表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうやら僕の心臓は賢者の石らしい  作者: (や)
ルーフェン伯爵編
28/192

ドヌエル男爵の末路

02/21 誤字脱字修正

 イザベルとギーゼン商会にかけられていた大水晶陸亀(クリスタル・トータス)の不正売買の疑いは晴れ、イザベルは被告席で泣いて喜んでいた。


「待ってくださいフィリップ殿下、まだギーゼン商会には脱税の疑いが…、今までの商いの報告が出ていない以上大水晶陸亀(クリスタル・トータス)の素材を扱わせる訳にはまいりません。」


 ドヌエル男爵は、訴えが退けられたのにしつこく食い下がってきた。ギーゼン商会を何とか潰してゴディア商会に大水晶陸亀(クリスタル・トータス)の素材を取り扱わせたいのだろう。


「ギーゼン商会の商いの報告書だが、提出されていないのか?」


 フィリップ殿下が傍聴席にいる街の税を管理している徴税官に尋ねる。


「いえ、そ、その、ギーゼン商会からの報告書は提出されておりますです。」


「ば、馬鹿なたった二日で、ちゃんとした報告書なのか?」


「は、はぁ、今のところ問題は見つかっておりません。」


 徴税官は汗をだらだら流しながら答えた。まさか今までの商いを纏めた報告書が二日で出てくるとは誰も思っていなかったのだろう。ドヌエル男爵もその報告を聞き驚いている。


「それで、報告書からギーゼン商会の脱税の証拠が見つかったのか?」


「そ、それは、まだ調査中でして。まだそのような証拠は見つかっておりません。」


 ドヌエル男爵に睨まれながらもフィリップ殿下に嘘を言えるわけがなく、徴税官はまだ証拠がないことを報告する。


「ふむ、ではドヌエル男爵が言ったことは間違っておるな。よってギーゼン商会が素材を売買するのに問題はないと思うがどうだ?」


「は、はい。」


 フィリップ殿下に睨まれドヌエル男爵は頷くしかなかった。男爵の手は握りしめられ怒りのためだろうブルブルと震えている。

 これでギーゼン商会の危機は去ったのだが、このままドヌエル男爵に伯爵家の領地経営を握られたままではまずいのだ。僕は傍聴席に居るゴドフリーを見つめた。


 ゴドフリーは青ざめた顔で座っていたが、僕とアーネスト殿下、それにフィリップ殿下にまで見つめられ意を決したのか立ち上がった。


「フィリップ殿下、このような場で恐れ多いのですが、私、ゴディア商会の会頭ゴドフリーはドヌエル男爵が伯爵家の経営において不正を行ってきたことを告発します。」


 ゴドフリーの発言により、ドヌエル男爵とその取り巻きの貴族達が一瞬固まり、そして慌てふためいた。


「ゴドフリーは何を言っているのだ?」


「ドヌエル男爵を告発するだと?」


「な、何を言い出すのだゴドフリー、き、貴様儂からの恩もわすれて…。」


「ドヌエル男爵、父の代からゴディア商会を贔屓にしていただいた御恩はありがたいと思います。色々と安く商品をお譲りいただいたのは嬉しいのですが、その販売利益を上回る貴方から要求される賄賂の額に当商会としては耐え切れないものを感じております。また商会で調査したところ男爵が商会と取引された物の多くが不正に横流しされたものとつい先程(・・・・・)判明しましたので、今後は一切の取引をお断りさせていただきます。」


「な、なっ、証拠があるのか、証拠は?」


 ドヌエル男爵は怒りのあまり顔が真っ赤になりゼイゼイと息を荒げていた。


「はい、ここに男爵との取引を纏めた報告書がございます。殿下どうかご確認を。」


 ゴドフリーは鞄から羊皮紙の束(書類)を取り出すと、それを受け取りに来たアーネストに渡した。アーネストからそれを受け取ったフィリップ殿下は内容を一瞥した。


「これを見ると城や領地の維持に使われる資材が不正に横流しされているのが明白であるな。ん、この治水工事はよく覚えているが、確かこの二倍の額の経費が発注されていたと思うのだが、ゴディア商会には半額で発注されていることになっているな。これはどういうことなのだドヌエル男爵よ!」


「そ、そんな事はございません。そんな資料になんの正当性があるのでしょうか?城にある資料と照らし合わせなければ…。」


「兄上、こちらに城の会計報告をまとめさせたものがあります。」


「ほぅ、この短期間に準備するとは、手回しが良いな。」


「ええ、優秀な文官(・・・・)がわかりやすくまとめてくれましたので。」


 アーネストが僕を見ながらフィリップ殿下に僕のまとめた資料を手渡した。それを見て頷いた殿下は資料を兵士に渡し、ドヌエル男爵に持って行かせた。

 資料を見たドヌエル男爵は真っ赤な顔から一転して真っ青になる。


「その資料を見るとよく分かるだろう。何か申開きがあるか男爵よ。」


 フィリップ殿下のダメ押しの言葉にドヌエル男爵はがっくりと膝をついた。


「わ、私は悪くない、これは私がやったわけじゃない、他の連中がやったのだ。」


 ドヌエル男爵はついに他人への責任転嫁を叫び始めた。その姿を見て取り巻きの貴族達も自分たちがこの告発の当事者であることに気付き始め騒ぎ出した。慌てて部屋を出ようとする者もいたが部屋の出口を固めていた兵士に全員拘束されていた。


「ゴディア商会の会頭ゴドフリーによるドヌエル男爵の不正告発は受理する。しかしこの場はギーゼン商会の訴えの場であるため、裁判は別途行うものとする。」


 フィリップ殿下が裁判の終了を宣言すると、部屋に兵士がなだれ込んできてドヌエル男爵他不正に深く関わった者たちを連行していった。





 兵士が去っていった後に部屋に残ったのは僕達とイザベルと、ギルドマスターのディーナ、そしてフィリップ殿下とアーネストであった。

 フィリップ殿下とアーネストは僕の前にやってきて二人は頭を下げた。


「サハシ殿のお陰で伯爵家に巣食っていた病魔を一掃できそうだ。本当に感謝する。」


「そんな、たかが冒険者に頭を下げないでください。僕はイザベルを助けたかっただけです。こちらこそ無理なお願いを色々聞いていただきありがとうございました。」


 頭を下げてくるフィリップ殿下に僕のほうが恐縮してしまった。


「ケイのお陰でこっちは大助かりだよ。この御礼は必ずするから。」


「いや、お礼なんていらないから。」


「できれば伯爵家に仕官してもらいたいぐらいだ。あの短期間であれだけの証拠と資料を集められる者などそうそういない。」


「ほんと、伯爵家に仕官してくれたら高給を保証するよ。」


 二人は顔をあげると今度はいたずらっぽく笑いながら僕に伯爵家の仕官を薦めてきた。


「「考えておいてくれ。」」


 フィリップ殿下とアーネストはそう言って僕の返事を待たずに部屋を出て行った。


「ちょっと、僕は冒険者のままが良いんだよ。」


 僕の言葉は閉じられた扉に跳ね返るだけだった。





 殿下たちが立ち去ると今度はディーナが僕に近づき声をかけてきた。


「私は冒険者ギルドに戻るが、サハシは明日にでもギルドの方に顔を出してくれ。」


「何かありましたっけ?」


「この前の緊急依頼でランクアップするからその手続に来てくれ。」


「つい先日ランクアップしたばかりなのですが?」


赤銅蟻レッドカッパー・アントの巣を潰したのはお前だろ。そんな奴を中級の下において置けるか。少なくとも中級の上にはランクアップしてもらう。明日絶対にギルドに来てくれ。」


 あんまり目立ちたくはないのだが、ディーナは僕をもっと上にランクアップさせたいらしい。


「巣を潰したってそんな報告してないんだけど?」


「街の側にあんな大きな巣があった事自体が本来重大事件なんだ。その巣が潰されているとなると、それをやった奴を評価するのは当たり前だろ。お前以外にやった奴はいないんだからちゃんと報告しろ。」


「通りすがりの冒険者がやったのかも…。」


「…お前がなぜ目立ちたくないかは知らないが、自分がしたことの評価は受け取れ。では明日待っているぞ。」

 ディーナは僕の肩を力強く叩くと部屋を出て行った。




 ディーナにどう言い訳したらランクアップしなくても良いか考え込んでいたら、今度は後ろからイザベルに抱きつかれた。


「ケイ、助けてくれてありがとう。」


 薬を飲まされて声が出せなくなっていたイザベルは、裁判が終わった後エミリーの魔法治療を受けていたが、ようやく声が出せるようになったようだ。

 助かって嬉しいのだろうが、後ろからぎゅっと抱きついて来ると、胸が僕の背中に密着しており、その感触が危険すぎる。そんな僕をエミリー達が生暖かい目で見つめて来るので、ものすごく居心地が悪い。


「僕が大水晶陸亀(クリスタル・トータス)の素材をギーゼン商会におしつけたからこんな事になったんだよ。今回の事の責任は僕にあるんだから、謝るのは僕の方だよ。辛い目に合わせてごめんね。」


 イザベルの抱擁から逃れ、彼女を正面に見据えると、すごくウルウルした目で僕を見つめてくる。


「いえ、あの時ケイさんがいなければ私は死んでました。それにドヌエル男爵のことを知っていればこんな事になることぐらい予想しておくべきでした。私は商人として失格です。」


「ダメだよ、イザベルにはギーゼン商会の商会主をやってもらわないと僕が困る。お願いだから僕のためにも商人をやめるなんて言わないでね。」


 僕の力を知っている人は少ないほうがいい。今後大水晶陸亀(クリスタル・トータス)のような魔獣の素材を出処を気にせずに買い取ってくれる商人がいてくれたほうが好都合なのである。そういった意味でギーゼン商会というかイザベルにはちゃんと商人を続けてもらいたいのだ。


 僕はそんなつもりで言ったのだが、イザベルはどうやら別な意味にとったようで


「僕のためにって………はい私頑張ります。」


 顔を真っ赤にさせて僕の手を握りしめていた。

 そこまで来るとさすがにエミリー達も我慢しきれなくなったのか、僕とイザベルの間に割り込んできて二人を引き剥がした。エミリー達がイザベルを取り囲んで何か言い始めようとしたところで兵士が部屋に入ってきて僕たちは城から追い出された。





 城を出たところでレオノーラとは別れることになった。病気が治るまでは教会に治療を受けに来ることを約束させ、証人の報酬として金貨五枚を手渡すと、「病気が治ったらお店に来てね」と言われて抱きしめられた。

 慌ててエミリー達が僕とレオノーラを引き剥がしたが、何故か僕が厳重注意を受けるはめになった。


 その後は、イザベルを連れてギーゼン商会の本店に向かった。無事に戻ったイザベルとギーゼン商会の無罪放免を報告すると全員泣いて喜んでいた。


 その後イザベルが戻ってきたお祝いということで、商店の会合用の大部屋で急遽祝賀パーティを行うことになった。あちこちの店から様々な料理やお酒が運ばれてきて、ギーゼン商会はお祭り騒ぎになってしまった。


「サハシ殿にはギーゼン商会に入ってもらいたい。」


「そうです、何ならイザベルお嬢様と結婚して頂いて差し支えありません。」


「サハシさんの能力があればうちの商会はもっと大きくなります。ゴディア商会を抜いて街一番の商会になれます。」


 報告書を作った時に手伝って上げた番頭や手代が酔っ払ったせいだろう僕を商会に入るように騒ぎ始めるが、これは酔った上での話なので聞き流しておくことにした。イザベルは顔を真赤にして頷いていたがあれも酔っているに違いない。


「だめよ、ケイはあたし達と冒険者をやるんだから。」


「そうです、イザベルさんには渡しません。」


 同じく酔っ払ったエステルとリリーが僕の手を両方から抱き込んで商会の人たちに言い返してた。エミリーは酔っ払って壁際の席で眠っていた。


 エステルとリリーがイザベルと商会の人たちと睨み合っている中、僕は袖を引かれ壁際の席に連れて行かれた。商会の女性従業員かと思ったら義賊集団"アルシュヌの鷲"のリーダのミシェルだった。


「なんでこんなところに君がいるんだ?」


「ドヌエル男爵を失脚させてくれたお礼をしたくてね。"アルシュヌの鷲"は男爵を倒すために結成されたようなものだからね。これであたいもリーダーを降りられるってもんだよ。」


「そうなのか、じゃあミシェルはこれからどうするんだ?」


「そうだね、冒険者にでもなろうかね。」


 そう言ってミシェルは妖艶に微笑みながら僕にキスしてきた。


「うっわ、な、何を…」


「お礼だよ。」


 僕が突然の出来事に唖然としているうちにミシェルは姿を消していた。


「ケイ、今の女の人は?」「誰なんですか?」「ケイ様ひどい」


 キスされた場面をエステル、リリー、イザベルに見つかり、別にミシェルとは何でも無いのだが小一時間ほど彼女との関係を問い詰められた。。


 その後、足りなくなった料理の追加を何故か僕が作ることになり、商会の台所を借りて作ったハンバーグやマヨネーズが好評で、そのレシピをギーゼン商会が買い取ることになったのは余談である。





 数日後、ドヌエル男爵とその取り巻きの貴族達の幾つかがお取り潰しとなり、男爵は処刑されたとアーネストが教えてくれた。

 僕としては横領での処刑はやり過ぎな気がするが、彼のしてきたことはこっちの世界では処刑されても当たり前の事だったのだろう。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

お気に召しましたら、ご感想・お気に入りご登録・ご評価をいただけると幸いです。誤字脱字などのご指摘も随時受付中です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ