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どうやら僕の心臓は賢者の石らしい  作者: (や)
ルーフェン伯爵編
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真祖の目覚め

 石の扉をくぐるとそこは巨大な岩石を繰り抜いて作られた部屋であった。周りを取り囲む巨大な岩の壁に圧倒されそうになる。部屋の中は魔法の明かりが灯されており昼間のように明るかった。


 三十畳はありそうな部屋の真ん中に舞台のように高くなった場所がありそこに棺が置かれていた。


「あれが、ご主人様の棺だよ。」


 吸血鬼(ヴァンパイヤ)の真祖の棺なのだから、ツタンカーメンの金ピカの棺とは言わないがもう少し装飾が有っても良い気がするのだが、棺は特に豪華でもなく普通の木製であった。比べるなら外にあった棺のほうが豪華であった気がする。


「ご主人様は質素がモットウでね。棺も状態停止魔法(ステイシス)がかかっている以外は普通の物だよ。」

 棺に関しての考えが僕の顔に出たのだろうか、ジークベルトが棺が地味な理由を説明してくれた。


「それよりご主人様を起こさないのかい?」


「ああ、核を渡してくれれば直ぐに起こしてみるよ。その為に昨日は頑張って魔力(マナ)を集めてきたんだ。」


「ジークベルト、まさか人間を…」


「いや、魔力(マナ)の大半は魔獣から集めたものだよ。まあ、僕達を崇めている人もいてね、そういう人達からも若干もらったけどね。」


 不老不死は人間が追い求める願いの一つである。吸血鬼(ヴァンパイヤ)になっても生きながらえたいという人達がこの世界にもごく少数だがいるらしく、ジークベルトはそういった人達からも魔力(マナ)を分けてもらったのだ。


「別にこっちから欲しいって言ってないんだけど、あっちが勝手に崇めてくるんだよ。大抵貴族のお年寄りなんだけど、そこまでして永遠の命が欲しいのかな。まあくれるって言うからもらってるけど、別に吸血鬼(ヴァンパイヤ)にしてやると約束なんかしていないんだけどね。」


 しれっとジークベルトはそう言う。僕はアコギだなとは思ったが、吸血鬼(ヴァンパイヤ)になっても長生きしたいという貴族達が騙されても同情する気にはなれなかった。


「じゃあ、ご主人様に魔力(マナ)を注ぐよ。核を貸してくれないか?」


 僕から核を受け取ったジークベルトは、棺の上に核を置くとそこに手を乗せた。しばらくすると魔力(マナ)が彼の手を通じて棺に注ぎ込まれていった。



《マナの移動を確認しました。50ミューオン/秒でマナが注ぎ込まれています。核によるマナの増幅を確認。増幅率500%でマナを増幅中。》


 ログから、大水晶陸亀(クリスタル・トータス)の核に魔力(マナ)を通すことで増幅できるらしい事がわかった。


 ジークベルトは一分ほど魔力(マナ)を注いでいたが、棺に特に変化はない。ついには魔力(マナ)が尽きたのか疲れた顔をして座り込んでしまった。


「何故だ、これだけ魔力(マナ)を注いだのに…何故ご主人様は起きてくれないのだ。」


「だめ…だったのか?」


「…すまない。これ()があればいけると思ったんだけど。」


 座り込んだジークベルトが悔しそうに床を叩きつけた。


「棺を開けて直接魔力(マナ)を送り込んでみたら…」


「いや、この棺は勝手に開けることはできない。中からしか…ご主人様が起きるまで閉じたままなんだ。」


 中にいるご主人様の力なのか棺の蓋は開かないらしい。


「もし開ける事ができたとしても、勝手に開けて中を見ることは僕が許さないよ。」


 確かに勝手に棺を開けて女性の寝顔を見るのは失礼かもしれない。しかし、僕達はなんとかしてジークベルトのご主人様に起きて貰う必要がある。


(ジークベルトが送り込んだ魔力(マナ)は一万五千ぐらいだったな。リリー達に何時もしているマナ注入(キス)で六百ぐらい注入しているかよな。つまり普通の人間の二十五倍も注がれても起きないのか…魔力(マナ)じゃなくて何か別な物が必要なんじゃないのか?)


 そんなことを思いながら棺の上の核に手を置くと、僕はジークベルトがやったように魔力(マナ)を注いでみた。


《マナを注入中: 1ミューオン/秒で伝達されています。核によるマナの増幅を確認。増幅率1000%でマナを増幅中。》


 僕の心臓(賢者の石)が生み出す魔力(マナ)と相性が良いのだろうか、ジークベルトの時より核の増幅率が上がっていた。


(まあダメ元だしもっと注いで見よう。出力を10%に上昇だ)


《主動力:賢者の石 10.0%で稼働させます。》


《マナを注入中: 10ミューオン/秒で伝達されています。》


 出力を上げて僕は更に魔力(マナ)を注入してみる。


(吸われている?)


 魔力(マナ)の注入の感覚に違和感を感じたが、三十秒ほど注入してもやはり変化はなかった。僕は諦めて核から手を離し、棺から離れようとした。


 バタン


 僕が棺から離れようとした時、突然棺の蓋が開いてしまった。


「えっ?」


「開いたわ?」


「目覚めたの?」


 蓋が開きジークベルトのご主人様が目覚めたと思った皆が棺に駆け寄ってきた。




「ご主人様…相変わらずお綺麗です。」


「ご主人様って…幼女なのか?」


「「「…」」」


 棺桶の中には金髪の美幼女が巫女装束(?)に身を包んで眠っていた。吸血鬼(ヴァンパイヤ)の真祖なので見かけ通りの年齢ではないだろうが、あまりにもお約束通りな姿だったので、僕は呆れて呟いてしまった。

 エミリー達はどんな姿を想像していたのか判らないが、幼女なのか巫女装束なのかその姿に絶句しているようだった。


(いやまあ、配下が狼男と虎男だったから化粧の濃い筋肉ダルマな人とかだったらどうしようかな~とは思ってたけど、幼女はベタすぎるだろ。しかも巫女装束って…。)


 皆の注目が棺で眠る幼女に集中した。僕達は棺の中の幼女が目覚めるのを今かと待っていた。


 :

 :

 :

 :


 待っていた。


「起きないのか?」


「ご主人様…起きて下さいよ。ご主人さま~。朝ですよ~」


 蓋が開いたのに起きる気配のないご主人様に対しジークベルトが呼びかけているが、幼女は全く起きる気配がない。


(ジークベルト、吸血鬼(ヴァンパイヤ)に対して"朝ですよ~"は違うだろ。)





 十分ほど経過し、ジークベルトは棺の横でずっと呼びかけているが、幼女が起きてくる気配はない。


「ケイ、どうするの? 起きてくれないと…」


「リリーさん、眠っている方を起こす魔法とか無いのでしょうか?」


「エミリーさん、魔法も万能じゃありません。眠っている人を起こす魔法なんてありませんよ。」


 エステルは心配そうに棺の方を見ており、リリーとエミリーは起こすための方法を話し合っていた。

 僕もどうしたものかと考え込んでいたのだが、そんな僕に"瑠璃"が話しかけてきた。


「慶、こういった時はお約束の出番では?」


「…いや、言いたいことは判るけど相手があの姿じゃ犯罪じゃないか?」


「大丈夫、それにこっちの世界には児童○ルノ法も○行条例もありません。それに姿は幼女でも年齢はおそらく数百歳ぐらいいっているはず、問題ありませんよ。」


「"瑠璃"さんケイさん、何か起こす方法が有るのですか?」


 僕と"瑠璃"の会話が聞こえたのか、エミリーとリリーが問いかけてきた。お約束な行為についてはあまり女性陣に聞かれたくないのだが、"瑠璃"はもしかして彼女達に聞かせるために内部通信ではなく音声出力したのかもしれない。

 "瑠璃"は、エミリー達に"眠れる森の美女"の話を簡単に説明した。


「…という物語がありまして。私達のいたところでは王子様のキスで眠れる姫が目覚めるというのは良く知られているのですよ。」


「いや、それ架空の話だからね。みんな信じないでね。」


「「「王子様のキス…」」」


 "瑠璃"の話を聞いて、エミリー達が何かうっとりした目をしたが、キスをする相手が自分達で無いことに気が付くと、僕を睨みつけた。


「ケイ、それは最低な方法だよ。」


「…ケイさん、子供にキスは駄目でしょ。」


「もしかしてケイはあんな若い子の方が好きなの…」


「いや、しないから。それにあんな姿でも僕達よりかなり年上なんですよ!」


 三人にダメ出しされて、僕は慌ててキスなんかしないよと言い訳をしていた。




「ケイ、何か良い方法があるのかい?」


 呼びかけるのに疲れたのか、騒ぎに気付いたのか、ジークベルトが僕達の方にやって来た。


「いや、こっちの話だ。」


「そうですよ、ジークベルトさんがすれば良いんですよ。あのですね…」


 ジークベルトを見て、エミリーが良いことを思いついたという感じで"瑠璃"に聞かされたキスの話を説明した。


「いや、それはさすがに。僕がご主人様にそんなことをするわけには…。」


「でも私達は彼女に目覚めてもらわないと駄目なんです。エステルが吸血鬼(ヴァンパイヤ)になってしまった原因はジークベルトさんにもありますよね。なんとかして彼女を目覚めさせて下さい。」


 エミリーが真剣にジークベルトを説得している。そんな彼女の剣幕にジークベルトはタジタジだった。いや僕もそんな真剣なエミリーを見るのは初めてでちょっと驚いていた。


そんな事(キス)で起きるとは思えないのですが…」


「そんなのやってみないと判りませんよ。エステルとリリーも手伝って。」


「そうだね、やってみないと」「判りませんね。」


 女性三人に掴まれてジークベルトは棺の方に引っ張られていく。


「いや、待ってくれ。そんなこと僕はできないよ~。」


 ジークベルトの力なら彼女達の拘束ぐらい跳ね除けられるはずなのに、何故か引っ張られていく。


(ジークベルト、本当はキスしたいんじゃないのか?)


 ジークベルトのそんな姿を呆れながら僕は見ていた。三人に引きづられてジークベルトが棺の側に近寄り中を覗きこもうとした瞬間、その目の前でバタンと蓋が閉じてしまった。


「何故。」


「「「…」」」


 ジークベルトは呆然として立ちすくみ、エミリー達は何か怖い目で棺を睨んでいた。


「ケイ、こっち来て。」


 怖い顔をしてエステルが手招きするので、仕方なく僕は棺に近寄った。


「何か御用ですか?」


「ケイ、そこに立ってくれない?」


 エステル達はジークベルトを押しのけ、棺の側に僕を立たせる。すると蓋がバタンと開いた。


「…開いたね。」


「起きてるよね。」「ですね。」「邪悪です。」


 女性陣の目が怖いです。


「このような邪悪な存在は浄化してしまいましょう。」


「だね。」


「ええ、賛成です。」


「ちょっと、エミリー待って。それは不味いよ。」


 死霊退散(ターンアンデット)を唱え始めたエミリーを僕が慌てて止めに入った。


「ケイ、どいて下さい。浄化できません。」


「そうです。ケイさんどいて下さい。」


「ちょっと、待って。リリーも賛成しないの。彼女がいないとエステルが元に戻れないかもしれないんだよ。」


「チョッ、君達ご主人様に何をするんだ。」


 ジークベルトも慌ててエミリーを止めに入る。

 死霊退散(ターンアンデット)を唱えようとするエミリーを必死で止める僕とジークベルト。そしてそれを邪魔しようとするリリーといった感じで四人が棺の周りでドタバタとしていたのだが、


「いつまで眠っているフリしてるの。早く起きなさいよ。」


 そう言って、一人フリーだったエステルが力任せに棺をひっくり返してしまった。


「きゃぁー」


「ご主人様~」


 エステルによって見事に卓袱台返しされた棺から放り出されたジークベルトのご主人様が、悲鳴を上げて空を舞った。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

お気に召しましたら、ご感想・お気に入りご登録・ご評価をいただけると幸いです。誤字脱字などのご指摘も随時受付中です。

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