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どうやら僕の心臓は賢者の石らしい  作者: (や)
ルーフェン伯爵編
25/192

ゴドフリーの説得

少し話の持って行き方が強引な気がしています。

もしかしたらその部分を改稿するかもです。


02/21 誤字修正

 翌朝、僕は眠い目をこすりながら、冒険者ギルドに向かった。騎獣の厩舎の前には既にアーネストが来て待っていた。


「おはよう。」


「ケイ、おはよう」


 早速だが、アーネストにドヌエル男爵の不正の資料を渡した。昨晩手に入れてた資料を追加しより判りやすくなったはずだ。アーネストはそれを見ているがだんだん顔が険しくなってきた。何かまずい資料でもあったのだろうかと不安になる。


「アーネスト、この資料で君のお兄さんは動いてくれるかな?」


「申し訳ない、実はこのままだと兄は動けないんだ。」


「どういうことだい?」


「証拠は十分だが、訴えるのが君だと不味いんだ。」


 アーネストの話によると、イザベルと繋がりのある僕が訴える事は、この国の法律上まずいらしい。イザベルの裁判で、証人及びその関係者は係争が終わるまで別の訴えが起こせないらしい。


「じゃあアーネストが訴えれば?」


「僕じゃ駄目なんだ。伯爵家の人間が不正を告発すると、配下の貴族たちに疑心暗鬼を引き起こしてしまう。」


 もともとこれだけ資料があれば伯爵家の強権でドヌエル男爵を処罰する事は可能だ。しかし伯爵がそれをやってしまうと他の配下の貴族が「伯爵は俺達を強権で取り潰すことに容赦がない」と考え、下手をすると伯爵の元から去って別の貴族に鞍替えをしてしまう可能性がある。


 ○戸黄門や○山の金さんみたいな事はこの国ではやってはいけないことらしい。本来ならそうならないように配下の貴族を管理してドヌエル男爵のような貴族が出ないようにするのだが、ルーフェン伯爵本人は国政にかかりっきりで、長男も貴族の信頼を得ておらず現在の様な状況になってしまったのだ。


「貴族社会って、案外面倒なんだな。」


「長い歴史が有るからな。しかし困ったな、これじゃ明日の裁判でイザベルを助けられないぞ。」


「エミリーやエステル、リリーも関係者だし。ギルドマスターは中立の立場を守る必要があるんだっけ。ミシェルは義賊でも犯罪者だから難しいか。後は…リオネルさんは教会の神父だから、訴訟とかマズイだろうな。う~ん、困ったな。」


 僕はこの町の知り合いを思いつくまま次々に上げるがドヌエル男爵を告発してくれるような、してもおかしくない人が出てこない。


「できれば、ドヌエル男爵と接点のある人が訴え出てくれれば良いのだが。」


 アーネストの言葉に僕はある人を思い出した。それはゴディア商会の会頭ゴドフリーだ。彼はドヌエル男爵と繋がりがあり、しかも不正の片棒をかついでいるのだ。


「アーネスト、ゴディア商会の会頭ゴドフリーにドヌエル男爵を告発させるのはどうだろう?」


「はぁ?彼はドヌエル男爵の不正の片棒を担いでいる商会の会頭だろ、そんな奴が男爵を告発するはずが無いだろう?」


 普通に考えればそうだろう。アーネストは呆れた顔で僕を見つめる。


「ゴディア商会は確かに男爵家と密接な関係を持っている、しかし会頭のゴドフリーはその関係を切りたがっていると思うんだ。ゴディア商会の会計を調べると、年々男爵家との取引が減ってきている。しかしドヌエル男爵への賄賂は増額されている、いやさせられているんだ。多分ドヌエル男爵が商会に無理を言っているのだと思う。だからゴドフリーは男爵との繋がりを切って普通の商会に戻りたいと思っているはずだ。それに昨日の件を足し合わせれは彼に男爵を告発させることができるかもしれない。」


「昨日の件?」


 昨日、アレッシオに偶然会いゴディア家に招待され、そこでゴドフリーに会ったこと、アレッシオを轢いたのがドヌエル男爵の馬車で、それに対してゴドフリーが物凄く怒っていたことを話した。


「成る程、そんなことが有ったのか。………もしかするとそれならゴドフリーが告発してくれるかもしれないな。」


「ドヌエル男爵の告発でゴディア商会がお取り潰しとかになるなら駄目だろうが、そこを伯爵家が告発すればお咎め無しとはいかないけど、あまり罪を重くしないことを保証するなら何とかなると思う。」


「それは、兄と相談してみるが何とかできると思う。街一番のしかも王都にまで販路を持っているような商会を取り潰すのは伯爵家としても面白く無いからね。」


「じゃあ、アーネスト、今から一緒にゴディア家に向かおう。」


「えっ?」


「裁判は明日だろ、今からゴディア家に向かってゴドフリーを説得しないと。しかも僕が言っても彼は信用しないだろ?アーネストが約束すれば彼も信用してくれるだろう。」


「いや、しかし、僕がゴディア家に行くのを見られるのはまずいのだが。」


「君はマントを被って、僕に付いて行けばいいだろ?」


 僕はアーネストにマントを被せると手を引っ張るようにしてゴディア家に向かった。





 幸いなことにゴディア家にはゴドフリーが在宅していた。僕はアレッシオの怪我の件で知らせたいことがあると言ってゴドフリーを呼び出すことに成功した。僕は昨日と同じ応接室に通された。僕はゴドフリーに使用人に聞かせたくない話があると言って人払いをしてもらった。


「アレッシオの怪我で何かまずいことが有ったのでしょうか?」


 メイド達がいなくなると、不安気な様子でゴドフリーが僕に詰め寄ってきた。ゴドフリーの娘への愛情を利用してしまって申し訳ないと思うが、これもゴディア商会ひいてはアレッシオのためだと思うことにする。


「アレッシオさんの件は貴方に会うための嘘です。御息女の怪我は何も問題ありませんよ。」


 アレッシオに問題が無いことに安堵した後、ゴドフリーは今度は怒りだした。


「娘に問題が無いなら失礼させていただくよ。それとも昨日要らないといった謝礼でも惜しくなって強請りに来たのかね?私は忙しいのだ。さっさと帰ってくれ。」


「忙しいのは大水晶陸亀(クリスタル・トータス)の素材を王都で売り払う準備ですか?」


「な、何故それを。」


「貴方がドヌエル男爵に便宜をはかってもらっていることは知っています。それに彼の不正を知っていながらそれを見て見ぬふり(・・・・・・)をしていることもね。」


 僕は集めた資料をゴドフリーに見せた。彼は資料を見てワナワナと震えだした。


「こ、この資料をどうやって集めたんだ。」


「それよりもこれをルーフェン伯爵に渡せばどうなるか理解りますよね。」


「……どうにもならんよ。ルーフェン伯爵自身は動けない。だからドヌエル男爵を追い詰めることは出来ないんだよ。」


「貴方がこの資料を元にドヌエル男爵を訴えればどうですか?」


「な、何を言っているんだね。そんな事をすればゴディア商会は破滅だ。そんなことをするわけが無いだろう。」


 ゴドフリーは呆れ返った様子で僕を見つめる。


「ドヌエル男爵め許さない」


 僕の声帯は記録した音声を再生することもできるので、昨日去り際にゴドフリーが呟いた言葉を再生した。

 ゴドフリーは自分の言葉を僕に聞かされ驚いている。


「貴方が、ドヌエル男爵を嫌っているのは知っています。それにゴディア商会を罪に問わない事はルーフェン伯爵家が約束してくれています。」


「馬鹿な、君みたいな冒険者のいうことなぞ伯爵が聞くわけ無いだろう。」


「大丈夫ですよね、アーネスト殿下。」


「私が保証しよう。」


 僕の呼びかけでアーネストはフードを脱ぎ姿を表す。ゴドフリーは突然現れたアーネストに倒れんばかりに驚いていた。


「アーネスト殿下が何故ここに。」


「ゴドフリー殿、私はこのサハシと一緒にずっとこの部屋にいたのだ。」


「つまりルーフェン伯爵は全て知っていると。」


「そういうことだ。ゴドフリーよ、ドヌエル男爵は潰すことになるだろうが、ゴディア商会は伯爵家としても潰したくない。ここでお前が決断してくれればゴディア商会の罪は不問としよう。」


 アーネストの言葉を聞いてゴドフリーはガックリと膝を落とした。

 ゴドフリーはドヌエル男爵の不正を訴える事を了承した。アーネストはゴディア商会の伯爵家御用商人の看板を無くすだけで後は罪を問わないことを約束した。





 ゴディア家の屋敷を後にして僕とアーネストは再びギルドの騎獣の厩舎前に戻ってきた。アーネストはごきげんで鼻歌を歌いながらシフォンの世話をしていた。


「アーネストの狙い通り、ゴディア商会を潰すことなしにドヌエル男爵を失脚させることが出来ますね。」


「えっ?」


 僕の言葉にアーネストの手が止まる。


「あの資料だけでアーネストの兄上は動いてくれるのでしょう。ただそれだとゴディア商会はお取り潰しにならざるを得ない。そこでゴドフリーがドヌエル男爵を訴えるという形にしてゴディア商会を救うというストーリーだったのでしょう?」


「ケイは最初から判っていたのか?。」


「いえ、途中で気がつきました。しかし僕がゴディア家と知り合っていたことをよく知っていましたね。」


「今回の件は伯爵家のホコリを払うのに絶好の機会だからな。情報の収集と秘密の保護に伯爵家の総力を上げているんだ。ドヌエル男爵も色々情報を集めているだろうが、こちら(伯爵家)の方がリードしてるよ。」


 アーネストによるとイザベルが捕まったところから伯爵家は動き出し、冒険者ギルドと組んでドヌエル男爵失脚のための証拠を集めていたとのことだ。


「もしかして僕と知り合ったのもその一環ですか?」


「いや、シフォンは全く関係がない。私も昨日兄上に呼ばれるまで伯爵家が動いていたことは知らなかったのだ。」


「そうですか。」


「しかし、ケイがいなければイザベルとギーゼン商会の件は諦めていただろうな。この短期間であれだけの資料を集めまとめた君の力は物凄い。ほんと伯爵家に仕えてくれないかな?」


「僕は冒険者でいたいんだよ。」


 僕とアーネストは顔を見合わせ笑いあった。





 アーネストと別れた後、僕は食材を買い込んで宿に戻った。明日の裁判の準備がほぼ終わったので、気分転換に料理を作ってエミリー達に差し入れるつもりなのだ。

 時刻は昼の一時間ほど前で宿の食堂はあまり人がいない。宿の主人に頼み込んで台所を借りて僕はハンバーガーを作り始めた。

 前にネイルド村でハンバーグを作ったので今度はランチとして差し入れて手軽に食べれるハンバーガーを作って見ようと思ったのだ。

 こちらではケチャップもソースも無いので基本塩と香辛料だけの味付けになるのだが、肉の配合を変えて肉汁たっぷりにすることで固いパンにも合うように作った。レタスににた野菜も挟んでなんとなくハンバーガーらしい形に整える。


「これすごく美味しいんだけど。ケイは料理が上手なんだね~。」


 背後からいきなり声をかけられ僕はびっくりしてフライパンのハンバーグを落としそうになった。


「ミシェルか、脅かすなよ。あと、これは教会の仲間に差し入れるんだから勝手に食べるな。」


 義賊集団"アルシュヌの鷲"のリーダーのミシェルが何故か宿の台所にいて、僕が作ったハンバーガーを食べていた。僕はミシェルが食べた分を追加で作り直す。本当なら宿の主人に台所を借りたお礼にあげるつもりだったがしょうがない。


「悪いね。あんまりにも美味しそうな匂いだったんで。」


「美味しかったんなら良いんだけどね。じゃあ僕は教会に行くから。」


 僕は料理の後片付けをしてハンバーガーを包むと教会に向かったのだが、何故かミシェルも後をついてくる。


「何故ついてくるのかな?」


「言ったじゃん、人を張り付けるって。今はあたいがあんたに張り付く時間なんだよ。」


 張り付くならこっそりとしていてほしいのだが、ミシェルはそんな気は無いらしい。変装をしているから義賊集団"アルシュヌの鷲"のリーダとは判らないのだろうが、このまま教会に行って良いものだろうかと悩んでいるうちに僕は教会にたどり着いてしまった。


 教会で出迎えたシスターにエミリー達に会いに来たと告げ、彼女達が居る部屋に向かった。


 部屋に入ると疲れた様子のエミリー達とレオノーラが口論していた。どうやらレオノーラが教会の食事が質素なのに文句を言っていたらしい。確かに教会の食事は質素倹約が基本なので普通の人には物足りないのかもしれない。

 そんな所に僕がハンバーガーを作って持ってきたのはグッドタイミングだった。彼女達にハンバーガーを渡して食べてもらった。


「パンに焼いた肉と野菜を挟んだだけなのに凄く美味しいです。それにしてもなんて柔らかい肉なのでしょう。」


 レオノーラはハンバーグの柔らかさとチーズと組合わさった味のハーモニーに感動していた。


「「「ジー」」」


 エミリー達はハンバーガーより僕と一緒に教会に付いてきたミシェルに興味かあるようで、彼女を三人で見つめているというか睨んでいる。


「ケイ、こちらの方は?」


「えーっと、ミシェルさんと言って、今回の件で協力してもらっている方です。」


「ケイとあたいは夜の活動のパートナーだよな。」


 そう言いながらミシェルは僕にしなだれかかってきた。


「あたしはケイのパーティのエステル。」


「同じくリリーです。」


「同じくエミリーです。ケイと同じ村の出身です。」


 エミリー達が挨拶をしながら僕を引っ張ってミシェルと引き剥がす。僕のセンサーには感じられない火花が彼女達の間に散っている気がする。

 僕は目に見えないプレッシャーを感じつつも今日あった出来事と、イザベルの裁判についての作戦をエミリー達に話した。


「じゃあ私達は明日ケイと一緒に城に行けば良いのね。」


「アーネストには話を付けてあるから、僕と一緒なら入れるはずだ。」


「これでイザベルさんを助けられるのですね。」


 僕が頷くとエミリー達は安堵の表情を浮かべた。

 レオノーラは城にいかなければならないと聞いてかなりビビっていたが、ルーフェン伯爵の次男のお墨付きを貰っていることを話して安心してもらった。


 このまま教会に居ると、エミリー達とミシェルの間のプレッシャーに押しつぶされそうなので、ミシェルには悪いが彼女には言わずにこっそりと冒険者ギルドに向かうことにした。





 ギルドで顔なじみに受付嬢を探すと、彼女も僕を待っていたのか慌てて駆け寄ってきて小声で「サハシさん、ギルドマスターがお待ちです。」と呟く。どうやら何か問題が起きている様だ。

 急いで指示された個別ルームに入るとディーナ(ギルドマスター)が難しい顔をして待っていた。


「サハシ、お前に頼まれていた大水晶陸亀(クリスタル・トータス)の素材がまだ届かないんだ。どうやら向こうで何か問題が起きているらしい。」


「困りました。あの大水晶陸亀(クリスタル・トータス)の胸の部分が無いと、タウンゼンの訴えを退ける証拠が足りなくなるのです。」


フランツ(サブマスター)を昼前に向こうに向かわせたから大丈夫だと思うのだが……」


 そんな所に部屋の戸がノックされギルドの職員が入ってきて、ディーナに耳打ちする。


「まずいことになった、大水晶陸亀(クリスタル・トータス)の解体現場に魔獣が出現して、現在冒険者ギルドの職員が戦っているらしい。」


「そんな街の側に魔獣が現れたんですか。もしかして大暴走(スタンピード)の残りが?」


「いや、どうもそういう魔獣じゃないらしいが、とにかく数が多いらしい。ギルドに援軍の要請がきた。」


 大水晶陸亀(クリスタル・トータス)の解体現場まで徒歩で半日、距離にしたら二十キロメートルもない。馬なら一時間程度の距離だ。冒険者ギルドは至急の依頼を発行して冒険者をかき集めるつもりらしい。


「僕も現場に向かいましょうか?」


「それは助かるが、裁判は明日だぞ、大丈夫なのか?」


「その裁判の証拠が無いと困るんですよ。僕は直ぐに向かいます。」


「理解った、馬が必要ならギルドの馬を借りてくれ。」


 ディーナは馬を貸してくれるらしいが、僕は馬に乗れないし実は走ったほうが早いので馬は借りなかった。

 冒険者ギルドを出ると宿に向かい剣を取ってそのまま街の外に駈け出した。


「どんな魔獣か知らないけどイザベルを助ける邪魔はさせないよ。」


 門を出てひと目につかない場所に出ると僕は全力で駈け出した。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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