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ゴブリン討伐

少し重い話になってしまいました。


05/01 改稿


 村一番の狩人というビルは、目つきの鋭い二十代ぐらいの青年だった。動きやすい皮の鎧を身に着け、弓とナタのような小剣を持っていた。


「村長、俺は今から狩りに行くところだったんだが?」


 明らかに不機嫌そうな顔で、ビルは村長とエミリーを睨み付けた。


「ビル、昨日畑にゴブリンが出たらしい。今森に狩りに行くのは危険だろう」


「ゴブリンの一匹や二匹ならコイツで始末できるさ」


 ゴブリンの危険性を語る村長に、ビルは肩にかけた弓を軽くたたいた。狩人であるビルは、弓を使えばゴブリンが近づく間もなく倒せると自信があるようだった。


「ビルさん、昨日野古都ですが、畑に十匹のゴブリンが出ました。村の近くまでそれだけの数のゴブリンが出てきたのです、恐らく森の中にはそれ以上のゴブリンが潜んでいるとおもうのです。ビルさんであっても今の森に入るのは危険です」


 エミリーがそう言うと、自信満々だったビルは鼻白んだ表情となったが、直ぐに真面目な表情となった。


「畑に十匹か。確かにそれだけの数のゴブリンと森で出会えば脅威だな」


 ビルは、それだけの数のゴブリンを一人では倒すのは難しいと納得したようだった。


「(自分の力を過信しない。本当に(ビル)は優秀な狩人だな)」


 自分の力を過信しないビルに僕は感心し、村一番の狩人という話は本当だと思えた。


「ビルさんでもそう思われますよね。でも、こちらのサハシ様は、昨日たったお一人で十匹のゴブリンをあっという間に退治されたのです」


 何故かエミリーは、自分の事のように得意げに僕の事を紹介する。


「この騎士様が? いや騎士様がゴブリンに遅れを取るとは思わないが、十匹のゴブリンを一人で退治するのは難しいだろ」


 ビルは、値踏みするように僕を睨みつけた。

 目つきが鋭い彼に睨まれて、僕は内心ちょっと怯んだが、それを顔に出さないように平然としていた。今から彼と腕試しをするのだ、ビビっていたらなめられる。喧嘩をするときはビビった方が負けると祖父が言っていたことを思い出した。


「僕は騎士ではありません。ですが、ゴブリン程度なら、たとえ百匹でかかってきても勝てますよ」


 僕がそう答えると、ビルの目つきが更に鋭くなる。


「そうかよ。さすが騎士様…じゃないのに、自陣満々だな。それで、俺はどうして村長宅に呼び出されたんだ?」


 ビルは僕の平然とした態度が面白くないようだった。村長を睨んで、呼び出した理由を尋ねる。村長は、ビルに睨まれて少し腰が引けていた。


「ビルさんには、サハシ様と腕試しをしてほしくて、お呼びしたのです」


 腰が引けている村長に代わって、エミリーが僕を指さしてそう言うと、ビルは確認するように村長に視線を向けた。


「う、うむ、村一番の狩りの腕を持つお前と腕試しをして、それで問題ないようならサハシ殿に、森のゴブリン退治を依頼するつもりだ」


 村長はそう言って、エミリーがビルを呼びに行っている間に書いたゴブリン討伐依頼の羊皮紙を彼に見せた。

 本来ならこのような討伐依頼は、冒険者ギルドに提出して初めて効力が出る。しかし状況によっては、冒険者に直接依頼を出さざるを得ない事もあるため、村長など自治体の長であれば討伐依頼書を発行できるということだった。もちろん、達成した依頼書を冒険者ギルドに持って行けば、冒険者の功績とカウントされるのだ。


 まあ、僕がゴブリン退治の依頼を受ける受けないにかかわらず、北の森でゴブリンが増えていることは確かであり、冒険者ギルドに討伐依頼を出す必要はある。そういった事情も踏まえて、村長は依頼書を作成したのだった。


「しかしな、俺は弓なら得意だが剣で戦うのは苦手だぞ。そこの騎士様…じゃない、サハシとかに剣で戦っても勝てるわけがないぞ」


 ビルは、僕の格好をみて、剣で戦うことになると思ったのか、断りを入れてきた。


「いえ、僕は剣を持っていませんし、この腕試しで剣を使う気はありません。ビルさん、今回の腕試しは、貴方の弓と僕の拳で勝負しましょう」


 そう言うと、ビルはあきれた顔を僕に向けていた。


「弓と拳って、それじゃ勝負にならねーだろ。それとも殴り合いの距離でやるって言うのか? それなら俺も拳を使うぜ」


 ビルは僕に拳を突きだした。村長の方を見ると、彼も「えっ? 拳と弓で勝負ですか? 大丈夫なんですか?」と、心配そうな顔で僕を見ていた。

 エミリーも僕の言った条件に驚いていたが、呆れていたのではなく、何か期待するような顔をしていた。


「では、少し試してみますか?」


 僕はビルから二十メートルほど離れた場所に移動すると、


「ビルさん、そこから僕を弓で射ってください」


 そう叫んだ。


 ビルは最初ためらっていたが、僕が平然と「どうぞ射ってください」と言うと、なめられていると思ったのか、弓に矢をつがえた。


《人間(男):スキャン開始.....終了。弓と矢を所持。脅威度0.7%》


 弓に矢をつがえたところで、ログにビルの脅威度が表示された。さすがにゴブリンよりは高いが、脅威度として1%にも達していない。


「お前がいうから射るけど、最初は外すぞ」


 そう言ってビルは僕に矢を放った。矢は僕の頭上をかすめていくコースで放たれていた。


《矢(木):初速150km/h》


「(余裕だな)」


 ビルは僕がしゃがみ込むと思ったのだろうが、今の僕なら某漫画の一子相伝の暗殺拳法家の如く、二本の指で矢を捕まえることができる。こういった飛んでくる物を捕まえるという機能は、サイボーグ化の機能実験で何度もやった。ただ今回は実験ではないので、確実を期すために指ではなく手で矢を掴み取った。


 平然と飛んできた矢を掴んだ僕を、ビルと村長は口をあんぐりと開けて見つめいていた。エミリーの方は、キラキラとした目で僕を見つめていた。


 僕はちょっと調子に乗って、人差し指をくぃくぃと曲げてビルを挑発してしまった。


「くっ、今度は本気だぞ。怪我してもしらねーぞ」


 ビルは今度は肩や足を射抜くように次々と矢を放ってきたが、僕は全て右手で掴みとった。


 最後の矢をつかみ取ると、今度はビルに向けて投げ返した。

 ビルが弓で放った矢より僕が投げ返した矢の方がスピードは上であり、ビルは全く反応できなかった。投げ返した矢は、ビルの頬をかすめると村長宅の壁に深く突き刺さった。


「俺の矢を全部受け止めて、しかも投げ返しやがった」


 ビルはそう言ってがっくりと肩を落とした。彼の自慢の矢が全て掴み取られてしまったのだ、自信を無くしてしまったかもしれない。


「村長さん、これで僕の実力は分かったと思います。これでゴブリン退治の依頼を受けても宜しいですよね?」


 歩いて村長に近寄り、ゴブリン退治の依頼を受ける承諾を求めた。


「う…はい、サハシ殿の実力は良く分かりました。ええ、森のゴブリン退治をお願いします」


 近寄る僕から思わず距離を取りながら、村長は首をガクガクと上下させていた。


「(びっくりさせすぎたかな)」


 村長の驚きっぷりに、ちょっとやり過ぎたかなと、思ってしまった。





 勝負の後、ビルに森の案内を依頼すると、快く引き受けてくれた。


「あそこまでやられるともう嫉妬すらできないぜ。こりゃ、サハシ殿がいれば、ゴブリンがどれだけいても怖くはないな」


「ビルさん、サハシ殿()はやめてください。僕の名前は、ケイ・サハシです。どうかケイと呼んでください」


「じゃ、俺もビルさんじゃなくて、ビルと呼んでくれ」


 こうやって話してみると、ビルは目つきの鋭い顔に似合わず、取っ付き易い性格の青年であった。

 ビルには森に入るための準備をお願いし、僕は一旦エミリーと教会に戻った。



 教会に戻って、ローダン神父に冒険者(仮)になれたことやビルを森の案内人とできたこと、そして今から森に入る事を伝えた。


「そうですか、ゴブリン退治の依頼を引き受けられましたか。ビルが付いていれば北の森でも大丈夫でしょう。エミリーの話では、サハシ様はゴブリン程度に遅れを取らないと思われますが、どうかお気を付けてください」


 ローダン神父はそう言って、僕に頭を下げた。


「はい、御期待に添えるか分かりませんが、がんばってみます」


 僕とエミリーは、そのままビルの家に向かった。


 ビルは家の前で森に入るための装備…矢筒やロープ、ナイフなどの点検を行っていた。


「準備は整ったでしょうか?」


「おう、準備はばっちりだ。って、エミリーはどうして付いて来てるんだ?」


 僕と一緒に付いてきたエミリーに、ビルは驚いていた。


「サハシ様、私も森に入るからです」


 エミリーは、当然のようにそう答えた。


「いや、そんな話は聞いていないのですが?」


 僕は、エミリーはビルの家までの案内として付いてきたと思っていたのだが、一緒に森に入ると聞かされて驚いた。


「いま、言いましたけど。駄目でしょうか?」


 エミリーは、最初から森に入るつもりだったのか、シスター服ではなく、厚手の上着とズボンを着ていた。


「(ローダン神父が何も言わなかったって事は、神父は認めていたのかな?)危ないから付いて来ないでくださいと言っても…」


「ええ、何と言われようと付いて行きます」


 エミリーの決意に燃えた目を見て、僕は説得は難しいと感じていた。


「今日は様子見だし、まあ、ケイが一緒なら大丈夫かな。エミリー、森に入ったら俺の言うことに従うんだぞ」


「…分かりました」


 ビルもエミリーの説得は難しいと感じたのか、連れて行くことに決めたようだった。





 森に入ると、ビルは真剣な顔つきでゴブリンの痕跡を探し始めた。


「真新しい足跡がある。恐らく獲物を狩って巣に持ち帰っている奴らの足跡だだ」


 さすが村一番の狩人、ビルは小一時間もたたないうちにゴブリンの痕跡を見つけ出した。

 僕はビルが指し示す足跡を記録して、周囲を見渡して足跡の痕跡を視界に表示させた。画像解析で見つけ出された足跡は、視界に赤く表示される。

 ゴブリンの足跡である赤い表示は、森の奥に続いているようだった。


「こちらの方ですね。追ってみましょう」


「ケイにも分かるのかよ。こりゃ俺は、いらなかったんじゃないのか?」


「いえ、ビルさんが教えてくれるまで、僕はゴブリンの足跡に気づけませんでしたよ」


「へへ、そう言われると少しうれしいな」


 ビルは鼻の下をこすると、「付いてこい。なるべく音を立てるなよ」と森の奥に入っていく。狩人の心得のない僕やエミリーは、なるべく音を立てないようにその後を付いていった。





 一時間ほど足跡を追いかけると、ビルが不意に立ち止まった。手で前を見ろと合図してくるので、そっと前を覗いた。するとそこには、ゴブリンの巣というか集落があった。

 集落には、粗末な小屋が建ち並び、三十匹ほどのゴブリンがうろついていた。


「どうする、今日は様子見だと思っていたし、それにエミリー(足手まとい)もいる。巣の場所も分かったし、明日にするか?」


 ビルは小声で僕に相談するが、僕は首を横に振った。


「いや、今殲滅しましょう」


「本当にやるのか? 二人でやるには、あの数は危険だぞ?」


 ビルは、僕がやると言うとは思ってなかったのか、驚いた様だった。


「僕一人で大丈夫です。ビルとエミリーは、安全な所で見ていてください」


 そう言って、森に入る前に集めておいた鞄の中の石をビルに見せた。ゴルフボールより少し大きめの石塊が、鞄にぎっしり詰まっているのを見て、ビルは首をひねった。


「この石ころで、どうするんだ?」


「投げるんですよ」


「…なるほど、了解した」


 ビルは僕がやることを理解したのか、エミリーを連れて少し離れた場所に移動した。


 ビルが安全な場所に隠れたのを見て、僕は石を手に取った。そしてその石をゴブリンに向かって投げつけた。


《投擲速度:600m/sec》


 全力の5%も出していないのだが、投げた石はライフル弾並の速度を出した。そして石は、狙い違わずゴブリンに命中し…爆発した。


「(うわぁ、スプラッターだよ)」


 銃弾と石では、その重量や材質が違う。石はゴブリンの胴体に当たったが、貫通せずにゴブリンの体内で爆発してしまった。

 ゴブリンが爆発し、周囲に肉片が飛び散る様子は、スプラッタの一言であった。

 一方ゴブリンは、仲間が突然爆発した事が理解できずに呆然と立ち尽くしていた。


「(ちょっと想定外だったけど、続けていかせてもらうよ)」


 僕は続けて石を投げつけた。銃と違い「ビュッ」と小さな音で投げられる石を、ゴブリン達がが避けられるはずもなく、次々とゴブリンは倒されていく。

 しばらくすると、ゴブリン達は騒ぎ出して逃げだそうとしたが、僕はそんなゴブリンも逃がさず投擲の餌食にしてしまった。

 結局、三分とかからずにゴブリンの集落は壊滅した。


「三十匹のゴブリンが、あっという間に…」


 後ろの方でビルが呻くように呟くのが聞こえた。その後ろで、エミリーはゴブリンを退治した光景の余りの悲惨さに嘔吐していた。

 本当は、僕も罪悪感と気持ち悪さで一杯であったが、そこは機械の体のため嘔吐せずに済んだ。


 エミリーが回復すると、僕たちは村に帰る事ことにした。


 途中何回かゴブリンと遭遇したが、経験豊かなビルや僕の聴覚センサーをかいくぐって不意を突けるわけもなく、次々と捕まえて遥か彼方に投げ捨ててしまった。

 ギャグマンガのように、悲鳴を上げて空を飛んでいくゴブリンを見て、ビルは驚きのあまり口をあんぐりと開けていた。


「石を投げて殺すのは止めたのか?」


「先ほどの戦いで、ちょっと反省しました」


「お、おう。その方が俺も助かる」


 狩人であるビルでも、爆発するゴブリンはショッキングだったようだった。


 なお、エミリーは村に帰るまで始終無言であった。





 村に返ってきた僕達は、門番のアレフに声をかけられた。


「よう、森にゴブリン退治に行ったんだろ。成果はどうだった?」


「ゴブリンの巣を一つ潰してきたぜ。今日一日で三十五匹の成果だ」


「マジかよ。さすが騎士様だ。それでどうやって退治したんだ? やっぱり剣か? 後で話を聞かせろよ」


「ああ、聞きたいなら聞かせてやるぞ」


 ビルはアレフの態度に苦笑していた。

 恐らくビルから僕の戦いの話を聞けば、アレフは「騎士らしくない」と言うだろうが、僕は騎士ではないのだ。


 門をくぐり、僕とビルは村長さんに今日の結果を報告しに行くことにしたが、エミリーは教会に戻りたいと言ったので、そこで別れることになった。

 無言で顔色の優れないエミリーが心配だったが、ローダン神父が何とかしてくれることを僕は祈った。





 村長に今日の成果を報告すると、その結果に驚愕した後大喜びしていた。

 森のゴブリンが減れば、これからの時期、畑に出る農民の安全が確保できるのだ、喜ばないわけはない。村長からは、引き続いてのゴブリンの討伐を依頼された。


 教会に戻ると、ローダン神父に呼び止められた。そこで、エミリーが帰ってきてから一度も部屋から出てこないと告げられた。


「もしかして僕のせいかもしれません」


「一体森で何があったのですか?」


 僕はローダン神父に問われるまま、ゴブリン討伐での出来事を話した。


「ゴブリンとはいえ、そのように残酷な方法で殺してしまうのは良くなかった気がします」


 僕の話を聞き終えたローダン神父は、大きくため息をついた。


「(残酷というか、あそこまで酷くなるのは想定外だったんですけどね) ええ、エミリーもいたので、安全に倒す事第一に考えたのですが、酷い事になってしまいました」


「サハシ様とゴブリンとの戦いを見て、エミリーも考えることがあったのでしょう。これで彼女のゴブリンに対する憎しみが、少しでも薄らいでくれれば良いのですが…」


 ローダン神父は、エミリーの部屋の方を見やって、再びため息をついた。


 夕食になってもエミリーは部屋から出てこなかった。今朝はあれほど美味しく感じたスープやパンも、僕には何か味気なく感じられた。


 部屋に戻ると手桶に汲んだ水で布を濡らして体を拭った。この世界では風呂は一般的ではなくこうやって体を拭うだけらしい。

 サイボーグである僕は、汗もかかないため、埃を取れれば十分であったが、やはり風呂を恋しく感じる。


「(最後に風呂に入ったのが二年前か…。確か最後のバージョンアップで、五十気圧ぐらいまで防水対応したと聞いた気がするな。時計並みだけど、風呂ぐらいは入れるのだろうか)」


 風呂について考えながら、体を拭いていた時、「コンコン」とドアがノックされた。


 ドアを開けると、そこにはエミリーが立っていた。エミリーは、無言で部屋に入ってきた。


「エミリー、気分は良くなった?」


「はい、あれから少し休んで良くなりました。サハシ様に無理を言って連れて行ってもらったのに、申し訳ありません」


 エミリーは気分が良くなったと言ったが、僕にはそう見えなかった。センサーでは彼女の体調は問題ないとログ表示されているが、精神(ココロ)はセンサーでは計測できないのだ。


「ビルや僕が連れて行くのを了解したんだから、そこは気にしなくて良いです」


「ありがとうございます」


 その後しばらく、エミリーは口を開かなかった。


「私は、ゴブリンが憎かったのです」


 しばらくすると、沈黙を破ってエミリーが話し始める。彼女が、今までゴブリンに対し抱いていた恨みと、今日僕がゴブリン討伐で見せた虐殺にショックを受けたことなどを泣きながら語ってくれた。


「(女の子にはショックだったんだな) それで、エミリーはゴブリンを残酷に殺した僕が、嫌いになったの?」


「…いいえ、私はサハシ様に感謝しています。今日の戦いで私はゴブリンに対する恨みを無くせたと思います。いえ、やはり憎いのですが…以前ほどではなくなりました」


「そっか、それは良かった」


 僕は、エミリーに嫌われなくて良かったと胸をなで下ろした。


 そして、またエミリーは突然僕に抱きついてきた。


「ええ、どうかしたの?」


 エミリーの行動に、僕は慌てる。こんな展開に…いや、少しは期待していたのは本当だが、まさか今晩そうなるとは思っていなかった。


「サハシ様」


 潤んだ目で僕を見上げるエミリー。


「エミリー、こんな事はしなくて良いんだ。もっと自分を大事にしなさい」


 僕はエミリーをそっと引き話そうとしたが、彼女は抱きついて離れなかった。


「(一体、どうすれば良いんだよ…)」


 この状況で、ローダン神父を呼ぶわけにもいかず、僕は途方に暮れてしまった。


 結局、その夜エミリーは僕の部屋で一夜を明かした。もちろん、パスワードを破っていない僕はエミリーに何もできないので、二人で一緒のベッドで眠っただけだった。

 エミリーは、何もしない僕に対して何か言いたげだったが、抱きしめているとそのまま目を閉じて眠ってしまった。


「(早くパスワードを破りたい…)」


 僕も、そう思いながらエミリーと一緒に眠りに落ちていった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


お気に召しましたら、ご感想・お気に入りご登録・ご評価をいただけると幸いです。誤字脱字などのご指摘も随時受付中です。

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