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どうやら僕の心臓は賢者の石らしい  作者: (や)
ルーフェン伯爵編
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11階層へ…

 ソフィアとは明後日の午前中に冒険者ギルドで落ち会う約束をして彼女の部屋を出る。


(不味い)


 教会の出口に向かおうとしたところで、例のナマズ髭の司祭と神官にばったりと出くわしてしまった。顔を伏せて知らないふりをしたのだが、向こうは僕の事を覚えていた。


「あら、トンちゃん。こんな所で妙な人に出会ったわ」


「そうでんな、ボヤやん。どこかで会ったような会わなかったような?」


「トンちゃん、あんたもう忘れたの。この前あたし達をコケにしてくれた奴だよ」


「ほんまや。…おうおうあの時は良くもワイらをコケにしてくれましたんねん」


 そんな遣り取りの後、トンちゃんが指をバキバキと鳴らしながら僕に近寄ってきた。


(ここでこいつらとやりあうのは不味いだろうな。何とかして逃げ切らないと)


 僕に掴みかかって来たトンちゃんの腕をかいくぐり僕は教会の出口を目指して走りだそうとした。


「逃さないでよトンちゃん」


 意外と素早い動きで鯰髭の司祭ボヤやんが僕の前に回り込んできた。彼はどこから取り出したのか魔法使いの杖を手にしていた。


「司祭の癖に魔法を使うのか」


「あらら、魔法と神聖魔法を使えるから司祭なのよ」


 「それは○ィザードリーの司教だろう」という僕の内心のツッコミを他所にボヤやんは魔法を詠唱し始めた。


「不可視の矢よ我が刃となって~」


不可視の矢(インビジブル・ボルト)の魔法か。しかしこの距離でその魔法を唱えるのか)


 僕はボヤやんの魔法詠唱を最後まで待たず、近づいて素早く杖を奪い取った。


「我が敵を…あんた詠唱中に杖を奪うなんて卑怯だわよ」


 ボヤやんはジタンダを踏んで悔しがっているが、目と鼻の先で魔法を唱えられて黙ってみている人はいないだろう。僕はボヤやんの間抜けさに呆れていた。


「捕まえるで~」


 後ろからこっそり近づいてきたのに、最後に掛け声を上げて掴みかかってきたトンちゃんの攻撃をするりと躱す。トンちゃんは勢い余ってボヤやんに飛びついてしまい、二人は倒れこんでしまった。


「避けるなんて卑怯だわよ」「卑怯でまんねん」


 何か間抜けな空間にでも入ってしまったかのような二人との戦いから僕は早く逃げ出したかったのだが…。


「どうしたんだ」「ボヤキィ司祭、どうしたんですか」「トンズネン神官、教会では静かにして下さい」


 僕とボヤキィ司祭との騒ぎに気付いた"天陽神"の教会の神官やシスター達が集まってきてしまった。


(不味い、出口までの通路が)


 集まってきた神官やシスター達によって通路は塞がれ、僕は逃げ道を失ってしまった。彼らを押しのけて通り抜ければ良いかもしれないが、大半が貴族の"天陽神"の神官やシスター達を押しのけて通るのは色々と不味い。


「皆さん、此処に平民が勝手に入ってきてるのよ~。しかも此奴はこの前あたし達を襲った奴なのよ~」


 ボヤキィ司祭がとんでも無いことを叫ぶ。


「平民だって?」「なんでこんなところに平民が?」「ボヤキィ司祭がまた揉め事を?」


 それを聞いた神官とシスター達が遠巻きにしてヒソヒソと話始める。どうやらこのボヤキィ司祭とトンズネン神官は"天陽神"の教会の中であまり評判が良くないようだった。


「騒がしいですね。どうしたんですか皆さん」


 自分の部屋の前でこれだけの人が集まって騒いでいたのでソフィアも気付いたのだろう、部屋から出てきた。

「ソフィア様~」「ソフィアの姉さん」


 ソフィアは僕とボヤキィ司祭、トンズネン神官、そしてそれを取り囲む神官とシスター達を見て頭に手をやって目を瞑った。


「ボヤキィ司祭、トンズネン神官、何をやっているのですか」


「ソフィア様、あたし達はこの平民に用があるのよ~」「そうですねん」


「その方は私のお客です。馬鹿な事をせずに通しなさい」


「「え~」」


 ボヤキィ司祭とトンズネン神官は不服そうな顔をしたが、ソフィアに睨まれると慌てて廊下の端に避けて直立不動の姿勢を取った。集まってきた神官とシスター達もそれを見て解散していった。


「サハシ様、二人がご迷惑をお掛けして申し訳ありません。もう邪魔する者はおりませんので…」


「ソフィアさん、ありがとうございます」


 ボヤキィ司祭とトンズネン神官はソフィアに命じられて彼女と共に部屋に入っていった。部屋の中から「このスカポンタン」とか聞こえてきたのは僕の気のせいだろう。





 "天陽神"の教会を出ると、僕は"大地の女神"の教会に向かった。

 "大地の女神"の教会は、昨日は教会の外まで列が伸びていたが、今日はそれほど怪我人は来ていなかった。来ている怪我人は、昨日の行列を見て諦めて帰った人達で、今日は新たな怪我人は出ていないようだった。


 教会の中に入ると、神官とシスターが"回復の奇跡"を唱えて怪我人を治療していた。


「ケイさん、ソフィアさんとは話ができたのですか?」


 エステルとリリーが僕を目ざとく見つけて駆け寄ってきた。


「スラム街での騒動を収めてくれるようにソフィアに頼んできたよ。もう怪我人は増えないと思う」


「それは良かったです」


「おかげで地下迷宮(ダンジョン)入りの方も…このまま怪我人が増えないならという条件付きだけど、明後日に決まってしまったけどね」


 僕としてはもう少し僕達だけで地下迷宮(ダンジョン)に入っておきたかったのだが仕方がない。


「依頼の件ですね。あの神官(ソフィア)は"死者蘇生アイテム"の入手を急いでいるようでした。その為に頑張ってくれるかもしれませんね」


「どうやら彼女(ソフィア)は"天陽神"の教会でもかなり上位の神官みたいだったし、彼女が言えば下っ端の貴族達はスラム街での活動を止めてくれるだろうね」


 リリーの言う通りだと僕も信じたかった。



 その後、夕方まで教会で待機していたが、午前中に来た怪我人が全て癒やされると、午後は病人などいつものペースでスラムの住人がやって来るだけとなった。


「先ほどスラム街の人達がやって来て、貴族達が引き上げていったと言っていました」


 レミリア神官長が僕の所に来て教えてくれた。


「良かったです。これでしばらく(・・・・)はスラム街も平和だと思います」


「しばらくですか?」


「ええ、"天陽神"の教会との確執が無くならない限り似たような事が起きると思うのです」


 今回の事件が収まったのは、ソフィアが僕を必要としていたからである。依頼が終わればソフィアが貴族達を抑える理由もない。そうなれば今回と同じような事が繰り返されるだろう。


(宗教戦争、いや貴族と平民の対立なのか…僕にどうにか出来るものなのだろうか)


 おそらく"大地の女神"の教会の人達もそう思っているのだろう、神官やシスター達はスラム街からの大量の負傷者がいなくなりホッとしているが、でもその先の不安を感じているようだった。




 宿に戻ると、ミシェルが盗賊ギルド連盟から戻ってきていた。何があったのか知らないがひどく疲れているようだった。丁度夕食の時間帯だったので食堂で夕食を取ることにする。


「ミシェル、ずいぶん疲れているようだけど連盟の方で何かあったのかな?」


「ええ、厄介事に巻き込まれてね。…スラム街の事件だけど、ギルド連盟はそんなことにかまっている暇は無いみたいで、多分このまま放置されそうだね」


「ああ、そっちはソフィアに頼んで抑えてもらったからしばらくは起きないと思う。それよりギルド連盟での厄介事って?」


「例の冒険者の行方不明が多発している件だよ。一向に収まる気配がないんで、盗賊ギルド連盟は有力なギルド構成員、つまり腕利きの盗賊なんだけど、そいつらが地下迷宮(ダンジョン)に入るのを禁止にしたんだ」


「それは一大事だね。そんな事をすれば…」


 地下迷宮(ダンジョン)に入るのに腕利きの盗賊がいないと言うのは致命的である。つまり冒険者達は地下迷宮(ダンジョン)に入るのをしばらく控えることになるだろう。


「その代わり、あたいらみたいな外から来た盗賊からのみかじめ料を上げることになってさ、その額の折衝で今日は一日潰れたよ」


 ミシェルはヤレヤレ参ったねという感じでエールを飲み干していた。


「それは…大変だったね。お疲れ様」


「だろー。頑張って3割の所を二割五分までにしてきたんだよ~」


「さすが、"アルシュヌの鷲"のリーダーだよ。すごいね」


 ミシェルは自分の交渉の手腕を褒めて欲しそうだったので、僕が彼女を褒めると、物凄く嬉しそうにしていた。


(しかし、冒険者が行方不明になる事件がこんな大事になるとは…)


 盗賊ギルド連盟のこの判断が僕達の依頼にどう影響してくるのか、それは神のみぞ知ることだろう。





 翌日はエミリーがボランティアから解放されたことも有り、次の日は全員で地下迷宮(ダンジョン)に入るための準備と装備の購入に費やすことにした。

 装備の購入といっても僕とミシェル、リリーの装備は見なおす必要が無く、点検と修理だけである。唯一今まで装備を更新していなかったエミリーと防御面で不安のあるエステルの装備の見直したけをする事になった。


 エミリーのパーティでの役割は、リリーとソフィアの護衛である。そこで防御に特化という形で今まで柔皮鎧(ソフトレザー)だったのを硬革鎧(ハードレザー)に変更し、メイスと手に装着する小型の円盾を持つことにした。

 神聖魔法を唱えるのに装備の制限は無く、例えば金属鎧を着ていようが刃物を持っていようが、呪文さえ詠唱できればいよい。金属鎧は重量が重くなりすぎるのと、刃物は扱うのに訓練が必要ということで武器はメイスのままとなった。


 エステルの方は、硬革鎧(ハードレザー)鎖帷子(チェーンメイル)に変更し、弓をクロスボウに変更した。何故鎧を変更したかだが、傷が勝手に回復する様をソフィアに見られるのは不味いという事で、防御力を上げるために鎖帷子(チェーンメイル)を着ることにしたのだ。鎖帷子(チェーンメイル)は重いので普通であれば回避力が落ちるのだが、今のエステルであれば硬革鎧(ハードレザー)の時と同じように動ける。

 クロスボウは、迷宮では曲射の必要が無く近距離の遭遇戦で戦うことが多いので装備することにした。クロスボウの難点は矢の装填に力と時間が必要なことなのだが、今のエステルであれば普通の男性以上の力が有るため問題なく操作出来る。


 装備を変更した後、二人は冒険者ギルドで装備の慣らしを行った。

 二人が訓練している間に僕は11階層以降の地図を見せてもらうことにした。その際にギルド職員に頼まれていた地下迷宮(ダンジョン)の10階層までの地図の複製を手渡した。


「サハシ様、全く同じものが三枚有るのですが?」


「閲覧用と保存用と布教…いや複製の参照用で三枚必要だと思ったんですが?」


「そ…そうですか。…三倍の金額は無理ですが、二倍の報酬をお支払いしますので、もしよろしければ以後の地図も同じように三枚頂けますでしょうか?」


「ええ、僕は手先が器用なんで、数枚なら同じ物を作れます。それでは11階層以後の地図も三枚作成しますね」


 本当は、数枚と言わずいくらでも複製を僕は作ることが出来る。印刷のないこの世界では、地図や本など全く同じ物を作るのは大変である。寸分たがわぬ三枚セットの地図を見てギルドの職員は感心していた。


(本とか複製したら大儲けできそうだけど…あまり大々的にやると困る人がいそうだな)


 僕は地下迷宮(ダンジョン)の地図限定で複写することに決めたのだった。





「サハシ様、お待ちしておりました」


 翌日、朝食を食べてから直ぐに冒険者ギルドに向かったのだが、ソフィアは既に冒険者ギルドで僕達を待っていた。

 ソフィアは"天陽神"の紋が入った金属製の胸当てとメイス、そして腕には小型の盾とエミリーと似た装備であった。金属鎧は普通の鉄製の物と違うのか薄く軽そうである。それ以外は小さなバックしか彼女は持っていなかった。


「ソフィア様、お待たせして申し訳ありません」


「いえ、こちらも先ほど来たところですので。早速ですが、地下迷宮(ダンジョン)に参りましょう」


 ソフィアに急かされて、僕達は冒険者ギルドの前に準備されていた馬車に乗せられた。ソフィアは馬車で地下迷宮(ダンジョン)まで行くつもりのようだ。これは歩くのが面倒というより早く入りたいという彼女の気持ちがそうさせたのだろう。


「贅沢だね」


「歩いてちょっとなのに…貴族だからかしら」


「楽できていいんじゃない?」


 馬車の中でエステル達は小声で色々と言っているが、ソフィアは涼しい顔でそれを聞き流していた。


「サハシ様、その剣が黒鋼鎧巨人(アイアン・ゴーレム)を倒すための武器なのですか?」


 僕の装備は槍と太刀であるが、槍は一目で店売りのものと判るものなので、太刀のほうが対黒鋼鎧巨人(アイアン・ゴーレム)用の武装だとソフィアは考えたようだ。


「ええ、前の剣は修理不可能だったので、これをとある人から借り受けました。借り物なので、黒鋼鎧巨人(アイアン・ゴーレム)と戦う時まではなるべく使わない予定です」


 この太刀はその姿も切れ味も規格外である。あまり人前では使わないほうが良いだろう。それに黒鋼鎧巨人(アイアン・ゴーレム)以外の魔獣は槍で倒せる。


「そうですか。意外と小さな太刀なのでそれで本当に倒せるのかと思いましたが…サハシ様がそうおっしゃるなら大丈夫と信じます」


 ソフィアはその太刀の切れ味を見せほしいぐらい言うと思っていたが、あっさりと僕のことを信じてくれた。




 馬車は十五分ほどで地下迷宮(ダンジョン)に辿り着いた。


「ソフィアさん、一応11階層まで降りることができますが、貴方をメンバーに入れて地下迷宮(ダンジョン)に挑むのは初めてです。念の為に1階層から始めますか?」


「お気遣いはご無用です、サハシ様。これでも昔はもっと深い階層まで行っていたのです。11階層から初めて下さい」


「判りました。じゃあ僕達のペースで進めますね」


 ソフィアの了解をもらったので、僕達は1階層にある11階層に飛ぶ転移陣のある部屋に向かった。

 1階層から11階層に飛ぶ転移陣はそれ以降の階層に続く通り道である。そのため多数の冒険者が利用しているはずなのだが、今日は冒険者の数がかなり少ない。盗賊ギルド連盟の通達が出たため盗賊達が動けなくなった為多くの冒険者パーティが地下迷宮(ダンジョン)に入れないでいる。

 王都の盗賊ギルドに入っていない盗賊のいるパーティだけが活動しており、そんなパーティの一つが僕達の目の前で転移陣に入って消えていった。


 この転移陣は10階層で手に入れた首輪が無いと発動しない様になっている。外部装甲()の小物入れに首輪が入っているのを確認して僕は皆と手をつないだ。


「じゃあ行きますよ」


 手をつないだまま転移陣に入ると、どこかに落ちていくような感覚に襲われ、目の前が真っ暗になる。そして僕達は11階層に転移した。




ここまでお読みいただきありがとうございます。

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