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どうやら僕の心臓は賢者の石らしい  作者: (や)
ルーフェン伯爵編
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アルシュヌの街で盗賊ゲット…

 ネイルド村を出た僕は、アルシュヌの街を目指して街道を進み始めた。さすがに昼の街道を爆走すると目立つため街道を少し外れて走る。


(アルシュヌの街は門から入ったら不味いだろうな。)


 ネイルド村と違い僕が王都へ向かってアルシュヌの街を出てから十日しか経っていない。馬で走り通したとしても王都まで往復できる日数ではない。門から出入りすると門番の兵士達の中には不自然に思う者もいるだろう。


 途中で休憩を入れたりしながら時間を調節して、太陽が暗くなる頃合いを見計らってアルシュヌの街に辿り着く。そのまま僕はしばらく門の外で時間を潰していると、月が明るくなり始める頃に門が閉まった。

 辺りを見回して周りに誰も居ないことを確認すると、僕は街の城壁に近づいた。


(入り込むならスラム街の辺だよな。)


 アルシュヌの街の城壁は十メートルの高さを誇る。魔獣であれ人間であれ空を飛ぶ以外それを超えることはできない。城壁の上には見張りの兵士が立っているが、城壁の高さに安心しているのか警戒の目はゆるい。

 僕はスラム街の辺りの城壁に近づくと、ジャンプとがりスラスター噴射で一気に壁を飛び越えた。スラスターの空気の排出音を聞いた見張りの兵士がやって来たが、一瞬で壁を飛び越えた僕を見つけることは出来なかった。


 何故わざわざこんな面倒な事をしてアルシュヌの街に入るのか、武器が手に入ったのだからそのまま王都に向かうべきと思うだろうが、それには理由がある。


「あんた、王都に行ったんじゃ? なんで今頃戻ってきてるんだい?」


「ちょっと、ミシェルにお願いがあって来ました。」


 僕はアルシュヌの街に入ると、人目を避けて義賊集団"アルシュヌの鷲"のアジトに向かった。目的は"アルシュヌの鷲"のリーダのミシェルに会うためだ。


「お願い?」


「ええそうです。…実は王都で地下迷宮(ダンジョン)に入ることになったのですが、(トラップ)に詳しくて口の固い盗賊を探しているのです。義賊集団"アルシュヌの鷲"ならそういった盗賊()も見つかるかなと思って相談に来ました。」


「はあ、地下迷宮(ダンジョン)ね~。あんたまた碌でもない事に巻き込まれてるんじゃないの?」


「ははは~」


 ミシェルの指摘に笑うしかない僕であった。





「あれから一週間、"アルシュヌの鷲"も落ち着いてきたよ。ほんとケイには感謝してるよ。」


 アルシュヌの街を出る直前に起きた義賊集団"アルシュヌの鷲"の解体騒ぎは、首謀者だったウーゴを僕が倒したことでうまく収まったようだ。引退を決めていた長老達が留任することで今まで通りの義賊としての活動を行っているようだ。


「いや、ミシェルが頑張ったおかげでしょう。」


「おかげでなかなかリーダをやめる切っ掛けが見つからなくてね~」


 ミシェルが恨めしそうに僕を見るが、そこまでは僕の責任外だと思う。


「それは置いておいて、誰か盗賊を紹介してくれませんか?」


「それがね~。地下迷宮(ダンジョン)を知っている盗賊って意外と少ないのよ。」


 ミシェルの話によると、義賊集団"アルシュヌの鷲"の構成員は、ほぼアルシュヌの街と近辺の村の出身者であり、王都やその他の地下迷宮(ダンジョン)のある都市の出身者は数えるほどしかいない。そしてそういった経験のある盗賊は大抵どこかの組織のリーダーを務めている。


「そういう理由で融通できる人材はいないのよ。それに口の固い人って話だけど…難しいわね。」


 盗賊に取って情報もまた金になるお宝なのだ、それを縛るのはよほどその人と親しいなど繋がりが無いと難しい。


「そうですか残念です。そういう事情では仕方ありません。王都でルーフェン伯爵の方を頼ることにしますか…」


「ルーフェン伯爵ですって…ケイ、ちょっとその件に付いて詳しく教えてもらおうかしら。」


「ええ? どうして…ああ!」


 僕はそこでルーフェン伯爵の名前を出してしまったことに気付いた。義賊集団"アルシュヌの鷲"はルーフェン伯爵領の貴族を相手に戦っている盗賊なのだ。ルーフェン伯爵は悪い貴族ではないだろうが、彼らに取っては敵に当たるのだ。


「ケイ、おーしーえーてー!」


「ミシェル、残念だけど教えるわけにはいかない。冒険者には守秘義務ってやつが有るんですよ。」


「駄ー目ー。」


 ミシェルは僕に戦いを挑んでもかなわないことを知っているので、戦うのではなくしがみついて拘束してくる。スタイルの良いミシェルにしがみつかれて、柔らかい感触とか良い匂いとか色々クラクラしそうな状況ではあるが、僕は理性を振り絞り彼女を引き剥がした。


「ミシェル落ちついて。この件はルーフェン伯爵、いえ伯爵領には関係ない話です。」


 僕は必死で言い訳を考えてミシェルに話す。


(今のところ嘘は言っていないよな。依頼主はルーフェン伯爵だけど、本当の依頼主はソフィアだし。地下迷宮(ダンジョン)に入るだけの依頼で、伯爵領に影響はないよな。)


「本当?」


「本当です。僕達のパーティには盗賊がいないでしょ。それで盗賊を紹介してくださいとお願いしているのです。」


「嘘だったら許さないよ。しかし伯爵が何をするか知っておきたいし…そうだね、あたいが王都に付いて行くよ。」


「えっ? どうしてそうなるんです。」


 突然のミシェルの王都に付いて行く発言に驚く。彼女は"アルシュヌの鷲"のリーダーなのだ、王都にいけるはずが無い。


「さっきも言ったけど、他の奴らはケイに付いて行くのは無理だよ。だけどあたいは長老たちが復帰するのにお前だけ引退するのかという罰ゲームみたいなものでリーダーを続けているだけだし、実はいてもいなくても良いんだ。あたいは地下迷宮(ダンジョン)に入ったこともあるし、(トラップ)も解除できる。他の長老にはルーフェン伯爵の様子を探りに行くといえばなんとか言い訳も立つ。うん、これを機会にあいつに実権を移しちゃおう。…」


「あ、あのー、ミシェルさん?」


 ミシェルは僕と王都に向かう理由を瞬く間にでっち上げてしまった。


「あたいは今から長老たちに了解をもらってくるからさ、あんたはここで待っててね。…逃げたら王都まで追いかけていくよ。」


 最後に脅迫めいたセリフを言ってミシェルはアジトから出て行った。


 僕はここから逃げるべきなのか待つべきなのか迷っていた。


(これは逃げたほうが良いのか…でも追いかけてくるとか言っていたな。逃げても追いかけてくるとなると…困った。…待って戻ってきたらもう一度説得してみよう。)


 二時間ほどでミシェルはアジトに戻ってきた。本当に"アルシュヌの鷲"の長老達に話をつけてきたのであれば物凄い早さである。


「あの、ミシェルさん、やっぱり王都に来るのは止め…」


「ケイ、長老達を説得してきたから、これで大手を振って王都にいけるよ。」


 ミシェルは僕に嬉しそうに抱きついてきた。僕がそれをギリギリで避けるとミシェルがムッとした顔をする。

(危ない、これが色仕掛けというやつなのか…。とにかくミシェルが残るように説得するんだ。)


「ミシェル、地下迷宮(ダンジョン)で僕は危険な魔獣と戦う予定なんだ。危ないから付いてこない方が…。」


「えっ? ケイは死ぬつもりなのかい?」


「いや、そんなつもりは…」


「じゃあ、エミリー達にもそう言ってるのかい? それにあたいの方が戦いなら役に立つよ。」


「…ミシェルは犯罪者だろ。王都にはルーフェン伯爵がいるし、捕まったら…」


「ああ、王都じゃ別に仕事してないし顔もバレてないから。変装して偽名を使って何度も行ったことがあるよ。それにケイがいれば潜入もお手のものだろ?」


 ミシェルにはドヌエル伯爵家の進入時に僕の力を見せてしまっている。あれを知っていれば王都への潜入も僕がいればたやすいことぐらい彼女には想像がつく。


「じゃあ…」


「あたいを連れて行かないと、アルシュヌの街に入れなくなるよ…。」


「…参りました。」


 説得を論破され、ミシェルの脅しに屈した僕は、彼女を王都に連れて行くことになった。





「きゃー」


 僕の背中でミシェルが悲鳴をあげていた。今彼女は街道を走る僕に背負われているのだ。

 あの後、ミシェルの準備が整うと直ぐにアルシュヌの街を出て王都に向かうことにしたのだ。ミシェルは「二週間の旅の準備がー」とか言っていたが、僕が背負って走ると言うとびっくりしながらも素直に乗って来た。ミシェルがぎゅっと抱きついてくるので背中の感触がかなり危険だが、なるべく意識しないようにしている。


「ミシェル、静かにして。」


「そんなこと言ったってーもっとゆっくり走って~。」


 本当はこんな速さで王都に向かう必要はないのだが、これはミシェルが僕を脅したことに対するちょっとした仕返しなのだ。僕は高低差の有るスリリングな道程を選んで約100km/hで走っている。この世界では人はこれだけの速度を出す乗り物に乗ったことはない。深夜の森や山、谷、そして時には川を飛び越えるのだ、初めて絶叫マシンに乗った以上の恐怖体験かもしれない。


「もうちょっとで関所に着くから、そうしたらスピードを落とすよ。」


「ええ、もう関所に着いちゃうの?」


「ああ、だから静かにしていて欲しい。」


 スピードを落として関所の近くの街道に僕達は出た。僕なら関所を通らなくても山と森を踏破できるのだが、出てくるときにここを通っているのだから帰りも通ったほうが良いと考えたのだ。それにミシェルが本当に王都に入れるかどうかもここでチェックできる。





 結局、ミシェルは変装と偽名(タグも持っていた)で関所を通ることができた。

 ミシェルが言うには、


「ああ、入るのは簡単なんだよ。流石に顔がバレている奴は無理だけど、あたいはバレてないからね。逆に出るときは色々荷物を調べられたりするよ。」


 ということらしい。


 街に入るのに過度のチェックは人と物の流通に支障をきたすのでそうなるのだろうが、僕としては関所の機能としてこれで良いのかと疑問に思った。


 関所を抜けて王都までまたミシェルを背負って走ろうかと思ったが、王都までは徒歩で半日程度だし、ミシェルがさすがにもう無理って顔をしたので、ここからは普通に歩いて向かうことにした。

 その前に関所を抜けた辺りで休憩を取り朝食を摂ることにした。


「はい、これ食べて。」


「これは? 出掛けにゴソゴソしていたのはこれを作っていたのか。」


「ケイが作ったのを再現してみたんだけど…どう美味しい?」


 ミシェルが作ってきたのはハムと野菜を挟んだサンドウィッチであった。マヨネーズはギーゼン商会が最近売り始めたので入手はできるだろうが、どこからレシピを入手したのかマヨネーズも自作してあるようだ。


「へぇ、意外と料理も出来るんだな。」


「意外は無いだろ。あたいだって料理ぐらいするさ。でどうだい?」


「うん、美味しいよ。」


「そっか、良かった。」


 ミシェルは顔を赤くして照れていた。

 サンドウィッチは手のかかる料理ではないが、出掛けに手際よく作れたはミシェルがそれなりに家事をこなしているからだろう。


 朝食を食べ終えると僕達は街道を普通に歩いていった。徒歩半日と言っても僕とミシェルの歩く速度なら昼前に着いてしまうだろう。王都に向かう荷馬車の列に混じって三時間ほどで王都に僕達は辿り着いた。


「ようやく着いたね。」


「ああ、もうケイに乗るのはコリゴリだよ。ベットの上ならOkだけどね。」


「…ミシェル、オヤジ臭くなった?」


「えーっ!」


 せっかく料理のできるところを見せて上がったミシェルの評価が、今のオヤジギャクで一気に下がってしまったのだった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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