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どうやら僕の心臓は賢者の石らしい  作者: (や)
ルーフェン伯爵編
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吸血鬼 vs 超リッチ


 バチバチと火花が散りそうな感じでミーナ(神祖)ソフィア(超リッチ)は双方を睨みつけていた。何かの切っ掛けで戦いが始まりそうなその一瞬、ミーナの前に割り込んだのはジークベルトであった。


「ジークベルト…」


「ミーナ様が直接手を下されるまでもありません。リッチ如き私だけで十分です」


 ミーナは不満そうだったが、ジークベルトはまずは護衛である自分が戦う事が当然だという雰囲気であった。


 それに対してソフィアは、


「フンッ、番犬ごときに私の相手が務まるものですか」


 と呟いて余裕を見せていた。


 ソフィアの挑発めいたセリフに、「番犬ではない、狼男だ!」と叫ぶと、ジークベルトはソフィアに斬りかかって言った。


 狼男であるジークベルトのスピードは、普通の人間が対処できるようなものではない。リッチに変わったからといって、ソフィアの近接戦闘能力は人間であった時とあまり変わらないだろう。ソフィアにもそれぐらいは理解しているだろう。そうなると、彼女はジークベルトを魔法で攻撃するはずである。そして、ソフィアがジークベルトを挑発したのは、彼を怒らせ動きを単純にさせるための布石だと思えた。


 しかし僕が思いつくことぐらいジークベルトも理解していた。彼は魔法攻撃を警戒して、残像で分身したかと思えるほどの左右の高速ステップを行いながらソフィアに襲いかかっていった。


 僕との戦いの時のように炎の壁(ファイア・ウォール)を使うか、炎の嵐(ファイア・ストーム)をソフィアは使うつもりだと僕は想像したのだが…


(あれ、無抵抗って?)


 どういうつもりなのか、ソフィアは無抵抗にジークベルトの攻撃を受けているだけだった。


 ザク、ザク、ザク


(うぁ、メッタ斬りじゃないか)


 ジークベルトは僕と戦った時よりも攻撃のスピードも力もレベルアップしていた。普通の人間が喰らえば身体が千切れ飛んでしまうような爪の斬撃によって、フィアは切り刻まれていった。

 不死者(アンデッド)となったソフィアの身体は斬られても出血しないため、スプラッターな状態にはならないのだが、切り刻まれたソフィアの身体は無残な状態になっていく。

 もちろん単なる物理攻撃ではリッチにはダメージは与えられないので、ジークベルトの爪には魔力(マナ)が込められている。


「はぁ、はぁ、どうだ…思い知ったか」


 ソフィアをズタボロに斬り裂いて満足したのか、ジークベルトは荒い息(・・・)を吐いていた。


(ジークベルト、妙に疲れてないか? 僕と戦った時でもあそこまで疲れた様子は見せ無かったはずだが。吸血鬼(ヴァンパイヤ)である彼が疲れるってことは、魔力(マナ)を消耗したのか?)


 僕はジークベルトが妙に疲れていることに気付いた。その理由としてジークベルトが、魔力(マナ)を消耗したと思ったのだが、爪に込められた魔力(マナ)程度でそこまで消耗するわけが無い。


「ほほほ、こんな攻撃が私に通じると思うのですか? 避ける必要もありませんわ」


「馬鹿な…爪には魔力(マナ)を込めてあった。リッチでも確実にダメージが出るはずだ」


 ジークベルトによって付けられた傷をソフィアは一瞬で修復して、攻撃を受ける前の姿に戻った。逆に攻撃したジークベルトの爪の方が腐食したようにボロボロになっていた。


「攻撃の瞬間、其奴に魔力(マナ)が吸われておるのじゃ」


「ミーナ様、確かにリッチは我ら(吸血鬼)に比べ魔力(マナ)を吸い取る能力が高い不死者(アンデッド)です。だからと言って攻撃の一瞬で魔力(マナ)を吸い取ることが可能とは思えません」


「その一瞬で魔力(マナ)を吸われておるのじゃ。それにあの者は接触した部分だけでなく近づいた者からも魔力(マナ)を吸い取れるようじゃ。魔力(マナ)操作が下手なお主では、近寄っただけで魔力(マナ)を吸われておる。…やはり妾が相手をするしか無いようじゃの。ジークベルトよ下がるのじゃ」


 ミーナはジークベルトに下がるように命令した。


 どうやら超リッチとなったソフィアの能力は通常のリッチとは一味違うようで、近くにいる者の魔力(マナ)を強制的に吸い取ってしまうらしい。又接触した相手から魔力(マナ)を吸い取る能力も強化されており、攻撃の際の一瞬の接触でも魔力(マナ)を大きく吸い取れるようだ。

 僕の大太刀の一撃を耐え切ったのもこの能力のお陰だろう。


 僕と戦っている時はそんな能力を発揮していなかったソフィアが、今その能力をフルに発揮しているのは、僕が与えた一撃で気絶してしまったこととが原因であった。僕の一撃で死んだと思い込んで気絶状態と成ったソフィアは、ミーナによって正気に戻された。その時不死者(アンデッド)としての自分を自覚したことで、自身の持つ能力を100%発揮できるようになったのだ。


「クッ…判りました」


 ミーナに下がるように命じられジークベルトは不服そうだった。しかしボロボロになった爪と無傷のソフィアを見比べて、諦めたようにミーナの方に退こうとした。


「あら、威勢の良いことを言った割にだらしが無い犬ですわね。では貴方から貰った魔力(マナ)をお返ししますわ」


 そんなジークベルトに向けて、ソフィアは二つの巨大な雷球…おそらく雷球の魔法(ライトニング・ボール)であろう…を生み出すと、ジークベルトに向かって放った。


 雷球の魔法(ライトニング・ボール)の雷球は、当たれば人間程度は蒸発してしまうぐらいの威力がある。しかし電撃の魔法(ライトニングボルト)の光速に近い雷と比べると、雷球のスピードは遅い。その速度はプロ野球の投手の投げるボール並(200km/h程度)である。


「ふん、こんな物。目を瞑っていても避けられるぞ」


 しかしジークベルトにとってそんなスピードは子供の投げるボールと一緒で、彼は二つの雷球を軽々と避けた。しかし二つの雷球は、まるで生き物の様にUターンしてジークベルトを追いかけて来た。


 雷球の魔法(ライトニング・ボール)は、熟練の魔法使いであれば雷球を操作してある程度誘導できる。しかしそれは方向の微調整程度であり二つの雷球をUターンさせることなどできない。これはソフィアが魔法使いとして優秀であり、超リッチと成った事で魔力(マナ)制御能力が格段に上がった結果できるように成ったのだ。


 ジークベルトは余裕で避けたつもりだったが、Uターンして来るとは思っていなかった為、戻ってきた雷球の一つを避けきれなかった。


「ギッ…」


 短く悲鳴を上げて倒れたジークベルトは、真っ黒コゲとなってピクピクと痙攣していた。吸血鬼(ヴァンパイヤ)か狼男の頑丈(タフ)さが幸いしたのか蒸発は免れたようだったが、死んでも不思議ではない重症であった。


 そのジークベルトに対して残ったもう一つの雷球がトドメを刺すかのように向かっていった。


「ジーク!」


 ミーナが叫ぶと同時に、彼女はジークベルトの真横に一瞬(・・)で移動していた。そして雷球を素手(・・)で弾き飛ばしていた。彼女はジークベルトの危機にかなり焦っていたのか、彼を愛称のジークと呼んでいた。


 この時ジークベルトの側に一瞬で現れたミーナの動きを僕は知覚出来なかった。後で映像記録や動体センサーの記録を見直したが、コマが抜け落ちたようにミーナは一瞬でジークの位置に移動していた。


(超スピードで移動したんじゃない。転移、いや縮地とかテレポートみたいな魔法だな。さすが吸血鬼(ヴァンパイヤ)の神祖、そんな隠し球の一つぐらい持っているのか)


 とりあえず僕は今のミーナの移動を縮地(仮)と呼称することにした。


「ふぅ、生きておるようじゃの」


 僕が感心している間に、ミーナは傷一つ無い(・・・・・)手でジークベルトの様態を確かめ、生きていることを確認して大きくため息を付いた。


「ほれ、受け取るのじゃ」


 ミーナはジークベルトを片手(・・)で僕に向かって放り投げた。慌てて僕はジークベルトをキャッチした。


「おい、無茶するな」


「それぐらいで死ぬような鍛え方はしておらんのじゃ。…後、済まぬが其奴(ジークベルト)魔力(マナ)を分けてやってくれぬか。それで直ぐに元に戻るじゃろ」


 僕の抗議に素っ気無くミーナは答えた。

 このミーナの態度は、ジークベルトが死にかけて焦ってしまってことが恥ずかしかった為である。魔力(マナ)も彼女が分け与えれば良いのに僕に頼む辺りからもそれが伺える。


「ツンデレな神祖様だな」


「どういう意味じゃ」


「いや、何でもない。ジークベルトの方は任せてくれ」


 僕は心臓の出力を上げると、両手から魔力(マナ)をジークベルトに流し込み始めた。それを見てミーナは少し安心した顔をするとソフィアに向き直った。




「お主、リッチと成ったばかりなのに魔法も高度に使いこなしておるようじゃな。ただの"不死の蛇"の神官だと思っておったが、元々司祭だったのじゃな」


「ええ、そうですわ。それにこの身体の能力(ちから)に私が気づいたのは、貴方のおかげですわ。その点は感謝致しますわ吸血鬼(ヴァンパイヤ)の神祖様」


 ソフィアは嬉しそうに微笑む。


「手加減する必要はなさそうじゃの」


「手加減など不要です」


 ジークベルトとの戦いで自信を付けたのか、ソフィアはミーナに対しても気後れが無くなったようであった。





 最初に動いたのはソフィアだった。彼女は雷球の魔法(ライトニング・ボール)を無詠唱で発動させ、4つの雷球を生み出してミーナに放った。放たれた4つの雷球はタイミングを合わせて四方からミーナに襲いかかった。


「無駄じゃ」


 四つの雷球をミーナは魔力(マナ)をまとった手刀で全て弾き飛ばした。先程は気付かなかったが、彼女は雷球を弾き飛ばす一瞬だけ手に魔力(マナ)を込めているようであった。


「それなら…これではどうですか」


 ソフィアは今度は小ぶりな8つの雷球を生み出すと、再びミーナに放った。


「数を増やしただけでは通じんぞ」


 ミーナが先ほどと同じように手刀で雷球を弾き飛ばそうと身構えた所にソフィアが放った電撃の魔法(ライトニングボルト)が命中した…いや、命中したように見えた。


「無詠唱で魔法が使えても魔力(マナ)の高まりが隠せないのでは、妾には当たりはせぬぞ」


 電撃の魔法(ライトニングボルト)はミーナが縮地(仮)で移動した後の残像を貫いていただけだった。縮地(仮)でミーナはソフィアの真横に移動していた。


「そして、魔法を使っている間は魔力(マナ)を吸収はできぬのじゃ」


 そう言ってミーナの小さな身体から繰り出された掌底打ちがどれほどの威力であったのか、ソフィアは壁まで吹き飛ばされ叩き付けられていた。


 ソフィアの近くにいる者の魔力(マナ)を強制的に吸い取ってしまう能力は、彼女が魔法を放っている間は働かない。ミーナはそのことを見抜いていた。


「今のはジークベルトを痛めつけてくれたお返しじゃ」


 ミーナはジークベルトを痛めつけられた事で怒っていた。


(ミーナ、そのセリフはフラグが立ちそうだからやめてほしいな…)


 僕はミーナとソフィアの○ラゴンボールの様な戦いを横目にジークベルトに魔力(マナ)を流し込んででいたのだが、ミーナのそんなセリフに思わず心のなかで呟いてしまった。


 ちなみに魔力(マナ)を流しこむことで、黒焦げであったジークベルトは概ね回復していた。ダメージを受けたことで狼男モードが解除され普通の人間の姿に戻っている。身につけていた装備は焼け焦げて燃え尽きていたので全裸である。全裸の男性に手を当てて魔力(マナ)を送り込む行為が精神的にきつくなってきたので、僕はジークベルトを戦闘に巻き込まれないような壁際に寝かせておくことにした。




 僕がジークベルトを壁際に退避させている間にミーナはソフィアを散々叩きのめし追い詰めていた。

 単発の魔法ではミーナに当たらないと判断したソフィアは炎の嵐(ファイア・ストーム)といった範囲魔法を連発していたが、ミーナは縮地(仮)でそれを避け、ソフィアを叩きのめしていた。


(圧倒的だな。これが格の違いなのか…)


 僕は○空と○リーザの戦闘を見守る○リリンの心境で戦いを見守っていた。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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