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どうやら僕の心臓は賢者の石らしい  作者: (や)
ルーフェン伯爵編
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吸血鬼の事情

 僕は、蝙蝠の妨害によりジークベルトを取り逃がしてしまった。蝙蝠達は、ジークベルトが逃げ切ると同時にどこかに飛び去ってしまった。


 呆然と立ちすくんでいると、馬車の方からゴンサレス達がやって来た。


「取り逃がしましたか。」


「すみません、さっさとトドメを刺しておくべきでした。」


 僕は自分の爪の甘さを後悔していた。ジークベルトの言っていた"ご主人様が欲しがっている"という言葉が本当なら、何度でも彼は僕達を襲ってくるだろう。さっさとトドメを刺しておくべきだったのだ。


「逃げられてしまったことをとやかく言っても仕方ありません。私達も一角狼(ホーン・ウルフ)相手に何も出来なかったのです。」


 そう言ってゴンサレスは肩を落とす。エステルやリリー、エミリーもうなだれていた。


「とにかく、此処で止まっていてもしょうがないです。街道を進みましょう。」


 日が暮れるまでもう少し時間がある。アベルは街道を進もうと言ってきた。


「そうですね、落ち込んでいてもしょうがありません。進みましょう。」


 ゴンサレスは、先ほどの落ち込んだ雰囲気をガラリと切り替えてきた。経験豊富な彼は気持ちのコントロールも凄い。それに釣られ僕達も否応なく気持ちを切り替えさせられた。





 ジークベルトの襲撃を撃退してから二日が過ぎた。

 昨晩は襲撃が再びあるだろうと、かなり緊張して見張りをしていたのだが、結局襲撃は無かった。

 朝が来てしまうと、襲撃が無かったことに僕は逆に拍子抜けしていた。


「ジークベルト、襲ってこなかったですね。」


「襲撃があるかと緊張してなかなか眠れませんでした。」


 朝となり、起きてきたゴンサレスとアベルは眠そうにそう言ってきた。

 エミリー達も同様に疲れているはずだが、マナ注入(キス)しているおかげでゴンサレス達三人に比べその疲労度は軽かった。


マナ注入(キス)って疲労回復に絶大だな。)


「身動きが取れないほどのダメージを負わせたので、回復に時間がかかっているのでしょうか。しかし、油断はできません。」


 相手は吸血鬼(ヴァンパイヤ)なのだ。心臓に木の杭を打ち込むまでは死ぬことはない。それにジークベルトは核を諦めていないはずだからどこかで必ず襲ってくるだろう。


「ええ、それは判っています。しかし、ジークベルトが、吸血鬼(ヴァンパイヤ)になっていたとは…本当に厄介です。」


 ジークベルトを取り逃がした日の晩に、彼が吸血鬼(ヴァンパイヤ)だったことを僕はみんなに話しておいた。


 吸血鬼(ヴァンパイヤ)と戦うことになり、その厄介さに僕達は考えこんでしまった。


 ヘクターは、ジークベルトが欲しがっている大水晶陸亀(クリスタル・トータス)の素材を渡せないかと提案してきた。それについては、素材を預かっているゴンサレスとアベルも判断ができず困っていた。大水晶陸亀(クリスタル・トータス)の素材は貴重な商品であり、彼らの一存で渡せるものではない。


 僕は地球の知識でしか吸血鬼(ヴァンパイヤ)の事を知らなかったので、リリーとゴンサレスから吸血鬼(ヴァンパイヤ)について詳しい話を聞いておいた。





 二人から聞いた話をまとめると、

 こちらの世界では、吸血鬼(ヴァンパイヤ)不死者(アンデッド)の中でも別格の扱いをされているらしいことが判った。


 特殊な例を除き不死者(アンデッド)は見境なく生きている者を襲ってくるが、吸血鬼(ヴァンパイヤ)はいきなり人を襲ってくることはない。つまり、人間と話し合いが可能で共存できるという事が特別扱いされる理由である。


 例えば、問題となる吸血鬼(ヴァンパイヤ)の食事だが、こちらの世界の吸血鬼(ヴァンパイヤ)は生き血ではなく魔力(マナ)を吸い取って糧としている。魔力(マナ)の吸収についても人間を殺さない様に吸い取ることが可能であり、現に人間と共存している吸血鬼(ヴァンパイヤ)も少ないがいるらしい。

 魔力(マナ)を吸い取るのに首筋を噛む必要もなく、吸血鬼(ヴァンパイヤ)が意識して噛まない限り吸血鬼化も起こらない。


 もと人間なので、食事やその他の制限を除けば、人として暮らしていけるだけの知性と理性を持っているのだ。

 冒険者ギルドも理由もなく吸血鬼(ヴァンパイヤ)を襲うといった行為は禁止している。


 しかし吸血鬼(ヴァンパイヤ)はその種族特性上、身体能力や魔法能力が高いため、戦うとなると厄介な敵となる。怪力や高い回復力も脅威だが、魔力(マナ)を吸い取って不死者(アンデッド)を作り出し使役できたり、生前魔法を習得していれば魔法を使ってきたり、狼男であれば変身もできたりする。

 弱点も存在するが、並みの冒険者であれば太刀打ち出来ない相手であるという認識だ。


 そういったこともあり、こちらの世界の人は吸血鬼(ヴァンパイヤ)とはなるべく事を構えないことにしているらしい。





 僕は出発の準備をしながら、今後ジークベルトに対してどの様に対応するか考えていた。


(核が魔力(マナ)を生み出す物であるなら、魔力(マナ)を糧とする吸血鬼(ヴァンパイヤ)にとっては魅力的なアイテムだよな。ただ、生きていくだけなら過剰な魔力(マナ)は必要じゃないはずだ。他になにか核を必要とする理由が有るのだろうか。)


 外部装甲()の小物入れに布に包まれてしまってある核、これを渡せばジークベルトも襲ってこなくなるだろうが、その核が何に使われるか判らないのが不安なのだ。


(次にジークベルトが襲撃してきたら、先ず核の使い道について聞いてみよう。返事によっては、核を渡してしまうのもありだろう。)


 出発の準備が終わる頃に僕はそう結論づけた。





 僕達は今日一日東に街道を進んだ後、王都に向けて南下する街道に入ることになる。旅は襲撃が会ったにも関わらず予定通りに進んでおり、このままいけば明後日には王都に辿り着くことになる。


「今日は良い天気ですね。」


「ええ、これなら吸血鬼(ヴァンパイヤ)も襲ってこないでしょう。ありがたいことです。」


 ゴンサレスは馬車の中でエステルとリリーにマナによる身体の活性化を教えており、御者はアベルが務めている。アベルは天気が良いことに感謝していた。


 前回のジークベルトの襲撃の際は、雲が出て太陽が隠れていたが、今日は天気が良く太陽の光が辺りを照らしている。太陽が輝いている間は吸血鬼(ヴァンパイヤ)は襲ってこないはずである。


 馬に揺られながら、襲撃が無い間に特訓をするため仮想現実(VR)システムを立ち上げる。身体の制御と見張りはマリオンにお願いして、"瑠璃"と僕は特訓を開始するのであった。





 ジークベルトは、大蝙蝠に抱えられ、仮の拠点としている魔獣の森の洞窟に戻ってきた。木の杭に刺し貫かれた手足は回復しておらず、傷を治すには早急に魔力(マナ)を補充する必要があった。


(まさか吸血鬼(ヴァンパイヤ)対策の木の杭を用意しているとは。)


 ジークベルトは自分の迂闊さを後悔していた。ジークベルトは木の杭を用心していなかった事は自分のミスだと思っているようだが、冒険者が木の杭を準備していることは先ず無く、ケイが持っていた事の方がおかしいのである。


「まずは魔力(マナ)を補充して身体を回復させないと。お前たち可哀想だが一角狼(ホーン・ウルフ)を何匹か捕まえてきてくれないか。」


 ジークベルトが命じると、大蝙蝠は「キーキー」鳴きながら洞窟の外に飛び出していった。ジークベルトを窮地から救った蝙蝠は、彼がご主人様から預かった召喚アイテム(回数制限あり)によって呼び出される召喚魔獣である。

 ちなみにジークベルトは吸血鬼(ヴァンパイヤ)であるが、蝙蝠を呼び出すことは出来ない。狼男の吸血鬼(ヴァンパイヤ)である彼は、力を付けると一角狼(ホーン・ウルフ)を召喚できるようになるのだが、今の彼のレベルでは召喚はできない。


(ご主人様…彼女の為にも早く核を入手しなければ。そのためにはあの護衛を…彼を何とかしないと…。)


「彼の名前はなんだっけ…ゴンサレスはケイと呼んでいたな。」


 ジークベルトは、核を奪うのは簡単だと思っていた。商隊の護衛についていた冒険者は中級の下であり、二つ名さえ無いパーティだったのだ。それに狼男である彼のスピードについてこれるような冒険者はいないと思っていたのだ。


 最初、ジークベルトはそのスピードを活かして核を奪い取り、さっさと逃げようと思っていた。しかしジークベルトはケイを見た瞬間、何か胸の奥から戦ってみたいという衝動が湧き上がってしまった。

 それはケイの体からあふれだす魔力(マナ)のせいだったかもしれない。理由はともかく、ケイと闘ってみたくなってしまったのだ。

 しかし、闘ってみるとケイは自分の力を使いこなせておらず、ジークベルトは戦いへの意欲を無くしてしまった。その後三十年ぶりに会ったゴンサレスから"無限のバック"を奪い取ろうとして、ケイの攻撃を喰らってしまい、逃走せねばならなくなった。


 次の日、傷を直すと同時に不死者(アンデッド)にした一角狼(ホーン・ウルフ)を引き連れて再度襲撃したが、結局ケイが持っていた木の杭で手足を刺し貫かれて動きを封じられてしまった。

 そのため、貴重な召喚アイテムを消費して逃げるしか無かった。


「次は彼らも吸血鬼(ヴァンパイヤ)対策をしてくるだろう。僕は戦って…勝てるのか?」


 二回目の襲撃でケイが見せた動きは、ジークベルトにとって衝撃的であった。たった一日で彼のスピードに対応して反撃までしてきたのだ。


「戦って勝てないとなると…どうする…こちらの事情を説明するか。ゴンサレスなら僕の話を聞いてくだろうか。」


 実はジークベルトのご主人様は大水晶陸亀(クリスタル・トータス)の核を欲しがってはいない。ジークベルトやその仲間が、ご主人様の為にそれ()を入手しようとしているだけで、ご主人様はそのことを知ってはいない。いや知ることができない状態だ。


 もともとジークベルトも核を強引に奪う気はなく、金で入手できるなら買い取るつもりでもあった。そのためにアルシュヌの街の義賊にも話を付けてみたのだが、そんな物は無いと突っぱねられてしまったのだ。

 そこで仕方なく大水晶陸亀(クリスタル・トータス)の素材を運ぶ商隊を襲う事になってしまったのだ。


「体を治したら一度本拠地(地下墓地)に戻って…」


「戻る必要はないぜ。」


「ダード、何故此処に。」


 洞窟に入ってきたのは虎獣人の大男であった。耳や尻尾が付いているだけの獣人とは違い、ダードは虎の顔に人間の体、手足を持ち、体は虎縞の毛皮に覆われている。身長は250cmぐらいで金属性の胸当てを身に着けて、手にはハルバードを持っていた。


 彼もジークベルトのご主人様に使える吸血鬼(ヴァンパイヤ)である。ただ、彼はご主人様の為ではなく、、自分のために核を探しているようなので、ジークベルトは彼の行動を警戒していた。

 核の入手についても、彼には囮の商隊を襲うように情報を操作したのだが…。


「あんたが教えてくれた商隊は囮だったからな。それでこっちに来たのさ。」


 ダードは既に囮の商隊の方を確認してきたらしい。


「お前の力は必要ない。」


「そのザマで言うセリフじゃないな。大丈夫、俺がちゃんと核を獲ってきてやるよ。安心して寝てな。」


 そう言って、ダードは動けないジークベルトを洞窟の奥に蹴りこんだ。


「ぐはっ、貴様こんなことをして…」


「それは俺に嘘を教えたお返しだぜ。次に戻って来るまで寝てたらトドメを刺してやるよ。」


 ダードは洞窟を出て行った。動けないジークベルトには彼を睨むことしか出来なかった。





 洞窟を出たダードは、直ぐには商隊を襲撃には行かなかった。ダードはその外見から脳筋に見えるが、実は慎重な性格あった。

 ダードが戦って一度も勝てなかったジークベルトを退けた相手に、一人で戦いを挑む気は毛頭ない。


「そうだな、魔獣の不死者(アンデッド)を1,000匹ほど作るか。戦いは数だぜ、ジークベルトの旦那。」


 ジークベルトの召喚魔獣の蝙蝠は始末しておいたので、彼が体を治し動けるようになるには数日かかるだろう。それまでに手勢を集め、数の力で商隊を襲う。


 ダードは魔獣を不死者(アンデッド)にするべく、森の中に入って行った。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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