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どうやら僕の心臓は賢者の石らしい  作者: (や)
ルーフェン伯爵編
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襲撃(2)

 翌日、僕は体内時計のアラーム機能で強制的に目覚めた。睡眠誘導システムを使って眠ったはずだが、ものすごく眠い。

 昨晩は仮想現実(VR)での特訓を"瑠璃"の稼働限界が来るまでしていた。おかげで体の動かし方に関しては少しだが目処が付いてきた。


「ふぁぁーあ。現実(リアル)でもあの動きができるか試してみないとマズイよな。」


 テント内は昨晩の襲撃のこともあり誰も起きていなかった。眠っている人を起こさないようにそっとテントから抜け出した。


「おはよう、って二人は何をしてたの?」


 見張りをしていたエステルとリリーに朝の挨拶をしたのだが、二人共何故か全力疾走でもしたようにぐったりとしていた。


「おはよー」「おはようございます」


 弱々しい挨拶が返ってきた。二人共どうやら魔力(マナ)が切れかけているみたいだ。


『マリオン、僕が眠った後、二人は何をしてたか知っているかな?』


『えーっとですね、二人でマナによる身体の活性化を練習していました。』


 冒険者ギルドでゴンサレスと戦った時に彼がやっていた技だが、二人はそれを練習していたらしい。


『…それって簡単にできるものなのかな。』


『素質次第ですが…長い練習が必要ですね。私も十年以上かかりましたし…。』


「えっ?」


 マリオンが身体を活性化できると言ったので、驚いてリアルの方で声が出てしまった。


『長い間地下室に監禁されていたので、他にすることもなかったので…魔力(マナ)が少なくて、あまり強くはなれませんでしたが…。』


『もしかして、二人に教えてたの?』


『…はい。二人は、昨晩の戦いで何もできなかったことをお悩みだったので、何かお力になれないかと思いまして。』


『そうか…ありがとうマリオン。でもあまり無理はさせないでね。』


 二人がぐったりしているのは、魔力(マナ)を使いすぎたことが原因だった。


「マリオンに二人が身体の活性化を練習してるって聞いたよ。でも無理はしないように。戦いになった時に魔力(マナ)が無かったら困るだろ。」


 僕の言葉を二人はうなだれて聞いていた。

 二人がこのままではマズイので、僕は誰も起きてこないうちにマナ注入(キス)をすることにした。


「ちょっ、何かいつもより強く…入れないで。こんなの…」


「ケイ、何時もより乱暴な感じで…入ってきます。あぁ…」


 お仕置きとして、体に負担がかからない程度で強めにマナ注入(キス)をした。ただ、二人共何回もやっているのでずいぶん慣れてきたようで、逆に気持ちよかったみたいだ。

 気持ち良く失神している二人を寝かせて、槍を持ってジークベルトと戦った草原に僕は向かった。





(さて、仮想現実(VR)で練習した動きができるかな。)


『"瑠璃"、僕の動きを見て、まずそうな所の指摘をお願い。』


《主動力:賢者の石 2.0%で稼働させます。》


 出力を少し上げて、僕は草原で棒術の型をいくつか試す。


(うん、イメージ通りにできているな。これならうまくいくかも。)


 今度は映画"○林寺"で○ェット・リーがやっていたような激しい動きを入れて動いてみた。


『慶、少し足元が滑っていますね。』


『やっぱり仮想現実(VR)とは若干違うね。足場の状態は刻々と変化するから、それを考えて動かないと…』


『そうですね。ところで、今なら誰も見ていませんし、私がジークベルトの姿で相手をしましょうか?』


 "瑠璃"はそう言ってジークベルトの姿になる。


『ああ、相手がいるほうがやりやすいからね。お願いするよ。』


 僕と"瑠璃"は朝の草原で模擬戦を始めた。





「ケイ、何か大きな音がしていましたが…何かあったのでしょうか?」


 野営地に戻ってくると、起きて朝食の準備をしているエミリーに尋ねられた。


「ちょっと、特訓に熱が入ってしまってね。」


 "瑠璃"は立体映像で、攻撃が当たらないことを忘れてしまって、地面に大穴を掘ってしまったのだ。マリオンには皆が心配しないように伝えておいてもらったのだが、やはり音が大きかったようだ。


「そうですか。ところでエステルとリリーが寝ていましたが、何かあったのでしょうか?」


 エミリーが起きてくるまでに二人は失神状態から回復していなかったみたいだ。今は元気に出発の準備をしているが、少し顔が紅潮していた。


「元気が無かったので…ちょっとね。」


「二人共、ズルいです…。」


 僕が言葉を濁したことで、何があったのか察したエミリーが二人を睨んでいた。



 朝食を終えると、出発することになるのだが、今日は少し編成を変えることになった。馬車の御者はアベルが務め、エステルの代わりにエミリーが馬に乗ることになった。

 ゴンサレスにはエステルとリリーにマナによる身体の活性化について教えてほしいと伝えてある。


「ケイさん、先導をお願いしいます。」


 旅程だが、昨日たどり着いた街道を三日ほど東に進む事になっている。ただ、ジークベルトの襲撃が予想されるので、そのまま進むのは問題があるかもしれない。状況によっては道を変える必要があるだろう。



 街道は見晴らしの良い草原の中を東に伸びている。これなら何処から襲撃があっても直ぐに敵を発見できるだろう。

 午前中は特に問題なく街道を進む事ができた。エミリーが馬に慣れていなかったのでスピードを落としたが、誤差の範疇だろう。街道は轍もしっかり残っており、大きな石も無く進みやすかった。


 休憩時間と昼食の時、馬車から降りてきたエステルとリリーは、ゴンサレスにマナによる身体の活性化の実技を見せてもらったりと頑張っていた。ゴンサレスは二人は素質があるから近いうちに習得できるだろうと言ってくれた。


「私も習ったほうが良いのでしょうか。」


 二人を見てエミリーがそう言ってきた。彼女も習っておいて損はないと思うが、回復役のエミリーが攻撃を受ける状況には僕はさせないつもりだ。


「三人同時にはゴンサレスも大変だと思う。それにエミリーは僕が守るよ。」


 自分で言っていて歯が浮くようなセリフだったが、エミリーは顔を真赤にして喜んでいた。



 昼食を終えて再び街道を進み始めたが、しばらくすると晴れていた空に雲がかかり、雨が振りそうなくらいに暗くなってきた。


「一雨来ますか?」


 ゴンサレスが空を見上げて訊いてきた。


「どうでしょう。向こうの方は雲が切れているみたいですね。」


 見晴らしの良い草原なので、空はかなり遠くまで見渡せる。望遠で見たところ雨が降っている様子はなかった。


『ケイ、北の方向、森から獣の集団がやって来ます。』


 上空で見張りをしている"瑠璃"からメッセージが届く。北を見ると、三キロメートルほど離れた所にこちらに向かって走ってくる黒い塊がみえる。


一角狼(ホーン・ウルフ)の群れかな。ん、狼と違う魔獣が……あれはジークベルトだ。」


 僕達に近づいてくる魔獣の一団は、十数匹の一角狼(ホーン・ウルフ)とジークベルトであった。狼男なので狼を隷属させることができるのだろうか、一角狼(ホーン・ウルフ)の群れはジークベルトを中心に隊列を組んでこちらに向かってやって来る。


「ジークベルトと一角狼(ホーン・ウルフ)の群れが来ます。馬車を止めて迎撃しましょう。」


 あの程度の数の一角狼(ホーン・ウルフ)なら騎乗していても追い払うことは可能だが、ジークベルトもいるとなればちゃんと体勢を整えて迎撃する必要がある。


「襲撃ですか?」


 馬車を止めたアベルが不安そうに聞いてくる。


「ええ、アベルさんとヘクターさんは馬車の中にでもいて下さい。エステルとリリーは準備を。エミリーは馬車の側で待機して。」


 馬車の中から出てきた二人に配置を伝え、僕はこういう時のために今朝拾っておいた石を袋から取り出す。


「アベル、これを預かっておいてくれ。」


 ゴンサレスはアベルに"無限のバック"を渡すと、剣を抜いて馬車の前に待機した。


『距離一キロメートルまで近づきました。』


 "瑠璃"が魔獣の群れとの距離を伝えてきた。


「そろそろいけるかな。」


 ジークベルトだけなら僕一人でも牽制できるが、今回は一角狼(ホーン・ウルフ)がいるのだ。遠距離にいるうちに撃退できるならそれに越したことはない。僕は石を手に取るとジークベルトに向けて投擲した。


「ケイさん、投げるのが早い、早すぎます。そんな遠くから…」


 ゴンサレスが、投げるには距離が遠すぎると言いかけて、投げた石がありえない速度で飛んで行くのを見て絶句していた。


 「バシッ」と衝撃音を響かせ、1000m/secで投擲された石は狙い通りジークベルト飛んでいく。しかし当たる直前にジークベルトが突然進路を変更したため、その後ろにいた一角狼(ホーン・ウルフ)に命中してしまった。石が当たった一角狼(ホーン・ウルフ)は文字通り爆散してしまった。


(あれを避けたのか…それともたまたまか?)


 一角狼(ホーン・ウルフ)が爆散するのを見たジークベルトは、驚いたのか立ち止まった。しかし残りの一角狼(ホーン・ウルフ)は隊列を乱すこと無くこちらに向かってくる。


 一角狼(ホーン・ウルフ)が前に出てきたので、僕は石を投擲して一角狼(ホーン・ウルフ)の数を減らしていった。一角狼(ホーン・ウルフ)を十匹ほど倒したが、そこで手持ちの石が無くなってしまった。

 一角狼(ホーン・ウルフ)は仲間が次々と倒されていくのに、残りは動揺もせずまっしぐらに僕達の方に突撃して来る。


(何時もなら何匹かやられた時点で群れは散り散りに逃げていくのに…ジークベルトが操っているからだろうか?)


 馬車まで百五十メートル、弓の射程に入ったのでエステルは矢を射始めた。この距離は矢はとどくだろうが必中の距離ではない。


「射つよ!」


 エステルの気合が乗ったのか、矢は見事に一角狼(ホーン・ウルフ)を射抜いていた。


「えっ?」


 エステルが射抜いた一角狼(ホーン・ウルフ)は、矢が体に刺さったまま何事もなかったかの様に走り続けた。その光景にエステルが驚いて次の矢を外してしまった。


『ケイさん、あの一角狼(ホーン・ウルフ)達は生きていません。』


『そうなのか…』


 元悪霊だったマリオンには判るのだろう、迫ってくる一角狼(ホーン・ウルフ)不死者(アンデッド)…ゾンビ犬であることを僕に伝えてきた。


 ゾンビはゲームや映画などでお馴染みの不死者(アンデッド)モンスターの定番であるが、人間を素体にしたものは、力は多少あるけど動きが遅く、数に注意すれば簡単に倒せるという物が多い。

 しかし人間以外の…動物を素体としたゾンビはかなり厄介である。ゾンビ犬にはバ○オハザードで苦労した人も多いはずだ。


(ほとんど生きているのと変わらない動きをするゾンビ犬か。強敵だな。)


「エステル、あいつは不死者(アンデッド)だ、普通の矢では殺せない。」


「ケイ、本当なの。なんで不死者(アンデッド)一角狼(ホーン・ウルフ)なんているのよ。」


 ジークベルトが何処で不死者(アンデッド)一角狼(ホーン・ウルフ)を入手したのか僕にも判らないが、目の前に迫ってくる現実は覆せない。


「エミリー、死霊退散(ターンアンデット)の準備を。リリーは魔法で足止めをお願い。」


 死霊退散(ターンアンデット)がとどく距離は十メートルほど、一角狼(ホーン・ウルフ)の足なら一足飛びに襲いかかれる距離である。

 エステルは弓を置き、小剣を抜いてゴンサレスと並んで接近戦に備える。


 僕は一角狼(ホーン・ウルフ)を迎え撃つべく槍を構えて前に突撃した。


 一角狼(ホーン・ウルフ)を槍で串刺しにすると、そのまま持ち上げて地面に叩き付けた。骨を砕かれた一角狼(ホーン・ウルフ)は動くことができなくなった。


(残りは、僕を避けて行く?)


 残りの一角狼(ホーン・ウルフ)は、大きく僕を避けて後ろのエステル達に向かっていく。

 慌ててそれを追いかけようとしたが、後ろからの声にそんな事は出来なくなった。


あんな攻撃(投石)で、せっかく揃えた不死者(アンデッド)一角狼(ホーン・ウルフ)の数を減らされるとは思わなかったよ。君は本当に人間なの?」


 ジークベルトが僕の前に立ち塞がった。


「一応、人間だよ。」


 既に獣化して狼男になっているジークベルトに対し、僕は槍を構え直した。


「君がもっと戦い慣れてくれれば面白いんだけど、昨日戦って見た感じでは僕についてこれないだろ。」


「それはどうだろうね。」


 ジークベルトに先に動かれると戦いづらい。先手必勝で僕は斬りかかった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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