二人の仲間とパーティの結成
5/3 改稿
僕とエミリーが向かうアルシュヌの街までは、およそ一週間の行程である。旅の間に必要な物を考えるとかなりの量になるが、僕の力なら十分運ぶことが可能だ。
村から街までの道は街道と言われているが、普段は人が通っていないため、草原の中にうっすらと道の跡が見える程度だった。村長の家で記録した地図を視界に表示され、地形を照合しながら進むので、多分迷わないと思うが一応道なりに進むことにする。
エミリーの話だと、彼女が住んでいたディルック村はかなり辺鄙な開拓村であり、村ができたのも三十年ほど前であった。
村に行商人もなかなか来てくれないため、商店のある隣の村まで生活必需物資を買いに、一月一回村から買い出しの馬車を出している。
隣の村までは二日と言った行程だが、途中からアルシュヌの街への道のりと外れるため、僕達はその村によらず直接街に向かうことにした。
「もう少し先に進めば、行商人が頻繁に通る道にでるはずです。道もその辺りからはっきりとします。まずはそこを目指しましょう」
エミリーが言うとおり、半日も歩いたところで馬車が頻繁に通るのか轍が残る道に出た。ここまで来れば一安心と思っていたのだが、そこで僕の聴覚センサーに争う人の声が聞こえていた。
「エミリー、あっちの方で何か誰かが争っているようだ。行ってみよう」
「このあたりには魔獣も出ます。もしかして人が襲われているのかもしれません。ケイ、急ぎましょう」
僕とエミリーは街道を走った。そして人の声がするところにたどり着く。
そこで僕たちが見たのは、魔獣と戦っている二人の冒険者であった。
冒険者達が戦っていたのは、グリフォンと言われる鷲の頭とライオンの身体をした魔獣だった。二人と思ったが、馬とその周りには三人の男達が倒れていた。皮鎧を着て剣を持っていることから、戦士と思われる男たちだが、グリフォンの嘴と爪に引き裂かれ倒れていた。赤外線センサーと聴覚センサーで調べたところ、三人は既に死亡していることが分かった。
「(グリフォンって、馬を狙うことがあるんだっけ。じゃあ、冒険者達の乗っていた馬を狙っのかな? って、このままじゃ彼女たちも危ない)」
残った二人の冒険者は女性だった。一人は弓を持ち、もう一人はローブと杖を持っていることから魔法使いだと分かる。
二人はグリフォンに対し弓と魔法で攻撃を仕掛けるが、空を自由に飛ぶグリフォンに対しなかなか攻撃を当てることができないでいた。また、前衛を務める戦士がいないので、グリフォンの攻撃を避けるだけで精一杯であった。
「あんなに早く飛ばれちゃ、矢が当たらないよ」
「エステル、魔法ももう尽きました、ここはあきらめて逃げましょう。そうしないと、こっちまで殺されてしまいます」
「でも荷物が…」
二人は逃げるか、荷物を取るか迷っているようだった。僕から見るとさっさと逃げた方が良いと思うのだが、弓を持っている娘は荷物に未練があるらしい。
「エミリー、彼女たちを助けるよ」
「はい。ですがグリフォンは強い魔獣です。気をつけてください」
僕は手近な石を拾うと、グリフォンを狙った。
《未確認生命体:スキャン開始.....終了。空を飛ぶ生命体です。脅威度:2.5%》
「(アレはグリフォンだ)」
脅威度スキャンが実行され、ログが表示される。脅威度からすると、グリフォンはオーガより強敵のようだった。体の大きさはオーガより小さいのだが、空を飛んでいるため、脅威度が上がったのだだろう。
「(狙い撃つぜ)」
もちろん僕は戦闘機ではないのでロックオンはできない。目視照準で石を投げたのだが、複雑な機動で飛び回るグリフォンに命中させることはできなかった。石はグリフォンの羽をかすめて何処かに飛んでいった。
「クェ!」
グリフォンは石を投げたことで僕に気づくと、二人を放り出してこちらに向かってきた。
「危ないから、エミリーは離れていて。(一発なら避けられたけど、今度はどうかな?)」
こちらに向かってきたグリフォンに、鳥相手には散弾だと、今度はビー玉サイズの小石を十個ほどまとめて投げてみた。その狙いが当たったのか、グリフォンは小石の幾つかを翼に受けてしまった。小石と言っても、僕が投げれば一発の威力は拳銃弾ほどの威力がある。そんな物を翼に喰らえば大きなダメージとなる。翼をやられたグリフォンは、高度が維持できなくなったのかヨタヨタと地面に降りてきた。
《グリフォンの脅威度現象:現在の 脅威度:1.5%》
グリフォンも地面に降りてしまえば普通の魔獣と変わらない。地上に降りてしまえばオーガ以下の相手であった。翼を痛めたためか、動きの鈍ったグリフォンに僕は鉄棒で殴りかかった。
向かってくる僕に、グリフォンは嘴と爪で攻撃を仕掛けてきた。倒された男達の状況から、グリフォンの嘴と爪は鉄の鎧や兜を貫く事が見て取れる。
僕の外部装甲は鉄などより遙かに堅く貫かれるとは思わないが、顔や手を狙われては危険である。僕は油断せず、爪による攻撃を鉄棒で受け流し、突き出される嘴を避けて頭を鉄棒で殴りつけた。
さすがに空をとぶグリフォンの体はオーガほど硬くはなく、頭に鉄棒が当たったグリフォンは、頭蓋骨を陥没させて即死した。
「すごい、グリフォンを一撃で倒しちゃったよ」
「何か投げてグリフォンを落としていましたが、魔法の道具でしょうか?」
残った二人の冒険者は、僕を援護するつもりだったのか近寄ってきていた。そして僕が一撃でグリフォンを倒してしまったのを見て、驚いていた。
「こっちは片がついたよ。それより、仲間の方は良かったの? (もう死んでますけどね…)」
「ああ、彼奴らもう死んでます」
「私達を囮にして逃げようとするから天罰が下ったのです」
死んでいた三人は、グリフォンが襲ってきた時、二人を囮にして自分たちだけ先に逃げようとした、酷い奴らだった。しかし、グリフォンが狙っていたのは荷物だったらしく、結局三人はグリフォンに真っ先に襲われて殺されてしまったとの事だった。
「あっ、お礼をまだ言って無かったね。助けてくれてありがとう」
「危ないところを助けていただいて、ありがとうございます」
僕が助けた二人の冒険者は、年の頃十四、五の少女であった。
弓を持ち皮の鎧に身を包んだ、赤毛のボーイッシュな少女はエステルと名乗った。エミリーより少し背が高く、スレンダーな体つきをしている。ちょっと目つきがきつく、美少女と言うよりは、美少年と言ったほうが良いボーイッシュな少女であった。
杖を持ちローブを着込んだ黒髪の少女はリリーと名乗った。少し小柄で東洋人風の容貌の彼女は、メガネを掛ければ文学美少女といってもよい容姿だった。
歳を聞くと、エステルは十六歳でリリーは十七歳と、小柄なリリーの方がお姉さんであった。
二人は同じ村の出身で、リリーは冒険者になりたいというエステルに誘われて村を出て、ついこの前冒険者になったばかりだった。
新人冒険者だった二人は、死んだ三人に勧誘されて臨時にパーティを組み、引き受けた依頼をこなしている最中にグリフォンに襲われたのだった。
「あの人達は、最初から私達をグリフォンの囮に使うつもりで、仲間に入れたみたいです」
リリーは、あの三人が自分たちを囮に使うつもりだと、薄々感じていたようだった。
「それが分かっていたなら、どうして依頼を受けたのかな?」
「報酬がかなり良かったからね~」
エステルは、テヘペロって感じで笑っていたが、命を賭けているのにそんな事で良いのかと思ってしまった。
エステルの言う、報酬の良い依頼とは”グリフォンの卵”を取ってくるというものだった。
魔獣としては珍しくグリフォンは、子供の頃から育てれば人に懐き、騎獣できるように調教できる。そういったことから、グリフォンの卵を求める依頼は絶えないし、依頼が無くても卵は高値で取引されていた。
そして、この近くにはグリフォンが生息する岩山があるそうで、冒険者は一攫千金を夢見て、グリフォンの卵を狙いに行くという話だった。
グリフォンと戦って勝てる冒険者は数少なく、基本は、親がいない時に卵を掠め取ってくるのが常套手段であった。しかし、当然卵を取られて親グリフォンが黙っているわけもなく、親は盗まれた卵を追ってくる。この三人は、親グリフォンが追ってきたら二人を囮ににして逃げ出すつもりだったらしいが、結果は見ての通りである。
「五人で戦えば勝てたかもしれないのに」
僕は三人の死体を見てため息をついたが、
「いやいや、グリフォンって強いから。あれを一撃で殺せるあんたがおかしいのよ」
「そうですね。グリフォンが襲ってくると分かっていたら、私たちこの依頼を受けてませんね」
と二人は僕にまくし立てた。
荷物を調べると、グリフォンの卵は割れずに残っていた。それを見て、エステルとリリーは、卵を持ってアルシュヌの街まで持って行くという話となった。行き先が同じと言うことで、僕とエミリーは二人と同行することにした。
三人と馬を埋葬し、グリフォン…実は被害者だった…も討伐部位として嘴と爪を切り取った後に埋葬した。エミリーはシスターらしくお墓にお祈りをしていた。
道すがらグリフォンの卵の値段を聞くと、「ギルドに持っていけば金貨一万枚と交換してもらえる」と、エステルが興奮して教えてくれた。この世界での一年の生活費として金貨五十枚もあれば事足りるのだから、グリフォンの卵はものすごい金額である。
そんな事を僕に話して良かったのかと尋ねると、
「シスターが同行している人に悪人はいないと思います」
「グリフォンに襲われているあたし達を助けてくれたのに、悪い人なわけないじゃん」
と、二人から少し心配になる答えが返ってきた。
取りあえず、二人に迂闊な話はしない方が良いと注意しておいた。
◇
アルシュヌの街に向かって出発したのだが、その間二人から質問攻めに会うことになった。
「二人はどこから来られたのですか?」
「グリフォンを一撃で殴り殺すって、ケイってすごいね。その鎧も凄いし、何処かの騎士だったりするの?」
「エミリーさんとはどんな関係ですの?」
質問に答えないと不審人物扱いされそうなので、冒険者の仮登録からゴブリン退治、オーガの討伐、そして街に冒険者になりに行くことを話して聞かせた。もちろん僕がこの世界に落ちてきたことやこの体のことについては話さなかった。
彼女たちの質問攻めが終わると、今度は逆に冒険者に付いて二人に質問することになった。
二人も冒険者に成り立てなので詳しいことは聞けなかったが、少しは情報を得ることができた。
まず、冒険者として冒険者ギルドで登録すると、タグと呼ばれる証明書…僕は村長に作ってもらった…をもらえるとのことだった。冒険者ギルドは、この大陸では国を超えて存在しており、タグさえあれば何処の国の冒険者ギルドでも依頼を受けたりできる。そして高ランクの冒険者になれば、タグを見せることで国を渡り歩くことも可能ということだった。
冒険者のランクは、初級、中級、上級、特級と別れており、更にその中も上中下の三つに分かれている。つまり初級なら、初級の上、中、下といった感じである。
冒険者のランクは、冒険者ギルドが保証しており、たとえ国が冒険者ギルドに圧力を掛けても、このルールは曲げない。だから冒険者ギルドが決めたランクは、絶対の価値を持っている。
冒険者のランクは、ギルドにどれだけ貢献…これはギルドでの依頼をどれだけ達成したかによって上がっていく。依頼の達成以外にも、例えば地域災害級の魔獣の退治をしたかなどでも上がっていくらしい。とにかく依頼をこなせばランクは上がるのだ。
「(僕が目指すのは、国家間を行き来できる高ランク冒険者だな)」
二人は現在初級の下ランクだが、グリフォンの卵の依頼を達成すれば一気に初級の上に上がれるらしく、依頼達成への意気込みは凄かった。
「ケイってグリフォンを一撃で倒すぐらいだから、あっという間にランクが上がるよ」
「できれば、私達とパーティを組んで欲しいくらいです」
シスターだったエミリーと違って、この二人は凄く積極的であった。
「パーティを組んでほしい」と、二人が僕の腕を引っ張り抱き寄せたりするので、エミリーが凄い目で二人を睨んでいたりする。
「ちょっと、待っててね。そういうことはエミリーと相談しないと駄目なので…」
二人から腕を引き離すと、少し離れたところでエミリーと話し合うことにした。
「いろいろ話をして見たけど、二人は裏表がなさそうだし、新人冒険者として一緒にパーティを組んでも問題ないかなと思うんだ。エミリーはどう思う?」
「私も彼女達とパーティを組むのに賛成です」
エミリーは反対するかと思ったが、ちょっと不満げな顔であったがエミリーも賛成してくれた。
「取りあえず、アルシュヌの街で冒険者登録を終えてからですが、パーティを組むのは了解しました」
「冒険者としてはお二人の方が先輩です。いろいろ教えてください」
僕とエミリーが二人にパーティーを組むことを了承すると。
「やったー」
「ありがとうございます」
エステルは飛び上がって喜び、リリーは僕に深々と頭を下げてくれた。
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