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どうやら僕の心臓は賢者の石らしい  作者: (や)
ルーフェン伯爵編
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初めてのダンジョン

 幅三メートルほどの階段を百段ほど降りると、ようやく地下迷宮(ダンジョン)の最初の部屋が見えてきた。


『慶、途中でセンサーのデーターが…』


『ああ、気がついているよ。どうやら階段の途中で空間が変な事になっているらしい。』


 僕と"瑠璃"は階段の途中でセンサーが異常な値を示したことに気付いた。僕も何か違和感のようなものを感じているし、エミリー、リリー、エステルも感じているようだ。ミシェルは経験者なので、特に気にしていないようだった。


 どうやら地下迷宮(ダンジョン)は普通に地面の下に広がってはおらず、別な空間に存在しているらしい。"無限のバッグ"のように空間を制御する魔法アイテムが有るのだから魔法でそんなことも可能なのだろう。


 階段を降りきった先にあった部屋は一辺が二十メートル、高さ五メートルの四角い形状で、階段と反対側の壁に扉があった。パッと見た感じでは、壁の素材は石の様に見えた。


《対象の素材を分析:開始....終了。素材は大理石に似た未知の物質。主成分は石灰質XX%、未知の物質XX%》


 分析では、壁の素材は大理石に似た何か別な物質らしかった。壁に近寄って叩いてみたが硬くちょっとやそっとでは壊れない感じがした。


 僕は初めて入る地下迷宮(ダンジョン)に少し興奮していたのかもしれない。それはエミリー達も同じであった、三人は僕と同じように辺りをキョロキョロと見回していた。


「まだ階段を降りたところだよ。早く進もうよ。」


 ミシェルがそんな僕達を見て笑いながら扉を指さす。


「そうだね。こんな所でグズグズしていたら一階層も回れないね。急ごうか。」


 扉に近づくと、扉も壁と同じような素材でできていることが判る。色も同じであり、もし扉らしいレリーフ(浮き彫り)がなければ扉だと気づかなかっただろう。


「じゃあ扉を開けるよ。ここ(迷宮)じゃ扉に罠が仕掛けてあったり、その向こうに魔獣が待ち構えている場合が多いから開けるときは気をつけて欲しいね。」


「大丈夫です。向こうには何もいません。」


 "瑠璃"が扉の向こう側を見てきてくれたのか報告してくれる。


「ああ、そういやあんたがいたんだね。これなら扉を開けて時の不意打ちを食らうこともないね。まあ、一階層は魔獣がいないんだけどね。」


 ミシェルは少し残念そうに言った。地下迷宮(ダンジョン)での盗賊の役割の一つが偵察なのだが、"瑠璃"が居るおかげで偵察は"瑠璃"に任せることになるだろう。ミシェルは楽ができる反面活躍機会が奪われるのが悔しいのだろう。


「じゃあ、開けるよ。」


 ミシェルの開けた扉をくぐり、僕達は地下迷宮(ダンジョン)を進み始めた。





 一階層はグルグルと回る通路といくつかの小部屋が有るだけの階層で、特に魔獣は出現しない。通路に(トラップ)がいくつか仕掛けてあるが、それも深さ二メートル程の落とし穴程度であり、地図にも注意しろと書かれているためそれに引っかかることもない。

 それに(トラップ)もまるでそこが(トラップ)であると自己主張しているような物が多く、本当に侵入者を引っ掛ける気があるのか疑わしいレベルのものであった。


「意外と明るいんですね。」


 薄暗い感じをイメージしていたエミリーは、通路が明るい…と言っても蛍光灯が一つ有る地下道レベルだが…に驚いていた。


「ああ、浅い階層は壁が光ってるんだよ。深くなるとこれが無くなるから魔法の明かりが必要になってくるよ。」


「魔法の明かりですか? 松明じゃ駄目なんですか。」


「松明でもなんとかなるけど、(トラップ)の中には燃える気体が噴出する物もあるから、魔法の明かりの方が良いのさ。さっきの露天で魔法の明かりが使えるマジックアイテムを売っていたよ。」


「それじゃさっき買ってくればよかったですね。」


「そんなことしなくても、この娘が居るじゃないか。」


 ミシェルはリリーを指差す。


「私が明かりの魔法(ライティング)を唱えれば良いのですね。」


「そうさ、だけど今はいらないよ。」


 ミシェルはそう言ってスタスタと歩いて先に進んでいく。今日中に五階層まで回りたいと思っていた僕は慌ててミシェルを追いかけた。





 二階層は通路が無く、部屋を1つずつ通り抜けていかなければならなかった。


「ほら、扉に鍵がかかっているだろ。盗賊がいないと此処は通り抜けるのが面倒なのさ。」


 鍵がかかっている扉をミシェルが簡単に開けていく。この扉は全力で体当たりすれば開けられるらしいが、それを知らず、また盗賊がいないパーティはここで立ち往生するそうだ。


 二階層の最後の部屋で僕達は初めて魔獣に出会った。


「ゴブリンが5匹ですか。」


 エミリーが嫌そうな顔をする。ゴブリンは彼女の両親を殺した魔獣なので、あまり見たくないのだろう。


「まあ、最初の敵としては妥当なんだろうな。」


(簡単な(トラップ)や弱い魔獣から出てくるって、本当にゲームの様な地下迷宮(ダンジョン)だな。)


 "瑠璃"が先に部屋の中を偵察して来てくれたおかげで、僕達はゴブリンの奇襲を回避することができた。


「じゃあ、フォーメーションの確認だけど戦闘は僕とミシェル、その後ろにエステルで、後はリリーとエミリーで行くよ。相手はゴブリンだし負けることは無いさ。」


 皆が頷くのを確認して、ミシェルが扉を開ける。部屋には僕が先頭で飛び込んだ。ゴブリン達は扉の側で待ち構えていたが、"瑠璃"のおかげでその配置は判っている。

 僕は、ゴブリンが振り下ろす小剣(ショートソード)の攻撃を避けると、槍を振り回してゴブリン達を撲殺していった。


「あたいのすることが無かったね。」


 ミシェルが部屋に入ってきた時、既にゴブリンは全滅していた。


「ごめん、ミシェルも戦いたかったのかな?」


「そういうわけじゃないけど…まあいいか。」


「ところで、こいつらの死体はどうするべきなんだろう?」


「ほっとけば良いさ。まあ邪魔なら部屋の隅に寄せとけば良いよ。後は迷宮の掃除屋が片付けてくれるさ。」


 迷宮にはこういった死体を始末する生物がいて、しばらく放っておけば跡形もなくなっているらしい。その始末をする生物は死体の持ち物を集め、それが宝箱に入って出てくるという話も有る。


「そんなものなのか。…まあそうでも無いと迷宮なんて死体だらけで大変なことになっているよな。」


 とりあえずゴブリンの死体は通行の妨げにならないように部屋の隅に避けて置いて、僕達は三階層に降りていった。





 三階層、四階層も問題なく僕達のパーティは攻略していった。

 今いるのは五階層のとある部屋であった。

 五階層は(トラップ)だらけの階層である。地下迷宮(ダンジョン)(トラップ)は、冒険者だけじゃなく魔獣も引っかかるため油断しているとその巻き添えを食ってしまう事がある。


 今回僕達は不運にも魔獣が引っかかった(トラップ)の巻き添えを喰らってしまったのだ。巻き添えを喰らってしまった(トラップ)は某ゲームでもお馴染みの転送の罠(テレポーター)であった。

 それに巻き込まれた僕達は全く別の場所に飛ばされてしまったのだ。飛ばされた先は(出口)の無い部屋であった。石の中(・・・)で無かっただけ良かったというべきだが、エミリー達は出口が無いことで閉じ込められたと一瞬パニックを起こしかけた。

 そんな彼女達のパニックを鎮めてしまったのはミシェルだった。


「ピーピー騒ぐんじゃないよ。こんな浅い階層でデストラップなんて無いから。扉が無いように見えるけど、どこかに隠し扉が有るんだよ。」


 彼女が一喝してくれたおかげでエミリー達は落ち着きを取り戻してくれた。


「ミシェルはここを知っているの?」


「あたいが入ったパーティはこんな階層通り過ぎていたからね…だから知らないんだ。地図には書いてないのかい?」


「それが、何処に飛ばされたかわからないから…。」


「それなら壁を調べるしか無いか。まあ盗賊の腕の見せどころだね。」


 ミシェルは不敵に微笑むと隠し扉を探し始めた。



 隠し扉の位置は"瑠璃"の協力もあり簡単に見つける事ができた。"瑠璃"は壁をすり抜けて反対側に抜けられるかどうかを繰り返し隠し扉を見つけたのだ。


「ミシェル、開きそう?」


「もうちょっと、後はここを押してくれれば…ほら開いた。」


 隠し扉は見つかったが、その扉を開ける仕掛けはなかなか見つから無かったのだが、そこはミシェルの腕の見せどころであった。短時間で隠し扉の開け方を見つけ、開くことに成功したのだ。


「さすがだね。」


「これぐらい朝飯前だよ。」


 褒められて照れたのか少し顔を赤くしてミシェルは胸を張る。


「慶、今いる場所が判りました。目的の部屋の近くですね。」


「そうか、不幸中の幸いかな? "瑠璃"、その部屋まで案内して。」


 僕が今日中に五階層を目指したのは理由が有った。某ゲームではないがこの迷宮、深い階層に行くには特定のアイテムを探し出す必要があるのだ。その一つが五階層のある部屋に有るアイテムなのだ。


 "瑠璃"の案内のもと部屋に向かった僕達は、扉の前で戦いの準備を整えると部屋に踏み込んだ。


「エミリー、死霊退散(ターンアンデット)をお願い。」


 部屋の中には三体の彷徨う死体(ゾンビ)と二体のスケルトン、そして一体の亡霊(スペクター)がいた。彷徨う死体(ゾンビ)とスケルトンは物理攻撃が効くので僕とミシェル、エステルで戦えるのだが、亡霊(スペクター)は物理攻撃が効かないので、リリーの魔法とエミリーの死霊退散(ターンアンデット)で倒すしか無い。


「大地の女神よ彷徨い傷つき邪悪に染まりし魂に救いの手を差し伸…」


「全ての力の源たるマナよ、我が手に集いて全ての物を凍らせる…」


 エミリーとリリーが魔法を詠唱し始める。魔力(マナ)が二人に集まるため不死者(アンデッド)達は彼女達に興味をそそられたのかそちらに向かおうとする。


「駄目だよ、君達の相手は僕だから。」


《主動力:賢者の石 2.0%で稼働させます。》


 僕は心臓の出力を上げると不死者(アンデッド)達の注意を自分に引き寄せた。そして近寄ってくる彷徨う死体(ゾンビ)の足を斬り、スケルトンの骨を砕く。


「ターンアンデット」「ブリザードボール」


 二人の魔法が同時に発動し、亡霊(スペクター)に白い氷の弾が命中し、聖なる光がその存在をかき消す。


『馬鹿な~。こんなあっさりと消えるなんて~。やり直しを要求する~。』


 そう叫びながら亡霊(スペクター)は浄化されていった。

 後は彷徨う死体(ゾンビ)とスケルトンを倒すだけであるが、足回りを僕に破壊されたため床を這いずり回るだけの不死者(アンデッド)達は、エミリーの死霊退散(ターンアンデット)で瞬く間に浄化されてしまった。


 ミシェルは亡霊(スペクター)が居たあたりに落ちていた小さなバッジのような物を拾ってきた。


「これがレッド・バッジだよ。」


 ミシェルは僕にそれを差し出す。表面が血のように赤いそのバッジを持っていることで、六階層に通じる階段の扉が開くのだ。


(ほんとゲームチックだよな。)


 外部装甲()の小物入れにそれをしまいながら僕はそう思うのだった。



ここまでお読みいただきありがとうございます。

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