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龍介くんの日常  作者: 桐生初
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草の分析結果

その数日後、寅之に呼ばれ、5人全員で加奈が居なくなってから初めて加来家を訪れた。


加奈が居た頃は、あんなに可愛いフレンチカントリー風だった室内は、家全体が実験室の様になり、キッチンでさえ、実験道具が置かれていた。


「ユキ…。お前、飯食ってんのか…。」


龍介がキッチンを見て、心配そうに聞くと、爽やかとは言い難い笑顔で答えた。


「龍、料理っていうのは、化学反応なんだよ。一種の実験だ。楽しいんだよ?実験器具使うと。フフフ。」


「じゃ、作って食ってんの?」


「うん。ちゃんと僕が作ってます。夕飯は寅次郎おじさんが作ってくれるけどね。じゃ、部屋行こうか。」




寅之の部屋に入ると、鸞がガレットを。

瑠璃がチョコレートケーキを焼いて来たのを出してくれた。


「うまっ!このガレット、加奈ちゃんのと同じ味だ!」


寅之が言うと、鸞が苦笑して答えた。


「私が作る様になったら、やたらお父さんが、こうじゃねえんだ、もうちょっと塩っ気入れろとか、珍しく細かく指示してきて、この味になったの。

私もお母さんのガレット初めて食べた時、お父さんの求めていた味のルーツが分かって、笑っちゃった。」


「そうなんだあ…。いいなあ、寅…。」


母の味で、急に寂しくなってしまったのか、寅之がしょんぼりしてしまうと、鸞が焦って励ました。


「またいつでも持って来るわ!タルトも同じ味だし、鶏肉のフリカッセも同じ味だから!」


「ありがとお。約束ね、鸞ちゃん。じゃあ、シェアね、寅。」


そのセリフで目を剥き、口角泡を飛ばして怒り出す寅彦。


「いくら双子でも、鸞だけはシェアしねえからな!?」


言われた方の寅之の方がぽかーんとしている。


「オヤツ権シェアって意味なんだけど、他に何かあるの…?寅…。」


実は、寅之も龍介並みに男女間の事に疎いし、女の子への年相応の興味も無い。


「い…いや…。いい。なんでもない…。」


「じゃ、説明するね。龍に質問。セロトニンて物質知ってる?」


「名前だけは…。不足すると、鬱病になるんだろ?」


「そう。

鬱症状だけでなく、攻撃性も高まると言われてるし、近年では偏頭痛の原因ではないかとも言われてる。

この草はそのセロトニンが、一気に減少する作用がある。」


「だから、持ってる性格に寄って、抑鬱状態になったり、逆に切れまくったりしてたのか。」


「そうです。

だから龍が、一番初めにあそこに居た人達にした質問は的を得ていたわけだよ。

で、この手の薬、公なっていないだけで、存在しないわけじゃない。

尤も、裏社会でしか使われていないし、開発もされてないようだけどね。」


「うーん、つーと、なんかまずい事で話題になった政治家や秘書が突然の自殺とかで使われてるとか?」


「流石龍。その通り。

寅次郎おじさんとうちのお父さんの話だとそういう事。

ヤクザさんのそういう事専門にしてる人達に頼むと、その薬打って、自殺させるんだって。

大抵そういう場合、いくら気が強い人でも落ち込んでるしね。

効きは良いようだよ。それを図書館は掴んでしまうので、政治家の弱みを握れてしまうと。」


「なるほど…。じゃあ、同じ効果がこの草に?つーか、この草がその主原料なのか?」


「それが微妙に違う。

薬の方は万人に効くけど、こっちは効かない人もいただろ?

要するに、鬱病になりやすい体質の人、或いは、キレて自分でも止められなくなるとか、欲望が理性に勝っちゃうタイプの性質の人には効くけど、両方当てはまらない人には効かないんだ。」


「なるほど。」


「そして、ご質問のもう一つの方だけど、さっき説明したこの世に存在する薬剤の方は、100パーセント合成。

つまり、天然の薬草は一切入ってないので、この草とは無関係。

そして、驚くべき事に、この草は存在しない。」


「へ?未知の植物って事か?」


「そういう事です。なんか麻薬に近い植物を色々掛け合わせてはいるみたいだけど、作り出したものだね。」


「ー園芸部の奴…?」


「かなっと思って、僕もちょっと覗いてみたんだけど、あそこの人達はホンワカとガーデニングだの、野菜作りだのをみんなで楽しんでる感じだよ。

春休みだっていうのに、毎日世話の為だけに学校行って、楽しそうにしてるんだもん。」


寅彦もパソコンを広げて言った。


「龍。園芸部には、英クラブやお料理クラブに撥ねられた奴は居ねえぞ。」


「食堂で嫌な思いした奴は分かんねえだろ?」


今度は亀一が言うと、龍介も首を横に振った。


「俺、昨日食堂のおばちゃんに聞いて来たんだ。

おばちゃん達も、英クラブやお料理クラブの幹部連中の事は良く思ってねえみたいで、色々話してくれて、席のトラブルがあった奴の名前、全部教えてくれた。

その中に、この園芸部で名を連ねている人間は居ねえな。」


寅之が幸せそうに、ガレットを頬張りながら言った。


「それと、その草と一緒に、時限発火装置的な物は無かったよ。」


龍介は少し黙った後、あ!と声を出した。


「内部犯じゃねえのか…。考えもしなかったけど…。」


全員、驚いた顔をしつつ、納得。

鸞が特に納得している。


「なるほど…。

お料理クラブにも、私達以外で、良くないって思ってる人が居るのは、分かる気がするわ。

純粋に知らないお料理勉強して作ってみたいって思って入って来たのに、部長が食べたい高級食材の簡単な物ばかり作って、バカみたいって思うもの。」


「鸞ちゃん、雰囲気悪いって言ってたな。やっぱ、英クラブみてえに、部長とか幹部連中がのさばってる感じ?」


龍介が聞くと、語気を強めて言った。


「そうね。独裁政権て感じ。入って失敗したって思ったよね。」


瑠璃に同意を求めると、コクッと頷いた。


「あの仲間かと思われるのが嫌で、私達、指輪要りませんて言ったの。」


「他にも指輪要らねえって言った奴は居る?」


「鸞ちゃん、どうだったっけ?居なかったよね?」


「居なかったと思う。

本当にいいのって何度も聞かれて、段々責められてるみたいになって来たから、お小遣い前借りし過ぎて、買えません!とか嘘ついた位だもの。」


「という事は結構高い?」


「高いわ。

2万だもの。

だから、特権階級って、本人達は思い込んでるのかもしれないけど、単なる親の臑齧り集団よ。」


それは言えてる。

英クラブの指輪も大体そんな額だろう。


「じゃあ、こっからは分かれて調査しよう。

俺ときいっちゃんと瑠璃で、生徒会役員に会いに行く。

寅と鸞ちゃんは、大葉に英クラブの話聞いてみて。

なんでもいいから。」


「了解。」


亀一が目を伏せて小さな声で言った。


「龍…。市曽な…。」


「おう。シソな。」


ー可哀想に、食べ物のシソから抜けてねえぞ…。

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