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龍介くんの日常  作者: 桐生初
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理事長登場

瑠璃が調べてくれた生徒会長の家に電話をし、龍介が名乗ると、会長は暫く龍介の名前を連呼していた。


「中2の加納龍介…。加納龍介…。ん?龍介?」


「はい…。」


「ああ!思い出した!スポーツ大会で、毎年巨大旗を振り回すお父さんと、それを引っ叩く君の本当のお父さんという、大変ユニークなご家族をお持ちの!」


「ーぐっ!」


からかっている様子は微塵も無く、淡々と真面目に言われたが、いきなり龍介が1番苦にしている事を言われるとは思わなかった。


なんだかもう話したくなくなってしまったが、それでは電話した意味も無いので、龍介は黙って耐えて、用件を切り出した。


「先日の一件、ご存知でしょうか。英クラブとお料理クラブで起きた、錯乱事件。」


「勿論知ってる。君たちが収めてくれたと、先生から聞いた。それで色々と調べてくれているそうだね。有難う。」


「いえ、とんでもないです。

それで、犯人の動機を考えて行くと、英クラブとお料理クラブの方に、大きな問題がある事がよく分かりました。

不特定多数の人を実験台にした事は問題がありますし、草も危険な物質でしたから、犯人は勿論追求したいとは思っています。

でも、英クラブとお料理クラブも潰すべきではないかと思いました。

会長がその急先鋒だという話を聞いたので、是非協力させて頂きたいと思い、お電話差し上げた次第です。」


「それは有難い。

是非、協力をお願いしたいな。

明日、都合が良ければ、生徒会室に来てくれ。

そこで役員全員と話そう。」




その頃、寅彦と鸞は市曽に会いに行っていた。


「えー?クラブの中で、クラブに対して反発してる人~?そんなの居ないと思うけどなあ。」


鸞が小声で寅彦に言った。


「この人、居たとしても、分かんないわよ。」


「だな…。」


「じゃあ、私が質問してもいい?」


「どうぞ。」


「市曽君はどうして入ったの?」


鸞に話し掛けられ、嬉しそうに答える。


「誘われたしさ。揃いの指輪なんてカッコいいじゃん?」


鸞は露骨に嫌そうな顔なり、寅彦に至っては舌打ちして、不機嫌そうに言い捨てた。


「ったく。もうてめえなんか一生食い物のシソでいいよ。」


「ほんとよ。龍介君は野生の勘で、あなたがどうしようも無い人だって分かってたから、大葉だのシソだのになってたんだわ。」


「ええ…。そんな…。」


鸞にまで呆れられ、市曽はしょげ返ったが、その後ボソッと言った。


「でも正直後悔してるんだ…。

中入ってみると、特権階級だなんて息巻いてる、ただの勘違い野郎なんだもん…。

昼飯時に、他の奴が英クラブ席取ってるからって意地悪したりさ…。

それ、みんなが白い目で見てんの、気が付かないんだよな…。

食堂のおばちゃんなんか、あからさまに俺たちやお料理クラブの奴ら嫌ってるし…。

俺たちなんかサービスされた事ねえもん…。」


「当たり前でしょう?何が英クラブ席よ。馬鹿馬鹿しい。みんなの共有の席なの!」


「はい…。仰る通りです…。」


「で!?他に後悔してそうなのは!?」


「俺と一緒に入った、塩崎…。」


「シオザキ君て、何だったかしら?」


「な、何だったかしらとは余りのお言葉だよ、京極さん!君の隣の席で、しょっ中君が落とす消しゴムを拾ってる男だよ!?」


鸞は暫く考えた後、気の無い声で言った。


「ああ…。あの人。それで、塩崎君ていうのは、理系な人なの?」


「いや。全然。理科系は苦手。俺と一緒。」


「他に居ない?」


「分かんないよ…。後悔してるなんて話できねえもん。」


「ーじゃあ…。英クラブの中で、なんだか異色な人は居ない?他のメンバーと違っているの。なんでもいいわ。」


「うーん…。」


市曽は真剣に考えた後、自信なさそうに言った。


「うちのクラブは、殆どの人が、入学時に声掛けられて入ってそのままってパターンなんだけど、高1の先輩で、刈谷さんて人が居るんだ。

その人は、入学時の勧誘で蹴って、ずっと蹴り続けてたんだけど、高1になった時に急に入って来たんだ。

部長は、その人の事凄い気に入ってて、次期部長ってもう指名してる。」


「ふーん。それまで何部だったのかしら?」


「園芸部って聞いたよ?」


寅彦と鸞は顔を見合わせ、市曽の家から出ると、直ぐに龍介に連絡した。


「ーなるほどな。極めて怪しいな。鸞ちゃん凄えじゃん。よく引き出したね。」


「伊達にあの強烈親父の娘やってないのよ。」


「ほんとだな。じゃあ、ごめん。お料理クラブの方はどうなんだろう。誰か信用出来そうな古参の人で、話してくれそうな人は居ない?」


「ーうん。居るわ。早速聞いてみるわね。」


「お願いします。トップエージェントさん。」


「んふう。任せて~ん!」


電話口で踏ん反り返る鸞を、寅彦が苦笑しながら見ている。


ー龍は褒め上手だからねえ…。




生徒会長とは、トントン拍子に話が進んだので、予定の3人で生徒会室に行き、話を聞いた。


流石に潰しにかかった急先鋒だけの事はあり、学内で起きている両クラブ絡みの全ての問題を把握していた。

龍介達が見聞きした事以外にも、悪い事をやっている様だ。

しかし、深刻な虐めなどはしていないので、停学などの処罰の対象には、ギリギリならないレベルらしい。


「校長なんかにお話はされてるんですか。」


龍介が聞くと、生徒会長が答えた。


「した。だが、彼には決定権が無い様だ。

話は聞いてくれるが、実際には何もしてくれないに等しい。

両クラブの部長を呼び出して、お説教してくれただけで、廃部にはして頂けない。」


「何故です?」


「経営権は、理事長にある。奴らの様な高額寄付金を入れている親を持つ子に手出しして、寄付金がなくなったら、理事長に責任を問われるのでは?」


「でも、それでは学校じゃなくなります。」


「だから我々も腹を立てている。」


「では、理事長先生に直接お会いになった事は?」


「流石にお会い出来ない。」


「何故ですか。」


「連絡の取りようが無いのが1つ。校長に会わせて欲しいと頼んだが、お忙しい方だし、学校運営に関しては任されていると、あまりいい顔をしない。」


「それは校長が、君は何をしてるんだと言われたりするのが嫌なだけでは?」


「だと俺も思ったが、窓口の校長に断られてはどうにも出来ない。」


「いや。会いましょう。瑠璃、理事長の居所探せ。」


「はいはーい。」


ご機嫌で2分とかからず、理事長の居所を割り出した。


あんな可愛い顔して、一体何者だと、生徒会役員の皆さんの顔にハッキリ書いてあるかのように、皆一様にポカンとしてしまった。


「龍…。ここ、龍のお爺様のお宅よ?」


「その様だな。」


亀一がすかさず言った。


「もしかして、東大の同期とかなんじゃねえの!?理事長って東大出じゃなかったっけ!?」


「待って。調べる。」


瑠璃が理事長の経歴と真行寺の経歴を出した。


「長岡君、大当たり!お二人共、東大、文科1類って、法学部よね?そこに同期入学。サークルも室内管弦楽部って同じよ!」


龍介がニヤリと笑った。


「なんだ、龍、知ってたのか?」


「実は、今回の件をグランパに話した時、じゃあ俺からも話しておくって言うから、なんの事かと聞いたら、同期で、今も仲良くしてるって言うからさ。

多分、今、英クラブとお料理クラブの悪行は話してくれているはずです。」


「へえ…。君、一体何者なんだ…。」


生徒会長の疑問はみんなの疑問だったが、龍介はただ笑うだけ。


「じゃ、行きましょう。理事長にそのまま待っていてもらえるよう、言っておきますから。」




理事長には初めて会ったが、物凄く変わったお爺さんだった。


アロハシャツに、スキンヘッド。白い髭にずんぐりとした身体で、龍介達が挨拶をすると、ニッと笑った。


「真行寺から聞いたぜ。

全く。

なんだってあの校長野郎はそんな品性の欠片も無え、馬鹿げたクラブ廃部にしねえんだ。

んなもんうちの学校には要らねえ。

うちはなあ、質実剛健、大和撫子を育成する為に、俺の親父が建てたんだ。

俺から言ってやる。

今電話してやっからよ。待ってな。」


聞き取れないくらいのべらんめえで、早口にそう捲し立てると、そのまま校長に電話した。


「てめえ、このやろ。

なんであの英クラブとお料理クラブ、廃部にしねえんだ。

大体、そんな悪ガキ、なんでほったらかしてんだよ。」


葉巻に火をつけながら、校長の言い分の途中でまたもや捲し立てる。


「何が説教だ、このコンコンチキが。

んな事したって、悪ノリしてる奴らは、学校での足場無くさねえ限り、蔓延(はびこ)り続けんだろうがよ。

廃部にしろ、廃部に。」


またちょっと聞くが、直ぐに遮る。


「だから、金なんかどうだっていいっつってんだよ。

寄付金がなんだっつーんだ。

んなもんの為に、教師が必要な指導出来ねえなんて学校じゃねえっつーんだよ。

いいんだよ。

足りねえ金は俺が出す。

その為の理事長なんだからよ。

金の事は理事長が心配すりゃいいんだよ。

てめえが心配するこっちゃねえっつーんだ。

んなケツの穴の小せえ事ばっか言ってやがると、クビにすんぞ、てめえ。

両クラブは品性の欠片も無え、我が英学園には相応しくねえ悪行クラブだから、廃部ってハッキリ文書にして張り出して、両方の幹部とその親呼び出して、きっちりあいつらの悪行の数々をブチまけろ。

文書には俺の名前出せ。

分かったな?両クラブは廃部だ。いいな?んじゃ切るぞ。」


そして、生徒会長を見つめた。


「これでいいかい?苦労かけたな。」


「はい…。ありがとうございます…。」


「もっと早くに言ってくれりゃあいいのによお。」


真行寺が理事長の膝を叩いた。


「何言ってんだ。てめえが外国ばっか行ってっからだろ。」


「しょうがねえだろ?俺の稼ぎは外国にあんだもん。」


ポカンとしている生徒達に気付いた真行寺が笑いながら説明した。


「こいつんちはね、元々は海外の食料品を輸入する会社だったんだが、こいつの代になってから、それ止めちまって、海外にレストランを出すようにしたんだ。

まあ、こう見えて、読みが良くてね。

全部当たって、金は腐る程持ってるのに、まだ稼いでいる上、子供は居ない。

全部英学園につぎ込んだって困りゃしない。」


要するに、理事長は大富豪だったらしい。


「では龍介。次は頼むよ。」


次とは、草の犯人だ。

かなりの才能なので、犯罪者になる前に、こちらに引き込みたいらしい。


龍介はニヤリと笑って頷いた。


「京極DNAを受け継いだトップエージェントを抱えてますので、近日中には分かるかと。」


「うん。」





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