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龍介くんの日常  作者: 桐生初
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刈谷とその周辺

鸞は信用出来そうで、中等部からずっと居るという高1の先輩の家を寅彦に調べて貰い、連絡を取って、先輩の家の近所のケーキ屋で会って、話を聞いていた。

その先輩は、刈谷とも同じクラスなので、都合がいいとも思ったのだ。


「そうね…。

お料理クラブはね、元々はあんな馬鹿みたいなクラブじゃなかったのよ。

今の吉崎さんが部長になってから、あんな風になっちゃって…。

それまでは、本当に真面目にお料理楽しんで、勉強して、変わった物を試行錯誤しながら作る、創造的なクラブだったの。」


出来て間もない頃から既に、今の様な悪行クラブになっていた英クラブとは随分違う様だ。


「そっちに入りたかったです。私達。」


「そうよね。

私も去年までが懐かしい。

学祭の模擬店の料理指導なんかして、学祭のうちのレストランも大行列が出来て。

私、お料理クラブに誇りを持ってたの。

だから、指輪作るって言われた時も、嬉しくって作っちゃったけど、あんなクラブになってからは、恥ずかしくて嵌められないわ。」


「私達が入った時には、既に吉崎部長と、英クラブのスケベ顔の部長が幅を利かせていた様に思いますが、内部では分からなかったんですか。」


「ええ…。お恥ずかしい話だけど、入部希望者を吉崎さんが顔で選んで、英クラブの部長と決めてるなんて事も知らなかったわ。

私、基本的に、お料理にしか興味がなくて。」


「なるほど…。それで、先輩の様な考えの方というのは、他には…。」


「結構居ます、ていうか、吉崎さんの取り巻き以外の全員の古株はみんなそう言ってるわ。

来年度の部長が吉崎さんの取り巻きだったら、もう辞めて、別のお料理のクラブを作ろうかって。」


「その中に、元園芸部の方はいませんか?」


「居ないわ。みんな中1からずっとお料理クラブ一筋だもの。」


「じゃあ、英クラブの刈谷さんという方と、仲のいい方とかは、いらっしゃいませんか?」


「ー刈谷君?」


「はい。」


「あれ?

彼は園芸部じゃなかった?

新種の植物作り出すんだって、土いじりじゃなくて、研究室みたいな部室で活動してる、変わった園芸部の人よね?」


鸞と寅彦は顔を見合わせ、頷きあった。

その刈谷という男子は、尚怪しくなった。


「そうだったんですか…。実は、今年度から突然、英クラブに入ったそうです。」


「凄く嫌ってたのに…。ほんと…?」


「英クラブを嫌ってたんですか。刈谷さんは。」


「ええ。とても嫌ってた。勿論私達も好きじゃないけど、憎んでたわ。まあ、それも尤もな事だとは思うんだけど…。」


「何かあったんですか。」


「刈谷君のお友達、とっても大人しい子で、結構活発で言いたい事ズケズケ言う刈谷君とは正反対の性格だったんだけど、その子がね、たまたま英クラブ席に座ってご飯食べてしまってたのよ。

刈谷君と同じで、新種の植物作るのに夢中になっていて、ご飯食べながら研究したかったらしく、その席だけぽっかり空いてたからなんでしょうね。

机一杯に広げてやってたの。

私達、それ見て、そこの席使わないほうがいいよって言ったんだけど、みんなの席だろって聞いてくれなくて…。

そしたら、英クラブの人達が来ちゃって…。」


「意地悪してきたんですね?」


「そう。酷かったわ。

彼が研究を書いているレポート用紙を破いたり、本を投げ捨てたり。

食堂のおばちゃんや先生達が止めるまでやってた。

あとで、先生達には注意されたみたいだけど。」


「そんな事が…。」


「ええ。それでね、彼ー濱田君て言うんだけど、濱田君は、神経の物凄い細い子だったから、それで学校に来なくなってしまって、1学期の終わりに転校してしまったの。」


「転校まで…。」


「ええ。学校が怖くなってしまったんじゃないかって噂だったわ…。刈谷君、毎日会いに行ってたみたいだけど…。」


「刈谷さんはその事件の時はどうされていたんですか。」


「たまたま具合が悪くて学校お休みしてたのよ。

それで、自分を責める様な事も言ってたわ。

だから、随分しつこく勧誘はされていたみたいだけど、英クラブには絶対入らないと思ってたんだけどな。」


刈谷が実行犯であり、草の開発者というのは、ほぼ間違いなさそうだ。

草の開発に関しては、濱田というのも関わっているかもしれない。

しかし、二人だけとなると、お料理クラブの家庭科室に草を置いて、火をつけた犯人が分からなくなる。

龍介の読みでは、両方に実行犯がいるはずだ。

草が燃えだしたのは、同時刻で、時限発火装置は付いていなかったという事実からしても、それは間違っていないと鸞も思う。


「あの…。濱田さんて方と仲よかったのは、刈谷さんだけですか?」


「うーん…。それが…。よく思い出せないんだけど、なんかもう1人か2人は居たような気がするの…。でも、誰だったか、全然思い出せなくて…。」


「じゃあ、刈谷さんと、そのもう1人だか、2人だかは、今は一緒にはいないという事ですか。」


「そうなのよね。

あの、刈谷君て、会えば分かると思うけど、ちょっと派手っていうか、目立つタイプなの。

頭もいいし。

さっきも言った通り、なんでもハッキリ言うし。

でも、濱田君にしても、その思い出せない仲が良かった人にしても、凄く大人しくて、クラスでも、目立たない人の筆頭って感じの、忘れられちゃうタイプなのよね。

だから…。」


「事件が起きて、濱田さんが転校されたのは、中3の時ですよね。」


「ええ。そうよ。」


「先輩は刈谷さんとも、濱田さんや他の方とも、同じクラスだったという事ですね?」


「ええ。」


「では、思い出せないという事は、今は違うクラス?」


「かなあ…?ごめんなさい。本当に思い出せないの。」


「分かりました、ありがとうございます。」




先輩が帰って行き、2人きりになったケーキ屋のカフェで、寅彦は何故か面白そうに鸞を見つめて聞いた。


「どうする?組長。」


「うちの組長は、龍介君でしょ。」


「暗礁に乗り上げたぜ?龍介組長にお伺い立てるか?」


「それはちょっと待って…。ここですぐ頼ってしまったら、京極恭彦の娘の名が泣くわ。」


暫く考えていた鸞は寅彦のパソコンを指差した。


「龍介君が聞き込んで来てくれた、食堂のおばちゃんの英クラブ席でトラブった人達リストは入ってる?」


「ああ。龍が入れといてくれっつーから、入ってるぜ。」


寅彦は答えながら、その画面を出して見せた。


「ほら。」


「あら…。やっぱり、濱田さんて人が居ないわ…。

龍介君がおばちゃんから聞いた中に、園芸部の被害者は居ないって言ってた通り…。

でも、そんな印象的な事件、覚えてない筈ないわよね…。

食堂のおばちゃんに聞きに行ってみましょ。

春休みでも、部活がある日は居るんでしょ?」


「しばしお待ちを…。」


と、学校の体育館や校庭の使用状況を調べる寅彦。


「ああ、今日はテニスとサッカーが午前中から午後まであんな。食堂も開いてる模様。」


「よし。行きましょう。」




食堂のおばちゃんに用件を切り出すと、暗い顔になった。


「この間聞きに来たイケメン君がさ…、在校生でって言ったもんだから、アタシも思い出すの辛くて、省いちゃったんだよ…。」


「そうだったんですか…。ごめんなさい、嫌な思い出なのに…。教えていただけますか?」


「うん…。濱田君はね、いっつも園芸部で作ったっていう、美味しい果物とか、綺麗な花とか、アタシ達にくれてたのよ。

美味しい食事のお礼ですって。

一緒に来てた、松田君て子は、お料理クラブだったんだけど、見た事も無い綺麗なお菓子作ると、やっぱり食べてって持ってきてくれてね。

いい子達だったんだ。」


鸞は目を輝かせて、新しい登場人物に食い付きつつ、寅彦に早口で言った。


「松田さんて、確かにお料理クラブに居るわ。

存在消してる方だけど、偶にスッと来て、これ少し入れてご覧とか教えてくれて、その通りにすると、劇的に味が変わるので、確かに目立たない方だけど、私は覚えてる。」


「そうか。ビンゴっぽいな。」


鸞はおばちゃんに向き直った。


「その、松田さんて方は、いつも濱田さんと一緒に?」


「そう。濱田君と松田君と、あの刈谷君ね。」


刈谷のところで、おばちゃんの顔が不機嫌そうに歪んだ。


「全く。あんな仲が良かったのに、濱田君追い出したあいつらの仲間なるなんてさあ。見損なったよ。」


「でも、もしかしたら、刈谷さんは、復讐するために英クラブに入ったのかもしれないんです。

3人の仲と、例の事件をもう少し詳しく教えていただけませんか。」


「そうなの…。

それじゃ悪い事しちゃったな、アタシ…。

刈谷君には感じ悪くしちゃってたよ…。

あ、ええっとね、そいで、刈谷君は、なんか雰囲気違うんだけど、あの2人と仲良くてね。

3人で居ると、いつも2人の話聞いて、楽しそうにしてる感じでさ。

園芸部で、実際に作ってるわけじゃ無いから、本人からのおすそ分けは無かったんだけど、濱田君がしょっ中、『これ、刈谷が発明した肥料で育てたんだよ。安全だし、とっても甘みが出てるんだ。』って自慢して持って来てくれてたわよ。

松田君は2人が作るまだ無い理想の果物でデザートを作るのが夢なんだって言ってたねえ。

ほんと、3人は仲が良くて、見てるこっちが楽しくなっちまったねえ。」


「なるほど…。確かにほのぼのしてていい感じですね。」


「そうなんだよ。

それであの事件。

思い出しても腹が立つっていうか、あの大人しい濱田君がどうして自分からとは、未だに思うけどね…。

その日は刈谷君は熱出してお休みなんだって2人で来て、今日のランチをいつも通り注文したんだけど、結構席が埋まっててね。

でも、テラス席はまだ空いてたんだよ。

まあ、ちょっと寒いけど、お天気良かったし、風も無い日だったから、テラス行けば?って言ったら、『松田が風邪気味だから、悪化させると大変だから。』って濱田君が言ってね。

中で探したんだけど、2人分空いてる所は無くて、そしたら、分かってるはずなのに、英クラブ席に座っちまって…。

松田君もアタシ達も、他の同級生の子も止めたんだけど、『そんなのおかしい!』って、珍しくハッキリ怒った口調で言ったんだよ。

何かあったの?って聞いたら、刈谷君の風邪酷くなったのは、英クラブのせいだって言うんだよ。」


「英クラブの…。」


「うん。

刈谷君は英クラブに入学した時から誘われてたんだよ。

でも、蹴り続けてるから、面白く無かったんだろうね。

その前の日の物凄く寒い日に、突然園芸部に英クラブが手伝いにきましたとか言って、やって来て、水撒きをしたらしいんだけど、わざと濱田君にかけようとしたんだってさ。

刈谷君が英クラブに入らないのは、濱田君のせいだとでも思ったのかね。

馬鹿な奴らだよ、ほんと。

そしたら、刈谷君は濱田君を庇って、水を被ったんだって。

濱田君は喘息で、風邪をひいたら、大変な事になっちゃうからってさ。

で、刈谷君に『もう結構です!』って一喝されて、英クラブはスゴスゴ帰って行ったそうなんだけど、それで刈谷君は風邪をひいて熱を出したんだって、とっても怒っててさ。」


「なるほど…。怒ってたわけですね。濱田さん…。」


「うん。そんでそこへ来ちまった訳よ。英クラブが。」


刈谷をそこまで英クラブに引き入れたい方としては、目の上のたんこぶの濱田が席を陣取っているのだから、過剰なまでの嫌がらせをしたのは、英クラブの低レベル度合いから行くと、頷ける。


「それでやりたい放題。

でも、濱田君、頑張ったのよ。

一生懸命言い返してた。

笑われても、ノート破られてもね。

でも、いい加減こっちも頭来たから、アタシ達が止めて、先生呼び行ってくれた子と先生が戻って来て、怒られて、その場は漸く収まったんだけど、濱田君、頑張り過ぎちゃったのかね。

喘息発作起こして、その場で早退して、翌日からもう学校こなくなっちゃってね…。」


おばちゃんの話から登場人物が1人消えている。


「あの、松田さんは、その時、どうされていたんですか?」


「松田君ね…。

一緒に席にはついて無かったんだ。

『俺外でいいから。ここはまずいよ。』って言いながら立ってたんだけど…。

逃げちゃったんだよ…。

英クラブが入って来たの見た途端…。

1人で…。」


「逃げちゃったんですかあ!?」


「うん…。だからなのかねえ…。

刈谷君とも、それからクラスも別になったけど、一緒に居る所は見かけなくなったし、食堂にも来なくなっちゃったね…。

あの子の家、お父さんだけだけだから、お弁当持って来られないって言ってたのに、お昼、どうしてるんだか…。」




その頃、龍介は、理事長が、


「話聞かせろ、コンチキショー。」


と言うので、生徒会役員が帰った後も真行寺家に残り、ついでに作戦本部にして、鸞の報告を待っていた。


「今回、鸞ちゃんに任せっきりだな、龍。」


「あの、柊木がちっちゃくなった事件の時、何もさせてあげられなかっただろ?それに、鸞ちゃんの捜査能力は信用出来る。任せて大丈夫。」


「ふーん。なんか、今回は俺の活躍の場が全く無いぜ。」


「きいっちゃんには、草関係があんでしょ。」


「それはユキがやっちまったじゃん。」


「まあまあ、たまにはのんびりしてようぜ。」


理事長が面白そうに龍介を見ている。


「おめえの孫と友達は随分とまた落ち着き払ったガキだな。気に入ったぜ。」


「そりゃどうも。」


「大体俺はガキってもんが嫌いでよ。

だからガキっぽくねえのは大好きだぜ。

そんで、犯人見つけて、どうすんだい。龍介。」


「犯人には同情の余地がたっぷりありそうですから、ゆっくり話を聞いて、その上で、その才能と技術を悪用せずに、生かしたらという話に持って行こうかと…。

要するに、何かの罰とか、そういう事は考えていません。

生徒会の方々も、今回の一件で、英クラブとお料理クラブの悪行が表沙汰になり、廃部に追い込めたんだから、犯人に関しては、一任すると、仰って下さったので。

どうですか?」


「いいんじゃねえの。

さて、校長野郎、あいつらと両親、呼び出したかな?

さっきまた電話して、辞めて貰っても嬉しい位に言えっつっといたからよ。」




刈谷は自宅の自分の部屋で、濱田と松田にLINEを見せていた。


「理事長命令で、英クラブとお料理クラブは廃部。両者幹部とその親が呼び出されたって、戦々恐々だ。」


刈谷が嬉しそうに笑って、2人に言うと、2人もほっとした様な嬉しそうな顔で頷いた。


「本当に有難う…。

僕の為に、刈谷はあんなに嫌だった英クラブに入ってまで、中から壊そうとしてくれて、松田もお料理クラブで色々調べたり、ハーブに火を点けてくれたり…。」


松田は首を横に振った。


「俺なんか全然足りない。あの時、俺はお前を置いて逃げたんだ…。その罪は償いきれない…。」


刈谷が松田の肩に手を置いた。


「そんな事無い。

お前はその分、実験実行の時の危ない橋を渡ってくれたじゃないか。

高2の教室に行って、ハーブに火を点けたり、回収したり…。」


「存在消すのは得意だからね。」


自嘲気味に笑う松田に、2人は笑いかけた。


「やっと解決だ。濱田も復学出来そうだしな。」


「うん。」




寅彦は鸞に言われて、真行寺家に行く途中の電車の中で、濱田が転校した経緯を調べていた。


「事件直後、濱田さんは入院してんな。

それで、転校先は…、病院内の学校だ。

つまり、英が嫌になっての転校じゃねえし、学校の書類に、病気治癒後の復学を認めるって書いてあるぜ。

無駄に学費払わずに済む様にしてやっただけなんじゃねえか?」


「なるほど…。でも、そこまでの病気の悪化の原因は、英クラブが作ったと。

私、刈谷さんと松田さんの仲違いは見せかけな気がするの。

まあ、逃げちゃったって事、初めは怒るだろうけど、松田さんが凄い罪悪感を抱えて、なんとか償いたいと思ってるとしたら、どう?

許してあげて、一緒に復讐しようぜみたくならない?

男の子なら。」


「なるかもな。」


「そして、主に刈谷さんが開発したあの草を、松田さんがまず自分のクラスと、高2のクラスに仕掛けて、実験してみた…。

そして、お料理クラブにも…。」


「確かに辻褄は合うな。最初に実験的にやったのは、松田さんのクラスだし、高2のクラスは、松田さんのクラスの隣の教室だ。」


「でしょう?」


「じゃ、これで?」


「やっと龍介組長にまともな報告が出来るわ。」


鸞、勝利の笑み。


「京極組長も喜ぶぜ?」


「だよねえ!?早速チャットで報告を!」


「お前、今、フランス午前2時だぞ!やめといてやれ!?頼むから!」


思い立ったらすぐ行動も、親譲り…。



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