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どうやら僕の心臓は賢者の石らしい  作者: (や)
ルーフェン伯爵編
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特訓と地図の作成依頼

 10階層を攻略した翌日、二日連続で地下迷宮(ダンジョン)に入ったこともあり、僕達はお休みとすることにした。


「すいません、今日は教会でボランティアに参加してきます」


 エミリーは申し訳無さそうに言った。王都の教会でもエミリーは当てにされているのか、今日は教会に来てほしいと宿に伝言が有ったのだ。


「頼りにされてるんなら良いんじゃないかな。頑張っておいで~」


 エミリーだけ僕と王都を観光していないので、今日は彼女を誘おうと思っていたのだが、ボランティアではしょうがない。僕はエミリーを教会に送り出した。


「あたいは、盗賊ギルド連盟の方に顔を出してくるよ。稼ぎが有ったから、少し金を収めないと睨まれるからね」


 ミシェルもそう言って出て行ってしまった。

 10階層までは弱い魔獣ばかりだったが、売れる素材が取れる魔獣もいたので少し収入があったのだ。金貨数枚程度だが、そんな稼ぎでも報告して上がりの一割ほどを収めないと盗賊ギルド連盟から睨まれるらしい。


(結構セコいな。いやそれぐらい厳格にしてるってことかな?)


 宿に残されたのは僕とエステルとリリーだが、何をしようかと三人で顔を見合わせてしまった。


「さて、どうしようかな」


「ケイ、暇ならあたしに剣の稽古を付けてくれない?」


 エステルが僕に剣の稽古を付けてほしいとお願いしてきた。


「剣の稽古って…人に教える事…僕にできるかな?」


 僕の剣術は、組み込まれたプログラムと動作パターンの組み合わせで実現されており、自分の努力で培ったものじゃない。そのため人に教えられるほどの知識が無いのだ。


「ううん、動きを見せてくれるだけでも稽古になるからさ」


 エステルは今まで弓と短剣がメインであり幅広の剣(ブロードソード)はこの前使い始めたばかりである。昨日地下迷宮(ダンジョン)で戦ってみてそれなりに使いこなしていると思ったのだが、本人はまだ満足していないようだった。


「今は吸血鬼(ヴァンパイヤ)化して力とスピードが上がったから、それを使って剣を振り回しているだけだからね。オークと戦った時も槍を捌ききれず傷を負わされていたから…もっと剣を稽古しないと…」


「判った。でも宿じゃ稽古できないし、冒険者ギルドで場所を借りようか。リリーはどうする?」


「そうですね、宿にいても退屈ですし…一緒に行きます」


 僕とエステル、リリーは冒険者ギルドに向かうことになった。





 冒険者ギルドは相変わらず人が多かった。

 そんな中、訓練場を借りようと職員を探していたら顔見知りの受付嬢モニカと目が合ってしまった。


(彼女に頼んで大丈夫なのか?)


 モニカは目があった僕にニッコリと微笑む。まあこれも縁なのだろうと彼女に訓練場を借りれないかと尋ねることにした。


「はい、どの様なご用件でしょうか?」


「訓練場を借りたいんだけど」


「はい、訓練場のご利用ですね。当ギルドでは初級の方には無料で、それ以上のランクの方には銀貨二枚でご利用いただけます」


「おぉー」


 にっこり笑ってスラスラと説明してくれるモニカに僕は感心して声をあげてしまった。人間日々成長するものである。


「じゃあ、僕と彼女で借りるから。銀貨二枚でいいよね」


「はい。ではこちらに利用者の名前とランクを書いて下さい」


 モニカに銀貨を支払い、利用台帳に名前を書き込むと僕達は訓練場に向かった。


 ギルドの訓練場は、床が板や畳張りでなく土間という武道場のような感じの部屋であった。

 木剣を借りるとエステルに剣の稽古を付けることになった。

 稽古と言ってもどう戦えばよいかを教える事はできないので、実践形式で戦ってその僕の動きからエステルに学んでもらうしか無い。


『"瑠璃"、エステルの動きを見て、どうすれば良いか助言できるかな?』


『…慶との特訓でコツは掴んでいます。多分出来ると思います』


 "瑠璃"のサポートを受けてエステルの特訓が始まった。


 …


 三時間ほど僕とエステルは剣の稽古を続けた。途中で冒険者ギルドの指導員的な立場の人…彼も冒険者らしい…が口を挟んでくれたので、エステルの剣の腕はずいぶん上達したと思う。


「お疲れさま」


 リリーがそう言って僕とエステルにタオルを渡してくれる。


「悪いね。ありがとう」「リリー、ありがとう」


 エステルはお礼を言ってリリーからタオルを受け取り拭く。僕もタオルを受け取って出ていない(・・・・・)汗をふく。

 実は僕もエステルも汗をかいていない。僕は機械の体だし、エステルも吸血鬼(ヴァンパイヤ)化の影響で汗をかかないのだ。しかしタオルを渡してくれるリリーの気持ちを組んで受け取ったのだ。





 冒険者ギルドでミシェルと合流し、お昼を食べようと、冒険者ギルドを出て大通りの方に歩いて行くと、丁度門から大きな商隊が王都に入ってくるところであった。


「あれ、どこかで見たことが…ああ、今日はイザベルの商隊が王都に着く日だったっけ」


 商隊の先頭には"暁の剣士"と"麗しき翼"の面々がいて、後ろの方には"天空の盾"のメンバーがいた。そして商隊の中央の荷馬車にはイザベルが乗っていた。

 周りを見るとゴンサレス以下ゴディア商会の人達が商隊を出迎えていた。


「後で商会の方に顔出さないといけないな」


「「「えー」」」


「いや、だってイザベルも依頼主の一人だし。顔見知りが無事に王都にたどり着いたのに会いに行かないのはおかしいだろ?」


「いや、イザベルも忙しいだろうし…」


「そうですね、商会主ともなれば私達に会う暇が無いんじゃないですか?」


「あたいは…一応盗賊だし。商会にはいけないよ」


 三人はそれぞれゴディア商会に行けない理由を並べている。


「じゃあ、僕一人で…」


「「「ダメです!」」」


 三人が息を合わせて反対するので、僕としてはどうしたものかと考えていると、


「ケイさん、出迎えに来てくれたのですね」


 いつの間に荷馬車を降りたのか、イザベルが僕達の所にやって来ていた。


「イザベルさん、いつの間に。これは出迎えというか……いや、ほんと無事に王都に着いてよかったね」


「ありがとうございます。ケイさんのおかげで大水晶陸亀(クリスタル・トータス)の素材を無事に王都に運ぶことが出来ました。これでギーゼン商会も店をたたまずに済みます」


 イザベルが顔を真赤にしてペコペコと頭を下げてお礼を言ってくる。


「それが依頼だったし、もう報酬は頂いたからね。それより商隊が行っちゃうよ」


「ああ、ちょっと待って下さい。もう、気が利かないんだから。ケイさん、夕方に商隊到着のお祝いパーティをするので、ゴディア商会の方に顔を出して下さい」


「判ったよ。彼女も連れて行って良いかな? 今パーティを組んでいるんだ」


 ミシェルを指差すとイザベルはギロリっとミシェルを睨んだ。


「どこかで見たような…ええ、ケイさんのパーティの方なら歓迎します」


 そこまで言って、イザベルは慌てて商隊の方に走っていった。ああ言われた商会の方に顔を出さざるを得ないだろう。リリーとエステルは顔をしかめていたが、夕方にゴディア商会に顔を出すことに決まった。





 昼食を食べ終えると、もう一度冒険者ギルドでエステルが剣の稽古をするという話になった。


「少しでも剣に馴染んでおきたいんだ」


「今度はあの指導員に最初から入ってもらった方が良いね。僕じゃうまく教えれないよ」


「…そうかな?」


「うん。僕の剣術はちょっと特殊だからね。ちゃんとした人に習ったほうが良いと思う」


 僕が振るう剣の型は正規の剣術のものではない。そんな物を覚えてもエステルの為にならないと思うのだ。


「そうですね、素人の私が言うのもなんですが、見ているとケイさんの動きはどこか普通の人と違いますね」


 リリーも僕の意見に頷いていた。


「ケイの戦いかたはあんたには真似できないと思うよ。ギルドの指導員に教えてもらったほうが良いんじゃないかな」


 ミシェルもそうエステルに勧める。


「判ったよ。じゃあ、指導員に教えてもらうけど、ケイも一緒にやらない?」


「どうしようかな~」


 結局エステルが一人だと詰まらないという理由で僕とミシェルも剣の稽古に付き合わされることになってしまった。





「サハシ様、少しご相談が…」


 指導員とミシェルがエステルを教えているのをぼーっと見ていたところ、突然ギルドの職員に声をかけられてしまった。


「はい、何でしょうか?」


「実は、サハシ様が作られたこの地図のことなのですが…冒険者ギルドで扱わせていただきたいのですが」


 職員が持っていたのは、僕が作った地下迷宮(ダンジョン)10階層までの攻略地図であった。既に攻略してしまったので不要となった地図に僕が悪乗りして色々書き込んだ物である。その結果、通路の距離感や(トラップ)の位置や外し方や魔獣の種類と攻略の解説まで書き込だ、ゲームの攻略本みたいな物になってしまった。


「ごめんなさい。退屈だったので地図を眺めていたら…」


 リリーが申し訳ないという顔をしている。どうやらリリーが眺めていたのをギルド職員が見てその価値に気付いてしまったらしい。


「はぁ、別に良いのですが」


「おお、そうですか。では地図の代金として金貨20枚をお支払いします」


 ギルドの職員は喜んで金貨20枚という金額を提示してきた。


(結構高く引き取ってくれるんだな。何枚でも複写できるし、売り払ってしまっても…いや、お金をもらうより、代価として11階層以降の地図を見せてもらえないかな)


 僕はそう考え職員にダメ元で訪ねてみることにした。


「…お金はよろしいです。それよりギルドが所持している11階層以降の地図を見せて欲しいのですが」


「11階層以降の地図ですか…」


「見せて貰えるなら、11階層以降も、同じような地図を提供できるのですが」


「…すいません、上の者と相談してきます」


 僕の提案を魅力的な物と受け取ったのか、ギルド職員は奥の方に走っていった。





「11階層以降の地図の閲覧許可を貰ってきました。それとこれが地図作成の依頼書なのですが…」


 戻ってきたギルド職員は地図の閲覧許可書と、地下迷宮(ダンジョン)の地図作成依頼書を持って来ていた。

 依頼の内容は、地下迷宮(ダンジョン)の地図一枚に付き金貨3~10枚を払ってくれるらしい。報酬が違うのは深い階層の地図は高く買ってくれるからである。


「今別の依頼を受けてますが、大丈夫ですか?」


「大丈夫です。こちらは期限も制約もありません。言ってみれば地図の売買契約みたいなものです。サハシ様の地図は地下迷宮(ダンジョン)を探索する冒険者にとって物凄く役に立ちます。これを是非ギルドで取り扱わせて下さい」


「判りました。攻略出来た地図は提供しますよ」


 僕の手にかかれば地図の複製は羊皮紙さえあれば簡単に出来てしまうので、売ることに問題はない。それで助かる人がいるなら提供もやぶさかではない。

 依頼を受けると、まずは十階層までの地図を複製して持ってくる事になった。





 夕方、エミリーを教会に迎えに行いった。

 "大地の女神"の教会は夕方になっているのにまだ"回復の奇跡"のボランティアを待っている人の列が続いてた。


「大盛況だね」


「本当に…でも人が多すぎじゃないか」


「そうですね、しかも何か怪我をしている人達が多いようです」


「服装からすると…スラム街の住人ばかりだね」


 ミシェルは並んでいる人達の服装からスラム街の住人というところに気付く。並んでいる人達は重症とは言わないが軽傷…殴られたり蹴られたりされた傷を負っていた。



 教会の礼拝堂…そこがボランティアの場所なのだが、そこは野戦病院のごとく怪我人が溢れ返っていた。回復の奇跡を唱えすぎて魔力(マナ)切れになったシスターや神父が休んでいる横で、エミリーは青い顔をしてまだ頑張っていた。


「エミリー、どうなってるんだ?」


「ケイ…助けてください。」


 エミリーは泣きそうな顔をしていた。



 教会の部屋を借りてエミリーにマナ注入(キス)を行った。元気を取り戻したエミリーは再び礼拝堂に戻っていった。


「これはどういうことなのですか?」


 礼拝堂に戻ると、そこにいたレミリア神官長に何故こんなことが起きているのか尋ねた。


「…どうやらスラム街で怪我人が続出しているようなの。」


 レミリア神官長は魔力(マナ)を使い果たして青い顔をしていたが、それ以上にこの状況に心を痛めている様だった。


「スラム街ですか?」


「ええ、おそらくだけど"天陽神"の教会、いえ貴族たちの嫌がらせではないかしら。」


 レミリア神官長の話によると、二日前からスラム街で住人が襲われるという事件が起きているとの事だった。スラム街の住人はそういった暴力にさらされることは多いのだが、さすがにスラム街の中で襲われるというのは異常なことである。


「どうやら貴族の若者グループがスラム街で住人を襲っているみたいなの」


 スラム街の住人が貴族相手に逆らえるはずもなく、又殺されるとかであればさすがに王都の警備隊も動くのだろうが、殴られるだけであれば問題にされない。

 そうやって怪我人を増やすと、スラム街の住人が頼ってくるのは"大地の女神"の教会となる。しかし教会もそんな大量の怪我人を癒やすことは神官やシスターがどれだけ頑張っても無理である。怪我を治してもらえる者ともらえない者との差が生まれ、それはやがて教会への不満、不信感となっていく。

 そうやって"大地の女神"の教会に負担をかけることで、平民層の支持・信仰を無くそうという魂胆らしい。


「そんなことを…」


 僕は"天陽神"の教会の卑劣な作戦に怒りを感じていた。


(とても聖職者のやることじゃないな。しかしこれをどうやって乗り切れば良いのか…)


 相手が貴族である以上、冒険者では手が出せない。僕が貴族として頼れそうなのはルーフェン伯爵だけだが、彼もこの状況を何とか出来るとは思えなかった。


(まずはこの負傷者達を何とかしないと…エミリーにマナ注入(キス)をし続けても不審がられるだろし…何とか教会の神父やシスター達の魔力(マナ)を供給できないかな)


「サハシ様、貴方が気に病むことではありません。そうですねお茶でも入れましょう」


 僕が難しい顔をしているのを見てレミリア神官長はそう言ってくれた。


(お茶か…そうか、魔力(マナ)を込めれば…)


「レミリア様、美味しいお茶を入れましょう。」


「はい?」


 僕の提案の意味が判らずキョトンとしているレミリア神官長だった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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