突入
「サハシ様、どちらにいかれるのですか? 32階層への階段に向かうのなら左に進んでください」
32階層に降りる階段から遠回りになるように通路を進み始めた僕にソフィアが後ろから声をかけてくる。
(くっ、そりゃソフィアはこの階層の事を良く知っているよな。遠回りして魔獣と遭遇するのは難しいか)
ソフィアはもう黒鋼鎧巨人を倒すことだけを考えているのだろう、ほぼ最短距離の道筋を支持してきた。
「ほら、ケイ早く行こうよ」
「依頼主のいうことだからね~」
エステルとミシェルが僕に進むように促してくるが、これもソフィアが操っているのだろう。
「分かったよ。ソフィアさん、道順を知っているなら前で案内をしてくれないかな?」
「ここからでも支持はできますわ。魔獣と遭遇したらお願いしますね」
駄目もとで前に出てくるように僕は言ってみたが、やはりソフィアはそんな誘いには乗ってこなかった。
『慶、前方には魔獣は見当たらないです』
『ケイさん、こっちもいませんわ』
"瑠璃"とマリオンに周りを探索してもらっているが、僕が調子に乗って倒しすぎたのか魔獣は辺りにはいないと二人が報告してきた。
(仕方がないか。最悪、黒鋼鎧巨人との戦いの時に…)
そう考えながら、僕はソフィアの命じる通り最短の道筋で通路を進んで行った。
◇
32階層に降りる階段…二時間ほど前に上がってきたばかりの階段を僕は降りていた。
「ソフィアさん、この辺り?」
「もう少し先に進んでください。ああ、その辺りです」
「なるほど、ここの壁の裏が空洞だね。開け方は…」
「隠し扉の右の方に少しだけ色の薄い部分が有ります。そこを押せば開くはずです」
「これか…開いたよ」
ソフィアが細かく支持を出し、ミシェルが壁を探っている。傀儡の状態でも彼女の盗賊の腕は落ちてないのか、隠し扉を探りだしていた。五年前と変わってないのか、隠し扉は簡単に開くことができた。扉が開く人が一人通れるだけの通路が現れる。
「この奥の部屋に黒鋼鎧巨人がいるのか…」
「そうです、しばらく通路を進むと目的の部屋に辿り着きます。部屋はかなり広いのですが、魔法陣や何か錬金術の器具があります。自由に動ける空間が少ないので、くれぐれも魔法陣は踏まないようにお願いします。五年前と同じなら、中央に黒鋼鎧巨人がいるはずです」
先ほど罠の転送陣を踏んでしまった僕にソフィアは念を押す。僕としてもここで罠を踏んでしまってはエミリー達を助けられない。罠にかかるつもりは無い。
(罠があるなら、ソフィア達を誘導できれば…)
そんな事を考えながら僕は通路に入っていった。
通路では階段で感じるような違和感を何度も感じる。方向感覚も時間感覚もあやふやな状態になりそうだった。後で確認すると、内蔵時計が巻き戻ったり進んだりしたことがログに残っていた。おそらくこの通路は、空間だけではなく時間も歪んでいるのだろう。
「あそこが終着点か…」
どれだけ歩いたか、一分なのか一時間なのか…狭い通路を歩いていると先に明るい出口が見えてきた。最後に特大の違和感を感じて僕は部屋に踏み込んだのだった。
◇
僕が踏み込んだ部屋は広さが30x30メートル程で、天井まで10メートルと体育館ぐらいの広さの部屋であった。ソフィアの言う通り床には魔法陣が多数描かれ、壁や天井からパイプやガラス管のような物が突き出していた。向かい側の壁には、この世界には不似合いな松本○士風のメーターが多数配置されていた。宝箱や道具が雑多に突っ込まれた箱も多数あった。
(こりゃ隠し部屋というより、片付けられていない工作室だな。向かいの壁にはスクリーンとかメータがあるし、制御室兼工作室なのかな?)
それが僕がこの部屋の第一印象であった。
そして、向かい側の壁への視界を遮るように部屋の中央には巨人が立っていた。
僕は黒鋼鎧巨人というからには真っ黒な鋼の巨人という姿を想像していた。しかし、部屋の中央に立っている巨人は、全高3メートルほどで手足や胸などは黒いが腕や腿、腹などが白いバンダ風の配色でああった。そして胸には赤いVの字の装甲板が付いていた。
《未確認オブジェクト:スキャン開始.....終了。材質不明。脅威度:不明》
ログを見ると材質も脅威度も不明と出ている。
黒鋼鎧巨人であれば材質が解析できるはずである。材質が不明と言うことは、この巨人はソフィアの言う黒鋼鎧巨人では無いということである。
(…あの姿はどう見ても超合金X製の…あれに乗れば神にも悪魔にもなれる奴…だろうな)
巨人の姿は、僕が小さな頃に再放送されていたアニメのロボットにそっくりであった。"リアルジャないロボット大戦"とかいうゲームでも出てきたり、主題歌が印象的なので僕はその姿を良く覚えていた。
ダンジョンキーパーの小人達は、なぜか日本のアニメに詳しかった。おそらくこの巨人も彼らがアニメから姿を真似て作ったのであろう。
「「「「ケイ、戦いの準備をしましょう」」」」
僕の後に続いて通路から出てきたエミリー達は、異様な巨人を見て驚くこともなく、戦闘体制を取り出す。何時もの彼女達なら、あれが黒鋼鎧巨人じゃないことぐらい理解して驚くだろう。傀儡となっている状態ではそんなこともできないのだろうか、四人は黙々と移動する。僕はそんなエミリー達に促される形で部屋の中に進んでいった。
エミリー達に続いてアーノルド達に挟まれる形でソフィアが部屋に入って来た。前に四人が立っているので巨人に気付かないのか、ソフィア達は隊列を整えていた。
「ソフィア、あれが黒鋼鎧巨人なのか?」
そんなソフィアに巨人を指し示して僕は尋ねた。
「サハシ様、何を言っておられるのです。あれがアイアン…な、何なのですかあの異様な巨人は?」
ようやく巨人の姿に気付いたソフィアは驚いていた。やはりこの巨人は黒鋼鎧巨人では無かったようだ。
キュワン、キュワン、キュワン…
僕達が全員部屋に入った所で警告音のようなものが鳴り響き、天井から赤色灯が現れ回り始めた。
「な、何なのですかこれは。以前はこんな物はありませんでした」
「ソフィア様、これはいったい何なのですか?」
ソフィアとアーノルド達が驚いて右往左往する。混乱している今であればソフィアを倒せたのだろうが、その時僕は別な事に気を取られていた。
警告音と共に魔法陣の一つが輝き二人の小人が現れた。僕は前に出会ったダンジョンキーパーの二人の小人から目が離せなかったのだ。
(この小人達には一度魔法の不意打ちで眠らされてしまったからな。この状況で眠らされるわけにはいかない)
《主動力:賢者の石 5.0%で稼働させます》
咄嗟に心臓の出力を上げて魔法への抵抗を意識したが、小人達は魔法を使ってはこなかった。
『やはりこの部屋にやって来たか』
『こんなことを我らが予測しないと思っていたか』
『何処の氏族かしらないが、我らアハ氏族が神から管理を任された地下迷宮に干渉してくるとは愚かなり』
『お前に対向する為に徹夜で作り上げた日緋色金巨人の力を見せてやる』
小人達は交互に喋りながら、魔法陣から飛び出す。あの巨人は日緋色金製の巨人だった。ジャパニメーション風なので材質も和風テイストなのだろうか。
小人Aが何処に隠してあったのか傍にあった赤い飛翔体に乗り込む。小型のヘリのような乗り物は飛び立つと日緋色金巨人の頭部に合体する。もちろん合言葉は「パイル○ーオン」だ。飛翔体が合体すると目が光りガッツポーズを取る。そして日緋色金巨人は動き始めた。
『他の奴らの相手はこいつだ』
一方小人Bの方は、二本のスティックの付いた箱を空中から取り出す。それと同時に魔法陣の一つが輝き、ソフィア達の背後に黒い巨人が現れる。
《未確認オブジェクト:スキャン開始.....終了。材質、黒鋼。脅威度:10.0》
背後に出現したので、その巨人を僕はチラリとしか見ることができなかった。スキャンの結果では材質が黒鋼と分析されているので、こちらが元々部屋に配置されていた黒鋼鎧巨人なのだろう。全高4メートル、鋼鉄巨人より少し小型だが、黒鋼で作られた身体からはそんな小ささを感じさせない力強さを感じる。
『行け、黒鋼鎧巨人!』
小人Bが叫びながらスティックを操作すると、黒鋼鎧巨人は"ギャォーン"とい雄叫びを上げて動き始めた。
「黒鋼鎧巨人がこちらに…サハシ様、どうすれば…」
ソフィアが背後に現れた黒鋼鎧巨人に驚き、僕に助けを求めたが、僕はそれに答えることができなかった。
なぜなら小人Aが操る日緋色金巨人が物凄いスピードで僕に迫ってきたていたのだ。
《接近オブジェクト…以後日緋色金巨人と呼称:スキャン開始.....終了。脅威度:20.0》
ログに脅威度が表示される。動き出した日緋色金巨人は、黒鋼鎧巨人の二倍といった脅威度と分析されていた。このまま接近を許すと、エミリー達を僕と日緋色金巨人との戦闘に巻き込んでしまう。僕は大太刀を抜くと、巨人に向かって走り出した。
◇
部屋の床は多数の魔法陣が描かれており、僕にはどれが罠かは判らない。魔法陣が描かれていない床には用途不明の機械やアイテムがあり、僕が自由に動ける空間はかなり少なかった。
そんな中日緋色金巨人は、その体格の割に妙に軽い"ガション ガション"と言う足音を立て、魔法陣などお構いなしに突進してきた。
(あいつら、熱戦やレーザーロケットパンチなんて仕込んでないだろうな)
元ネタを知っているだけに、僕は日緋色金巨人の挙動に注意していた。そんな事を知ってか知らでか、小人Aは叫びながらスイッチを操作していた。
『まずはこれからだ。胸部熱線砲発射~』
小人Aの操作と音声入力がキーとなり、ガッポーズを取った日緋色金巨人のVの字型の装甲板が白熱する。
《胸部装甲板温度上昇:計測開始...終了。温度は3万度を超えます》
《日緋色金巨人:脅威度上昇。脅威度:25.0》
(やっぱり付いてるのかよ~。永○豪先生に謝れ~)
僕は内心ツッコミを入れつつ、元ネタ同様にタメのいる攻撃ということも有り、装甲板から発射された赤い光線を横飛で避けた。赤い光線が命中した部屋の床が真っ赤に熱せられると、溶けて溶岩のようにグズグズになっていく。胸部熱線砲は移動しながら発射できない様で、タメが判れば避けるのは簡単である。しかしその威力は、当たれば一瞬で人間を燃やし尽くしてしまうだろう。
(射線を考えて避けないと…エミリー達にもし当たったら…)
僕はそう考えると、エミリー達を射線から外すために部屋の中心部に向かって移動を始めた。
『こら避けるな。部屋が壊れるだろうが』
小人Aがそう叫ぶが、僕は小人の叫びを無視する。
日緋色金巨人は僕を追って向きを変えた。再び胸部熱線砲を発射するかと思ったのだが、
『ちっ、ここから胸部熱線砲は不味いな。避けられると部屋が壊れてしまうぞ。ちょっと待っていろ調整するからな』
小人Aはそんな事を言うと、操縦席で何か作業を始めた。当然日緋色金巨人も動きを止めて隙だらけである。
その隙にソフィア達の方を見ると、彼女達は小人Bの操る黒鋼鎧巨人と戦っていた。黒鋼鎧巨人は背後に突然現れた為、ソフィアとアーノルド達は、巨人の攻撃を避けるのに精一杯の様子だった。エミリー達四人は、新しい命令が来ていないのか、僕とソフィア達の中間で戦闘態勢のまま立っている状態だった。
(こっちを片付ければ…ソフィア達を倒してエミリー達を助けることができる)
千載一遇のチャンスだ思った僕は、未だに動きを止めている日緋色金巨人を倒すべく斬りかかった。
キィン
「何っ、硬いぞこいつ」
今まで遭遇したゴーレムは、大太刀を使えば魔力を通す必要もなく切り捨てられたのだが、日緋色金巨人はそうではなかった。巨人の足を斬りつけた大太刀は、固い金属同士がぶつかり合って立てる澄み切った音を響かせて弾かれてしまった。
『ふふ、お前に対抗するために作ったと言っただろう。その剣ではこいつは絶対に斬れないのだ。何しろこいつの材料の日緋色金は魔力を通せば通すほど硬さがますのだからな。お前の出力はこの前見せてもらった。あの程度なら地下迷宮の1%の魔力を使えば防御可能だ!』
《日緋色金巨人:脅威度上昇。脅威度:30.0》
大太刀が弾かれたのに気付いた小人Aがニヤリと笑う。この前拘束された時に僕も大太刀も調べられている。その対策はばっちりと取られているようだった。
(クッ、対策済みか。しかし出力を上げればなんとかなるか)
大太刀は弾かれたが、小人に見せたのは出力20%までである。それ以上に出力を上げれば斬れるかもしれない。僕は巨人にまとわりつくようにしながら、心臓の出力を上げようとした。しかし、小人Aと日緋色金巨人はそんな暇を僕には与えてくれなかった。
相手が巨体の場合、懐に飛び込んで接近戦と言うのがセオリーである。しかし小人Aの操作する日緋色金巨人は、その巨体にも関わらず軽快なフットワークから、ボクシングのモーションで次々とパンチを繰り出してきた。小刻みのジャブを繰り出し、そこからチョッピング・ライトを繰り出してくる。僕は出力を上げる暇もなく避けることに集中せざるを得なかった。
『ふふ、黒鋼鎧巨人とは違うのだよ』
小人Aが笑いながら操作する巨人のチョッピング・ライトと見せかけた左のジェッ○・アッパーを避けるのに、僕は飛び退って一旦距離を取ることになってしまった。
飛び退った先は部屋の中央であり、僕は日緋色金巨人を挟んで、ソフィアと黒鋼鎧巨人との戦いの様子を見ることができた。
ソフィア達の方は、アーノルドの部下が一人減っていた。黒鋼鎧巨人は移動速度は遅いが、そのパンチはスピードが有る。アーノルドの部下は、ソフィアを護るためにその攻撃を避けきれなかったのだろう。
しかしそんなアーノルド達の奮戦もあってか、ソフィアの方はなんとか黒鋼鎧巨人の攻撃範囲から逃れていた。
ソフィアは助けにこない僕を睨むと、エミリー達四人を自分の方に呼び寄せた。
(不味いな、このままだと四人が黒鋼鎧巨人と戦う羽目になる)
傀儡状態の彼女達では黒鋼鎧巨人と戦っても勝ち目はない。ソフィアは自分達の方に来るようにとエミリー達を呼び寄せたのだろう。
それを見て、僕は焦って急激に出力を上げようとため、一瞬立ち止まってしまった。
『これでも喰らえ噴進拳~』
一瞬立ち止まった僕に対して、日緋色金巨人はその両手を発射した。
《主動力:賢者の石 25.0%で稼働させます》
出力が上昇するログの表示と同時に、巨人の拳が僕に迫ってきた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
お気に召しましたら、ご感想・お気に入りご登録・ご評価をいただけると幸いです。誤字脱字などのご指摘も随時受付中です。




