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どうやら僕の心臓は賢者の石らしい  作者: (や)
ルーフェン伯爵編
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死者蘇生の手段

 僕達が宿に辿りついた時、既に太陽は明るくなっていた。エミリー達は朝食も取らず部屋に入って行き、そのまま眠ってしまったようだった。僕も精神的に疲れを感じていたのか、そのままベッドに倒れこんで眠ってしまった。


 僕の目が覚めたのはお昼すぎ…内部時計は十四時を表示していた。僕はしばらくベッドに寝転びながらエステルを元に戻す方法について考えていた。


(エステルを元に戻すには死者蘇生の奇跡(リザレクション)を唱えられる人を探す必要がある。いやエミリーが唱えられるようになれば良いのか。これがゲームなら魔獣でも狩ってレベルを上げれば良いのだけど、そんな事はこの世界じゃできないだろうな。)


 こちらの世界はファンタジー世界ではあってもゲームのような世界ではない。スキルやレベルなどというものは無く地道に経験を積んでいくしか無いのだ。


(そういう意味じゃ僕の体はある意味反則だよな。)


 サイボークで有る僕は、体の動きをプログラムで制御可能である。乗馬の時の様に体の動きをデータ化できればそれを元に体を意のままに動かすことができる。"瑠璃"を見つけたことで動きを立体的にデータ化する方法も目処が着いたので、例えばジークベルトの様な動きも今なら再現できるようになった。そんなサイボーグの体と制御システムは反則(チート)と言われてもしかたがない。


 僕はベッドから起き上がると、今後の方針を相談するために女性陣の部屋に向かった。


 女性陣はまだ眠っているようでノックをしても返事が無かった。彼女達が起きるのを待っていても良いのだが、ゴンサレスに相談したかったので、宿の主人に「ゴディア商会の支店に行く」と彼女達への伝言を頼んで僕は宿を後にした。





 ゴディア商会は、昨日僕が大水晶陸亀(クリスタル・トータス)の素材の整理をしたおかげもあり、戦場のような慌ただしさは収まっていた。その代わり素材の商いが増えてきたのだろうか多くの商人が出入りしており、活気にあふれていた。


「ケイさん、昨日はありがとうございました。」


 ゴンサレスを探していると向こうから僕を見つけて駆け寄ってきた。どうやら商談をまとめ終えて手が空いたところらしかった。


「少しお話が有るのですが、時間は空いてますか?」


「ええ、昨晩の件ですか?」


「はい、少し相談にのっていただきたいのです。」


 ゴンサレスは頷くと僕を商会の奥にある商談のための部屋に連れて行った。





「なるほど、死者蘇生の奇跡(リザレクション)ですか。そんな神聖魔法が有るとは私も知りませんでした。」


 僕は昨日ミーナに聞いた内容をかいつまんでゴンサレスに話して聞かせた。


「ええ、エミリーが唱えられない現状では、誰か唱えられる人を探したほうが良いかと思っているのですが…王都の教会にいないとなると…バイストル王国にはいないのかもしれません。そうなると他の国に行くしか…」


「ケイさん、それは死者蘇生の奇跡(リザレクション)でなければ駄目なんですか?」


「えっ、どういう意味でしょうか?」


「もし死者を生きかえらせるだけで良いのであれば…、死者蘇生の奇跡(リザレクション)ではなく、同じことができる魔法のアイテムでも良いのではということなんですが…。」


「もしかして、そんな魔法のアイテムが…有るのですか?」


「ええ、私も噂に聞いただけなのですが…そんな魔法のアイテムが、確か五年ぐらい前でしたか、地下迷宮(ダンジョン)で見つかったという話が商人の間で流れたのです。」


「…そんなアイテムが…その話は何処で聞かれたのですか?」


「私は知り合いの商人から聞いたのですが、五年前の王都の商会や商人の間では、集まるとその話をしていました。王都のある商会に効果不明のアイテムが持ち込まれて、それを鑑定したところ"死者蘇生アイテム"だったという話なのです。」


(復活薬? それとも生命の水晶みたいなものか? でもまるで都市伝説みたいな話だな。)


 ゲームでは死者を復活させる(ポーション)やアイテムが出てくるものがある。それと似たようなものが有るのかもしれないとは思うが、ゴンサレスの話では都市伝説の領域を出ていない。


「…その話が本当なら、地下迷宮(ダンジョン)にはそれが眠っている可能性が有るということなのでしょうか?」


「それは、判りません。ただそういった魔法のアイテムを探す手もあるのでは無いかと思ったのです。」


「そうですね。確かにそう言った方法も検討したほうが良いですね。ゴンサレスさんありがとうございます。」

 ゴンサレスにお礼を言うとその噂の出処の商会を教えてほしいとお願いしたが、その商会は噂がたった直後に盗賊団に襲われて店員が全員殺されて消滅してしまったらしい。

 確かに"死者蘇生アイテム"が本当にあれば王侯貴族は競って買い求めるだろう。売れば一生遊んで暮らせるほどの金額になるのだから盗賊に狙われても不思議ではない。その商会が盗賊に襲われて消えてしまったおかげで逆にそのアイテムの存在の信憑性が上がったような気もする。


「商会が無くなってしまったのでは…本当にあったかどうか知っている人はもういないのですか?」


「そうですね、持ち込んだ冒険者が判れば良いのですが、それも不明です。もしかしたら王都の商会の連中なら知っているかもしれませんが、私も王都ではあまり知り合いが多くないのです。……そうだ、冒険者のことですから、冒険者ギルドの情報屋で聞いてみてはどうでしょうか?」


「情報屋ですか?」


「ええ、中級なら利用できますよね。冒険者がらみのことですし、冒険者ギルドの情報屋なら何かしら情報が…得られるかもしれませ。」


 ゴンサレスさんの言葉の間がちょっと気になったが、冒険者ギルドの情報屋にアイテムの有無を聞いてみるのはありかもしれない。僕はゴンサレスさんにお礼を言って冒険者ギルドに向かった。





 冒険者ギルドは相変わらずの盛況具合でフロアは冒険者で溢れかえっていた。どのカウンターも長い列ができているが、モニカが担当しているカウンターだけは列が短かった。


(まあ、依頼を受けるんじゃないし彼女でも良いか。)


 僕は一番待ち時間の短い(・・)はずのモニカのカウンターの列に並んだ。

 他の列に比べ若い男性が多いのはどうやら彼女が目当てらしい。並んでいるのは低クラスの冒険者達なのだろう、依頼内容も簡単なものが多いのだが、モニカに話しかけるのが目的なので彼女の手際の悪さも相まって物凄く時間がかかっている。おかげで僕の順番は他のカウンターに並んだほうが速かったというぐらいに遅れて回ってきた。


「えーっと依頼書はお持ちでしょうか?」


「いえ、冒険者ギルドの情報屋を使いたいですが、此処での手続きや伝手の取り方を教えて下さい。」


「情報屋ですか? はい、少々お待ちを。」


 元気良く返事をしてモニカはカウンターを後にした。元気一杯なところが彼女の良い所なのだろうが、相変わらず物覚えと手際は悪い。結局モニカは手続きの仕方が判らず、他の受付嬢や職員に色々聞いていた。

 王都のギルドでも情報屋の利用には中級クラス以上である事が条件なので、タグを見せて中級クラスであることを確認すると、モニカは僕をギルドの奥の情報屋のカウンターに通してくれた。


 王都の情報屋のカウンターは小奇麗で二十代半ばぐらいの美人さんが座っていた。


「どの様な事をお調べになりますか? 犯罪に関わるような情報は規約上提供できませんが、それ以外であれば依頼の裏とりから魔獣の生息地など様々な情報を取り扱っております。」


 アルシュヌの冒険者ギルドの情報屋とは違いまるでどこかの大手探偵事務所の様な応対である。


「えーっと、五年前かな? 商人たちの間で噂になった"死者蘇生アイテム"について知りたいんですけど。できればそれを持ち込んだ冒険者に会いたいのですが?」


「…はい?」


 美人さんが小首を傾げて聞き直してくる。僕は何か変な事を言ったかなと思い言い直す。


「死者を蘇らせるアイテムが昔見つかったと…」


「そんなものありませんよ?」


「でも噂が…」


「いや、ないものは無いのですが? もし調査をご要望されるなら一応調査はしますが、五年前に散々調べたのですよ。その結果そんな魔法のアイテムは無いという結論になったのです。それでも調査されますか?」


「は、はぁ、無いということが判れば…判りました。じゃあ、これで失礼します。」


 "死者蘇生アイテム"についての調査依頼はギルドの情報屋にけんもほろろに断られてしまった。確かに五年前に噂になった時に調査はされているのだろうからアイテムの有無は判っているのだろう。しかし今の情報屋の態度はこの件に関わりたくないという感じであった。


(五年前に何かあったのだろうか?)


 そう思いながら情報屋から出て行くと、


『慶、今の人の態度はちょっとおかしくありませんか?』


 情報屋のカウンターを後にした所で"瑠璃"が僕に話しかけてきた。


『"瑠璃"、おかしいってどういうことかな?』


『彼女は嘘を付いていると思います。』


『嘘? 僕のセンサーでは、彼女は嘘を付いている風には見えなかったけど?』


『脈拍とか体温を利用した嘘発見方法はごまかせますからね。情報屋ともなればその程度は抑えこむでしょう。これは私の()なのですが、彼女は何か隠していますね。』


『そうなの…か?』


 人工知能である"瑠璃"の感というのも変ではあるが、こちらに来て彼女は魂を得たのだから人間と同じように第六感があっても不思議ではないのかもしれない。それにネットで多種多様な人と会話をしてきた"瑠璃"の経験は僕とは比べ物にならないのだ。ここは彼女の感というものを信じてみたほうが良いかもしれない。


『ちょっとあの人に付き纏ってみます。』


 そう言って"瑠璃"は情報屋の方に飛んでいった。僕は"瑠璃"を送り出すと、彼女が何か情報を掴んでくるまで冒険者ギルドのホールで時間を潰すことにした。





「やっぱり、地下迷宮(ダンジョン)で魔獣を倒して素材を確保する依頼が多いな。今まで聞いたことのない魔獣も多いな。」


 ギルドホールで依頼書が貼り付けてある掲示板を見て僕は時間を潰していた。地下迷宮(ダンジョン)の中の魔獣は森の中では見かけない奴が多いようだ。また地下迷宮(ダンジョン)の中で発見されるアイテムを求める依頼も多い。中には未だ人が作ることできない(ポーション)や魔法のアイテムなどを求める依頼もあった。


 十分ほどそうやって掲示板を見ていると、"瑠璃"から連絡が入った。


『慶、少し判りました。』


『"瑠璃"、どうだった?』


『どうやら情報屋は"死者蘇生アイテム"に付いて情報を出せない…いえ存在しないと言うこと(・・・・・・・)にしなければならないみたいです。慶が出て行った後、何やら情報統制されていることを愚痴っていました。』


『そうか…。それ以外には何かあったかい?』


『あと、慶が"死者蘇生アイテム"に付いて情報を求めに来たことをギルドマスターに報告していました。』


(つまり隠蔽は冒険者ギルドレベルなのか。それなら情報は入手しづらいな。でもおかげで地下迷宮(ダンジョン)に"死者蘇生アイテム"が存在する可能性が高くなってきたな。)


『"瑠璃"もう戻ってきて良いよ。』


 僕は"瑠璃"が戻ったのを確認して、冒険者ギルドを出ようとしたのだが、丁度そこにエミリー達がやって来た。


「ケイ置いて行くなんて酷い~。」


「最初に言伝た場所にいてくださいよ。」


「起こしてくれればよかったのに。」


 一人で彷徨いてしまったことを三人に怒られてしまった。


 昼間なのでエステルが外に出ていられるのは、ミーナから貰った魔法のアイテムのおかげである。魔法のアイテムはブラックオニキスのような宝石が着いたペンダントで、吸血鬼(ヴァンパイヤ)が日中活動できるように太陽光を防ぐ効果がある。ミーナはエステルに配下の者が迷惑をかけたお詫びだと言ってこのペンダントをくれたのだが、ジークベルトの話ではかなり貴重な魔法のアイテムらしい。

 しかしこのアイテムのおかげでエステルは僕達と時間を合わせて活動ができるようになった。


「ごめん、ごめん。一応ノックはしたけど、起きてこなかったからね。」


 冒険者ギルドで立ち話しているのもなんなので宿に戻って集めた情報を彼女達に話そうと思っていたら、


「サハシ様、少々お待ち下さい。」


 昨日と似たようなパターンで受付嬢のサラが僕を呼び止めた。



ここまでお読みいただきありがとうございます。

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