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どうやら僕の心臓は賢者の石らしい  作者: (や)
ルーフェン伯爵編
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地下迷宮に入ろう

「ただいま~。」


 その晩、夜遅くにエステルは帰ってきた。


「おかえりなさい。帰るのが遅いわよ。」


 リリーはエステルが帰ってきたのを見てホッとしていた。


「本当はもっと早く帰ってくるつもりだったんだけど…師匠がなかなか放してくれなくて…。」


 いつの間にかジークベルトはエステルの師匠に格上げされていた。


「お帰り。体調は大丈夫なのかな?」


「ケイも予定通りに帰ってきたんだね。…魔力(マナ)は大師匠が分けてくれたから大丈夫だよ。」


 僕はエステルが魔力(マナ)不足で困っていないか心配だったのだが、どうやら大師匠…おそらくミーナのことだろう…から魔力(マナ)を分けてもらっていたようだ。彼女を目覚めさせるためにものすごい量の魔力(マナ)を注いだが、それをエステルに分けてくれたのだろう。


「エステル、お帰りなさい。」


 エミリーが部屋から出てきてエステルを迎えたのだが、その後…


「ようやく帰ってきたね。今度パーティに入る事になったからよろしくね。」


 とミシェルが出てきたのを見てエステルの顔が凍りついた。


「…ケイ、なんでミシェルが此処に居るのかな?」


 少しすねたような、怒ったような目でエステルが僕を睨む。


地下迷宮(ダンジョン)に入るのに盗賊が必要だから…アルシュヌの街でスカウトしてきたんだ。」


 僕の説明を聞いているのかいないのか、エステルはじっとミシェルを睨んでいる。それをミシェルは笑顔で受け流していた。


「うん、少し女性同士でお話が必要だよね。ケイはもう寝てて良いよ。」


 そう言ってエステルはミシェルの腕を掴むと女性陣の部屋に連れて行こうとした。


「この部屋は三人部屋だろ、四人じゃベッドが足りないよ。」


 ミシェルがそう言って逃れようとしたが、リリーとエミリーが彼女を背後から拘束する。


「もう遅いです。」


「大丈夫です。今日はベッドを使わないと思います。」


 そして四人は部屋に入り、僕の目の前で扉がバタンと閉ざされた。


(昨日と同じパターンだな。)


 今度はエステルを入れての女性同士の話し合い(・・・・)が始まったようだ。


「明日は地下迷宮(ダンジョン)に入るつもりだから…夜更かしは程々におねがいします。」


「「「判りました。」」」





 翌朝、さすがに二日連続の徹夜はしなかったようで、女性陣は疲れ気味ではあったが自力で起きて部屋から出てきた。


「さて、昨日も言ったけど、今日は地下迷宮(ダンジョン)に入ろうと思うんだけど。」


「そうですね。依頼の前に一度は入っておきたいですね。」


「ああ、浅い階で良いから入っておいた方が良いね。あたいも罠を解除する腕が鈍ってないか確認したいしね。」


 リリーとミシェルは賛成してくれたが、


「教会のボランティアを断るのを忘れてました…。」


「ごめん、地下迷宮(ダンジョン)に入るなら装備を買わないと…。」


 エミリーとエステルはそのままでは無理な様子だった。





「エミリー、教会のボランティアは午前中だけにしてもらえないかな?」


「そうですね、もともと地下迷宮(ダンジョン)に入るまでと言ってありますので、お願いしてみます。」


 エミリーに教会のボランティアの方を午前中で切り上げてもらうことにした。


「エステルは装備って、何を買うの?」


「武器なんだ。さすがに弓だけじゃ地下迷宮(ダンジョン)はキツイでしょ。短刀じゃ心もとないし、手頃な剣を買っておきたいんだ。」


「確かに弓だけじゃ…でも短剣じゃなくて剣って事は前衛もやる気なのかな?」


「弓を射って、それから剣でリリーとエミリーを守るのがあたしの役割だと思うんだ。」


 今までパーティの前衛は僕だけだった。今回はミシェルが入ってくれたのでリリーとエミリーに敵が向かうことは少なくなったと思う。しかし敵の数が多い場合、二人では守りきれないことも有るだろう。そこでエステルは中間的な位置で前衛と後衛のフォローをするという考えに至ったようだ。


「あたいもいい考えだと思うよ。」


 ミシェルもその案に賛成のようだった。


「そうだね、今日は地下迷宮(ダンジョン)でパーティのフォーメーションとかも試さないと…、じゃあ午前はエステルの買い物に付き合うかな。」


「あたいも一緒に付いて行くよ。」


「ごめんなさい、私はお昼までお休みしたいです。」


 ミシェルは僕に付いて来るようだったが、リリーは午前は部屋で眠るようだ。


「ふっ、若くないね。」


「ミシェルさんに言われたくないです。」


 そんな遣り取りの後、僕達は別れて行動することになった。





 街での買い物は順調に終えることができた。

 エステルは真新しい幅広の剣(ブロードソード)を抱えて少し嬉しそうだった。今までの彼女であればそんな重い剣を振るうことはできなかっただろう。しかし吸血鬼(ヴァンパイヤ)化したおかげで身体能力がアップしたことで、そんな剣もやすやすと振るうことが出来る。

 ミシェルは小さな腕に装着出来る直径40センチ程の円盾を購入していた。

 僕の方は投擲用の短剣を十本とロープを購入した。"瑠璃"の報告通り十フィート棒は何処にも売っていなかったが、そちらは手持ちの槍で代用することにした。


「ケイ、地下迷宮(ダンジョン)の地図はどうする?」


「あれ、売っているの?」


「知らないの? …冒険者ギルドで浅い階層なら見せてもらえるよ。たしか十階層ぐらいまでの地図は見せてくれるんじゃないかな。」


 王都の地下迷宮(ダンジョン)は攻略が始まってかなりの年月が立っている。そのため地図も普通に出回っている。ただ、地図が有っても深い階層は魔獣も強いため、初級の冒険者が深い階層に降りてしまわないようにと、冒険者ギルドでは十階層までの地図しか公開していなかった。


「そうなのか。じゃあ冒険者ギルドで見ておこうか。」





「あれ、今日はどうされたのですか?」


 冒険者ギルドに着くと、モニカと交代するために出てきた受付嬢のサラが、僕達に声をかけてきた。


「今日は、地下迷宮(ダンジョン)の地図を見せてもらおうと思って…冒険者ギルドで地図を見せてもらえると聞いたのですが何処に有るのでしょうか?」


「それなら…あちらの棚に置いてあります。銀貨三枚で閲覧できますよ。」


 サラが冒険者ギルドの端の方にある棚に地図が有ることを教えてくれた。僕はサラに銀貨を渡して閲覧の許可を貰った。


「これで良いのかな。」


「はい。後は御自由に見て下さい。…最近、何組ものパーティが行方不明になってます。地下迷宮(ダンジョン)に入られるなら、気をつけて下さい。」


 棚に向かう僕達に向けてサラがそう忠告してくれた。ミシェルが言っていた件だが、どうやら行方不明者が出続けているようだ。





「これが地図なのか?」


「そうだよ。どんなのを期待していたのさ。」


 棚にはボロボロになった羊皮紙を束ねただけの本(?)が置かれていた。僕はそっとそれを取り出し、一枚一枚めくっていった。ゲームの攻略本じゃないので、手書きの地図はかなり見づらかったが、十階層のおおよその配置は見て取ることができた。

 地図によると、十階層までは大したトラップはなく、区画整理されておりウ○ザードリーの一作目のような迷宮になっていた。


「よし、覚えた。」


 僕は一通り見て画像を記録したので羊皮紙を戻そうとした。


「「え?」」


 とエステルとミシェルに驚かれてしまった。


「もう覚えたって…。」


「殆ど見てないじゃないか。」


「いや、覚えちゃったし。まだ見るならどうぞ。」


 二人に羊皮紙を渡すと僕は"瑠璃"に地図のデータを転送した。


『"瑠璃"、地下迷宮(ダンジョン)のマッピングはお願いするよ。』


『えー、自分でマッピングしないんですか? そんなヌルゲーで良いのですか~。』


『いやいや、リアル地下迷宮(ダンジョン)なんだよ。ゲームじゃないし。それに敵と戦っている間は地図を見ている暇が無いからね。』


『…冗談です。了解しました。ナビゲートはお任せ下さい。』


 三十分程エステルとミシェルは地図と格闘していた。お昼まで時間が無かったので、後で僕が地図を清書した物を作ると約束してようやく二人は腰をあげた。




 帰りに雑貨屋で羊皮紙を買い、宿で僕は地図を綺麗に清書した。


「…ほんとに覚えたんだね。書類の偽造の時もそうだったけど、あんたこっちの方面で食っていけるよ。」


「こっちのほうが見やすい。」


 エステルとミシェルは清書した地図を見て感心していた。





 お昼前にエミリーは教会から戻ってきており、リリーも起きて部屋から出てきた。

 宿の食堂で軽く昼食を取ると、僕達は地下迷宮(ダンジョン)に向けて出発した。


 王都から地下迷宮(ダンジョン)まで徒歩で一時間…およそ3キロ程の道程である。天気も良く草原の一本道を歩くのは気持ちが良い。僕達の他にも何組かの冒険者パーテイと荷馬車に乗った商人も地下迷宮(ダンジョン)に向かっていた。


 三十分程歩くと前方に砦のような…いや闘技場のような建物が見えてきた。


「あれが地下迷宮(ダンジョン)の入り口だよ。ああ、昔と変わってないね。」


 ミシェルが懐かしむように建物を指さす。


「城壁で囲まれているんですね。」


 地下迷宮(ダンジョン)の入り口は、高さ5メートルほどの城壁で囲まれていた。これは万が一中から魔獣が出てきた時のための用心であろう。

 建物の入口には兵士が数人おり地下迷宮(ダンジョン)に入る冒険者をチェックしているようだった。


「あれ、商人も中に入っていったね。」


 僕達と一緒に地下迷宮(ダンジョン)に向かっていた商人は荷馬車を降りて建物の中に入っていった。


「ああ、中に入れば理由が判るよ。」


 ミシェルはいたずらっぽく笑っていた。


「確か中に冒険者向けの露店があるそうです。」


「ああ、それを言っちゃうかな~。中に入って驚く顔が見たかったのに~。」


 リリーがネタバレをしたのをミシェルが嘆いていた。




 門番の兵士にタグを見せると、兵士が台帳に名前を書いていた。名前を書いておくのは戻ってこない冒険者を兵士が確認するためだろう。


「うぁ~凄いね~」


 門をくぐって中に入った僕はその光景に圧倒された。中央に有る地下迷宮(ダンジョン)への入り口の周りを取り囲むように露店や屋台がところ狭しと並んでおり、そこで様々な物が売り買いされていた。


低級回復薬(ヒールポーション)あります。』


『XXXの角買います。』


『剣・鎧の修理します。』


 あちこちに立て札や看板が上がっており、冒険者達が露店や屋台に群がっていた。


「これじゃ魔獣が出てきたら大変なのでは?」


 エミリーが心配そうに露店を見回して呟いた。


「そんなことが無いように冒険者が魔獣を退治しているんだよ。」


 そんな話をしながら僕達は入り口に近づいていく。

 迷宮への入り口は下へと続く先の見えない石の階段だった。僕達はその階段を一歩一歩降りていった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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