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どうやら僕の心臓は賢者の石らしい  作者: (や)
ルーフェン伯爵編
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アイテムの護衛は…

「貴方が、"死者蘇生アイテム"を見つけたのですか?」


「ええ、私達のパーティ(・・・・・・・)地下迷宮(ダンジョン)で見つけて、そしてそれは…。だから私は、地下迷宮(ダンジョン)の何処に"死者蘇生アイテム"が有るか知っています。」


「そうなのですか。…伯爵様、それなら私達を指名せずとも別の迷宮に詳しい冒険者に彼女の護衛を依頼すれば良いのでは無いでしょうか?」


 地下迷宮(ダンジョン)に入ったことのない僕達をルーフェン伯爵がわざわざ指名した理由が判らなかった。


「いや、彼女の話を聞いて、今王都にいる他の冒険者では無理だと儂は思ったのだ。だからこそお前を指名したのだ。」


 ルーフェン伯爵が依頼を早く受けろという感じで僕達を睨むと、まるで威圧されているように感じる。エミリー達もそう感じたのか萎縮している。これが上に立つ者との力量の差というものなのだろうか。


(王都なら地下迷宮(ダンジョン)で活躍する上級クラスのパーティがいるはず。そんな冒険者パーティより僕を選ぶ理由は…強力な魔獣が存在する為か。)


 強い魔獣が地下迷宮(ダンジョン)にいる場合、それを倒す最善の手は高ランクの冒険者パーティをぶつけるというのはセオリーだろう。しかし上級クラスのパーティでは無理と言われるような魔獣とはどんな化け物なのだろう。おそらく僕の力を当てにしているのだろうが、そんな所にエミリー達を連れていけるのだろうか?


「伯爵様、そう彼らを睨まないで下さい。すいません、ある(・・)魔獣を倒せそうな力のある冒険者を紹介して欲しいと伯爵様にお願いしたのです。」


 ソフィアが申し訳無さそうに言う。


魔獣を倒せそうな(・・・・・・・)ですか? もしかして物凄く強い魔獣が守っているのですか?」


 エミリーがソフィアに尋ねる。

 地下迷宮(ダンジョン)では要所要所に強い魔獣がまるでボスキャラの様にいると聞いたことがある。そういった魔獣を倒さないと迷宮の先に進めないというのは、まるでゲームのようであるが、地下迷宮(ダンジョン)とはそういうものらしい。地下迷宮(ダンジョン)は、神が人に試練を与えるために創りだしたという話もそういったところから来ているのであろう。


「そうなのです。"死者蘇生アイテム"を見つけた部屋には、それを守るように強い魔獣がいました。"死者蘇生アイテム"を手に入れるには、その魔獣を倒せる人が必要なのです。」


「それなら、ますますあたし達じゃ駄目じゃないの? まだ中級クラスだよあたし達。」


 エステルが呆れたように言う。


「いや、お前たちのランクは中級だが、実力はそれ以上だろう。それに大水晶陸亀(クリスタル・トータス)の甲羅を斬り裂いたというお前の剣の力が必要なのだ。」


「僕の剣ですか?」


「そうだ。アーネストの手紙に書いてあったぞ。なんでも大水晶陸亀(クリスタル・トータス)の甲羅を紙のように斬り裂いたと。」


 確かにアルシュヌの街での裁判の時、僕は大水晶陸亀(クリスタル・トータス)の甲羅を剣で斬り裂いた。そのことが手紙に書かれていたらしい。


「そうですが、それと依頼の件はどうつながるのか…もしかして魔獣とは…」


「いえ、大水晶陸亀(クリスタル・トータス)ではありません。倒すべき魔獣とは黒鋼鎧巨人(アイアン・ゴーレム)です。」



 黒鋼鎧巨人(アイアン・ゴーレム)は、全高三メートル程の黒鋼でできている巨人のゴーレムである。地下迷宮(ダンジョン)でこれに遭遇したら戦わずに逃げろといわれている程の足の遅さと、生半可な剣では傷すらつかない硬い体の持ち主である。たとえ上級の冒険者でもこれを倒すのは難しい。

 オーガの数倍の力を誇り、振り回される拳に当たれば重装甲の戦士でも一撃で致命傷を負ってしまう。また魔法にも完全とは言わないがかなりの耐性を持っており、魔法で倒すことは無理だと言われている。



「確かに、ケイさんなら黒鋼鎧巨人(アイアン・ゴーレム)を倒せるかもしれませんが…ソフィアさんのパーティも黒鋼鎧巨人(アイアン・ゴーレム)を倒したのでは?」


 リリーが疑問に思うのも当然だろう。"死者蘇生アイテム"を見つけたということはソフィア達のパーティは黒鋼鎧巨人(アイアン・ゴーレム)を倒したはずだ。


「私達のパーティは黒鋼鎧巨人(アイアン・ゴーレム)を倒していません。私と後一人を残して全滅したのです。」


 ソフィアはそう言って辛い事を思い出したのか目を伏せた。


「ではどうやって"死者蘇生アイテム"を見つけたのですか?」


黒鋼鎧巨人(アイアン・ゴーレム)と戦っている間に仲間の一人が部屋にあった宝箱を持ちだしたのです。そしてその中に"死者蘇生アイテム"が入っていたのです。」


「なるほど。では本当に"死者蘇生アイテム"は存在するのですね。」


 "死者蘇生アイテム"が有るという事実にリリーの顔が綻ぶ。


 しかし、


「ええ、ただその仲間が"死者蘇生アイテム"を勝手に商会に持ち込み、その後"死者蘇生アイテム"は行方が判らなくなってしまったのです。」


「それでは、アイテムの存在を示す証拠は無いということでは?」


 僕は最初、ソフィアの話を聞いて"死者蘇生アイテム"が存在すると思ったが、その後行方が判らなくなったとなるとソフィアの証言しか証拠がないことになり、やはり存在は不確定というべきだと気付いた。ルーフェン伯爵もそう思ったので、存在を信じていないのだろう。


「そうですね、アイテムが無いのではそう言われても仕方ありません。ですが、有った場所は判っているのです。もう一度取りに行けば…まだあるかもしれないのです。」


 ソフィアの話によると、黒鋼鎧巨人(アイアン・ゴーレム)の部屋には複数の宝箱が有ったそうだ。彼女の仲間が持ちだしたのはその一つだという。残りの宝箱にも"死者蘇生アイテム"が入っていると彼女は思っているようだ。


「それに、地下迷宮(ダンジョン)では一度取られて閉まった宝箱も時間が経つと復活するのです。」


(本当にゲームの地下迷宮(ダンジョン)だな。Wizみたいに迷宮の外に出たら宝箱が復活とかする地下迷宮(ダンジョン)とかも存在するんじゃないのか?)


 そんな僕の思いを他所に、ソフィアはどうでしょうという感じで僕達を見つめている。


(宝箱が複数あったということは、もしかすると"死者蘇生アイテム"も複数あるかもしれない。居るのかわからない神聖魔法の使い手を探して国外に出るよりはマシだろう。)


 僕はそう思ったが、エミリー達はどうだろうかと彼女達を見ると、僕に任せますという感じで三人に目配せされた。


「…ソフィアさんの言葉を100%信じるわけではないのですが、この依頼は受けたいと思います。しかし、受けるにあたっていくつか条件があります。」


「条件とな?」「条件ですか?」


 ルーフェン伯爵とソフィアが僕の条件出しに驚いていた。多分僕達がそのまま依頼を受けると思っていたのだろう。


「ええ、御存知の通り僕達は地下迷宮(ダンジョン)に入ったことがありません。魔獣はまだしも(トラップ)には対応できません。できればその方面に詳しい人を仲間に入れて欲しいのですが。」


「うぬぬ、(トラップ)に詳しい人材か…実はこの依頼はなるべく内密に進めたいのだ。下手に情報を漏らすわけにはいかぬのでな…あまり人を増やしたくはないのだが。」


 (トラップ)に関しては僕は名前ぐらいしか知らない。それを発見・解除するのはその道のプロ…おそらく盗賊になる。ルーフェン伯爵としては、この件を盗賊ギルドに知られたくはないのだろう。


「私も少しは(トラップ)について知っていますが、やはり専門の人が居たほうが良いと思います。しかし秘密を守ってくれるような方がおられるかどうか…。」


 ソフィアは地下迷宮(ダンジョン)に入っていただけあり、(トラップ)の発見・解除の重要性は判っているようだ。しかし同時に盗賊を入れた場合の秘密の漏洩について懸念を持っているようだ。


「今直ぐにとは言いませんが、地下迷宮(ダンジョン)に入るまでには見つけておく必要があると思います。後、もう一つの条件というかお願いなのですが、今僕の剣は壊れていて修理が必要です。あの剣または同等の武器が無いと黒鋼鎧巨人(アイアン・ゴーレム)とは戦えません。」


 僕のメイン武器である黒鋼甲虫ブラックスチール・スタッグビートルの角から作られた剣は、不死者(アンデッド)ドラゴンとの戦いで壊れた。王都の武器屋に修理をお願いしたが、無理だと断られてしまった。治すにはネイルド村のドワーフ鍛冶師ヴォイルの所に持っていく必要があるのだ。


「あの剣が壊れていると? 修理はできないのか?」


「ええ、ギルドから紹介された武器屋に持ち込んだのですが、修理を断られてしまいました。修理にはネイルド村まで行く必要があります。」


「そうか…剣が壊れているのでは戦えまい。ネイルド村までは馬で行けば往復で10日ほどか。…できれば明日からでも地下迷宮(ダンジョン)に入って欲しかったのだが…。」


「伯爵様、黒鋼鎧巨人(アイアン・ゴーレム)を倒せなければ意味がありません。武器を修理している間は、教会の方で時間を何とかしてみます。」


「仕方あるまいな。それに(トラップ)解除の手練を探す必要もある。」


 ルーフェン伯爵とソフィアの話を聞いていたが、どうやら二人は僕達に早急に地下迷宮(ダンジョン)に入って欲しかったようだ。


(緊急に呼び出したことといい、何か王宮、いやソフィアの態度からすると、"天陽神"の教会か? そこで何かが起きているのだろう。宗教がらみは厄介だからな、なるべく関わりにならない様にしよう。)


「あたし達で大丈夫なのかな?」


「エステルの言うとおりですね。少し不安を感じます。」


「ケイがいれば大丈夫だと思いますが、"天陽神"の神官が一緒というのが少し引っかかります。」


 僕がそんな事を考えている間にエミリー達も小声で話し合っていた。

 ちなみに"大地の女神"と"天陽神"の教会はその教義に相反するところがあり仲が良くない。それに"大地の女神"の信者が農民・平民に多いのに比べ、"天陽神"の信者は主に貴族であり、そう言った信者層の違いも対立の原因となっている。ソフィアはあまり気にしていないようだが、エミリーは何か感じるものが有るらしい。



 結局、指名依頼は受けることに決まったが、地下迷宮(ダンジョン)に入るのは、僕の剣が治り(トラップ)解除の手練を見つけてからということになった。


「冒険者ギルドには依頼を受けたことを今から報告してきます。後、冒険者ギルドで"死者蘇生アイテム"の事で僕達に監視がついているようなのですが、そちらはどうしますか?」


「儂が冒険者ギルドに話をつけておこう。」


「後、ソフィアさんとは、以後どうやって連絡をつければよろしいのでしょうか?」


「そうね…、"天陽神"の教会をご存知かしら。そこに来ていただければ私に連絡が着くようにしておきます。これを教会の人に見せて下さい。」


 そう言ってソフィアは印籠のような表に聖印の描かれた小さな箱を渡してくれた。


「判りました、なるべく早く剣を修理して戻ります。」


「お前たち、念の為に言っておくが、今回の依頼の内容は秘密だということを忘れないでくれ。」


 最後にルーフェン伯爵が念を押すように言って、僕達は王宮から開放された。





 王宮を出た僕達は、再び冒険者ギルドに戻ると指名依頼を受ける事をサラに伝えた。急な呼び出しだったこともあり、サラは僕達の事を心配してくれていたが、依頼主とちゃんと話しあったことを伝え、問題ないと安心させておいた。


 その後僕達は宿に戻ると、夕飯を食べながら明日からの予定を話し合った。


「剣の修理には僕一人で行くよ。」


「えーっ、ケイだけズルいよ。」


「私もアルシュヌの街に一度戻りたいのですが。」


「私は、こちらの教会で奉仕活動があるので、王都でお待ちしております。」


「リリー、エステル、二人を連れて行くと遅くなるから駄目だよ。僕一人なら三日もあれば帰ってこれるからね。」


「「嘘~」」


 リリーとエステルが驚いているが、王都からアルシュヌの街まで420kmほど、ネイルド村までは90kmで合わせて510kmである。僕一人なら100km/hいや200km/hで走れるのだ、途中で何もなければ半日でネイルド村まで辿り着ける。


「本当だよ。できれば今晩のうちに出発して、明日の朝までにネイルド村に行くつもりでいるよ。」


「うう、付いて行けないよね。」「ですね。」


「三人には、僕が帰ってくるまでにやってほしいことが有るんだ。」


「何?」「何でしょうか?」「はい、どの様なことでしょうか?」


「リリーには地下迷宮(ダンジョン)に入るに当たって、気を付けなければいけない情報の収集をして欲しい。ゴンサレスさんと冒険者ギルドで集められると思うんだ。」


「判りました。ついでに必要な物を揃えておきます。」


「10フィート棒ってこっちの世界でも有るのかな? "瑠璃"一緒に付いて行ってあげて。」


「判りました。」


「エミリーには"大地の女神"の教会で、"天陽神"の教会の動向を聞いて欲しい。対立してるからにはそれなりの情報を集めていると思うんだ。本当は関わりたくはないけど、今回の依頼に引っかかってきそうな気がするんだ。」


「ええ、あのソフィアという方はまだ何か隠しておられるようですので、その辺りも知っている人がいないか聞いてみます。」


「エステルには…地下墓地でミーナに会って"死者蘇生アイテム"でも代用が効くかの聞いて欲しいのと、できればジークベルトに吸血鬼(ヴァンパイヤ)としての戦い方を習って欲しいんだ。」


「でも彼とあたしとじゃ全然戦い方が違うんだけど?」


「身体能力が上がっているからね。聞いても無駄じゃないと思うんだ。」


「…判ったよ。」


 そんな会話をしながら夕食を終えた。





 僕の体内時計は21時を示していた。普通の都市であればそろそろ寝静まる頃であるが、王都はまだまだ明るく、人が大勢出歩いている。


「じゃあ、行ってくるよ。」


「「「いってらっしゃい~」」」


 剣を背負うと僕はネイルド村に向かって夜の街道を走り始めた。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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