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どうやら僕の心臓は賢者の石らしい  作者: (や)
ルーフェン伯爵編
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救出

 転送陣のある部屋まで僕は三十秒とかからずに辿り着いた。扉を蹴り開けると、まだ冒険者達は生き残って戦っていた。

 冒険者は6人パーティで戦士三人に魔法使いと盗賊、そして神官といった編成だったようだが、魔法使いと神官、盗賊は床に倒れており、暗殺者達と戦っているのは三人の戦士だけだった。僕のセンサー情報からすると、倒れている三人はまだ生きているようだったが、極めて危険な状態であった。


 対して、冒険者を取り囲んでいる暗殺者は13人もいた。硬革鎧(ハードレザー)に短剣や小剣(ショートソード)、メイスなどを構えている。鎧も武器も全て真っ黒に塗られており、顔も黒いマスクで隠しているため"瑠璃"が暗殺者というのもあながち間違っていない表現だろう。


 僕が扉を蹴り開けた音に驚き、冒険者と暗殺者達の戦いは一瞬停止していた。


(間に合ったか)


 僕は冒険者たちが生き残っていたことに安堵すると同時に彼らを助けるべく行動を開始した。


「助けに来た」


 そう叫んで僕は槍を構えると暗殺者達に向かっていった。


「奥するな、相手はたった一人だ。No.10,11,12は入ってきた奴を始末しろ。残りはこいつらをさっさと片付けるぞ」


 リーダーらしき男の命令に従って、冒険者を包囲していた男達から三人が僕に向かってくる。残りは戦士に再び襲いかかっていく。


(グズグズはしていられないな)


 男達の持つ武器には毒らしき液体が塗られていた。おそらく毒は僕には効きはしないが、冒険者達の方はそうではない。僕は向かって来た三人を速攻で排除することに決めた。


「「「イー」」」


 どこかの戦闘員みたいな叫び声を上げて三人が襲いかかってくる。相手の武装は一人はメイスで二人が小剣(ショートソード)である。僕の槍とのリーチ差を考え、彼らは三方向に別れて襲い掛かってくるつもりだったのだろう。しかし僕は彼らにそんなフォーメーションを取る隙を与えなかった。


「悪いけど、手加減はしていられないな」


 10メートル程の距離を二歩(・・)で踏み込むと、三人を豪快に槍で薙ぎ払った。


「「「ぐぁぁ」」」


 三人を薙ぎ払ったため槍がミシリと悲鳴を上げたがなんとか持ちこたえてくれた。三人は悲鳴を上げながら15メートルほどふっとび、部屋の壁に当たるとそのまま動かなくなった。


(まずは、三つ)


 冒険者達のところまでは後十メートルほど。冒険者を挟んで奥の方に魔法使いらしき杖を持っている者を発見した僕は、袋から木の杭を二つ取り出した。そして呪文を唱えていた二人に向かって、杭を手首のスナップだけで投擲した。

 200km/hで投擲された白木の杭は、狙い違わず二人の男の腹に命中した。スプラッターな状況は避けたかったので、鎧を貫通するほどの速度は与えなかったが、杭が当たった時の衝撃は相当なものである。二人は腹を押さえてその場に倒れ伏した。


(五つ)


 僕は一番近い暗殺者…戦士の一人に二人ががりで襲いかかっていた…に走り寄り背後から槍で叩き伏せた。槍のカバーはかけたままだったので、二人共肩が砕けたぐらいで死んではいないはずだ。


(七つ)


「なっ、彼奴は化け物か。…集まれ!」


 戦いを後ろで見ていたリーダーらしき男が、一瞬で七人を倒されて慌てて叫んでいた。

 リーダーの叫び声で状況に気づいた暗殺者達はサッとリーダーの元に集まる。


(統制がとれているな)


 いきなり過半数の味方を倒されたのに暗殺者達が動揺すること無く行動することに僕は感心した。

 暗殺者達はリーダーのもとに集まると、僕を警戒しながら転送陣に向かって後退し始めた。


「逃すかよ」


 こんな連中を僕は逃すつもりはなかった。転送陣に入る前に全員叩き伏せようと向かっていったのだが、そんな僕に対してリーダーの男が何か黒い玉のようなものを投げつけてきた。


(なんだ?)


《対象オブジェクトのスキャン:開始....終了 爆発物の可能性80% 》


 ログの表示を見て、僕は黒い玉に慌てて槍を投げつけた。


 チュドーン


 ギャグマンガじゃないが、そんな感じで黒い玉は爆発し辺りに黒い煙幕をまき散らした。


《センサーに異常発生:視覚センサー不明、赤外線センサー不明、動態センサー不明…》


 どの様な仕掛けかわからないが、煙幕は僕のセンサーを全て使用不能の状態に陥らせた。


(音まで聞こえなくなるって…あれは魔法のアイテムか?)


 真っ暗かつ無音の状態では全く動くことが出来なかった。二十秒ほどで煙幕は消え去ったが、暗殺者達は既に転送陣で去っていった。


「くそっ、取り逃がしたか」


 僕は追いかけようかとも思ったが、爆発によって槍は失われており、まだエミリー達も追いついてきてはいない状態である。部屋の冒険者達を助ける方が優先であると思い直して、僕は暗殺者達を追いかけることを断念した。





「ケイ、何があったんだ」


「一人で先走らないでよ」


 暗殺者達が撤退してしばらくするとエステルとミシェルが部屋に入ってきた。それに少し遅れてリリー達もやって来た。


「エミリー、ソフィア。怪我人がいるんだ、治療をお願いしたい。毒を受けているから早く解毒の奇跡(キュア・ポイズン)もかけて」


 僕は手持ちの低級回復薬(ヒールポーション)を魔術師の少女や神官、盗賊に飲ませていたが、毒を受けているのか回復が思わしくない。毒を消す神聖魔法を使える二人に急いで解毒の奇跡(キュア・ポイズン)をかけるようにお願いする。


(治療は二人に任せて、僕はあいつらを拘束しておかないと)


 倒したまま放置されている暗殺者達に僕は近づいていった。正体と目的を聞き出してその後冒険者殺しの犯人として兵隊に手渡すつもりで、その為に致命傷を避けて倒していたのだ。


(あれ?)


 肩を叩き折って気絶したはずの二人だが、僕のセンサーではひどく体温が低い事を検出していた。心臓の鼓動も物凄く弱々しい。


「馬鹿な、致命傷じゃなかったはずだ」


 二人を調べようと慌てて駆け寄ったのだが、目の前で男の心臓が停止した。そして男の身体が唐突に燃え上がった。


「うぉ、アチチチ」


 最初に叩き伏せた男達を縛ろうとしていた戦士が、突然燃え上がった暗殺者の炎に腕を焼かれて悲鳴を上げる。

 おそらく魔法による炎だろう。高熱な炎が立ち昇ると、瞬く間に男を燃やし尽くす。他の暗殺者も同様に炎を上げて燃えていた。


(秘密保持のための仕掛けか…そこまで徹底する必要があるのか?)


 僕は、唖然と燃え尽きていく男達を見ていることしか出来なかった。





 エミリーとソフィアの神聖魔法を駆使した治療にも関わらず、神官の青年と魔法使いの少女は助からなかった。解毒の奇跡(キュア・ポイズン)をかけて全回復の奇跡(リカバリー)も唱えたのだが、特殊な毒を使っていたらしく完全に毒を消すことが出来無かったため、体力のなかった二人を助けることが出来なかったのだ。

「おい、起きてくれよ。今度地上に出たら結婚しようって言っただろ…」


「アメリア…そんな…なんでこんなところで死んじゃうのよ」


「何時も喧嘩ばかりしていた気がするけど…もう出来ないの…」


 魔法使いの少女はリリーとエステルと同郷であり、出会う度に口喧嘩になる間柄だったらしい。リリーとエステルは少女を囲んで泣いていた。そしてその少女の彼氏だったのだろう戦士の青年は、彼女の亡骸に覆いかぶさって泣き叫んでいた。


「犠牲は出てしまったが…助けてくれてありがとう」


 冒険者パーティのリーダである戦士のフランクが僕に頭を下げてくる。


「…すみません、もっと早く僕が気づいていれば」


「いや、こちらが救援を呼んでもいないのに助けに来てくれるだけでも十分だ」


 地下迷宮(ダンジョン)では迂闊に冒険者を助けに入るのは難しい。魔獣との戦闘で助けに入った後、その魔獣の素材の分配などでもめたりするからだ。そのため相手からの救援の要請がない場合は、なるべく助けに入らないというのが地下迷宮(ダンジョン)での暗黙のルールとなっている。

 また敵が強い場合…今回の様に圧倒的に不利な状況では、危険を犯して他のパーティを助けるというのはほぼあり得ないということだった。


「襲ってきた連中が何者か、フランクさんは知っていますか?」


「いや、知らない。俺達はこの階層を探索し終えて帰るところだったんだ。そしてこの部屋に入った途端彼奴等に襲われたんだ。しかも彼奴等何処に隠れていたのか背後から襲いかかってきたんで、真っ先にダニー(盗賊)とタウノ(神官)そしてアメリアが倒されてしまったんだ」


 フランクはタウノとアメリアの所で声のトーンが落ちた。目の前ではまだアメリアの亡骸にすがって戦士が泣いている。


「ダニーさん、まさかとは思うのですが、襲ってきたのは盗賊ギルドの人でしょうか?」


 暗殺者集団を飼っている様な組織は盗賊ギルドぐらいである。王国も所有しているかもしれないが、それを地下迷宮(ダンジョン)に投入する理由はない。


「俺は王都の外のギルドの出身だからな~。彼奴等が王都のギルドの連中かどうかは判らないよ。ただ、戦いかたや死に方を見てもありゃギルドの暗殺部隊とは思えないな」


 ミシェルを見るとダニーの言葉に頷いていた。


(盗賊ギルドが無差別に犯人を探して襲ってるってことはないよな。となると彼奴等が冒険者を襲っていた犯人か)


「ケイ、これは何でしょうか?」


 燃え尽きて灰となってしまった暗殺者達の死骸に祈りを捧げていたエミリーが僕を呼ぶ。エミリーは冥福を祈っていたわけではなく、不死者(アンデッド)として蘇らないように祈っていたのだが、彼女はその灰を指差していた。


「何かあったの?」


 近寄ってみると、魔法使いだろうと思われる二人の死骸(灰)の中に何か金属片が見つかった。今にも壊れそうなそれを取り上げてみると、まるで蛇がのたうっているような形をしており何かの(シンボル)のようだった。


「これは…"不死の蛇"の(シンボル)?」


 ミシェルがそれを見てボソリとつぶやく。

 "不死の蛇"とは蛇と人の間の子の様な姿した神様であり、邪神と呼ばれる神様である。当然邪神であるから大ぴらに崇めることは出来ない。その教義は、死後はアンデットとして蘇り永遠の命を得らえるというものである。死後、永遠の命を授かるには多数の生贄を神に捧げる必要があるということで、人を攫っては生贄にするという活動をするため王国は厳しく取り締まっている。


「六年前に王都で隠れて信仰していた邪教団が見つかり、国軍によって壊滅されました。その生き残りでしょうか?」


 ソフィアはそう言いながら、僕の手からその(シンボル)を奪い取っていった。


「この件は"天陽神"の教会で調べてみます」


 ソフィアは(シンボル)を布に包んで、懐に仕舞いこんでしまった。"天陽神"の教会としては"不死の蛇"は許しがたい邪神である。そのためかソフィアの顔色は悪かった。



 リリーとエステルが落ち着いた後、僕はフランクと今後どうするか話し合った。もともとどちらも帰る予定だったので、部屋の転送陣を使用して全員で1階層に戻ることすんなりと決まった。

 二人の遺骸を担ぎ、全員で転送陣に入り一階層に無事転移した。敵が待ち伏せているかと構えていたのだが、襲撃は無くすんなりと僕達は地下迷宮(ダンジョン)を出ることが出来た。





 地下迷宮(ダンジョン)を出た後、リリーとエステル、エミリーはフランク達と一緒に無くなった二人を埋葬しに"大地の女神"の教会に向かうことになった。ソフィアは"天陽神"の教会に直ぐ戻ると言ったので、僕とミシェルの二人で事のあらましを説明するため冒険者ギルドに向かうことになった。


「同じ報告を盗賊ギルドの方にもしてこなきゃね」


 ミシェルが面倒臭そうに呟く。ミシェルにとっては面倒だが、盗賊ギルドに報告しておかないと不味い事柄ではある。


地下迷宮(ダンジョン)に入るのは管理されているのに、どうやってあの暗殺者達は見つからずに迷宮に入れたんだろうね」


「さぁね。でも原因がはっきりしたから王国軍が動くんじゃないかな」


 地下迷宮(ダンジョン)で冒険者を襲っていたのが、邪神を崇める連中らしい事が判明したのだ。国は軍を動かしてそいつらを地下迷宮(ダンジョン)から排除するだろうというのがミシェルの予想である。

 しかしそうなるとしばらくは地下迷宮(ダンジョン)に入れなくなる。そうなると、ソフィアがどうするのか、僕は気になってしまった。




 冒険者ギルドで30階層までの地図と共に地下迷宮(ダンジョン)であったことをギルド職員に詳しく話した。


「そんなことがあったのですか」


「ええ、多分その連中が冒険者の行方不明の件に絡んでいると思うのですが…」


「その可能性は高いですね。貴重な情報をありがとうございます。上の者にこの事を報告してきますので、ここでしばらくお待ちいただけませんか」


「ええ、仲間とここで落ち合う予定ですので構いませんよ」


 受付を待つ席でしばらく待っていると、顔見知りの受付嬢のサラがやって来た。


「サハシ様、こちらに来て頂けませんでしょうか?」


 サラに案内され、僕とミシェルはギルドの奥にある部屋に通される。


 その部屋にいたのはいかにも歴戦の戦士という感じの人だった。年齢は60歳ぐらいだろうか、傷だらけの顔に隻眼である。僕達が部屋に入ってくると立ち上がって近寄ってきたのだが、片足は義足であった。この世界では、神聖魔法で治療すれば跡形もなく傷が治るし、手足も復元できるはずなのにそんな姿をしているのだ、何か理由が有るのだろう。


「貴様がサハシか。儂は、この王都の冒険者ギルドのマスターのアルバートだ。今回の地下迷宮(ダンジョン)の情報感謝する。…それでこれが口止め料だ」


 全く感謝していなさそうな感じでギルドマスターは謝辞を述べ、僕達に金貨の詰まった袋を投げてよこした。


「僕は、冒険者として当然のことをしたまでです。それで口止め料とは?」


「ギルドとしてはこの件に関する情報を他の者に喋ってほしくないのだ」


「何故?」


 僕の問いかけは至極当然だろう。

 それに対してギルドマスターは渋い顔で答えるのであった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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