一件落着
鸞からの報告を受けた龍介は、満面の笑みで手を叩いた。
「凄えな、鸞ちゃん!流石京極組長の娘!」
「うふふ!ありがとお!やっぱり報告!」
バックからタブレットパソコンを出そうとする鸞の手を、必死になって掴む寅彦。
「だから今、フランスは夜中の3時だっつーの!あの人、身体弱いんだから止めてくれ、頼むからあ!」
「ーは~い…。」
瑠璃が笑いながら、龍介にパソコン画面を見せた。
「はい。刈谷さんの携帯番号。
松田さんと濱田さんの携帯電話の電波も、刈谷さんのお宅から出てるわ。
丁度3人一緒よ。」
「ありがと。鸞ちゃんの読み通り、3人は仲のいいまま繋がってたんだな。」
龍介が早速電話を掛けようとした所に、席を外していた理事長が入って来た。
「校長、凄え勢いで言ってくれたみてえだぜ。
流石に一応我が英は、名門校だ。
辞めさせられちゃ困るってんで、親共が真っ青になって、反省文書かせる、2度とこんな馬鹿な事はしないよう、目を光らせておくし、何かやったら、どんな小さな事でも直ぐに報告してくれ。
その都度対処するし、それでダメなら精神病院ぶち込むとよ。
被害に遭わせたお子さんと親御さん全員に謝りに行くそうだ。
勿論、両クラブとも廃部だ。
まあ、少しゃあ大人しくなんだろう。」
「有難うございます。いい報告も出来ます。」
「おう。教えてやんな。ついでに用件が終わったら、俺に電話代わってくれ。」
「はい。」
龍介は幾分緊張した面持ちで電話を掛けた。
龍介から電話を受けた刈谷は固まった。
「ーあの、この間の錯乱事件を調べてる…。」
「はい。」
「ちょっと待ってくれ。」
刈谷は電話口を抑え、振り返って2人に言った。
「錯乱事件調べてる、中2の加納龍介って奴だ。」
「え…。もうバレちゃったの?!」
濱田が青くなって言うと、刈谷は難しい表情で頷いた。
「でも証拠は無い筈だ…。しらばっくれてみる。」
松田が怯えた様子になった。
「でも、どうして刈谷の番号が分かったんだ…。」
「分からない…。
剣道部の奴の話だと、加納って奴に解決出来ない事は無いそうだ。
パソコンオタクが2人仲間に居て、常にテスト満点の長岡亀一って奴も仲間に居るとは聞いたけど…。」
「心配だ…。刈谷、ひっ被るなよ?逆にいざとなったら、俺を突き出してくれ。」
「松田!それはダメだって言っただろ!?」
「いいから!兎も角、スピーカーにしておいてくれ。」
刈谷は龍介との電話をスピーカーにし、電話を再開した。
「何の用だ。」
「先ずご報告からいいですか。」
「ああ。」
「英クラブとお料理クラブは、先ほど正式に廃部の通達がされました。
両クラブの幹部とその親全員が呼ばれ、校長に、辞めて貰った方が有難いという位の事を言われ、親の方が青くなり、反省文を書かせ、2度とこういう事はしないように注意するし、またやって聞かないようなら、精神病院にぶち込むとまで言ったそうです。
また、被害に遭われた方全員に謝りに行くとも言っていたそうです。
英クラブという盾がなくなったので、かなり大人しくはなるかと思います。」
「そう…。わざわざ有難う。」
「今回の錯乱事件を調べていて、錯乱事件を起こした側より、英クラブとお料理クラブの方に罪がある事が分かったので、両クラブを潰す方を優先しました。」
「君が動いてくれたのか。」
「いえ、そんなには。生徒会長が理事長に直談判するのをお手伝いしただけです。」
「へえ…。」
「それで、錯乱事件の方ですが、あの草を開発した人、使った人に関しては、罪に問わないという事で、理事長の許可も頂いてます。」
「ーへっ!?」
思わず3人で声を出すと、突然お爺さんの声に変わった。
「おう。理事長の分倍河原だ。
悪い事しちまったなあ。
あんなの蔓延らせて、辛え思いさせちまってよお。
おめえらの友達思う気持ち、俺は感激しちまったぜ。
イマドキの若え奴にも、こんなに友情に厚い奴らが居るなんてよお。」
なんだか、声が涙ぐんでいる…。
理事長、感激しやすい性質らしい。
「理事長先生…、泣いて…?」
「泣いてねえよ!コンチキショー!年取ると、色んな腺とか栓が緩くなんだよ!」
「栓とか腺…ですか…。」
真行寺を初め、こっち側は全員で大爆笑になってしまった。
「うるせえな!兎も角だ!コンチキショー!だから、今回の件は不問に付す!校長にも話つけとく!だが、無関係の奴ら巻き込んじまったのは良くねえ!人体実験もな!それは分かるな!?」
「はい…。」
「まあ…、あながち無関係とは言いがてえのかもしれねえ。
虐められてんの、見て見ぬふりだったんだろうからよ。
でもよ、本当に無関係の奴だって居たはずだ。違うか。」
「いえ。違いません…。」
「ん。で、その代わり、龍介の話聞いてやってくれ。おめえさん方にとって、そう悪い話じゃねえ。」
「はい…。」
また龍介の落ち着いた、いい声に戻った。
「あなた方が開発した薬品的なハーブだけでなく、将来の為に、特殊な環境でも育つ植物の研究をひっそりと行っている部署があります。
うちの父や友達の叔父の所なんですが…。」
「加納のお父さんて…。巨大旗振り回してる方?それとも引っ叩いてるイケメンの方?」
「ぐっ!」
また言われてしまった。
ーもう嫌だ…。俺は高等部の人にはそういう認識しかされてねえのかよ…。
「ー巨大旗振り回してる方です…。」
「へえ…。」
「正直に申し上げると、あんな凄いものを開発してしまったあなた方は若干危険でもあり、それと同じ位、物凄い才能があると思うんです。
ですから、出来たら、そっちで協力して、才能を開花させて頂きたい。
この研究は、現段階では、国民の安全の為に、秘密裏に行われている研究です。
ですから、秘密厳守出来ない場合は、やって頂く訳にはいきません。
ただ、そこに入れば、研究はやりたい放題。
思いついた事はなんでも出来ます。」
「ーちょっと相談させて貰えるか?」
「どうぞ。」
暫く待って、刈谷が電話を再開した。
「受けさせて頂きたいと思う。ただ、松田は植物ではなく、料理だから…。」
「それは分かっています。
協力出来ないからと言って、処罰の対象にしたりしません。
松田さんも、お咎め無しは同じです。
ただし、もう2度とこういう事はなさらないで下さい。」
松田が直に答えた。
「分かってる。有難う…。」
濱田が小声で言った。
「本当にあの…、有難うございます。理事長先生も、加納君も…。」
理事長が嬉しそうな声で、スピーカーなのに、電話を奪い取って言った。
「こっちこそだ。
元気になって、また4月から復学出来んだろ?
これに懲りて、俺もなるべく学校に顔出すようにすっからよ。
また学校に綺麗な花咲かせて、龍介の親父に協力して、良いもの作ってくんな。」
「はい。」
今度は刈谷が言った。
「本当に有難うございました。加納、恩にきる。」
「とんでもないです。では、日を改めて、父の方から連絡が行くと思いますので。」
「うん。本当に有難う。」
春休み開け、校内の全ての掲示板に、理事長命令が大きく貼り出された。
理事長命令
以下のクラブは、品性の欠片も無い悪徳集団であり、質実剛健、大和撫子をモットーとする我が英学園には、甚だ相応わしくない。
寄って、廃部とする。
廃部対象クラブ
英クラブ
お料理クラブ
理事長 分倍河原 元蔵
理事長や龍介の言った通り、拠り所の盾であるクラブを失くした両クラブの幹部達は、校内全体から白い目を浴びせられ、行き場を失くし、存在を消すかのように、大人しくなった。