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どうやら僕の心臓は賢者の石らしい  作者: (や)
ルーフェン伯爵編
62/192

依頼内容

07/04 ソフィアの爵位が高すぎたので、変更しましたm(_ _)m

「サハシ様、少々お待ち下さい。」


「はい?」


 僕達が冒険者ギルドを出ようとしたところで、受付嬢のサラに呼び止められてしまった。


「指名依頼の件で、少々お話があるのですが。お時間をいただけませんか?」


「…依頼の件ですか? 依頼主が何か言ってきたのですか?」


「ええ、実は先ほど依頼主から使いが来て、至急返事が欲しいと催促されたのです。」


 指名依頼の依頼主はルーフェン伯爵だが、何故そんなに返事を急いでいるのか僕には判らなかった。サラも昨日今日で依頼が催促されるのは不自然だと思っているようだ。


「そうですか。それで返事は何時まで返せば良いのでしょうか?」


「それが、できれば明日までと言われてまして。」


 サラが申し訳ないと言った顔をするが、彼女は別段悪くない。


「…また、急な話ですね。理由は聞かせてもらえるのでしょうか?」


「それが…ギルドの方には理由は説明が無くて…依頼主からは説明が欲しい場合は直接来てほしいと。」


 ルーフェン伯爵とは一昨日の晩に有ったばかりだが、これは再び僕に会いたいということだろうか。


(伯爵の指名依頼を受けるかどうか、エミリー達も交えて話を聞いた方が良いかもしれないな。)


「ルーフェン伯…依頼主に会うには、王宮の方に伺えば良いのでしょうか?」


「はい、王宮で良いそうです。後これを渡すようにと…」


 サラは丸めた羊皮紙を僕に渡す。内容は王宮でルーフェン伯爵に会うための紹介状だった。


「では、指名依頼については依頼主と話してから判断します。後で結果を知らせに来ますね。」


「判りました。」


 サラに見送られ僕達は冒険者ギルドから急遽王宮に向かうことになった。





「指名依頼って伯爵様からのやつだよね?」


 時刻は午後四時、外はまだ明るい。魔法アイテムのおかげで陽の下を歩けると言っても吸血鬼(ヴァンパイヤ)には太陽光は辛いみたいで、エステルは眩しそうにしている。


「ああ、地下迷宮(ダンジョン)に入って欲しいということだったんだが…本当は断ろうかと思っていたんだけどね。」


「ケイさん、前に一度入ってみたいと言っていませんでした?」


「いや、それは興味本位で入りたかっただけで…依頼で入るのは面倒な気がしてたんだ。」


「面倒ですか?」


 リリーが小首を傾げている。確かにゲームのノリで僕は地下迷宮(ダンジョン)に入ることを考えていたが、別に攻略しようとか思ってはいなかった。依頼で入るとなると条件を満たすまでは地下迷宮(ダンジョン)に縛り付けられることになる。途中で"やーめた"ができないのは面倒だなと思ったのだ。


「でも、王宮に向かうということは、依頼を受けるおつもりなんでしょうか?」


「ああ、状況が変わったんでね。依頼の内容次第だけど受けても良いかなとは思ったんだ。詳しいことは宿で話すよ。」


 そう言ってエミリーの方を振り返って、尾行してくるギルドの密偵らしき男達をさり気なく見た。尾行してきたのは冴えない浮浪者風の男達だった。尾行者の顔を念の為にデータベースに登録しておく。

 "死者蘇生アイテム"の情報の扱いから何か動きが有るだろうと予想していた僕は、上空に"瑠璃"を待機させて見張らせていた。おかげで複数の尾行者がいることに簡単に気付くことができた。


(王宮に行くことは判っているはずだよな。ということは"死者蘇生アイテム"の件は王宮は絡んでないのかな? さすがに王宮の中まで尾行はできないだろうし、今は無視でいいかな。)


 今のところ尾行されても困ることはないので、僕は"瑠璃"に尾行者の監視をさせそのまま王宮に向かった。





 王宮の正面から堂々と入っても良かったのだろうが、そんな目立つことはする必要も無いので、一昨日入った裏口に向かった。羊皮紙を見せると門番の兵士が案内の兵士を呼んでくれ、王宮の中に入ることができた。

 兵士に案内された部屋は一昨日と同じ部屋であった。



 部屋に入るとルーフェン伯爵が既に来ていた。部屋の中には護衛の兵士もおらず、不用心にもルーフェン伯爵ただ一人であった。


「待っていたぞ。」


 ルーフェン伯爵に促され、対面のソファーに座る。


「伯爵様、護衛がいないのですが、不用心では?」


「ああ、どうせお前が相手では護衛など居ても居なくても一緒だろうからな。」


「それはどういうことでしょうか?」


不死者(アンデッド)の軍団を一人で倒すような者など軍にはおらんよ。」


「…そうですか。」


(伯爵はどこまで僕の事を知っているのだろう。)


 伯爵が僕の力を何処で知ったのかは不明だが、少なくとも不死者(アンデッド)の軍団を倒したのは僕だと確信している事は判った。その上での今回の指名依頼であることが僕にも理解できた。


「…では、指名依頼の件についてお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 これ以上僕について何を知っているか聞くのは面白く無いと感じ、話題を指名依頼のことに変えて、その詳細について聞くことにした。


「ああ、儂もまどろこしいのは苦手でな…さっさと依頼をお前たちに受けて貰いたくて呼んだのだ。それにお前達はどうせ地下迷宮(ダンジョン)に入るだろうからな。」


 ルーフェン伯爵はそう言ってソファーにもたれかかった。まるで何もかも見透かしているような感じがするのは、僕が気持ちで負けているからだろうか。


「私達が依頼を受けるのは、確定なのでしょうか?」


 依頼を受けることが前提で話を進める伯爵にリリーが尋ねる。普通冒険者は緊急依頼などの特別な場合を除いて依頼を受諾するかどうか強制されることはない。

 王国からの指名依頼としてもそれを冒険者に強いるとなると冒険者ギルドも黙ってはいないだろう。


 昔とある国が冒険者ギルド及と冒険者に対して圧力をかけた事があった。しかし束縛を嫌った国内の有力な冒険者が多数国外に出て行くという事になってしまった。

 冒険者がいなくなると魔獣の討伐や地下迷宮(ダンジョン)の管理は全て国の軍が受け持つことになる。それにかかる国費と軍の損害による人的資源の減少でその国は一気に国力が落ち、結局十年と経たずに他国に併合されてしまった。

 そう言った教訓から各国は冒険者と冒険者ギルドに干渉することを止めているのだ。無論税金の支払いや緊急時の依頼は受けてもらうが、それ以外では自由に振る舞うことを許されている。その方が冒険者が集まり結果として国の利益につながる事になるのだ。

 

「そうだ、断ることもできるが…話を聞けばお前たちはきっとこの依頼を受けるだろう。」


「この指名依頼は、私達に何か関係がある内容なのでしょうか?」


 エミリーの質問にルーフェン伯爵は薄笑いを浮かべて答えた。


「ああ、何しろ"死者蘇生アイテム"に関わる話だからな。」


「…」


「そんなアイテムが有るのですか。」


「それがあればエステルを助ける事が…」


 エミリーとリリーが驚き、エステルは無言で唇を噛んでいた。



 ルーフェン伯爵の"死者蘇生アイテム"の発言で、僕は、いや僕達はこの依頼を断れないことが決まってしまった。





「伯爵様、僕は冒険者ギルドでそんな物(死者蘇生アイテム)は無いと言われたのですが、本当に"死者蘇生アイテム"は存在するでしょうか?」


「はは、それはそうだろう。もし"死者蘇生アイテム"が地下迷宮(ダンジョン)で見つかったなどと判れば、世界中の冒険者がこの王都バイストルに集まってくることになる。そんな事を冒険者ギルドが見過ごせると思うか?」


 僕は冒険者ギルドの情報屋で聞いた通りの事を話したが、それをルーフェン伯爵は笑って否定した。


 この世界で冒険者の役割は小さくない。魔獣退治や素材の確保など色々な事柄に冒険者の力が必要である。しかし冒険者は名誉やお金を求める者も多い。"死者蘇生アイテム"などという物があればそれを得るために集まってくるだろうし、冒険者ギルドも冒険者の自由意志を妨げることはできないのだ。

 そうなると冒険者が王都に集まり他の場所での活動が滞ってしまうだろう。先にあげた国による冒険者の圧力とは逆に冒険者の自由意志によって国の危機が訪れてしまうのだ。

 冒険者ギルドとしては、"死者蘇生アイテム"に関する情報を隠すしか無いのだ。


「それに、教会がそんな魔法アイテムの存在を認めると思うか?」


「そ、それは…認めないと思います。神様は…教会は人が生死を操ることなどきっと認めないでしょう。」


 ルーフェン伯爵の言葉にエミリーが顔を少し強ばらせて答えた。神の意思は判らないが、教会が"死者蘇生アイテム"を認めないのはエミリーには良くわかっているのだろう。


 神聖魔法として死者蘇生の奇跡(リザレクション)はあるがそれを唱えられる者はいない。それにいたとしても条件が厳しく、神の啓示が無いと蘇ることはできない。しかし"死者蘇生アイテム"であればそんな物が一切不要かもしれないのだ。教会ができない事(死者蘇生)を魔法のアイテムで行えるとなると、神への信仰が揺らいでしまう事になりかねない。


「まあ、そういう儂も"死者蘇生アイテム"が有るとは信じてはいないのだがな。」


「「「「えっ!」」」」


 ここまで来てルーフェン伯爵のカミングアウト発言に僕達はズッコケそうになった。


「ルーフェン伯爵、それは無いのでは?」


「誰?」


 突然聞こえた声に僕は驚く。するとルーフェン伯爵の真横にマントを着た女性が忽然と姿を現した。

 姿を現したのは、マントのフードを脱いで豊かな金髪を振り払う仕草も色っぽい妖艶な美女であった。胸には大きな宝石のついた聖印(ホーリーシンボル)のペンダントが掛かっていた。


(あれはアーネストが持っていた魔法のマント? いや同じ種類のアイテムだな。あの聖印は…"天陽神"だったか、あれを身につけているということは神官なのかな?)


「今回は顔を見せないはずだったのでは? バルバ男…いやソフィア殿。」


「どうせ依頼を受けてもらえば顔を合わせるつもりだったのです。依頼を受けてもらうことが決まったのですからもう良いのでは?」


「それはそうだが…まあ、良いか。お前たちに彼女が居たことを黙っていて申し訳なかった。こちらはソフィア殿、今回の本当の依頼主である。」


「伯爵様では無く彼女が本当の依頼主ですか? 彼女が"死者蘇生アイテム"を欲しがっていると?」


 突然現れた美女に驚かされたが、彼女が依頼主であることの方が僕としては気になる。神官である彼女が"死者蘇生アイテム"を求める理由が知りたい。


「そうだ。彼女から"死者蘇生アイテム"を探すのを手伝ってほしいと頼まれてな。そこで儂が冒険者ギルドに依頼を出したのだ。」


「ソフィアと申します。姿を隠していたことはお詫びします。本当ならあなた方が依頼を受けるのを確認してから、伯爵様にご紹介していただく予定だったのですが…どの様な方か先に様子をこっそり伺っておこうと思ったのです。そうしたら、私の好み…いえ、伯爵様が変な事を仰るので思わず声を出してしまいました。」


「そうですか。確かに隠れておられたのは少し礼儀には反しますが、依頼主ということですし、謝罪もしていただいたので…」


「お優しい方で良かった。」


 エミリー達が何故か僕にピッタリとくっついてくる。ソフィアの僕を見つめる目が熱っぽい様な気がするが、気のせいということにして僕は話を続けた。


「伯爵様の依頼では地下迷宮(ダンジョン)に指定の人物を連れて入って欲しいということでしたが、その人物はソフィアさんでしょうか?」


「ああ、その通りだ。彼女の護衛として地下迷宮(ダンジョン)に入って欲しいのだ。」


 ルーフェン伯爵は頷く。


「私達は地下迷宮(ダンジョン)に入ったことは無いのですが、ソフィアさんを連れて入っても守りきれるか判りませんが?」


「魔獣だけではなく、トラップもあると聞いています。経験の無い私達では、他の人を守りながら地下迷宮(ダンジョン)を探索するのは難しいと思うのですが?」


 リリーとエミリーはソフィアを連れて入るのには反対のようだ。目的の物は判ったのだ、彼女を危険に晒してまで連れて行く意味は無いと僕も思っていた。


「いえ、私が行かないと"死者蘇生アイテム"を見つけることはできないでしょう。」


「ソフィアさんがいないと見つからない…それは何故ですか?」


「五年前に"死者蘇生アイテム"を見つけたのは私…いえ、私達のパーティだったのです。」


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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