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どうやら僕の心臓は賢者の石らしい  作者: (や)
ルーフェン伯爵編
20/192

ジョンの秘密

02/21 脱字修正

 冒険者ギルドではエステル達が僕達を待っていた。


「ケイ、遅い~。」


「すみません遅れたのは私のせいなんです。」


 エミリーが謝り、教会での出来事を話す。


「ふーん、大変だったね。」


「ですね~。」


 僕は二人の反応が何かおかしい事に気付いた。

 エステルとリリーは、エミリーを両脇から抱え壁際に連れて行き何事か話をしている。

 僕が耳の感度をあげて声を拾ってみた。


「抜け駆け禁止。」「抜け駆けは駄目です。」


「あの状況だとしょうがないと思うのですが。」


「じゃあ私にも。」「ずるい私もです。」


 どうやら二人はエミリーが僕とキスしたことを抜け駆けだとして、自分たちもキスをしてもらおうと言っているらしい。

 僕はため息をつくてと三人の会話を聞くのを止めて、待ち合わせをしているはずのジョンを探しギルドのロビーを見回した。


(ジョン)はまだ来ていないのか。」


「ケイはモテるんだね~。」


 フードを被ったジョンが背後から突然現れた。


「うひゃ、ジョン!」


 訳の分からない叫び声を上げて僕は"お前漫画のキャラクターかよ"って言われそうなアクションで飛び上がった。それほど驚いたのだ。

 僕がギルドのロビーを見回した時に確かにジョンはいなかったのだ。人混みの中ではセンサーは役に立たないので機能を停止させているが、目で見たものは識別されるので、もしジョンがいたらログ表示されるから絶対に見逃すはずがない。そこに突然声をかけられたら驚くのはしょうがないだろう。


 ジョンは僕が驚く顔とリアクションを見て腹を抱えて笑っていた。


「びっくりさせるなよ。心臓が止まるかと思ったよ。」


「ごめんごめん、驚かせるつもりは少しはあったけど、「シフォン撫でるの禁止」...すいません、以後気をつけます。」


 笑い転げていたジョンがシフォンの名前を出すと直立不動になって頭を下げてくる。グリフォン好きもここまで来ると病気だよな。


「声をかけられるまで気付かないなんて、ジョンって忍者?」


「忍者…なにそれ? 僕が気付かれなかったのはこのマントのお陰だよ。」


 彼はそう言ってマントのフードを被るが、特に変なところのない普通のマントだ。フードを被ったからといって透明になるわけでもないしなぜ僕に理解らなかったのだろう。


「何も変わらないけど?」


「このマントはフードを被ると気配を隠してくれるんだ。ただ、一度気づかれてしまうとその効果は働かなくなるのさ。僕はあまり目立ちたくないので普段はこれで気配を消しているんだよ。」


 どうやらマジックアイテムの力で姿を隠していたらしい。彼が使っている容姿を変えるマジックアイテムと違って意識に働きかけるアイテムらしいので、僕は彼を認識できなかったらしい。ログを見ると確かにジョンを発見したと出ているのに僕はそれに気づかなかったらしい。


(こういった精神に働く魔法は危険だな。今度から注意しないと。)


「すごいマントだね。ジョンって実はお金持ち?」


「い、いや、たまたまダンジョンで見つけたんだよ。」


「へー、ダンジョンか。僕も行ってみたいな。今度そのダンジョンを教えてくれないか?」


「あ、いや、ここからだとかなり遠いから今は無理かな。」


「そうか、残念だな。」


《人間(男):呼吸数が変動、脈拍数増加、発汗も認められます。》


 実はジョンと会話をしながら彼の身体データをモニターしており、嘘をついたかどうかを見極めようとしていたのだが....必要がないくらい彼は嘘が下手ということが理解った。


「ケイ、ジョンはいたの?」


 エミリー達が壁際での話し合いを終えたらしく戻ってきた。


「ジョンならここにいるよ。」


「「「えっ? ジョン!」」」


 三人共ジョンが突然現れたように思えたのだろう、びっくりしている。僕とジョンはその姿に笑い転げていた。





 エミリー達にはギルドでタウンゼンの居場所を調べてもらうことにして、僕はジョンを連れてギルドの裏にある厩舎に向かった。


「本当にシフォンは綺麗だね~。」


 ジョンは厩舎でシフォンをマッサージしてうっとりしている。シフォンも彼のマッサージが気にいったのか先程から大人しくされるがままだ。


「僕はあまりグリフォンに詳しくないからシフォンの綺麗さってわからないな。」


「自分の騎獣なのにそれはないだろう?」


 ジョンが真剣な顔で怒ってくる。


「だって、騎獣になってしまったのも成り行きだしな~。」


 僕はジョンにシフォンを騎獣にしてしまった経緯を話した。もちろん大水晶陸亀(クリスタル・トータス)の事は省いてある。


「ええ、じゃあシフォンは孵ってから一月も経っていないの?」


 ジョンが驚愕の顔でシフォンを見つめる。


「うん、卵が孵ってからそろそろ一週間かな?」


「どうして一週間でこんなに成長したの?君の言っていた亀の肉が原因?」


「そうなんだけど、教えて欲しい?」


「頼むよ、城で聞いたけど亀の肉って誰も知らなかったんだ。」


(本当に彼はグリフォンの事になると見境ないな。)


「じゃあ、秘密を教えてあげても良いけど、ジョンも僕に隠していることを教えてくれないか?」


「僕が隠していること?……なんのことだネ?」


 ジョンは冷汗を流しながらとぼける。


「だって、本当は金髪なのに黒髪にしてるだろ?ジョンも偽名だと思うんだけど?」


 ジョンは凍りついたように動かなくなる。


「…なぜそれを?今まで誰にもバレたことが無いのに。」


「僕はそういうのが理解るんだよ。」


「僕の正体については言えない。」


「じゃあシフォンのことも教えないし、もう触らせてあげないよ。」


「ぐっ、ずるいぞケイ、それは卑怯だ。」


 駄々っ子のように暴れだすジョン。美人な顔で泣きながら睨まれると僕が凄く悪い事をしている気分になる。


「ジョンが教えてくれればシフォンのことも教えるし、また撫でさせてあげるよ。」


「...本当にシフォンのことを教えてくれるのかい?」


「うん、男に二言はない。」


「ケイを信じるよ。僕の本当の名前はアーネスト=フォン=ルーフェンって言うんだ。聞いての通り、僕はルーフェン伯爵の子供だよ。」


 僕はルーフェン伯爵の配下の子爵の若様ぐらいかな思っていたが、ジョンはルーフェン伯爵の実の息子だった。シフォンで偉い大物が釣れた事に僕は驚きと喜びを隠せなかった。


「なるほどね。それは好都合だ。」


「好都合って...まさか僕を誘拐でもする気かい?」


 何故かジョン(アーネスト)は胸元を抑えて後退る。それじゃ僕がジョンを襲っている犯罪者に見えちゃうじゃないか。


「あの、ジョンは僕をなんだと思っているの?僕はジョン..アーネストをどうこうするつもりはないよ。逆に僕というかイザベルとギーゼン商会をアーネストに助けて欲しいんだ。」


「ギーゼン商会?ああ、昨日話してた話だね。ケイはそこに雇われているの?」


「雇われてはいないけど、イザベルが逮捕されている原因が僕達にもあるから、なんとかして助けてあげたいんだ。それに..」


「それに?」


「ギーゼン商会を助けないと大水晶陸亀(クリスタル・トータス)の肉が手に入らなくなるからね。」


大水晶陸亀(クリスタル・トータス)って?まさかグリフォンに食べさせた亀の肉って大水晶陸亀(クリスタル・トータス)の肉なのか?」


「そうだよ。シフォンはあれを食べてこんなに成長したんだ。」


「なるほど、力のある魔獣の肉は良い餌になると聞いたことがあるけど、大水晶陸亀(クリスタル・トータス)の肉なら最上級の餌になるね。」


「でもイザベルがこのままだともう手に入らなくなるよ。」


「え?」


「噂じゃ大水晶陸亀(クリスタル・トータス)の素材はギーゼン商会から別の商会が扱う事になるらしいね。おそらくその商会はドヌエル男爵の息のかかった商会だろう。そんな所に大水晶陸亀(クリスタル・トータス)の素材が流れたらもう手に入らなくなると思わないか?」


「うっ、それはあり得る。ドヌエル男爵なら出世のために全部王都の有力貴族に売ってしまうだろうな。」


 アーネストはしばらく考え込んだ。


「理解ったよ、僕に出来る事なら協力しよう。」


 僕はアーネストと言う強力な味方を得ることができたのだった。





 正体がバレたアーネストに僕はなぜ冒険者のフリ(バレバレだが)をしていたのか尋ねた。


「君も知っているように僕はグリフォンが大好きなんだ。あの気品に満ちた姿、力強い爪、獲物を引き裂く嘴...全部が好きなんだよ。」


「城にはグリフォンがいないの?」


「何頭かグリフォンはいるんだが、城のグリフォンは卵から孵った時から人の手で育てられているせいか、こう、なんというか鋭さが無いんだ。それに僕は伯爵の次男だ、騎獣とはいえ魔獣と触れ合うのは中々許してもらえないんだよ。そこで僕は考えたんだ。自分でグリフォンを育てれば良いのじゃないかと。」


「それで冒険者ギルドに来てたのか。」


「いや、実は冒険者ギルドにはすでにグリフォンの卵の捕獲を依頼してあるんだ。」


 どうやらエステルとリリーが受けた依頼の主はアーネストだったらしい。


「毎日卵が届いていないか確認に来ていたけど、全然届かなくてね。そんな時にケイのシフォン(グリフォン)を見つけたんだ。」


 そこからは僕も知っている通り、アーネストはシフォンに夢中になってしまった。シフォンは彼の理想の容姿のグリフォンだったらしい。

 そんな話をしながらもアーネストはシフォンを撫でている。シフォンも彼に完全に慣れてしまったのか、僕が言い聞かせなくてもアーネストを嫌がらなくなっている。


「シフォンはアーネストが好きかい?」


「クゥ」


 シフォンは首をかしげて僕をみてアーネストを見て何か頷いている。


「シフォンが良ければアーネストの騎獣にならないか?」


「え?」


 シフォンに言ったつもりだったが、何故かアーネストが反応する。

 アーネストは驚いて僕をみつめる。そんな熱い目で見つめられると男だとわかっていてもドキドキするんですが。


「シフォンは君の騎獣だろ?」


「そうなんだけどね、アーネストにも話したように偶然そうなっただけで、本当ならキミの手に渡っていたグリフォンなんだ。僕は冒険者だし、この街にずっといるわけじゃないからシフォンをこのまま騎獣として飼い続けるのは難しいとは思っていたんだ。」


「しかし、グリフォンは卵から孵った時に側にいた人じゃないと慣れないというし...」


「でも見たところシフォンは君になついているみたいだし、もしかしたら君の騎獣になるかもしれない。」


「も、もしそうなら僕がシフォンにのって空を飛べるのか...」


 うっとりとした目で空を見るアーネスト。おそらく彼はシフォンにまたがって空を飛ぶ自分を想像しているのだろう。


「ケイ、僕に出来る事ならなんでも言ってくれ。」


 アーネストは目を血走らせて僕の手を掴んでくる。美人に迫られるというもの得難い経験だが、アーネストは女性じゃなくて男だ、僕は「彼は男」と自分に言い聞かせる。




「アーネストに頼みたい事は二つだ。一つは城に拘留されているイザベルさんの保護だ。罪が確定するまではドヌエル男爵も手を出さないと思うけど、万が一ということも考えられる。君ならそれぐらい出来るだろう?二つ目は、僕が城に入れるようにしてほしいんだ。」


「イザベルさんの事はなんとかできると思うけど、君が城に入るのは何が目的なの?」


「ちょっと調べ物をしたくてね。大丈夫、ルーフェン伯爵家に迷惑がかかるようなことは何もしないというか逆に助けてあげるよ。」


「良くわからないけど、君を信じていいのかな?」


「信じてほしいな。」


 アーネストはこれを門番に見せれば城に入れるようにしておくと、ルーフェン伯爵家の家紋入りのハンカチを渡してくれた。





 アーネストはもう少しシフォンと遊びたいというので、僕は彼と別れギルドのロビーに戻った。

 ロビーで僕をギルドマスターの所に連れて行った受付嬢がいるのを見つけると、そのカウンターに入った。


「本日はどのようなご用件で?」


「えーっと、ギルドマスターに会いたいんだけど?」


「アポはございますか?」


「アポは無いんだけどね。サハシが来たと言ったら会ってくれないかな?」


「アポがない場合は...」


 そこで受付嬢は僕にようやく気付いたようだった。


「サハシさん...マスターからは貴方が来られたら奥の部屋に通してほしいと言われております。」


 彼女に案内されて僕はギルドの奥の部屋に入っていく。ここは秘密を守りたい依頼者が個別に冒険者と会うための部屋で、そこでの会話がもれないことは冒険者ギルドが保証しているらしい。

 部屋にはいるとギルドマスターのディーナが俺を待っていた。


「うまくルーフェン伯爵の次男に取り入ったようだね。」


 彼女には僕の行動は筒抜けらしい。


「貴方が知っているということは、このことはドヌエル男爵にも筒抜けですか?」


「そちらはギルドが押さえているよ。で、どんな用件で私に会いに来たのかね?」


 ギルドはどうやら僕の情報を押さえていてくれているらしい。なぜそこまで僕を信頼しているのか不思議だが今はその好意をありがたく受けておくことにする。


大水晶陸亀(クリスタル・トータス)の素材は、ギルドが保管してると思うのですが違いますか?」


「ああ、それはこっちが回収を手伝っているからギルドの倉庫に保管してあるよ。」


「では、大水晶陸亀(クリスタル・トータス)の心臓部の辺りの傷ついた甲羅をイザベルさんの嫌疑が晴れるまで保存しておいて欲しいのです。」


「まあそれぐらいなら私の権限でできると思うが...なぜ?」


「それがイザベルさんの嫌疑を晴らす証拠の一つになるからです。あと、いつイザベルさんの嫌疑は何時、何所でどのようにして決まってしまうのか教えて欲しいのですが。」


「イザベルの嫌疑は冒険者のタウンゼンの訴えによるものだから、ギルドで裁判をやる...のが本当なのだが、ドヌエル男爵がルーフェン伯爵の城で裁判をやると言っているのだ。」


「理由は?」


「ギルドだと冒険者に有利な判決が出るから不公平なんだと言っているが、実際は自分の手の内で裁判を行わせたいのだろう。多分裁判官も彼の子飼いの連中が務めるだろう。」


「やりたい放題ですね。で、裁判はいつでしょうか?」


「三日後だ。」


 三日の内に証拠と証人を集めなければならないのか。かなり辛い戦いになりそうだ。



 ディーナと別れた僕はギルドの情報屋に会いに行った。

 情報屋と言えば裏社会の連中が仕切っているものだが、このアルシュヌの街では裏社会を仕切る連中が義賊なのでそちらと通じで情報をやり取りしているらしい。

 アルシュヌの街が義賊によって仕切られている理由は、ドヌエル男爵配下の貴族連中の子飼いの方がよっぽど悪辣な事をするためそれに反発した者達が義賊のギルドを結成したからである。


「あんたがサハシか、マスターからは便宜を計ってやれと言われてるが、何を知りたい?」


「僕が知りたいのは.....」


「へー、そんな事を知ってどうするのやら。まあ依頼は依頼だ、この依頼だと情報料は金貨二十枚だな。」


「明日の昼までには入手して欲しいんだけど、できるかな?」


「大丈夫だろう。」


 僕は報酬の前払いとして金貨十枚を払い情報屋を後にした。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

お気に召しましたら、ご感想・お気に入りご登録・ご評価をいただけると幸いです。誤字脱字などのご指摘も随時受付中です。

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