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ネイルド村と森の異変

5/4 改稿

 エステルとリリーの二人とパーティを組んでから三日ほど街道を歩くと、ネイルド村にたどり着いた。


 道中、何回か一角狼(ホーン・ウルフ)鉄鋼蟷螂ジャイアントマンティスといった魔獣が襲ってきたが、僕の投石とエステルの弓で全て退治した。

 狩人の娘というエステルの弓の腕前は良く、小柄な一角狼(ホーン・ウルフ)にヘッドショットを決めて倒すほどだった。


「エステルって弓が上手なんだね。さすが狩人の娘だ」


「ただの投石で魔獣を退治できるケイに言われたら、嫌みにしか聞こえないよ。あたしじゃ矢が届かない距離にいた鉄鋼蟷螂ジャイアントマンティスを、投石で倒していたじゃないか。あんなの見せられたら自身をなくしちゃうよ」


 彼女の弓より僕の投石の方が、射程も威力もある。しかし所詮僕の力はサイボーグの体によるチートである。エステルのように自分の力で矢を当てている方がすごいに違いないのだ。

 でも、嫌みだねと言いながらもエステルは顔を赤くして照れていたので、実は褒められて嬉しかったと僕は思っていた。





 ネイルド村は高さ三メートルほどの石造りの壁に囲まれており、門も分厚い木の板を鉄で補強した頑丈な物であった。近くに魔獣の森があり、時にはワイバーンもやって来ることがあるため、村は厳重に防御されている。

 村に入るのは僕達だけでなく、行商人や冒険者達など結構な人数がいて列をなしていた。そこには人間だけでなく様々な種族の人達がいた。


 この世界に来て、僕は今まで人間しか見ていなかった。しかし村の門をくぐる冒険者の中には、獣人やエルフ、ドワーフと言った僕が見たこともないファンタジー世界の住人が少数ながらいた。


「(特撮じゃないよな。本当にエルフって耳が長いんだ。それに獣人の耳と尻尾…触ってみたいな)」


 僕はそのファンタジーそのものの光景に、密かに感動を覚えていた。


 村の門には槍を持った兵士が三名いて、村に入る人をチェックしていた。

 僕達が村に入る順番になると


「次、さてお前たちだが…一体何者だ?」


 僕達の姿をみた兵士が誰何の声を上げた。いや彼が怪しんだのは、エミリー、エステル、リリーではなく僕のことだと分かっていた。何しろ今僕は、とんでもない荷物を運んでいたのだ。


 道中様々な魔獣を倒したのだが、エステルとリリーがもったいないからと、いろいろと素材をはぎ取っていた。その結果、荷物はとんでもない量にふくれあがって、四人では運べなくなってしまった。そこで適当な木を倒して、簡易のソリを作り、そこに荷物を乗せて運ぶことしたのだ。


 始めはエステルとリリー、そしてエミリーもソリを引くのを手伝おうとしたが、僕一人で軽々と引けたので手伝いは断っていた。

 僕はソリを引いても負担にならないが、三人がそれを手伝って疲れてしまっては、元も子もない。魔獣が襲ってきたとき、疲れていては危ない目に遭うかもしれない。そういった可能性を減らすため、僕は一人でソリを引いていたのだ。

 決して別に女性に力仕事をさせたくないとか、かわいい女性にソリを引かせるのは外聞が悪いとかではない…。


 しかし、馬が引いても苦労しそうなソリを僕が軽々と引いていたので、兵士は驚いたのだ。


「全て魔獣の素材か…。ものすごい数だな」


「そうですね。途中で倒した魔獣の素材を集めてたら、こうなりまして…」


「あんたも大変だな…」


 門番の兵士の一人に、同情の目で見られてしまった。


「女性に力仕事を任せる訳にはいけませんからね。僕は力だけはあるので、これぐらい平気ですよ」


 と言うと、兵士達はあきれたような顔をしていた。


 とにかく村に入る手続きをすることになったが、僕とエステル、リリーはタグを持っていたので、そのまま入ることができた。エミリーはタグを持っていなかったので、入村料として銅貨五枚を払うことになった。

 ちなみに、銅貨=十円ぐらいの価値なので、入村料は五十円と思えば安い物である。


 村に入ると、三人がソリから荷物を取って自分たちで運び始めた。どうやら僕が兵士達に同情的な目で見られたことで、三人は恥ずかしくなったようだった。


「うう、兵士さんの目が痛かったです」


「あたし達、別にケイに押しつけたわけじゃ無いからね」


「ケイさんに甘えていた私が悪かったのです」


 エステルは恥ずかしいのか顔が赤面しており、リリーとエミリーは少し涙ぐんでいた。


 まあそんな出来事があったわけだが、僕とエミリーは、初めて訪れたネイルド村の光景が珍しく、田舎者のようにキョロキョロしていた。


 ネイルド村は、魔獣の森が近いためその素材が頻繁に持ち込まれる。その為冒険者から素材を買い取る商店があちこちに軒を広げていた。冒険者も多数いるため、宿屋や鍛冶屋、薬草を売る店なども並んでいた。


「さっさと素材を売っちゃおう」


「そうですね。アルシュヌの街まで持っていけば高く売れるのですが、ケイさんの負担を少しでも減らした方が(私たちの精神にとって)良いです」


 エステルとリリーがここで素材を売ってしまおうと相談していた。

 僕としては、高く売れるならアルシュヌの街で売った方が良いと思ったのだが、エミリーも二人に同意したので、ここで素材を売り払うことになった。





「ここ、ここなら他の店より高く買ってくれるよ」


 エステルに連れられて訪れた店は、村の中央から外れた所にあった小さな店であった。


「おーい、ユーインいるか~」


「エステルか。また何か売りに来たのか? もう大ネズミの皮は買わないぞ」


 エステルが大声で名前を呼ぶと、店の奥から二十代半ばといった若い男が頭が出てきた。エステルが名前を呼んだことから、彼女と店長は顔見知りなのだろうと僕はあたりを付けた。

 奥から出てきたユーイン(店長)は、エステルの他に僕達がいることに気付くと、慌てて居住まいを正した。


「エステル、他のお客が居るならそう言えよ。ええっと、何かお探しで?」


「この二人はだけど、今度パーティを組むことになった、ケイとエミリーだよ。それで、今日はこれを売りに来たんだ」


 エステルは、カウンターに一角狼(ホーン・ウルフ)の毛皮と鉄鋼蟷螂ジャイアントマンティスの鎌を並べた。ソリで運ぶほどの量だったので、カウンターが素材で埋まってしまう。


「おいおい、どれだけ魔獣を狩ってきたんだ? それに、この前パーティを組んでた奴らはどうしたんだよ」


 大量の素材を並べられて、ユーインは驚いていた。


「アイツら、あたしとリリーをグリフォンの囮にしようとしたんだよ。まあ、バチが当たってグリフォンに殺されちゃったけどね」


「たしかグリフォンの卵を取りに行ったんだっけ。そりゃ災難だったな。しかしグリフォンに襲われて、よく生きて帰ってこられたな」


「この二人…ケイに助けてもらって、その縁でパーティを組むことにしたんだ」


 そんなお喋りをしながらも、ユーインは慣れた手つきで魔獣の素材をチェックしていた。


「へえ、この毛皮傷が少ないし、この鎌も刃こぼれが少ないね。これならかなり高値で買い取れるよ」


「で、幾らで買ってもらえる?」


一角狼(ホーン・ウルフ)の毛皮が四十枚と鉄鋼蟷螂ジャイアントマンティスの鎌が一つで…金貨十三枚で買い取るよ」


「えーつ、ちょっと安くない? もうちょっと高くならないのー」


「いや、周りの店に持っていてみろよ、うちより高値は絶対つけてくれないぜ」


 エステルとユーインの買い取り価格交渉には、相場を知らない僕は口を挟めない。僕は黙って店の中を見回していた。

 素材の値段や買い取り表が貼ってあったが、僕達の持ち込んだ素材はそれより高く買い取ってもらっている。つまり状態が良かったという事なのだろう。


 今後魔獣の素材を売って資金を稼ぐことに鳴りそうなので、売れそうな素材の種類と買い取り値段を記憶しておいた。


「しょうがないな~大盤振る舞いだ、金貨二十枚で買い取るよ」


「仕方ない。今回はそれで手を打つよ」


 交渉がまとまったのか、エステルはユーインから金貨を受け取った。

 素材を売った代金を四人で割ると金貨五枚。移動している間の狩りでそれだけ儲かるなら、冒険者も美味しい仕事だなと僕が思っていると。


「ケイさん、普通はこんなに高く買い取ってくれません。良くてこの半額、いえもっと少ない価格で買い取られます。今回はケイさんが綺麗に倒してくれたので、高く買い取ってもらえたのです」


 とリリーが耳打ちしてくれた。


 普通なら剣や魔法で傷だらけになってしまうため、買い取り価格がすごく落ちるのだが、僕は殆ど投石で倒したので、毛皮や鎌に傷一つ無いのが高額な理由だった。


 後、ユーイン(店長)はエステルやリリーと同じ村の出身で、冒険者になった二人を応援する意味を込めて、少し高めに買い取ってくれたようだった。


「儲かった、儲かった。これもケイのおかげだね」


 高く買い取って貰ったことに満面の笑みを浮かべるエステル。その後ろでユーインが苦笑していた。サービスしてくれたユーインにお礼の言葉を言って、僕達は彼の店を後にした。





 懐が暖かくなったので、美味しい御飯を食べることになった。

 今度はリリーが進める、冒険者御用達の食堂に入ることになった。いかにも大衆食堂という店は、多くの冒険者で混みあっていた。


 この世界でも美味しい料理を出す店は行列ができてしまう。三十分ほど待たされて、ようやくテーブルに付く事ができた。

 テーブルに座るなり、リリーが勝手に料理を注文し始めた。しかし、リリーが注文する料理の数は、とても四人で食べきれる量ではなかった。


「ちょっと多すぎないか?」


 エステルにそっと聞いてみると、


「旅の間は我慢してるみたいだけど、リリーって凄い食べるんだ。大丈夫だって」


 と笑っていた。



 運ばれてきた料理は優に十人前はありそうだったが、その殆どがリリーのお腹に収まってしまった。その光景を僕とエミリーは目を丸くして見ていた。そしてリリーと食べる時には割り勘しない方が良いと、支払いの時に痛感してしまった。


 僕達がそんな風に食事を楽しんでいる間に、魔獣の森では異変が起きようとしていた。しかしそんな事を神ならぬ僕達が知る由もなかった。





 -魔獣の森ー


 そこでは、魔獣やそこに入り込む冒険者達による、弱肉強食の生存競争が繰り広げられていた。生存競争に明け暮れる森だが、そこには一定の秩序があった。しかし、その秩序は今日この時間をもって失われ、狂乱へと変わっていった。


「今日の森、何かおかしくないか?」


 "森の探求者"というパーティの一人が、そう言って皆を見回した。


 彼の言うように、今日の森は何か変であった。いつもゴブリン達が通る獣道に、奴らの通った気配がなく、水場には溶岩猪(ラヴァワイルドボー)どころかその他の魔獣の姿も見かけなかった。

 魔獣達は何かに恐れをなして、息を潜めているかのようだ。


 "森の探求者"のメンバーは、森に何が起きているのか分からず、不安に駆られ辺りを見回す。しかし森は静まりかえっていた。


 "森の探求者"は、中級の下にランクする二流どころの冒険者パーティだった。しかし魔獣の森で長らく活動しており、自分の家の庭のように森を知っているのが彼等の強みだった。

 "森の探求者"が依頼として狙う獲物は、大百足猿であった。大百足猿の肝は特殊な処理をすることで、高級回復薬(ハイヒールポーション)の原材料となる。

 大百足猿を十匹狩るとなると、普通の冒険者であればその生息地を探すだけで一苦労である。しかし森の中をよく知っている"森の探求者"にとっては、簡単に大金を稼げる依頼で二日もあれば素材を確保できる予定だった。


 彼等が大百足猿の生息地にたどり着くと、そこには一匹も姿が見えなかった。もしかして別のパーティに狩り尽くされたかと彼等は考えたが、大百足猿の巣は荒らされた形跡がなかった。


「まずいな、此処に大百足猿がいないとなると、もっと森の奥に行くしか無い」


「奥に行くとなると…依頼の期限ギリギリだな、急いで向かおう」


 "森の探求者"のリーダは、更に森の奥にある大百足猿の生息地に向かうことを決めた。


「待って、何か森の精霊が言っている」


 パーティで紅一点の女性の精霊使いが、森の精霊がざわめくのを感じて皆を制止する。


 魔獣の森に大きな鳴き声が響き渡ったのは、その時だった。


 そして魔獣の森が震えた。今までの静けさを破るように魔獣が騒ぎ出した。


「これは一体何が起きたんだ?」


「魔獣達が騒ぎだした。これは不味いぞ」


「早く森を出よう」


「おい、アレは一体何だ…」


「魔獣の大群が…大群が…」


 そして、"森の探求者"は、魔獣の森で始まった大暴走(スタンピード)の最初の犠牲者となった。





 食事を終え、僕達は宿を探していた。二人部屋が二つ開いている宿を探していたのだが、なかなか条件にあう宿がなかったのだ。

 結局、僕が一人部屋、女子が三人部屋という、無難な部屋割りの宿を取ることになってしまった。

 エミリーは僕と同じ部屋でないことに不満気であったが、女子同士で話すこともあるし、エステルやリリーと仲良くなってくれればと僕は思っていた。


 宿を決めた後、日暮れまで冒険者向けの店を見て回ることになった。

 僕の装備は、外部装甲()と鉄棒と間に合っていたが、エミリーは普通の旅向けの服装であった。今後エミリーが冒険者としてやっていくなら、装備を整えておく必要があった。


 幾つか店を見て回り、三軒目でエミリーにピッタリの柔皮鎧(ソフトレザーアーマー)が見つかった。値段は金貨十枚。エミリーの手持ちでは足りない。そこで僕が支払うと言うと、エミリーが駄目だと言い出した。


「ケイのお金は自分のために使うべきです」


「だけど、エミリーが怪我をしても困るし。金貨五枚なら簡単に稼げるよ」


 お金とエミリーの命であれば、当然僕はエミリーの命を取る。今回の稼ぎを見ても、簡単に稼げるとエミリーを説得し、柔皮鎧(ソフトレザーアーマー)を購入した。


 エミリーは柔皮鎧(ソフトレザーアーマー)の下に着る服を探すことになった。女性向けの服を選ぶのに一緒に居るのがためらわれたので、僕は別途、武器屋に行くことにした。


 今まで僕は手近に落ちている石を拾って投げていた。しかし、周りに手頃な石があるとは限らないし、石を持って歩くのは格好悪い。そこで武器屋では、投てき専用の武器を買うつもりだった。


 冒険者向けの武器屋は多数あったが、その中でも品揃えの豊富そうな店を選んで入ってみた。店主が色々な武器や投げナイフを見せてくれたが、どれも強度や重さが足りなかった。


「(そうか、どうせ投げてしまうなら、わざわざナイフとかの武器の形をしている必要がないのか) 済みません、鉄の塊ってありますか?」


「おいおい、武器屋にそんな物置いてあるわけないだろ。鉄の塊とか欲しかったら、鍛冶屋にでも行ってくれ」


 店主は渋い顔をしてそういった。


「そうですね。済みませんでした」


 店主に謝り店を出ると、僕は鍛冶屋を探した。


 鍛冶屋は冒険者用の武器屋と隣接していたので、すぐに見つかった。


 鍛冶屋の中では、ドワーフらしい鍛冶師が剣の手入れをしている所だった。


「すいません、鉄の固まりが欲しいのですが、売ってもらえませんか?」


「武器じゃなくて、鉄が欲しいってどういうこった。此処は武器や鎧を作るところで、鉄を売るところじゃねー」


 鉄を売ってほしいと声を掛けると、鍛冶師に怒鳴られてしまった。


 ファンタジー世界一の頑固者、ドワーフの鍛冶師の彼はヴォイルといい、このネイルド村一の鍛冶師だった。たまたま入ってみた鍛冶屋だったが、僕は最高の鍛冶師に出会ってしまった。


「いえね、そこの武器屋に行ったらどれもこれも軽すぎて…。それに投てき武器が欲しかったんですが、繊細なナイフしかおいてなかったんです。僕としては、思いっきり投げて壊れない武器が欲しいんです。つまり、は投げて壊れなきゃ良くて、そうなったら武器じゃなくて鉄の固まりで良いんじゃないかと思ったんですよ。それを言ったら鍛冶屋にいけと言われてしまって…」


 僕の説明にヴォイルはますますいきり立った。


「馬鹿いってるんじゃねー。武器が軽いだと? お前みたいな華奢な体の奴が何を言ってやがる」


 この世界の基準で言うと、僕の体は戦士というには身長も低めで細身に見える。そのためヴォイルは僕が嘘を言っていると思ったようだ。


「(実はサイボーグなので、力は有り余ってるんですよね~) これが僕の武器です」


 論より証拠と、今使っている鉄棒をヴォイルに見せた。ディルック村の鍛冶屋で作ってもらった鉄棒は、直径が七センチ、長さ二メートルで重さにして六十キロであった。僕はそれを軽々とふるって見せると、ヴォイルは口をあんぐりと開けて驚いていた。


「おめえ、本当に人間か?」


「ちょっと力持ちですけど、人間ですよ」


「ふん、まあいい。確かに普通の武器じゃ、お前には軽すぎるようだな。……よし、これを持ってみな」


 しばし考え込んだ後、ヴォイルは奥の箱からから巨大な剣を持ち出した。その剣は、怪力自慢のドワーフが両手で持っても引きずるぐらいの重さであった。

 剣は黒い色をした幅広の片刃の直刀で、どこかのファンタジーゲームで見たような、背中に背負っても先端が地面に擦ってしまうぐらいの大剣だった。


「(厨二な人が大喜びしそうなデザインだな)」


 そう思っていると、ヴォイルは剣の柄を差し出した。


「えらく重そうな剣ですね」


「むかし、若気の至りでな作ったやつだ。黒鋼甲虫ブラックスチール・スタッグビートルの角が手に入ったんで、それを元に鍛え上げたんだが、持てる奴が誰もいなくてな…」


 黒鋼甲虫ブラックスチール・スタッグビートルとは、全長八メートルになるノコギリクワガタのような魔獣である。黒い鋼のような装甲で身を守り、その角は岩を砕く。


 僕は剣の柄を握り持ち上げた。鉄の棒に比べて長さは短いが、桁違いの重さだった。


 僕は剣をじっと見つめる。


《対象オブジェクトのスキャン:開始....終了 構成素材不明、長さ160cm、重量200kg》


 ログから推測すると、この剣は黒い鉄製に見えるが重さが桁違いだった。


「(これだけ比重が高い物質って…もしかして劣化ウランとかだったりして)」


 そんな事を考えていると、


《対象オブジェクトの放射線量をスキャン:開始....終了 放射線は検知されませんでした》


 再びスキャンが始まる。放射性が出ていないって事は、劣化ウランとかではなく、未知の比重の高い物質のようだった。


「ど、どうだいその剣は?」


 ヴォイルが恐る恐る聞いてくる。

 

 僕は剣を振り回して感触を確かめる。重量が重いため、バランスが悪いが振り回せないほどではなかった。剣より体重の方が軽いので、気をつけないと振った瞬間に体の方が浮いてしまいそうだった。


「ちょっと重めですが、かなり良い感じです」


「……そうか。それを振り回せるのか。……ならおめえにそれをやる」


 ヴォイルは突然そんなことを言いだした。


「いや、こんな高そうな剣は買えませんよ。幾らするんですか?」


 剣をヴォイルに返そうとすると、


「お代はいらねー。どうせそれは死蔵品で、俺の鍛冶師としての汚点で、黒歴史なんだよ。それを使いこなせる奴がいるとは思わなかったが、こうやって出会ったんだ。お前に使ってもらう方が、そいつも喜ぶってもんだ」


 そう言ってヴォイルは剣を僕に押し付けてきた。


 何回かの押し問答の末、結局僕はその剣を譲ってもらうことになった。職人として作品を死蔵するのは嫌だ、貰ってくれなきゃ溶かすって言われたら、さすがにもらうしかない。


 不要となった鉄棒はヴォイルに頼んで、鉄の杭に作り直してもらうことにした。杭は投げても良いし、地面に打ち込んで固定するにも使える。


「ついでに、これも売ってくれませんか?」


「分かったよ、売ってやるぜ」


 武器を作るための材料としておいてあった、ゴルフボールほどの大きさの鉄の塊も譲ってもらった。ヴォイルには鉄棒の加工費用も含めて、金貨二枚を支払った。


 背中に剣を背負うための特注の鞘もヴォイルは作っていて、剣を入れて背負うと某ファンタジーゲームの主人公のような姿になってしまった。これで村を歩いたら目立つことこのうえないと思われた。


「すいません、ボロで良いのでこの剣を包む布を譲ってください」


 背中に背負うのは僕には精神的に無理だったので、目立たないように布で包んで剣を持って帰ることにしたのだった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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