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どうやら僕の心臓は賢者の石らしい  作者: (や)
ルーフェン伯爵編
82/192

迷宮の封鎖

10/02 ラウ⇒ラオ

「先ほど"天陽神"の教会から、『これは"天陽神"と"不死の蛇"との聖戦である。冒険者ギルド及び冒険者は手を出さないように』と連絡があったのだ」


「冒険者が襲われているのに…聖戦?」


 ミシェルはギルドマスターが言った事に驚いていた。

 確かに"天陽神"としては"不死の蛇"という邪教集団は許しておけないのだろう。しかしそれを聖戦として冒険者ギルドと冒険者に手をだすなと要求してくるのは無茶な話である。


(ソフィアが地下迷宮(ダンジョン)に入っている間に教会が決定したのか。…そうなると明日以降の探索は中断になるのかな?)


「冒険者ギルドは…それで、その通達に従うのでしょうか?」


 "天陽神"の教会が冒険者ギルドに圧力をかけることに問題は無いのだろうか、そしてそれに冒険者ギルドが従ってしまうのはどうなのだろうかと、僕はギルドマスターに尋ねてしまった。


「本来なら王国が動くところなのだろうが、その王国の方から"天陽神"の教会に従えとお達しが来ているのでな。現状ギルドもこの件で、優秀な冒険者達をかなり失っている。そんな邪教団の討伐に冒険者を駆り出すのは避けたいとうこともある。"天陽神"の教会の申し出は冒険者ギルドとしては両手を上げて歓迎すべきことなのだろうな」


 ギルドマスターはあまり嬉しそうにない感じでそう吐き捨てる。


「そうですか…確かに"天陽神"の教会がやるのであれば、冒険者の犠牲は出ませんね。良い判断かも…」


「良いわけあるかよ!」


 ギルドマスターは突然喚くと部屋にあった応接テーブルを蹴飛ばしてひっくり返した。


(ちゃぶ台返しならぬ、テーブル返しか)


「やられたのは冒険者なのだ。知り合いがやられた奴も大勢いる。仇を打ちたい奴らもいるんだ。俺だってギルドマスターなんてやってなきゃ真っ先に地下迷宮(ダンジョン)に入って彼奴等(不死の蛇)を狩ってやりたいところなんだよ」


 そこまで喚き立て、ギルドマスターは落ち着いたのかソファーに座り込んだ。


 きっとギルドマスター()としては冒険者ギルドを上げて討伐に乗り出したかったのだろう。しかし先に王国と"天陽神"の教会から通達が来てしまいそれが出来なくなってしまった。きっとストレスが溜まっていたのだろうが、それを僕達にぶつけられても困る。


「あたいだって知り合いが殺られたなら仇をとってやりたくなるさ。…この件、盗賊ギルドはどう考えているんだろうね?」


「盗賊ギルドは、"天陽神"の教会に協力するだろう。盗賊と"天陽神"なんて油と水みたいなもんなんだが、地下迷宮(ダンジョン)に入るなら盗賊は必須だ。教会もそこは譲歩したみたいだ」


「なるほど、落とし前もつけられるし報酬も得られるから…盗賊ギルドの方はそれで面子を保ったということにするのか」


 ミシェルは納得して頷いていた。


「そういうことで、"不死の蛇"の信者が冒険者を襲っていたということには緘口令がしかれる。そして片がつくまでは"天陽神"の協会関係者以外は地下迷宮(ダンジョン)に入れなくなる。お前たちも冒険者達が暴走しないようにこの件に関しては他言無用だ。…それとも既に誰かに話してしまったのか?」


「いえ、誰にも話してはいません。ただ、フランクという人がリーダをしているパーテイの人達もこのことを知っています」


「…そうか、そちらの方はギルドの方で口止めしておく。お前たちはこれ以上情報が広がらないようにしてくれ。儂の話は以上だ」


 ギルドマスターは、伝えることはもう終わりだという感じで手を振った。そして僕達はギルドマスターの部屋を退出した。





「"天陽神"の教会が地下迷宮(ダンジョン)で"不死の蛇"の信者と戦うって…あの教会にそんなに骨の有る奴らがいるのかね?」


 ミシェルのぼやく通り、"天陽神"の教会の信者は貴族が多く、神官戦士としての訓練などやっているとは思えない。前に教会でみた神官達も地下迷宮(ダンジョン)に入れるほどの実力は無いように見えた。


「貴族だし、自分の家で兵士を集めて、それを使うとか。…それなら冒険者を雇うはずだな」


「まあ、そのあたりを盗賊ギルドで情報を集めてくることにするよ」


 ミシェルは、情報を集めるために盗賊ギルドに向かった。



 ミシェルがいなくなり、エミリー達が教会から戻ってくるまで暇になってしまった僕は、することが無くボーッと冒険者ギルドのロビーを眺めていた。まだ通達が出ていないのか、地下迷宮(ダンジョン)の依頼を見ている冒険者達を見ていて、僕は忘れていた事に気付いた。


「そういえば槍が壊れてしまったんだ。地下迷宮(ダンジョン)に何時入れるようになるか判らないけど、新しい武器を調達しておかないと不味いよな」


 先の戦いで暗殺者が投げた爆裂弾を迎撃するために槍を投げつけてしまった。そのため槍は折れてしまい使い物にならなくなってしまったのだ。


(槍はリーチが有るのは良いけど、狭い通路とかじゃ大変だったしな。今度は間合いが調整できる様な武器にするかな~)


 "瑠璃"にエミリー達が来たら「冒険者ギルドで待っていて」と伝言するように留守番を頼むと、僕は冒険者ギルドの近く武器屋を見て回ることにした。





「あまり良い武器(もの)は無いか」


 この辺りの武器と防具を扱う店はエステルやミシェルの装備を買うために何度も廻っており、めぼしい物が無いことは判っていた。一通り廻って掘り出し物が無ければ適当な剣でも買おうかと思っていた。


「あれ、確かここは防具屋だったはず?」


 防具屋があった所に武器屋がオープンしていた。前にあった防具屋はあまり品質の良くない品揃えで、何時か潰れるだろうと皆で話していたのだが、そこが武器屋らしき店となっていた。中を見た感じでは普通に剣や槍などを売っているようだったので、僕は冷やかし半分で入ることにした。


「へぃ、いらっしゃい」


 寿司屋のような掛け声で二十代ぐらいの若い店員が僕に駆け寄ってきた。この辺りでは珍しい東洋風の顔立ち、つまり平たい顔である。かく言う僕もその平たい顔族なので、彼には親しみを覚える。


「ちょっと見せてもらって良いですか」


「どうぞどうぞ、ただいま新規開店セール中ですので、じっくりと見ていって下さい」


 店員が愛想笑いをしながら僕を案内してくれる。


 :


「うーん、他の店とあまり品揃えが変わらないような?」


 並んでいる武器は他の店と同様な品揃え品質であった。ただセール中ということで若干値段の方は安い。


「こちらにあるのは他の店にも有る数打ちの物ばかりです。もしお客様が他の冒険者と違った武器をお探しでしたら、この奥にありますよ」


 僕のガッカリした顔を見て、店員は慌てて奥にある部屋に僕を案内してくれた。


「こっ、これは」


「どうです、珍しい武器(もの)ばかりでしょ。こちらの品々はラオの国から仕入れてきたものでしてね。使い方にクセが有るのですが、強力な武器(もの)ばかりですよ」


 ラオの国はバイストル王国(今いる国)の東に位置する東洋風の国で、王国ではなく"天陽神"を崇める宗教国家である。ヴォイルから借りている大太刀からどこかに日本風の刀を作っている国があり、それがラオの国だと思っていたのだが…どうやらラオの国は中華風の国であったようだ。

 目の前に並ぶ武器は三国志とか少林寺とかの映画で見るような雰囲気の武器であった。


「トンファーに青龍偃月刀、方天戟、ヌンチャクまであるじゃないか」


「お客さん、もしかしてラオの国の出身ですか?」


 僕が名を呼びながら武器を手に持っている姿を見て店員は驚いていた。


「いや、そうじゃないけど、こいつらの名前と使い方は知っているよ」


 ヌンチャクはブルース何とかさん並に使える自信があるが、それ以外は実物を触ったことが無かったので、本当に実戦で使えるか試してみないと判らない。


(無双ゲームの技の型って変なの多いからな。あれを実戦で使ったらどうなるだろう…)


 そう思いながら僕は長さ二メートルほどの少しゴツゴツした棍を手にとった。棍なら棒術で問題なく使えるはずなのだが、持ち上げると棍は7つのパーツにバラけてしまった。


「これはもしかして七節棍?」


 僕が手にとったのは三節棍ならぬ七節棍だった。普通の七節棍と違い節が鎖で繋がれているのではなく、七本の黒鋼のパイプに細い紐を通してある作りのため、接続した状態では棍に見えたのだ。


《対象オブジェクトを検索:開始...終了。全長2メートル。材質:黒鋼。質量:10kg 紐の素材不明》


 持ってみた感触からかなり重いと思ったが、以外に軽く10kg程度だった。それでも普通の武器としてはかなり重く、魔力(マナ)での身体活性ができない人では実用に耐えないだろう。


「お客さん、お目が高い。これは黒鋼甲虫ブラックスチール・スタッグビートルの足を使った七節棍ですよ。重量はかなりあるけど、頑丈だし普通のフレイルなんかより使い易いですよ」


 店員が揉み手をしながら薦めてくる。フレイルより七節棍の方が使いやすいというのはあり得ないが、ちょっと厨二っぽい武器であることに僕は心惹かれた。


「紐で黒鋼を綴じているんじゃ、強度不足じゃないか?」


「この紐ですが、とある魔獣の筋を使用してますので、普通の鎖なんかよりも丈夫です。どうぞ確かめて下さい」


 僕は七節棍を持って何回か振って強度を確かめてみたが、確かに丈夫そうである。


(七節棍か、漫画かゲームに出てくる時は強そうに描かれているけど、リアルで本当に使えるのかな?)


「どうですか?」


(うーん、どうなんだろう。今ひとつピンと来ないんだよな)


 面白そうな武器ではあるが実用性という面で少し不安を感じて僕は購入するかどうか迷った。その雰囲気を感じているのか店員は不安そうである。


(前の剣みたいに魔力(マナ)が通せれば…ん、こいつも魔獣の素材からできてるのか。それなら魔力(マナ)を通せるんじゃないのか?)


「すみません、魔力(マナ)を通してみて良いですか?」


「ま、魔力(マナ)ですか? ええ構いませんが…」


 店員に断って僕は魔力(マナ)を通してみることにした。店員の方は魔力(マナ)を通すということが良くわかっていないようだった。


《マナを伝達中: 2ミューオン/秒で伝達されています。》


 魔力(マナ)を通し始めると、七節棍は普通の棍のようになってしまった。魔力(マナ)を通すことで紐となっている魔獣の素材が棒のように硬化するようで、それに強度も増しているようであった。試しに振ってみても節がバラけることもなく、棍の様に使える。これなら棒術で十分使えるだろう。


「これは便利だな」


「私も知りませんでした。魔力(マナ)を通すとこんなことが出来るのですか」


 店員は驚いた顔で棍のように七節棍を振り回す僕を見ている。


「うん、気に入りました。これを買うことにします」


「毎度ありがとうございます。ではお値段のほうですが…」


 さすがに黒鋼の素材を使った武器かなり高額な価格を言われるかと思ったのだが、金貨50枚…それでも普通の剣や槍の十倍以上の値段では有るのだが…という微妙な値段であった。


「正直に言いますと、この七節棍、使いこなせる人がいなかったのです」


 開店してから何人かの冒険者がこの部屋の武器に興味を示したが、使い勝手を試して値段を聞くと皆購入を諦めたそうだ。


(この国では使い方が判らない武器、しかも高級素材で作られているから値段も高い…そりゃ売れないだろうな)


 僕も地図を売って懐が暖かくなければ購入を諦めていただろう。ついでということでトンファーとヌンチャクも買うことにし、合計で金貨55枚を支払った。


「今後ともどうぞご贔屓に」


 高額な武器を購入してくれた僕を笑顔で店員は送ってくれた。





 冒険者ギルドに戻るとエミリー達が僕を待っていた。

 亡くなった二人の亡骸は教会の共同墓地(もちろん有料)に埋葬された。もちろん葬式などない。地下迷宮(ダンジョン)で死亡して地上に亡骸が戻ってくることのほうが少ないことを考えると、埋葬されるだけ幸運ともいえるのだ。


地下迷宮(ダンジョン)が封鎖と告知されていましたが?」


 エミリーがギルドの掲示板に貼られていた告知を見てきたのか、尋ねてきた。掲示板にあった地下迷宮(ダンジョン)がらみの依頼書も全て撤去されている。


「ああ、どうやら"不死の蛇"達邪教集団を地下迷宮(ダンジョン)から掃討するまでは封鎖するみたいだ」


 僕はギルドマスターとの話をみんなに聞かせた。


 :


「そんなことになっているのですか」


「道理でギルドに冒険者が少ないわけだ」


 エステルが冒険者ギルドのロビーを見渡してため息をつく。地下迷宮(ダンジョン)に入れないのであれば王都で冒険者が稼ぐことは難しい。封鎖が解けるまで待つか、別の稼げる場所に移動することになる。


「でも、"天陽神"の教会はどうやって地下迷宮(ダンジョン)から邪教集団を排除するのでしょうか?」


 リリーが不思議そうな顔で尋ねてきた。


「そこは今ミリアム(ミシェル)が盗賊ギルドで調べているよ。盗賊ギルドは"天陽神"の教会に協力するみたいだし…」


「もちろん、"天陽神"の教会の総力を上げて邪教集団を殲滅しますわ」


「ソフィアさん」


「教会に行ったのでは?」


 "瑠璃"がソフィアがギルドに来ていることを知らせてくれていたので、僕は驚かなかったが、他のメンバーは突然背後から現れたソフィアに驚いていた。


「総力ですか? でも"天陽神"の教会にそれだけの戦力が有るとは思えませんが?」


「エミリーさん、"天陽神"の教会の力を甘く見ないで下さい。邪教集団程度であれば教会の神官戦士が簡単に蹴散らしてみせます」


 エミリーの疑問にソフィアはそう力強く答える。


「そうですか?」


 エミリーはソフィアの言葉に疑問を感じているようだった。


「それに私達も掃討に参加します。サハシ様、明日から又地下迷宮(ダンジョン)に入ることになりますので、よろしくお願いします」


「「「えっ?」」」


 ソフィアの発言にエミリー達は驚きの声を上げる。僕も若干驚いたのだが、なんとなくソフィアがそう言うような予感はあった。


「僕達は冒険者であって"天陽神"の信者ではないのですが?」


「"天陽神"の教会が許可しますので、地下迷宮(ダンジョン)に入るのは問題ありません。迷宮を探索していると襲って来るでしょう、サハシ様はそれを退治すれば良いのです。では明日の朝、地下迷宮(ダンジョン)の入り口で待っております」


 ソフィアはそう言うと僕達の返事も聞かずに立ち去ってしまった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

お気に召しましたら、ご感想・お気に入りご登録・ご評価をいただけると幸いです。誤字脱字などのご指摘も随時受付中です。


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