除霊の後始末とランクアップ
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僕達は冒険者ギルドに向かい、除霊の依頼の完了を報告した。悪霊の正体は"瑠璃"だったので、マリオンの事はギルドには報告をしなかった。
しかしこのままマリオンの件を有耶無耶にするのは良くないと僕は考え、現在のヴィクルンド男爵の屋敷(三ヶ月前に新築)に出向き、ヴィクルンド男爵へことのいきさつを伝えることにした。
男爵の屋敷には僕が一人で…腰には"瑠璃"とマリオンがいるが…向かい、エミリー達には屋敷でマリオンの遺体を運び出す準備をしてもらうことにした。
ヴィクルンド男爵の屋敷で執事に除霊の依頼の件で訪れた事を伝えると、最悪門前払いを食らうかと思っていたのだが、ヴィクルンド男爵は会ってくれると返事が返ってきた。
屋敷の応接室に通されるとそこには既にヴィクルンド男爵が待っていた。
「サハシ殿、屋敷を除霊してくれたと聞いたが、あの難しい悪霊をよくぞ除霊してくれた。」
男爵は挨拶もそこそこに僕にお礼を言ってくる。
現ヴィクルンド男爵は三十代前半の黒髪の東洋風の顔立ちの人だった。貴族は高飛車な人が多いらしいが、東洋風の顔立ちもあり僕には親しみやすい人に思えた。
「ええ、悪霊は除霊しました。」
僕は悪霊は除霊したと含みを持たせるように言う。悪霊と言ったところで"瑠璃"がふくれっ面で視界にAR表示で出てくる。こっちの人にはその姿は悪霊に見えるんだってことを"瑠璃"には理解して欲しい。
「何か問題でも?」
「悪霊のいた地下室で、別な物を見つけまして…」
僕はヴィクルンド男爵に隠し地下室と、マリオンの件を伝えた。
最初男爵はマリオンの事をネタに金を強請りに来たのかと嫌な顔をして聞いていたが、僕はそんなことを考えてはいないと伝え、できればマリオンの遺体を丁重に埋葬してくれないかと男爵にお願いした。
「お話は判りました。そういう話であればマリオンさんは丁重に埋葬させていただきます。」
男爵はマリオンの埋葬を引き受けてくれた。
「良かった、マリオンさんはヴィクルンド男爵家を恨んでいないと言っていましたし、それで納得してくれるでしょう。」
「先祖がやった悪行ですし、子孫がそれを償うのは当然です。このことはギルドにも報告されたのでしょうか?」
「いえ、悪霊は別にいましたし、マリオンさんの件はギルドには報告していません。」
僕の答えにヴィクルンド男爵は安堵したのか大きく息をついた。
「助かります。悪い噂は広まるのが早いのでなるべくこのことは内密にしてください。」
「そんな気は毛頭ありませんよ。」
男爵は即答した僕に驚いたのか目を丸くした。
「サハシ殿は本当に変わった冒険者ですね。こんな秘密を握ったら普通は金を強請りに来るものですが…さすが、ドヌエル男爵を告発した人だ。」
ヴィクルンド男爵は感心したように大きく頭を振る。
「え、男爵も僕のことを知っていたのですか?」
「ええ、伯爵家につかえている貴族でサハシ殿の事を知らない者はいないでしょう。私は幸いドヌエル男爵とは繋がりがなかったのでこうやって普通にしていますが、彼と繋がりのあった貴族たちは今戦々恐々としていますよ。そんな話題の人物が私の屋敷を訪れたのです、会ってみたいと思ったのですが、本当に噂通りの方で良かった。」
ヴィクルンド男爵はなにかキラキラして目で僕を見つめる。
「そうですか、僕のことが噂に…。」
僕はこの体のこともあるのでなるべく目立ちたくないと考えていたのに、思い切り目立っていたことに気付かされた。幸いなことに僕の力で目立っているのではなく、ドヌエル男爵を告発した勇気ある冒険者として認知されているらしい。
「ええ、しかも裁判では城の文官では総出で一年かかりそうな資料をたった数日で作成されたとか。ぜひその力を当家にお貸しいただきたいのですが。どうでしょう、我が家に仕えてはもらえませんでしょうか?」
どうやらヴィクルンド男爵は僕を召し抱えようと考えていたみたいで、しつこく勧誘された。
僕は、「冒険者を続けたいのです。」で何度もお断りしたが、最後には「伯爵家からの申し出を断ったのに男爵家に仕官してはまずいでしょう。」と男爵の申し出を断った。
勧誘を断った後、男爵は申し訳無さそうに僕にお願いをしてきた。
「ところで、報奨の屋敷の譲渡の件ですが、十分なお金をお支払いしますので、屋敷は諦めてもらえませんでしょうか?」
「…それは、どのような理由で?」
「さすがに先祖の悪行の跡が残っている屋敷を残しておくのは…できれば取り壊したいのです。」
「そうですね、そのお気持ちは判ります。ただ、パーティのメンバーが家を欲しがっていたので、相談させていただきたいのですが。」
「代わりの家は…第二城壁の外になりますが、準備できると思いますので、メンバーの方の説得をお願いできませんでしょうか。」
貴族であるヴィクルンド男爵が頭を下げてきているので、僕としても断りづらい。それにマリオンのことも考えると今のままの屋敷に住むのは良くないだろうと思い、男爵の提案を受け入れることにした。
『マリオン、屋敷の件はどう思う?』
ヴィクルンド男爵の屋敷からの帰り道、僕はマリオンに聞いてみた。
マリオンは僕の視界にAR表示で現れた。
『そうですね、長い間暮らしていたのですが…地下室以外はほとんど知りませんし、あの地下室には二度と戻りたくは無いです。』
『なら、男爵の言う通りにしたほうが良いね。エミリー達を説得しないとな。』
『お願いします。』
結局、屋敷の地下室から、そして屋敷から出てもマリオンは成仏しなかった。"瑠璃"の中で影と分離したことで悪霊や地縛霊とも違った存在になってしまったのだろう。今は"瑠璃"の本体で"瑠璃"と仲良く同居している。
二人が同時に動いていると"瑠璃"の処理が少し落ち、魔力の消費が増える。魔力の方は僕が適宜供給すれば良いが、処理落ちの方はしばらく交互に動いてもらうことで対応してもらうことにした。
◇
旧ヴィクルンド男爵の屋敷につくと、エミリー達はマリオンの遺体を棺に収めていた。男爵からは目立ちたくないとの話だったので、棺は引取人が来るまで屋敷の中に安置しておくことになる。
僕がヴィクルンド男爵と話した結果、屋敷を貰うのを諦めたいと伝えると、リリーとエミリーはガッカリしていた。
「お屋敷が、セレブの夢が…」「立派なお屋敷、欲しかったです。」
エミリーとリリーが家のことで少しごねていたが、こんな屋敷をもらっても僕達には扱いきれないし、マリオンの心情を考えての結果だと二人を説得して納得してもらった。
◇
除霊の依頼を達成したのだが、結論として皆のランクは上がらなかった。僕は当然として他の三人は上がっても良さそうなのに、思いの外ギルドの評価が低かったのだ。
顔見知りの受付嬢のフィネルさんに聞いたところ、今回の除霊の依頼は、周囲の影響が少なく危険もないと判断されていたので、報酬は破格だったけど依頼達成の評価は低くなっていたそうだ。
「残り数日でランクアップできるだけの依頼をこなさないと…」
「手頃な討伐依頼はやっぱり無いね。」
一日しか経っていないので、討伐依頼は増えていない。ただ、街の住民からの雑務依頼はかなり残っていた。
「この際です、住民からの雑務依頼を引き受けましょう。」
「街の皆さんも助かりますしね…私は教会からの依頼を受けることにします。」
「私は…ポーション作成の依頼をやります。」
リリーとエミリーは雑務依頼を受けて評価を稼ぐことにした。駆け出しの冒険者がやる依頼が多い中で、魔法を使う依頼は高評価が得られやすい。
エミリーと僕は顔を見合わせ、結局、街の雑務依頼を引き受けることにした。
◇
出発まで後二日というところでリリーとエミリーは初級の上のランクにアップした。これでパーティのランクは中級の下に上がり、護衛の依頼を受けることができるようになった。。
エミリーは大地の女神の教会の"回復の奇跡"のボランティアを、リリーは低級回復薬の作成の依頼を黙々とこなしたおかげである。
リリーの依頼は難易度こそ低い依頼だが、魔法を延々と使うというとても根気のいる依頼であり、これを連日やり遂げるのは中級ランクの冒険者でも辛い依頼である。
普通なら半日で魔力がなくなってしまい、次の日は休みという事になるのだが、リリーは僕がマナ注入をすることで、丸一日、しかも連続で受けたのだ。依頼をした人もびっくりするほど大量の低級回復薬が作成できたため、リリーは高評価を得られたようだ。
エミリーも同様で、以前からやっていた教会の"回復の奇跡"のボランティアの依頼を、こちらも僕からマナ注入して、丸一日続けることで高評価を得ていた。大きな怪我をした冒険者を全回復の奇跡で回復できたのも高評価の一因であった。
一方、ランクを上げることの出来なかったエステルはかなり落ち込んでいた。
僕とエステルが請け負った依頼は、薬草の採取や獣の駆除、獣素材の確保、街での力仕事や配達などアルシュヌの街近辺で片が付く依頼であった。
エステルは街の近くの森で薬草の採取や、ウサギや鹿といった食用や毛皮素材の確保を、僕は街の中で住民が困っていた力仕事などをメインに、二人で手分けして十数件の依頼をこなした。
殺伐とした討伐依頼とは異なり、街の人と触れ合う依頼は僕にはとても新鮮であった。エステルも規定数以上の採取や素材確保をして、自分の腕前が上がっているのを実感していた。
「ケイと組んだのが失敗だった…。」
「ごめん、僕が足を引っ張ったみたいだね。」
エミリーとリリーがランクアップを果たした頃になって、僕とエステルは依頼の受け方に問題が有ったことに気付いた。
中級の中ランクである僕と組んだため、エステルがこなした依頼の貢献度が低く見積もられたのだ。
冒険者ギルドには、低ランクの冒険者が高ランクの冒険者と組んでランクを簡単に上げるというゲームでいうところのパワーレベリングをさせない為の裏ルールがあり、今回はそれに引っかかってしまったのだ。
僕もエステルもそんなことを知らなかったし、ギルドの人も教えてくれなかったのだ。
「フィネルさん、そんな裏ルールが有ったのなら教えてくださいよ。」
「ケイさん、ごめんなさい。教えてあげたかったのですが、二人が溜まっていた雑務の依頼をどんどん片付けてくれるので、マスターが教えないようにって…ほんとごめんなさい。」
僕が受付嬢のフィネルさんに苦情を言ったら、彼女はペコペコと謝った。どうやらこの件にはギルドマスターが絡んでいるらしい。
大暴走の影響で多数の討伐依頼が出ていたため、街の冒険者はそちらにかかりっきりで、町の住民からの依頼をしなくなったのだ。そのためギルドに街の住民からの苦情が殺到して、ギルドマスターのディーナは困っていた。そこに討伐依頼の波に乗りそこねた僕達が街の依頼を次々とこなしていったので、これ幸いと放置していたらしいのだ。
「言ってくれれば、エステル一人で依頼をやってもらったんですが。」
「それだと、彼女のランクが上がったら依頼を受けるのを止めてしまっただろ?」
「…そうかもしれませんが…。」
「確かに冒険者には依頼を選ぶ権利はあるが、それじゃギルドとしても困るんだ。」
執務室から出てきたギルドマスターのディーナを捕まえ、僕が苦情を言うと逆に彼女に言い返されてしまった。
「確かに討伐依頼はやらないと人が死ぬかもしれないし、魔獣を倒すことで感謝もされ、ギルドの評価も上がり、カッコイイ依頼に見える。しかし冒険者ギルドに来る依頼はそれだけじゃないんだ。お前はいきなりランクアップしたから知らないだろうが、こういった街の住民からの依頼をこなすこともギルドとしては重要なんだ。」
「…それは判ります。」
雑務の依頼をやったことで街の住民が雑務の依頼が滞っていて困っていることを僕は知っている。
「本当ならこういった雑務は駆け出しの冒険者にやらせるのだが…最近の若い奴らは討伐依頼の方がカッコイイとか言いおって、なかなかこういった依頼を受けないのだ。」
「…。」
その後僕は延々とディーナの年寄りじみた愚痴を聞かされた。
「というわけで、サハシとそのパーテイには、これからも街の雑務依頼をやって欲しいのだが。」
「構いませんが、その代わりエステルのランクアップもお願いしますね。」
エステルのランクアップを条件に街の住民からの雑務依頼を引き受ける事になってしまった。
◇
パーティのランクが上がり、王都への護衛の依頼を受けることが可能になった僕達は、急いで旅の支度を整えていた。街に来てから色々あって旅の装備を全然手入れしていなかったため、足りないものが多いのだ。
それにお金に関してはシフォンを譲った際の代金とか雑務の報酬で懐も暖かかったため装備の新調も図ることにした。
「鎧とマントは新しくしたいわね。できれば弓も高品質な物が欲しいな。ケイ、後で買いに行こうよ。」
「杖と、ローブも新調したいです…でもこれだけあれば新しい魔導書が買えますね。ケイ、どうしたら良いと思いますか?」
「今度はちゃんとした調理道具を持って行きたいのですが。ケイも料理を作るんですよね。相談に乗ってくれませんか?」
女性陣はなぜか僕に相談してくる。僕は雑務の依頼もこなさなければならない為忙しいのだが、彼女達の相談に乗ってあげないと機嫌が悪くなるので大変である。
こんな時に力になってくれたのは"瑠璃"とマリオンだった。どこからそんな知識を仕入れてきたのか"瑠璃"は彼女達の相談に適切な答えを返してくれるので、非常に助かった。
「"瑠璃"は僕よりこの世界のことをよく知っているね。」
「マリオンさんからこちらの世界についてお話を聞きましたし、慶のデータベースにもアクセスさせてもらいました。」
僕はギーゼン・ゴディア商会の取引についての資料を記録しており、それをベースに、マリオンの知恵を借りてエミリー達の相談に答えていたらしい。後、僕が受けている雑務依頼からもヒントをもらえるそうだ。
女性陣が旅の準備に盛り上がっている中、僕はギーゼン・ゴディア商会と護衛任務の打ち合わせの為にギーゼン商会を訪れていた。
久しぶりに訪れたギーゼン商会は活気にあふれ、以前より人が増えていた。
「サハシさん、お久しぶりです。イザベルとゴドフリー氏がお待ちです。」
顔見知りの番頭が僕を打ち合わせ室に案内してくれる。
部屋にはイザベルとゴドフリー、それに三人の男性が僕を待っていた。
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