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どうやら僕の心臓は賢者の石らしい  作者: (や)
ルーフェン伯爵編
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ソフィアの秘密

 翌日、僕達は地下迷宮(ダンジョン)の建物の入り口でソフィアを待っていた。


「遅いねー」


 エステルが苛立った感じで街道の方を見て呟く。何時もならソフィアとは冒険者ギルドで待ち合わせてから、馬車で一緒に地下迷宮(ダンジョン)に来ていた。しかし今日は何故か入り口で待ち合わせることになっている。


「ソフィアさんは待っていると仰っておられたのですが、逆に私達が待ってますね」


「もう午前の中程なのですが…」


 リリーとエミリーもかなり焦れていた。ソフィアは朝待っていると言っていたのだが、僕の体内時計はすでに午前10時を示しており、もう朝とは言えない時間である。


 そんな地下迷宮(ダンジョン)の入り口で立っている僕達を尻目に、"天陽神"の神官戦士と思わしき一団が次々と建物の中に入っていった。彼らは"冒険者は地下迷宮(ダンジョン)に入れない癖に何故こんな所にいるんだろう"と言った感じで僕達をジロジロと見てくる。


「うーん、確かに装備は神官戦士っぽいんだけど…雰囲気がまるで神官というより盗賊ギルドの暗殺者って感じだよね」


 ミシェルが目の前を通り過ぎて行く神官戦士を見てそう評価する。僕も暗い雰囲気とうか邪気のような者を纏っている彼ら(神官戦士)がとても聖職者には見えなかった。


(ゴンサレスさんは、地方の"天陽神"の教会には神官戦士はいないと言っていた。そうするとこの連中は何者なんだろう)


 僕は通り過ぎて行く神官戦士達の顔や体格を細かく記憶しておくことにした。


「あんた達~。こんな所で何をしてるのよ」


「ほんま、冒険者は地下迷宮(ダンジョン)には入れまへんのやで~」


 時折、王都の"天陽神"の教会で見かけた神官やシスター達が通り過ぎていったのだが、その中にボヤキィ司祭とトンズネン神官が居た。彼らは僕達を見つけると走って近寄ってきた。

 周りは"天陽神"の教会の関係者しかいないので、強気になっているのだろう。この前教会でかかされた恥の仕返しをしようと言うのだろう。ボヤキィ司祭が杖を構え、トンズネン神官はメイスを構えて今にも襲い掛かってきそうである。


(厄介な連中に出会ってしまったな。…二人はソフィアに頭が上がらない様子だし、彼女の名前を出せば引いてくれるかな?)


「ソフィアさんに呼ばれてここで待っているのですが? あなた達はソフィアさんからそのことを聞いていないのですか?」


「ソフィアの姉さんからでっか? 何も聞いておまへんな~。ボヤやんは聞いてますか?」


「あたしも最近姉さんに会ってないから知らないわよ。…ちっ、ここは姉さんの顔に免じて見逃してやるけど、今度街で会った時は覚えてなさいよ~」


 二人はそんな捨て台詞を吐いて僕達の前から去っていった。


(あの二人も地下迷宮(ダンジョン)に入るのか…。大丈夫なのかな?)


 僕の見立てでは二人は初級の上ぐらだと思うのだが、深い階層の魔獣や"不死の蛇"の信者連中と戦えるとは思えないのだ。


「あんな連中まで地下迷宮(ダンジョン)に入るのか。まあ、浅い階層の魔獣となら戦えると思うけど…ケイの言っていた邪教信者と戦ったら死ぬしか無いよな。"天陽神"の教会は何を考えているんだ?」


 ミシェルは僕と同じように感じているようだ。これでは殲滅されるのは"不死の蛇"の信者ではなく、"天陽神"の神官たちの方になってしまうだろう。

 そんな僕達の心配を他所に、"天陽神"の神官達が続々と地下迷宮(ダンジョン)に入っていったのだった。


 :


 それから一時間ほどしてようやくソフィアが僕達の前に現れた。


「遅くなってしまい申し訳ありません」


 馬車から降りてソフィアは僕達に平謝りする。その間に数人の神官が降りて、馬車から立派な神官服を着た高齢の男性が降りるのを手伝っていた。


「ソフィアよ、この者達がお前が頼りにしているという冒険者か?」


「はい、神官長様。こちらが私と共に地下迷宮(ダンジョン)に入って頂いている、サハシ様とそのパーティのメンバーの方達です」


 ソフィアが老人の前に跪き僕達を紹介する。そこでようやく僕達は馬車から降りてきた老人が"天陽神"の教会の神官長であることに気付いたのだった。


(この老人が"天陽神"の神官長? なぜ地下迷宮(ダンジョン)にやって来たんだ)


 突然現れた"天陽神"の神官長に僕達は驚きを隠せなかった。





 ここで話は地下迷宮(ダンジョン)の30階層の探索を終え、地上に戻ってきたソフィアが"天陽神"の教会に戻ってきた時に遡る。


 教会に戻ったソフィアは、探索の経過を報告するために神官長の部屋を訪れていた。


 "天陽神"の神官長ディーノ・バルバは75歳という高齢の老人である。"天陽神"の神官の御多分にもれず、彼も貴族で有り爵位は男爵である。王都の"天陽神"の教会では、信仰心よりも貴族として政治力がその地位に影響をあたえるのだが、彼は男爵という低い爵位でありながら神官長まで上り詰めた男である。そして、ソフィアは彼の第二夫人であった。


「ディーノ様、只今戻りました」


「ソフィアか、予定より早いな」


「はい、あの者達が優秀なおかげで、探索がハイペースで進んでおりますので。今回で30階層までを終えましたので、一旦こちらに報告に戻りました。次回の探索で目的の場所にたどり着けると思います」


「うむ、それは良い知らせだ。…しかし、"不死の蛇"の者達に冒険者を狩らせていたのが、その者達に気付かれてしまったようだな。冒険者ギルドを通じて王国に報告が行ってしまうだろう。そうなれば、地下迷宮(ダンジョン)に王国が介入してくることになると思うのだが。…そうなると、あの場所も見つかってしまうかもしれ無い。どうすべきかの」


 ディーノは残念そうな顔をする。


「…そ、それは、実行部隊がさっさと冒険者を始末できなかった為で、それにあの者達が証拠さえ残さなければ…。しかし"不死の蛇"の信者である証拠の品は、私が回収しました。王宮に報告が行っても見間違いだったとごまかせるかと…」


 ソフィアは慌ててディーノの前に跪き言い繕ったが、そう上手くは行かないであろうと彼女にも判っていた。ソフィアの慌てた顔を見て彼は落ち着くようにと彼女の頭に手を置いた。


「明日から地下迷宮(ダンジョン)は封鎖され、"天陽神"の教会の総力を上げて"不死の蛇"の信者を掃討する。そう冒険者ギルドと王宮に使いの者を送り通達しておいた。これで地下迷宮(ダンジョン)に王国軍が入ることは当分無い。その間に我らの目的を果たしてしまうのだ」


「それは、あの部屋の攻略が終わった後の予定だったはずでは。…それに今地下迷宮(ダンジョン)を封鎖してしまうとなると、冒険者…生贄の数が足りなくなる恐れが…」


「地方に散っていた"不死の蛇"の信者達を王都に集めたのは、こういう時のためであろうが。それに王都の"天陽神"の教会から神官とシスターを地下迷宮(ダンジョン)に送り込むつもりだ。足りない分はそれで補えるだろう」


 ディーノはまるで教会の神官達が死んでも痛くない様であった。いや実際、彼にとって目的を達成するためには"天陽神"の神官も"不死の蛇"の信者達もどれだけ死んでも構わないと思っているのだろう。

 ソフィアはディーノが既に決定してしまった事を変えない性格であることは知っている。それにもう冒険者ギルドと王宮に通達が行っているのだ。賽は投げられてしまったのだ。


「…ふぅ、判りました。ディーノ様の仰せのままに進めましょう。…では私は急ぎあの者達に明日また地下迷宮(ダンジョン)に入ることを伝えに参ります」


 小さくため息を付き、ソフィアは気持ちを切り替えた。


「そう慌てることもあるまい。少しはここで休んで行けばよかろう」


「ディーノ様…もう事態は動き始めたのです。グズグズしていると計画が無に帰してしまいます」


 ディーノがソフィアを引きとめようとしたが、彼女はそれを振りきって部屋を出て行った。





(ディーノめ焦りおって。ここまで上手く行ってきた物を最後に焦ってどうする。"不死の蛇"様を降臨させるには奴が必要だからといって少し調子にのせすぎたか。とにかく王国が介入してくる前に事を済ませないと…)


 神官長の部屋を出たソフィアは、内心でディーノが勝手に行った迷宮封鎖に怒っていた。

 ソフィアはディーノに従っているように見えるが、実は彼を利用しているだけである。

 ソフィアの正体、それは六年前の"不死の蛇"の邪教団の討伐から逃れた邪神教団の神官であった。


 六年前、ソフィアは王国の邪教団の追跡から逃れた後、冒険者となって再び王都に戻り、密かに"不死の蛇"の邪教団の再起を図っていた。

 その冒険者としての活動中、地下迷宮(ダンジョン)で偶然にも地下迷宮(ダンジョン)魔力(マナ)を管理する部屋と"死者蘇生アイテム"を見つけてしまった。

 地下迷宮(ダンジョン)魔力(マナ)は膨大であり、地下迷宮(ダンジョン)はその魔力(マナ)で魔獣や(トラップ)などを作り管理していた。ソフィアはその膨大な魔力(マナ)を使って"不死の蛇"を降臨させる計画を思いついたのだ。


 ソフィアは部屋の秘密と宝箱から見つかった"死者蘇生アイテム"を独り占めするために仲間だった冒険者達を殺した。彼女は言葉巧みに仲間に"死者蘇生アイテム"の独占を持ちかけて仲間同士で殺し合わせたのだ。最後に残った盗賊と共に"死者蘇生アイテム"を商会に大金で一旦売り払った後、商会とその盗賊を殺してしまった。


 大金と"死者蘇生アイテム"を手に入れたソフィアは、今度は"天陽神"の教会の神官長をしていたディーノに持ち込んで彼に取り入ったのだ。

 "天陽神"は"不死の蛇"と対立する神であるが、何故その教会にソフィアが潜り込んだのか。それは王都の"天陽神"の教会は神官もシスターも信仰心が低く、彼女が"不死の蛇"の信者と見抜けるものは誰一人居なかったからであり、そして"不死の蛇"の信者が"天陽神"の教会に、しかも神官長の第二夫人だとは誰も思わないだろうというのが理由であった。


 そして、貴族の信者が多く政治的な力のある"天陽神"の教会は、ソフィアが"不死の蛇"と知られずに活動するにはうってつけの場所であった。彼女は"天陽神"の教会の影響力を使い、密かに王都で"不死の蛇"の信者を増やす工作を進めていったのだ。


 ディーノはソフィアが"不死の蛇"の神官である事をもちろん知っている。ディーノの権力、いや力に対する欲望は果てしなく、"天陽神"の教会の神官長程度では満足していなかった。しかし男爵という爵位ではそれ以上の権力は望めない。また彼は70歳という高齢であり、後は老いて死んでゆくだけである。そんなディーノにソフィアは"不死の蛇"の信者になれば不老不死となり、この王国をも支配できるとそそのかし改宗させたのだった。

 ディーノは元々"天陽神"への信仰心など欠片も持っていなかった。"不死の蛇"に改宗したのも不老不死という夢にすがりついただけで、"不死の蛇"事態への信仰心も低いであろう事はソフィアも判っている。ソフィアがディーノに求めているのは、力に対する限りない欲望だけであった。彼の限りない欲望が"不死の蛇"を降臨させる為に不可欠な要素であったのだ。




 "天陽神"の教会の神官となったソフィアは、その権威を利用して力の有る冒険者を探した。ソフィアが見つけた地下迷宮(ダンジョン)魔力(マナ)を管理する部屋は黒鋼鎧巨人(アイアン・ゴーレム)が守っており、それを倒さなければ魔力(マナ)を制御できない、つまり彼女の目的を果たすために黒鋼鎧巨人(アイアン・ゴーレム)を倒す必要があったのだ。


 彼女がその部屋を見つけた時、一緒にいた冒険者パーティは中級の上クラスであった。リーダである戦士は上級クラスであり、剣の腕前もかなりの物であった。魔法使いも高レベルの魔法を使えたのだが、そんなパーティでも黒鋼鎧巨人(アイアン・ゴーレム)には全く歯が立たなかった。幸い黒鋼鎧巨人(アイアン・ゴーレム)は部屋を守っているだけであり、逃げ出すのは容易だったため、"死者蘇生アイテム"が入った宝箱を持って逃げ出すことはできた。


 五年の間、王都や地方に散らばった仲間に黒鋼鎧巨人(アイアン・ゴーレム)を倒せる者を探させていたのだが、そんな冒険者は見つからなかった。

 五年も経つとディーノはますます自分の健康に不安を感じ、ソフィアに何時不老不死にしてくれるのか事ある毎に尋ねるようになった。ソフィアは徐々に追い詰められていた。

 そんな時、大水晶陸亀(クリスタル・トータス)を倒したという冒険者の話をルーフェン伯爵から聞かさた。そしてその冒険者が今王都来ていると聞いたソフィアは、ルーフェン伯爵に頼みその冒険者に依頼を出して貰い会うことにした。


 ソフィアはケイを見た時、何か不思議な力を感じ取った。それはケイの心臓の賢者の石から漏れ出る力だったのだが、そんな事はソフィアには判らなかった。ただソフィアはケイなら黒鋼鎧巨人(アイアン・ゴーレム)を倒せると感じてしまった。それは神からの啓示や神託ではなく女の感だったのだが、ソフィアはそう感じてしまったのだ。


(ディーノの先走りで部屋の攻略を急がなければならなくなったが、…あの者(ケイ)なら黒鋼鎧巨人(アイアン・ゴーレム)を倒してくれるはず…)


 ソフィアは手近なシスターに馬車の手配を頼むと、それに乗って冒険者ギルドに向かったのだった。


この話を書いていて、もっと前の話に少しづつ入れていけば良かったかなと後悔してます。。。orz


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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