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どうやら僕の心臓は賢者の石らしい  作者: (や)
ルーフェン伯爵編
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指名依頼x地下墓地

 僕達は奥の部屋に通されてしばらく待つことになった。サラは本人確認する為にと僕のタグを持っていった。


「ケイさん、指名依頼なんて誰がしてきたのでしょうか?」


「うーん、僕にも判らな…あっ、もしかしてルーフェン伯爵かも。」


 僕はそこで昨日ルーフェン伯爵に会ったことを思い出した。


「ルーフェン伯爵様? 昨日王宮で何かあったんですか?」


「昨日不死者(アンデッド)軍団の顛末を説明しに王宮に行ったんだけど、そのときに出てきたのがルーフェン伯爵様だったんだ。話が終わった後、伯爵は僕を呼び止めてね、仕官しないかと誘われたんだ。なので、王都で僕を指名してくるのは伯爵様しかいないかなと。」


「なるほど。そうなると依頼は魔獣の討伐とかではなく、不死者(アンデッド)軍団の調査とかでしょうか?」


 指名依頼の内容についてリリーと二人で話し合っていると、受付嬢のサラが部屋に入ってきた。


「おまたせしました。」


 彼女は僕達に依頼の書かれた羊皮紙を渡した。羊皮紙は丸められ蝋で封印されている。


「開けて良いのでしょうか。」


「はい、どうぞご覧ください。あと、タグをお返しします。」


 僕は蝋の封印を破り羊皮紙に書かれている依頼内容を読んだ。リリーも横から覗きこんで読んでいる。


「…あのう、依頼の内容に付いて質問してよろしいでしょうか?」


「大丈夫ですが、私もその依頼の内容については知りませんので…指名依頼は依頼主が秘密にしておきたい事が書かれている場合もありますので、そういった内容でなければお答えできます。」


「そうですね…多分聞いても大丈夫なことだと思います。地下迷宮(ダンジョン)に人を連れて入ってくれという依頼は良くあるのでしょうか?」


「…まれにはあると聞いています。」


 羊皮紙に書かれていた依頼の内容は、地下迷宮(ダンジョン)に指定の人物を連れて入ってくれというものであった。もちろん依頼主はルーフェン伯爵で、彼個人の依頼ではなく王国軍の依頼となっている。


(ルーフェン伯爵は昨日会ったばかりの僕に何をさせたいんだろう。)


「私達は地下迷宮(ダンジョン)に入ったことは無いのですが、そんな冒険者に依頼する内容でしょうか?」

「普通はあり得ませんね。地下迷宮(ダンジョン)は魔獣だけでなく罠も多いのです。力だけではなくそう言った罠を回避することも必要なので、私であれば地下迷宮(ダンジョン)に潜るのに慣れた冒険者に依頼しますね。」


「そうですよね。」


 普通に考えれば地下迷宮(ダンジョン)に入ったこともない冒険者に依頼する内容ではない事は明白だ。これが見も知らぬ人からの依頼であれば断っただろうが、依頼主はルーフェン伯爵である。僕とリリーはどうするか考えこんでしまった。


「依頼の期限は書かれていますでしょうか?」


 そんな僕達を見てサラが尋ねてきた。


「期日は…特に書かれていません。」


「ではこの場でお返事をしなくても良いと思いますので、依頼を受けるのか断るのかについては一旦保留されてもよろしいのではないでしょうか。」


「保留…で良いのでしょうか。」


「はい、強制依頼ではないのですし、期限がないようでしたら保留でも構いません。」


 サラがそう言ってくれたので、僕とリリーは依頼については一旦保留として冒険者ギルドを去った。





「ケイさん、あの依頼ですが…。」


「今はエステルの体を治す事が一番重要だからね。それが終わるまでは受けたくはないな。」


「ですね。」





 次に僕達が向かったのはゴディア商会の王都支店であった。

 昨日に引き続き商会では大水晶陸亀(クリスタル・トータス)の素材の整理とその商談対応で戦場の様な有り様であった。


「ああ、ケイさん何か御用ですか?」


 そんな忙しい中、唯一暇そうにしていたヘクターが、僕達が訪れたのに気付くと声をかけてきた。


「ヘクターさんはこんな所にいてよろしいのですか?」


「私の仕事は大水晶陸亀(クリスタル・トータス)の素材の売上を調査して課税することですからね。此処で見てるのも仕事なんですよ。」


見ている(・・・・・)だけですか。」


 おそらく暇を持て余していたのだろう、ヘクターは僕やリリーと雑談を始めた。

 ヘクターはルーフェン伯爵家から派遣された徴税官である。それならルーフェン伯爵本人についてなにか知っていることは無いかと思い、伯爵に付いて聞いてみることにした。


「伯爵様ですか? 王都にずっとおられるので私は直接会ったことはありませんね。今は国軍の指揮をとっておられるらしいです。それが何か?」


「昨日王宮で会う機会があったのですが…なかなか豪快な方でした。そうですか、ヘクターさんは会ったことがありませんか。…所でゴンサレスさんが何処にいるか知りませんか?」


「倉庫の方じゃないでしょうか?」


 ヘクターに指名依頼の件を話してもしょうがないと思い、僕はそこで話を切ってゴンサレスに会いに行った。




「ケイさん良い所に来てくれました。」


 倉庫に向かうと、ゴンサレスは大水晶陸亀(クリスタル・トータス)の素材の整理に四苦八苦していた。取引のための素材の整理が追いつかなくて苦労しているらしい。


「ケイさんならなんとかしてくれるとアベルさんが言うので、来てくれないかなと噂していたんですよ。」


「僕は商会の人間じゃないのですが…。」


「ギーゼン商会での件はアベルから聞いております。中級クラスの方に雑務の依頼を出すのは心苦しいのですが、どうかお願いします。」


 ゴンサレスには色々とお世話になっているので、頭を下げて頼まれると断りづらい。僕は仕方なく倉庫の整理と手伝うことになった。

 素材のリストは出発前に僕の中に入力済みなので、それを元に実物を倉庫に整理して入れる。水晶の素材などは一つ100kg以上の物もあり人力でそれらを運ぶのは大変であるが、僕の腕力なら余裕で持てる。てきぱきと整理を行いお昼すぎには全て片付けることが出来た。


「いや~、助かりました。」


「無計画に物を置き過ぎなんですよ。」


 リアルで倉庫番をやるはめになるとは思わなかった。僕は何処に運べばちゃんと収まるか計測と計算ができるのでこれだけの短時間で片付けることができたのだ。支店の人だけだとおそらく一週間以上かかっただろう。




 倉庫の整理が早く終わったので、ゴンサレスと遅い昼食を食べながらジークベルトから届いた手紙に付いて話をした。


「では、今晩ジークベルトに会うのですか。」


「ええ、多分そこで彼のご主人様に合わせてくれると思うのですが。」


「そうですか…エステルさん、治ると良いですね。……後、ジークベルトにたまには私の方に顔をだすように言っておいてくれませんか。」


「判りました。伝えておきます。」


 ゴンサレスはしばらく王都にいるので、そのことをジークベルトに伝えておくと約束して僕達はゴディア商会の支店を後にした。





 支店を後にした僕とリリーは冒険者ギルドで聞いておいた冒険者向けの武器や防具を売っている店による事になった。


「こ、これを修理ですか?」


 店の主人は顔を引きつらせていた。彼の目の前には僕の剣が置かれている。


「ええ、ちょっと無理な使い方をしたので手入れが必要なんですが…修理は出来ますか?」


 不死者(アンデッド)ドラゴンと戦った時に限界以上に魔力(マナ)を流して斬ったため、剣は歪んでしまい色も灰色に変化していた。


「ちょっと調べさせてもらいますが……重っ。こんな剣何処で入手されたのですか?」


「ネイルド村のドワーフの鍛冶師から譲ってもらいました。」


「あの村のドワーフの鍛冶師というとヴォイルですか。彼奴がこんな武器を作ったとは…材料はなんと言っていましたか?」


「ヴォイルを知っているのですか。材料は黒鋼甲虫ブラックスチール・スタッグビートルの角と言っていました。」


「ええ、当店にも彼の作った武器(作品)が時々持ち込まれますので。しかし黒鋼甲虫ブラックスチール・スタッグビートルの角とは…これは当店では無理です。王都を探しても治せる人はいないでしょう。潰して別な剣に打ち直すなら出来るかもしれませんが、修理であればヴォイルにお願いしたほうが良いと思います。」


 ヴォイルは王都にまで名前が知られている武器鍛冶師だった。ヴォイルが若気の至りで作ったという剣はどうやら彼しか直せないようだ。


「…そうですか。仕方ありません。この店で売っている剣を見せてもらえますか。」


「それはもう、どうぞご覧になって下さい。」


 店主が揉み手しながら僕を案内する。王都の武器屋だけあり品揃えは豊富で、剣、槍、弓など様々な武器が豊富に並んでいる。


地下迷宮(ダンジョン)に入られるようでしたら、取り回しの良い幅広の剣(ブロードソード)と盾の組み合わせがお勧めですが、お客様は両手剣がお好みでしょうか?」


 店主は僕が地下迷宮(ダンジョン)に入るつもりだと思っているようだ。指名依頼はあったが今のところそんな気は無いのだが、もし入るとなれば今持っている槍は使い勝手が悪いだろう。

 何本か幅広の剣(ブロードソード)を試してみたが、さすがに今の剣と比べ軽すぎて何か心もとなかった。両手剣(グレートソード)をいくつか試して、僕はバランスの良さそうな両手剣(グレートソード)と少し短めの幅広の剣(ブロードソード)を購入することにした。


「盾は必要ないのでしょうか?」


 店主は幅広の剣(ブロードソード)とセットで盾を売りたいらしいが、僕は両手剣(グレートソード)幅広の剣(ブロードソード)で二刀流で使うことを考えていたので盾は不要と答えておいた。


不死者(アンデッド)に効果の有る剣は無いのかな?」


不死者(アンデッド)相手となると、魔法剣と呼ばれるものになりますが、残念ながら当店で扱っておりません。もしあったとしても直ぐに王国軍に買い取られてしまいます。」


 もしあればと思って聞いてみたのだが、魔法剣の類はほとんど流通しておらず、見つかれば即軍に買い取られてしまうらしい。


 買った剣の鞘をおまけに付けてもらい僕とリリーは店を後にした。





 宿に戻るとエミリーが既に戻ってきていた。エミリーは本を読んでいた。


「おかえりなさい、ケイ。」


「ただいま。エミリーは何を読んでいるの?」


「教会から借りてきた神聖魔法に付いて書かれた本を読んでいます。本を読んだからといってその奇跡が使えるわけではないのですが、もしかしたらエステルさんを治せるかもしれないという奇跡に付いて書かれていたので借りてきました。」


 印刷技術や製紙技術のないこの世界で本は高級品である。それを信者とはいえ一介の冒険者に貸し出すというのだから驚きである。


「はい、貸出は無理だと言われたのですが、リオネルさんから紹介状をもらっていたので、それを見せると特例として貸してもらうことが出来ました。」


 アルシュヌの街にある"大地の女神"教会のリオネル神官長が、王都の教会に向けて紹介状を書いてくれたそうだ。


「それで、その奇跡でエステルは治せそうなのですか?」


「えっと、死者蘇生の奇跡(リザレクション)という神聖魔法です。この奇跡は死んだ人を蘇らせることができるのですが、色々条件が難しいみたいで…。」


 リリーが奇跡に付いて尋ねたが、エミリーは治せるのか判らないといった感じで答えていた。


「死者蘇生ができるって今まで聞いた事が無かったけど、エミリー知らなかったの?」


「教会としては死者蘇生ができる事をあまり広めたくないみたいで、存在を知っている人も少ないです。私もこれを読むまでは知りませんでした。」


 エミリーに本を貸してくれた神父は、


死者蘇生の奇跡(リザレクション)で復活ができるとなると、教会に生き返らせてくれと人が押しかけるだろう。しかし死者蘇生の奇跡(リザレクション)は条件が難しく、しかも唱えられる人は今はいない。そうなると人々は生き返らせることができるのに神は生き返らせてくれなかったと信仰心を失ってしまうだろう。」


 と話してくれたそうだ。


(そりゃ、生き返れる人と駄目だった人がいれば信者は神に不信感を持つよな。しかも今は誰も唱えられないのか。)


 この世界の魔法はゲームのようにレベルが上がれば覚えられると言った物ではない。神聖魔法は、神への信仰心が必要な魔法である。おそらく信仰心が足りないと駄目なのだろう。


「エミリー、死者蘇生の奇跡(リザレクション)に必要な条件を教えてくれないか?」


「条件は…先ず女神の祝福を受けていること、そして死んでから時間が経過していない事、そして聖別された遺体が有ることです。唱える際に神の啓示が無いと唱えられないとも書いてあります。本の記録では唱えることが出来た人は三人だけのようです。」


 さすがにゲームのように呪文を唱えたら無条件で復活とは行かないようだ。神の啓示が必要というからには、復活できる人を神が選択しているということだろうか。確かにこの条件では信者にも死者蘇生の奇跡(リザレクション)について秘密にしておきたくなる。


「エミリーが唱える事は…無理かな。」


「ええ、何回も女神様に祈りを捧げたのですが、奇跡の啓示を授かることは出来ませんでした。」


 エミリーがうなだれているが、今まで唱えることが出来た人がほとんどいないのだ、彼女が唱えられなくても悪くはない。


「エミリー、気を落とさないで。そんな奇跡が有ることがわかっただけでも希望が出てきたよ。」


 逆にエステルがエミリーを励ましていた。





「映画でみたローマのカタコンベ(地下墓地)そっくりだな。」


「映画って?」「ローマとは何ですか?」「カタコンベ?」


 時刻は夜の十時を回ったところで、僕達はジークベルトの手紙に書かれていた道順に従って王都の地下を歩いていた。入り口として使った地下水路から地下墓地に入ったのか、周りには何百年も前の死体が収められた棺が数多く積み重ねられている。


 僕は今にも幽霊が現れそうな暗い通路をおっかなびっくりで歩いていて、その僕の前を"瑠璃"とマリオンが先導している。エステルとリリー、エミリーは僕の後を付いてきている。


「慶は相変わらず怖がりですね。」


「ケイさんは幽霊が怖いのですか?もしかして私も…。」


「いや、マリオンは大丈夫。僕が怖いのは貞○とかお岩さん系だから…あれ?なんでマリオンは怖くないんだろ。」


「慶、それはマリオンに対して酷いです。」


 そんなやりとりをしているが、僕は辺りの警戒を忘れてはいない。何しろ今いる地下墓地は王都のど真ん中、王宮の真下に存在するのだ。本来なら王宮からしか入れない場所なのだ。めったに人がこない場所とはいえ、誰かがいないとも限らない。人間じゃない不死者(アンデッド)がいる可能性のほうが高い…実際には吸血鬼(ヴァンパイヤ)がいる…のだがそれは考えないことにしている。


「王宮の下に吸血鬼(ヴァンパイヤ)の真祖がいることを上の人達(王族)は知っているのかな?」


「知っているけど放置しているとか?」


「迂闊に手を出すのは不味いですからね。王国に不利益が無い限り監視だけで済ませているのかもしれませんね。」


 後の女性陣はこういったシチュエーションは苦手にしていないので、リリーが唱えた明かりの魔法(ライティング)に照らされる墓地の通路をお喋りしながらスタスタと歩いている。


 地下墓地に入り三十分程地図の通りに歩くと、通路の先に巨大な石の扉が見えてきた。その前にはジークベルトが立っていた。


「遅かったね。もしかしたら来ないかと思ったよ。」


 ジークベルトはドアボーイよろしく巨大な石の扉を開けて、その中に入るように促した。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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