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どうやら僕の心臓は賢者の石らしい  作者: (や)
ルーフェン伯爵編
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美味しいお茶と、騒ぎの収拾のお願い

「レミリア様、このお湯を使ってお茶を淹れてもらえませんか」


 僕はお湯の入ったケトルをレミリア神官長に渡した。もちろん、このお湯には僕によって魔力(マナ)がたっぷり注ぎ込まれている。


「このお湯でですか?」


 レミリア神官長は怪訝そうな顔をしながらケトルを受け取る。


「ええ、いつもの様にお茶を淹れて下さい」


 僕に促されて、不思議そうな顔をしながらもレミリア神官長は魔力(マナ)入りのお湯でお茶を淹れ始めた。


「ケイさん、魔力(マナ)をお湯に込めたのですか?」


 リリーがレミリア神官長に気付かれないように小声で訪ねてくる。


「うん、お湯を沸かしながら手から魔力(マナ)を注ぎ込んでみたんだ。かなりの量の魔力(マナ)がお湯に含まれているからマナ注入(キス)ほどじゃないけど飲めば魔力(マナ)が回復すると思うよ」


「うん、美味しそうな匂いがするからね。いっぱい魔力(マナ)が入っていると思うよ」


 エステルが鼻をヒクヒクさせている。どうやら吸血鬼(ヴァンパイヤ)は湯気に入っている魔力(マナ)を匂いとしても感じられるらしい。


「あんた、一体何をしたのさ?」


 ミシェルは理由が判らないという顔をしている。


「まあ、レミリア様のお茶を飲めば判るよ」


 そんな話をしている間にレミリア神官長がお茶を淹れて運んできた。


「これで良いのかしら? 確かに何時もより美味しそうな香りがするんだけど…」


「まず飲んでみてください」


 僕は神官長にお茶を飲むように勧めた。


「そうですか。では頂かせてもらいます。……これは、まるで魔力回復薬(マナポーション)じゃないの」


 一口飲んでレミリア神官長は驚く。

 リリーとエステルは予想通りの(・・)に頷きながら飲んでいたが、ミシェルは一口飲んでその味に驚いていた。


「こんな美味しいお茶初めて飲んだよ。それになんだか疲れが取れていくね」


「レミリア様の淹れて下さるお茶は美味しいだろ」


「本当だね。このお茶だけで、商売ができるよ」


 ミシェルは感心したようにお茶を味わっている。


「こんな、これは私が何時も淹れているお茶とは全く違います。サハシ様、貴方はあのお湯に何をされたのですか?」


 レミリア神官長はお茶を飲み終えると、僕に詰め寄ってきた。魔力(マナ)切れで青かったのが回復したのか顔が少し赤くなっていた。


「何も。レミリア様が何時もやっておられたように美味しくなれと念じてお湯を沸かしただけですよ」


「それは…でもそれだけでこんなお茶が出来るはずが…」


「レミリア様、今はそんなことを言っている時では無いと思います。皆にこのお茶を振る舞って下さい」


 レミリア神官長はまだ何か言いたげだったが、礼拝堂の状況を思い出したのか慌てて皆を呼びに駆け出していった。





 お茶を飲んで魔力(マナ)が回復した神官とシスター達の奮闘により、二時間ほどで全ての怪我人を癒やすことができた。


「サハシ様、ありがとうございます」


「レミリア様、頭を上げて下さい。これは貴方のお茶のお陰なのですから」


「でも、原因は貴方が沸かしてくださったお湯だという事は私にも判ります。どうしてこんなことが可能なのか教えては…下さらないのでしょうね」


 もちろん僕はレミリア神官長に本当のことを言うつもりはない。できればこのことは彼女の胸に仕舞っておいて欲しい。


「レミリア様のお茶のおかげ、いえ大地の女神様の奇跡とでもしておいて下さい」


「…そうですね。大地の女神様が私達の為に奇跡を授けてくださったのですね」


 レミリア神官長は僕の意を察してくれたのかそう言ってくれた。


「ええ、そうです。しかもその奇跡の水はまだ有ります。明日もこの状況が続くようなら使って下さい」


 明日も同じような事が起きるなら必要だろうと、聖水のために汲んであった瓶いっぱいの水に僕は魔力(マナ)を込めておいた。これを使えばもし明日も負傷者が殺到したとしても乗り切ることが出来るだろう。


 レミリア神官長は夕食に誘ってくれたのだが、ゴディア商会での商隊到着お祝いパーティに参加しなければならないという事でそれを辞退し、僕達は教会を後にした。


 ゴディア商会への道すがら、僕は"天陽神"の教会の嫌がらせをどうすればやめさせることが出来るのか考えていた。


(ルーフェン伯爵じゃ駄目だろうな。"天陽神"の教会を何とかしないと駄目だろう。…やっぱりソフィアに頼むしか無いか)


 ソフィアが"天陽神"の教会でどの程度の影響力を持っているか不明だが、相談ぐらいはしてみても良いだろう。





 "大地の女神"の教会での騒動のお陰で、かなり遅れてパーティに参加することになった。


「ケイしゃん、遅いりゃないでしゅか」


「ごめん、色々あってね」


「おきゅれてきた罰でひゅ。さあ、飲んでくらさい」


 主役であるイザベルは既に出来上がっており、遅れてきた僕に執拗に絡んできた。イザベルから渡されたエールのジョッキを飲み干すと、商会の人達が次々とエールを注いできた。


(駆けつけ三杯どころじゃないな)


 普通の人であれば急性アルコール中毒になり倒れそうなほど飲まされたのだが、僕はほろ酔いにしかならない。そんな僕を見て意地になって酒をついでくる人もいたが、結局酔いつぶれない僕に飽きてしまい、今度はエミリーやエステル、リリー達の方に行ってしまった。


(ようやく一息つけるな)


 そう思って会場の壁に寄りかかっていると、


「よう、元気にしてたかい」


 "天空の盾"のリーダーことアドルが僕に声をかけてきた。

 彼は僕が大水晶陸亀(クリスタル・トータス)を倒したということを知っているメンバーの一人である。


「おかげさまで。アドルさんも護衛の依頼お疲れ様でした」


「いや、そっちの方が大変だっただろ。襲撃されたと聞いたけど?」


「ええ、襲撃は撃退したんですが…ちょっと問題が起きてましてね。ああ、心配しないで下さい。自分で何とかしますよ」


 アドルは一瞬心配そうな顔をしたが、僕が自分で何とかすると聞いてそれも消えた。


「はは、君ならなんだってできそうだよね。大水晶陸亀(クリスタル・トータス)を倒すぐらいだから…」


「それは、内密にしてくださいね」


「大丈夫、ここだけだよ。"暁の剣士"と"麗しき翼"の連中にも散々聞かれたけど喋ってないよ」


「いえ、アドルさんを信じています。念には念をということです」


 アドルは少しむっとした感じだったので僕は慌ててフォローを入れた。


「ところで、あの美女は新しいパーティのメンバーなのかな?」


 アドルは商会や"暁の剣士"のメンバーに囲まれているミシェルを見ていた。


ミリアム(・・・・)ですか? 地下迷宮(ダンジョン)に入るのに盗賊のメンバーが必要だったので、スカウトしました」


 ミシェルが義賊集団"アルシュヌの鷲"のリーダーだと知っている人もいるので、今ミシェルは冒険者ミリアムということになっている。エミリー達にもその点については念を押してある。


「三人も美少女が居るのに更にあんな美女まで…ほんと羨ましいよな」


 アドルは羨ましそうにそう言う。


「何言ってるの、アドル!」


 たまたま側を通りかかった"天空の盾"の女性戦士が、今の話を聞いていたのかアドルに食って掛かっていた。

 アドルは慌てて「いや、別に羨ましいのは女性の数で、君が美人じゃないとかじゃなくて…」と言い訳をするはめになっていた。

 そんなアドルに「女性だけというのも大変ですよ」とささやいて、僕はその場を離れた。


 再び酔っ払ったイザベルが「私もケイのパーティに入る」とか言いながら絡んできたのだが、僕が断る前に酔いつぶれてしまった。イザベルの身柄をゴンサレスに引き渡し、「パーティには間に合ってます」と言付けておいた。


 その後、パーティは深夜近くまで行われていたが、エミリーが明日も"大地の女神"の教会に行かなければならないこともあり、適当な時間で僕達は宿に引き上げた。






 翌日、僕は一人で"天陽神"の教会に行くことにしたのだが、リリーとエステルは僕に付いて来るとなかなか譲らなかった。"天陽神"の教会では、子供を助けた際に出会った司祭と出会ってしまいトラブルに成るかもしれない。わざわざ二人をそんな所に連れて行きたくはないので、エミリーに付き添って"大地の女神"の教会に行ってくれないかと説得した。

 ミシェルはスラム街の件で盗賊ギルド連盟がどう動くのか様子を探りに行くと独自の行動を取るようだった。



 "天陽神"の教会は、王都の三つ目の城壁の内側、つまり貴族達の屋敷が立ち並ぶ区画の中に建っていた。


(うぁ~悪趣味だな)


 "大地の女神"の教会は白を基調としたいかにも教会という雰囲気の建物だったが、"天陽神"の教会は金銀原色で彩られた、インドの寺院も真っ青な豪華な建物であった。


 教会の入り口には武装した(・・・・)神官が立っており、どうやら彼が門番を務めているようだった。


「すいません、ソフィアさんに…」


「此処は平民の来るところではない。帰れ!」


 門番の神官は取り付く島もなく言ってくる。


「あの、ソフィアさんに用事があって…」


「しつこい、帰れ」


 どうやらこの門番には僕の言葉が伝わっていないらしい。


(困ったな、どうすれば…ああ、箱を見せるんだっけ)


 外部装甲()の小物入れから聖印の描かれた小さな箱を取り出し門番の神官に見せると、


「ふん、何処でこれを盗んだんだ」


「いえ、こちらの神官のソフィアさんに、会いに来る時に見せてくださいと渡されたのですが」


「ソフィア様がお前の様な冒険者にそれを渡すはずがなかろう」


「いえ、本当です。ソフィアさんに聞いて下さい。もし僕を追い返すと、貴方がソフィアさんに叱られますよ」

「ふん、待っていろ。もし違っていたら判っているよな」


 僕が食い下がるのでさすがに本当かもしれないと思った門番は、僕から小箱をひったくる様に奪うと教会の中に入っていった。


 :


 数分後、扉が開き門番が現れる。


「ソフィア様が会われるそうだ。付いて来い」


 期待はしていなかったが謝罪の言葉はなく、横柄な物言いのままであった。

 "天陽神"の教会の中に入った僕は、神官の後をなるべく教会の人に顔を合わせないようにして付いて行く。


(あの司祭と神官に見つからなきゃ良いんだが)


 幸い二人はいなかったようで、僕はソフィアの待つ部屋にすんなりと入ることができた。


「ソフィア様、冒険者を連れて参りました」


「ありがとう。お前は下がりなさい」


「しかし、このような者と二人きりというのは…」


「下がりなさい」


「はっ」


 そんなやり取りの後、門番は部屋から出て行った。


「サハシ様、あの者の失礼な物言い申し訳ありません。最近教会に嫌がらせをしてくる者が多く、神官達もピリピリしているのです」


 ソフィアは頭を下げて謝ってくる。


「気にしていませんよ。…それよりソフィアさんは教会ではかなり権威の高い方のようですね」


「それほどでもありません。まだまだ修行中の一介の神官でしかありませんよ」


 そう言って笑うが、先ほどの遣り取りや今いる部屋を見る限りかなり地位が高い神官であることは明白である。ソフィアの個室であろうこの部屋は、教会というより貴族の部屋のようであり、普通の神官が使えるものではない。

 ソフィアは元冒険者のはずだが、どうやって貴族だらけの"天陽神"の教会で高い地位に上り詰めたのか僕は不思議に思った。


(どうやってその地位まで上り詰めたかなんて聞けないよな。まあそれはどうでもいいことか)


「ところで、私に会いに来られたということは、地下迷宮(ダンジョン)に入ることが出来るようになったと、黒鋼鎧巨人(アイアン・ゴーレム)を倒す為の準備が整ったと思ってよろしいのでしょうか?」


「ええ、その件も有るのですが…実はソフィアさんにお願いが有って今日はこちらに参りました」


「お願いですか?」


 首をかしげるソフィアに僕はスラム街で頻発する暴力事件について話した。

 スラム街での暴力事件により仲間のシスターが困っており、このままでは地下迷宮(ダンジョン)に入るのが難しいと説明したのだ。


「"天陽神"の教会は正義と秩序を重んじます。そのような無法な行為はけして許しません。判りました、神官たちにスラム街の件について確認させます」


 ソフィアはそう言って僕に頷いて約束してくれた。


("天陽神"の教会…ソフィアはこの件に関しては無関係だったのかな? おそらく若い貴族達の暴走なんだろうけど、これで騒ぎが収まってくれれば良いのだが)


「ところで、サハシ様。何時から地下迷宮(ダンジョン)に入ってもらえるのでしょうか?」


「そうですね。騒ぎが収まるまでは無理なので…明日様子をみて、問題がなければ明後日には入ることが出来ると思いますが…」


「騒ぎが収まれば…明後日ですね。そのような騒ぎ、早く静まってもらいたいものです。…では明後日ということで準備を進めますので、宜しくお願いします」


 ソフィアは、明後日には地下迷宮(ダンジョン)に入れると思っているようだった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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