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どうやら僕の心臓は賢者の石らしい  作者: (や)
ルーフェン伯爵編
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ミシェルとお話するの巻

蛇足っぽいですが、ミシェルに話をする回です。

 ルーフェン伯爵とミシェルの顔合わせは問題なく終了し、僕とミシェルはまっすぐ宿に戻った。


「「おかえりなさい。」」


 リリーとエミリーが部屋で待っていたので、伯爵との顔合わせはうまく言ったと伝えると、


「そうですか、残念です。」


「ミシェルさんもこれでパーティの一員ですか。」


 リリーとエミリーがわざとらしくガッカリとしたポーズをとる。

 それに対して、


「なんだいそのガッカリした顔は。そこは腕利きの盗賊が入ってくれて良かったと喜ぶところだろ。」


 とミシェルが突っ込んでいた。



 そんな遣り取りの後、夕食時ということもあり僕達は宿の食堂で夕食を食べることになった。

 僕としてはミシェルがパーティに正式参加することのお祝い的な部分もあるので、お酒なども入れて少し豪華な料理を頼んだ。そんな中、普段なら旺盛な食欲を見せるはずのリリーがあまり(人並みにしか)料理に手をつけていなかった。


「リリーどうしたの?」


「エステルがまだ帰ってこないので…。」


 どうやらリリーはエステルが戻ってこないことでちょっと不安になっているらしい。村を一緒に出てから殆ど離れること無く過ごしてきたので、離れていると寂しい/不安といった気持ちが出てくるようだ。


「今日帰ってくると言っていたけど、夜中かも知れないし。心配しなくても…」


「そうですよね。私はちょっと心配し過ぎかもしれませんね。」


 僕は「心配ない」と言ったつもりだったが、リリーは「心配し過ぎている」と言われたと感じたようだ。


「ケイ、そういやあの赤毛のエステルって娘は見かけないけど、どうしたのさ?」


 リリーと僕との遣り取りを聞いていたミシェルが、エステルについて尋ねてきた。


「そういや、ミシェルにはまだ言ってなかったっけ…。」


 僕が魔力(マナ)を供給する限り、エステルが人を襲うことはない。僕達が黙っていれば、エステルが吸血鬼(ヴァンパイヤ)だということはミシェルにはバレないと思う。

 しかしこれから一緒にパーティを組んで地下迷宮(ダンジョン)に入るのに隠し事が有るの良くないことでは有る。問題はエステルが吸血鬼(ヴァンパイヤ)であることを知ってミシェルがどう思うのかである。


「何かあたいに隠していることでもあるのかい。」


 僕が少し考え込んでいたため、自分に対し隠し事があるのを感じミシェルは不満気だった。


「そうだね、エステルの事とかパーティを組む上で必要な事は話しておいたほうがいいよな。リリー、エミリー、二人はどう思う。」


「私は話した方が良いとおもいます。」


「私も、ミシェルさんなら大丈夫だと思います。」


 リリーもエミリーも賛成してくれたので、僕はミシェルに話すことを決めた。


「ミシェル、エステルのことで話さなきゃいけないことがあるんだ。それに僕の方も話しておきたいことがある。ただこの場で話せる内容じゃないので、後で部屋に戻ってから話すけど良いかな?」


「ふーん、何か御大層だね。まあ、話してくれるなら良いよ。」


 ミシェルの不満げな様子が和らいだ。





 夕食の後、女性陣の部屋に集まる。僕は念の為にセンサーを使って辺りの様子を伺い、誰もいないことを確認した。


「それで、何を聞かせてくれるんだい?」


 ミシェルは早く聞かせてほしいと僕をせっついてきた。


「うーん、まずはこっちから話したほうが良いかな。ミシェル、今から二人が出てくるけど驚いて攻撃とかしないでね。…"瑠璃"出てきてちょうだい。マリオンも起きてくれるかな。」


 僕の呼びかけに応じて、"瑠璃"とマリオンがスッと部屋の中に現れた。


「出てくるって? ………だ、誰だあんた達は、急に出てきて、しかもこの二人透けてるよ。」


 ミシェルは突然現れた半透明の二人に姿に驚き、忠告しておいたのに身構えていた。


「えーっと、紹介するね。こっちは"瑠璃"って言って、"電子の精霊"さんだ。そしてこっちの女性はマリオンっていって、アルシュヌの街で知り合った幽霊だよ。今は僕に取り憑いている扱いで良いのかな?」


 マリオンは僕のシステム上に構築された仮想システムの中に存在している。扱いとしては僕に取り憑いている事になるだろう。


「"電子の精霊"の"瑠璃"です。今後ともよろしく。」


「ミシェルさん、マリオンです。元々は悪霊だったのですが、ケイさんに助けてもらって今は普通の幽霊をしています。現在はケイさんに取り憑いています。」


 二人はミシェルに自己紹介をするが、ミシェルは驚きのあまり口をパクパクさせていた。



「精霊に幽霊って…ケイ、あんた大丈夫なのかい?」


 ようやく口がきけるようになったミシェルは開口一番そう言った。


「大丈夫って…どういう意味かな?」


「いや、あんたが嘘をつくはずが無いのは判るんだけど、精霊と幽霊が取り憑いているって…体は大丈夫なのかなと。」


「ああ、そっち()のほうか。大丈夫だよ。」


 僕はミシェルに正気を疑われたのかと思ってしまったのだが、どうやら彼女は僕の体の方を心配してくれていた。


「そう…ならいいんだけど。幽霊は生気を吸い取るって言うし、大丈夫なのかなと心配したんだよ。」


「"瑠璃"もマリオンも魔力(マナ)を吸い取るとかしないよ。」


 こちらの世界の不死者(アンデッド)は、魔力(マナ)を求めて人間を襲うのだが、悪霊でなくなったマリオンはそんな事はしない。活動するのに魔力(マナ)は必要だが、それは僕の心臓が生み出す魔力(マナ)で事足りている。


「"瑠璃"とマリオンはこの状態であちこち動けるから、迷宮でも色々活躍してもらうつもりなんだ。」


「物には触れませんが、見て回ったり聞いたりはできます。」


「"瑠璃"さんと私で見張りと偵察を担当します。眠らなくても良いので、休息の時の警戒とか任せて下さい。」


「…なるほど…ね。そりゃ助かるね。」


 ミシェルは二人の役割を理解してくれたようだ。


「この状態だと驚かれたり悪霊だと思われて攻撃されたりするから、地下迷宮(ダンジョン)では透明な状態でいてもらうことになるよ。」


「そうだね。あたいも知らなかったら攻撃しちゃうよ。でも凄いね、透明だとだれも気が付かないだろうね。」


 二人が殆ど透明になって見せると、ミシェルは関心したように周囲を回ってその姿を確認していた。


 ミシェルが"瑠璃"とマリオンの事を理解してくれたので、次にエステルのについて話すことにした。


「エステルのことだけど…今彼女は吸血鬼(ヴァンパイヤ)化しているんだ。」


「…そりゃ難儀なことになってるんだね。」


 ミシェルは少し驚いた顔をしたが、エステルが吸血鬼(ヴァンパイヤ)になってしまったことを意外とすんなり受け入れてくれた。


「あんまり驚かないね。」


「そりゃ、あたいも冒険者として地下迷宮(ダンジョン)に入っていたからね。不死者(アンデッド)には何回も襲われたよ。それに吸血鬼(ヴァンパイヤ)は会ったことがあるからね。」


 ミシェルは吸血鬼(ヴァンパイヤ)に会ったことがあるらしい。


「へえ、何処で会ったの?」


「七年ほど前かな、ここで(王都)会ったんだよ。」


「な…なんだってー!」


 僕は○MRの○バヤシの様な顔をして"瑠璃"による稲妻背景エフェクト付きで驚いてしまった。


「ケイ、今のは?」「何故稲妻が…」「魔法ですか?」


「いや、気にしないでくれ。"瑠璃"も悪乗りしないでね。……それよりミシェル、王都で会った吸血鬼(ヴァンパイヤ)って…」


「あたいが会ったのは男の吸血鬼(ヴァンパイヤ)だったよ。たしか名前はジー…忘れちゃったけど、灰色の髪の優男だったよ。」


 ミシェルの話では、地下迷宮(ダンジョン)に入っていた時、ミシェル達のパーティが魔獣の待ち伏せを受け危うく全滅しかけた。その時颯爽と現れた吸血鬼(ヴァンパイヤ)が魔獣を倒してパーティを助けてくれたそうだ。何故吸血鬼(ヴァンパイヤ)だとわかったかというと、彼はミシェル達を助けた後、魔力(マナ)の提供を求めてきたのだ。


吸血鬼(ヴァンパイヤ)だったけど親切な人だったからね。魔力(マナ)を吸われた時はだるくなって大変だったね。それ以外は普通の人だったよ。ただ、戦っているときは凄まじかった。物凄い速さで魔獣の攻撃を躱して一撃で魔獣を倒していたよ。」


 吸血鬼(ヴァンパイヤ)に助けられた時のことをミシェルは話してくれた。

 おそらくミシェルを助けたのはジークベルトであろう。地下迷宮(ダンジョン)魔力(マナ)を集めている時に偶然助けてしまったのだろう。


「そうか、ならエステルが吸血鬼(ヴァンパイヤ)であっても、ミシェルは嫌ったりしないよな。」


「ああ、あたいを襲わなきゃ問題ないよ。そんな事になったらケイが止めてくれるだろ?」


 そう言ってミシェルが僕にウィンクしてくる。

 エステルの吸血鬼(ヴァンパイヤ)化の件が、ミシェルに受け入れて貰えて僕は一安心した。



 最後にミシェルに話すのは、今回の依頼の内容についてである。ソフィアと依頼の目的…"死者蘇生アイテム"の事を話さなければならない。


「ミシェル、今回地下迷宮(ダンジョン)に入るのは、ルーフェン伯爵から指名依頼があったからなんだ。だからルーフェン伯爵と君を合わせたんだ。」


「なるほどね。」


「あと依頼では僕達のパーティに加わる人が居るんだ。」


「伯爵が言っていた"ソフィア"って女だね。」


「うん。"天陽神"の神官だよ。彼女を地下迷宮(ダンジョン)のある場所に連れて行き、ある魔獣を倒すというのが今回の依頼なんだ。」


「ふーん、変わった依頼だね。それで報酬は?」


「一応金貨五百枚という報酬は提示されているよ。だけど、僕達はそんな報酬より迷宮で手に入るあるアイテムが欲しくてこの依頼を受けたんだ。」


「アイテム?」


「そう、そのアイテムがこの依頼を受けた理由であり、最重要機密事項なんだ。だからミシェルも…たとえ"アルシュヌの鷲"の長老に対してでも決して他言しないで欲しい。」


「判ったよ。」


 ミシェルは神妙な顔で頷いた。それを見て、僕はミシェルに"死者蘇生アイテム"の話とそれを秘密にしなければいけない理由、そしてアイテムを入手するために黒鋼鎧巨人(アイアン・ゴーレム)を倒さなければいけないことを話した。


「なるほどね、あの娘を元に戻すのに"死者蘇生アイテム"が必要ってわけか。」


 ミシェルは僕の話を聞いてしばらく考え込んでいた。


「ケイ、この依頼で問題となるのはそのアイテムの所有権が最後どうなるかだけど、それはあんたも判っているよね。」


「ああ、それは判っているし僕もその点をワザとハッキリとさせていないんだ。」


 実はルーフェン伯爵と依頼の話した時、僕はそのことについてワザと話し合わなかった。

 ルーフェン伯爵もソフィアもその点について言ってこなかったのは、それぞれが自分の思惑を持っているからだろう。


「それだと、"死者蘇生アイテム"が見つかった時に分配で揉めるだろ?」


「その時は…状況によっては、僕はアイテムの入手を諦めるつもりだよ。」


 僕としては今回の依頼で、"死者蘇生アイテム"が入手できなくても存在が確認できるならそれで良いと思っている。


「それじゃ、あんまりじゃないか? こういった場合はアイテムの権利はパーティで分割だよ。そのソフィアに話をつけて…」


「いや、それでソフィアに依頼を断られれば僕達が困るんだ。場所さえ判ればもう一度取りに行くこともできるはずだ。それにアイテムが複数見つかるかもしれないし、その時はちゃんと交渉して一つは譲ってもらうつもりだよ。」


「でもね…まあ、あんた達が良いならそれでもいいのかな。でも冒険者としてやって行くならもっと図太くならないと。」


 僕の説明にミシェルはあまり納得してない様子であった。


「その点については言い返せないな。何しろ僕達は冒険者としては圧倒的に経験が足りてないんだよ。」


 一ヶ月ちょっとで中級まで上がった僕達は、冒険者としての立ち振舞や依頼者と駆け引きをするだけの経験が足りていないのだ。


「その辺りはあたいが今後教えてあげるよ。」


 ミシェルは呆れながらもそう言ってくれた。


「ああ、頼むよ。」


 僕としては経験豊富なミシェルにそう言ってもらい嬉しかった。


「ミシェルは何時までケイの側に居るつもりなんですか。」


「ミシェルさんは今回だけの仲間では? "アルシュヌの鷲"はどうされるんですか。」


 しかしリリーとエミリーはそうでは無いようだった。


「いや、このまま"アルシュヌの鷲"を引退して冒険者になろうかね。」


 そして女性三人の言い争い(口プロレス)が始まってしまった。


(この場合、喧嘩するほど仲が良い…じゃないよな。)


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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