれ、校門まで送ると笑顔で言った。


「またお話ししたいわ。本当に剣道教えてね。」


「じゃあ…。」


と、LINEの交換。


栞が無事に入って行くの見届け、振り返って手を振る栞に手を振り返して、思わずにやける。


ー可愛いじゃん…。優しいし…。いい子だな。うん…。


そしてちょっとドキドキする様な、胸がキューっとする様な…。


ーアンソニーさん!もしかして俺の嫁候補はコレですか!?


亀一、歩き方がほぼスキップになっているのにも気づかず学校へ…。




「今度は何をにやけてんだ、きいっちゃんは…。」


また心配する龍介に、瑠璃がニヤニヤしながら言った。


「恋じゃなーい?」


「母さん?」


鸞が苦笑しながら割って入った。


「違くて。さっきの痴漢被害の子よ。」


「ほお!ついに母さんから離れたか!それは応援せねば!」




弁当の時間になると、聞くまでもなく、亀一は栞の自慢なんだか、のろけなんだかを延々と喋り続けた。


「でも、随分上なんだな。17なんて。」


龍介が言うと、鼻で笑った。


「たいした事ねえよ。たかだか3つだぜ?」


まあ確かに、26も年上のしずかにマジだったのだから、たいした事は無いかもしれないが、この年齢の3歳差は、ちょっと大きい気がしないでもないのだが。


それでも、亀一がやっとしずかから離れたのは、かなりほっとした。




それから、亀一は加納家の道場で栞に剣道を教えてやったり、科学博物館にデートに行ったり、かなり順調にお付き合いに向けて進みだした。


仲間内では、皆、ほっとしていたのだが、1人、激震が走った人が居た。


すずである。


何の気なしに、亀一に好きな人が出来て、幸せそうだし、上手く行きそうなんだなんて話を女子体育の時間に話した時だった。


片付けていたバスケットボールを落とし、フラフラと倒れ込んでしまった。


「そんな…。長岡君に好きな人だなんて…。しかもそんな年上…?」


「え…、すずちゃん…?もしかして、きいっちゃんが好きだったの?」


真っ青になって言葉を失う瑠璃に代わって、鸞が聞くと、まりもの心の声が先に答えた。


「そうなのよ…。すずは長岡君が好きになって…。だから洗濯石鹸洗顔も止めて、お洒落する様になったのに…。」


すずはスクッと立ち上がり、バスケットボールをカゴに力いっぱい投げつけた。

バスケットボールは入らなかっただけでなく、他の片付けてあったボールまで、四方八方に飛び散っている。


「もうやめた!お洒落なんかしない!洗濯石鹸洗顔に戻す!何よ、馬鹿馬鹿しい!お洒落したって、何したって、男なんて、可愛くてちょっと馬鹿な女の方が好きなのよ!もういい!勉強は裏切らない!私はやっぱり勉強一筋に生きる!」


確かに、栞の学校は、幼稚園から高校まである私立一貫校だが、学力は少し低めである。


すずは大股に歩いて行ってしまった。


「あ、ああああ…。」


飛び散ったボールを拾いながら、鸞と瑠璃は、妙な罪悪感に囚われ、ため息を吐いた。






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