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どうやら僕の心臓は賢者の石らしい  作者: (や)
ルーフェン伯爵編
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ジョンとシフォン

02/18 誤字修正しました

02/21 表現の修正

 部屋から僕が出てくると、心配そうな顔でエミリーが待っていた。


「ケイ、受付の人に聞いたら、ギルドマスターに呼ばれたって...大丈夫だったんですか?」


「村長の依頼書の件で呼ばれたんだ。詳しいことは後で話すよ。それよりエミリーの方は冒険者の登録は終わったの?」


「はい、終わりました。」


 エミリーが嬉しそうにタグを見せてくる。エミリーは今まで彼女だけ冒険者でなかったのが悔しく思っていた事を僕は知っている。


「あと、ネイルド村で大暴走(スタンピード)の際に、教会で負傷者の治療をしたことが評価されたみたいで、初級の中のランクをいきなりもらえました。」


「それは良かったね。エミリーが頑張ったおかげだね。」


 僕はいきなり中級の下のランクを貰ってしまったんだけどなと思いつつ、エミリーが嬉しそうなので彼女の頭を撫でて誉めてあげる。


「えへへー。でもエステルやリリーをランクで越えちゃったのは彼女たちに悪いかもです。」


「彼女達もそんなこと気にしないだろうし、二人もきっとランク上がっているよ。」


 そう言いながら二人を探すと、彼女達も探していたのか僕を見つけて駆け寄ってきた。


「ごめんごめん、グリフォンの依頼の報告をしてたら遅くなっちゃった。」


 エステルが謝る。リリーはその横で何か釈然としない顔をしている。


「グリフォンの件で一緒に行った三人が死亡したことについては特にお咎め無しでした。もともとあまり評判の良くない人達でしたし、ギルドも私達に過失が無いと言ってくれました。それよりも大暴走(スタンピード)撃退の功績でランクアップしてくれたのが意外でした。」


「へー、普通はしてくれないの?」


「ええ、よっぽどの大物、例えばワイバーンとかを倒さないと功績にはしてくれません。」


 僕の頭には先ほど会ったばかりのギルドマスターの顔が浮かぶ。僕達のパーティにいろいろ手を回しているらしいことが判っててきた。


「先手打たれてるなぁ。」


「「「?」」」


三人が怪訝な顔をで僕を見てくるが、ギルドマスターとの会話の内容は人の多いところで話さない方が良いだろう。


「とりあえずシフォンを預けたら宿を探そう。色々話したいこともあるけどギルドじゃちょっとまずい。」


「私達もタウンゼンについて知り合いの冒険者から聞いてきました。宿を取ったら情報を交換しましょう。」


 エステルとリリーは何か情報を得たらしい。それならはやく宿を探そうと受付でシフォン(騎獣)を預かってくれる場所を尋ねる。

 受付嬢は騎獣はギルドの裏手に厩舎があると教えてくれた。一日銀貨一枚で餌代は別途請求らしい。


「騎獣は手綱を着けていても危険ですので、今後は表に繋がず、裏の厩舎につないでください。」


 受付嬢が注意してくれたので金貨一枚を先払いして整理札を受け取り大慌てでシフォンのもとに向かった。





 シフォンは大人しくギルドの前で待っていてくれたが、その側に奇妙な人物が立っていたが立っていた。

 どこが奇妙かというと、その人物は金髪をショートカットにした絶世の美人といえる女性なのだが、うっすらと黒髪の同じ容姿の女性と重なって僕には見えていたのだ。

 彼女は柔革鎧を着てフード付きのマントを羽織っており、腰にサーベルを挿している。その装備から冒険者と思うのだが、二重に見える姿に僕は戸惑っていた。


「リリーと同じくらい綺麗な黒髪ですね。」


「背が高くて羨ましいです。」


「自分と比べるのも馬鹿らしくなるぐらいの美人だね...」


 最後のエステルの言葉に二人共頷いている。街の中で彼女に出会ったら男性どころか女性まで注目してしまうだろう。現に今も町の人達が彼女の美貌に見惚れ足を止める人が多数出てきている。


 しかし僕とってはその美貌よりエミリー達には黒髪の女性にしか見えていないことの方が気にかかる。


 何かわからないかと僕は彼女をじっと見つめると


《人間(男):スキャン開始.....終了。解析不可能な場を周囲に展開中。脅威度:0.3%》


 いつものごとくスキャンが始まりログが表示される。ログの表示を見て僕は彼女が実は男性である事に驚いてしまった。


(解析不可能な場って、おそらく魔法だな。それで容姿を変えていると思うんだけど、単に髪の色を変えているだけじゃダメだろ。あの美貌じゃ意味が無い)


 そんな僕の思いを知らずに、彼はシフォンに触ろうとしては啄かれそうになって手を引っ込めるといったよくわからない行動を繰り返している。

 エミリー達も彼に見惚れてしまっているので、僕が彼に声をかけた。


「僕の騎獣になにかありましたか?」


「すまない、君の騎獣だったのか。僕はグリフォンが大好きでね、あまりに綺麗なグリフォンだったんで触ってみたかったんだ。」


 彼は僕に気付いて単にグリフォンを触りたかっただけだと謝ってきた。そんな彼の声を聞いてエミリー達は自分たちの勘違いに気付き顔を赤くする。先程からの彼女達の会話は、全部彼に聞こえていたはずだ。


「「「ごめんなさい。」」」


「いつも間違われるからね。別に気にしてないよ。」


 彼はそう言って笑って彼女たちを許してくれた。


 シフォンをギルド裏の厩舎に連れて行こうとすると、彼は残念そうな顔をして僕とシフォンを見つめてくる。


「そんなにシフォンを気にいったのかい?」


「さっきも言ったけど、こんなに綺麗なグリフォンは今まで見た事が無いんだ。少しで良いから触らせてくれないかな。」


 彼は僕に顔を近付けて頼んでくる。


「あんまり顔を近づけないでくれないかな!」


 男と判っていてもこれだけ美人だとドキドキする。


「ああっ、ごめん。」


 彼に顔を赤くされても僕が困るんだが。さっきからエミリー達の視線が痛い。僕にその気はないのですよ女性陣。


「ここじゃなくて厩舎でなら触らせてあげるよ。」


「本当かい?それは嬉しいな。...そういえば僕はまだ名乗ってもいなかったね。僕はジョン、見ての通り冒険者をやっている。」


 ジョンが手を差し出すので仕方なく握手をする。エミリー達の視線がますますきつくなるのは何故だろう。


「僕はケイ、同じく冒険者をやっている。彼女たちは僕のパーティーメンバーで、エミリーとエステルとリリーだ。」


 自分とエミリー達の紹介をしながら、ジョンの装備を観察する。冒険者といっているが、近くで見ると鎧や剣もあまり汚れておらず、冒険者にしては小奇麗過ぎる。エミリーたちはジョンの顔に注目しすぎで気付いていないが、少し観察できる人なら彼が冒険者じゃないと気付くだろう。


 僕はジョンが何か目的を持って僕に近づいてきたのではないかと疑い始めた。



 僕はシフォンを厩舎に繋ぐと、ジョンが触っても啄かないように言い聞かせる。

 グリフォンが好きというだけあって彼はグリフォンを撫でるポイントを心得ており、シフォンが撫でられて気持ちよさそうにしている。


「ジョンはグリフォンを撫でるのが上手だね。」


「そりゃ毎日城の...頭の中で練習してるから。それより君のグリフォンはどうしてこんな綺麗なんだろう。特別な餌でも与えているのか?」


(城って言ったよな。僕達に接近して情報を得ようとする諜報員だとすると間抜けすぎる。姿を変えているところから推測するとどこかの貴族の若様が冒険者のまねごと中なのかな。)


 僕はジョンへの警戒ランクを下げることにした。


「亀の肉のおかげかな?」


「亀の肉?変わったものを食べさせてるんだな。でも亀の肉を食べさせるとこんなに綺麗になるんだな、良いことを教えてくれてありがとう。」


 僕に正体がばれかけていることも知らず、ジョンは僕の返事を聞いて感心している。ジョンは普通の亀の肉だと思っているだろうけど、大水晶陸亀(クリスタル・トータス)の肉だということは言わないでおく。


 一時間ほどジョンはシフォンを撫で回し、満足してくれた。僕はそれに付き合ったがエミリー達は途中で宿を探しに行ってしまった。ジョンはずっとグリフォンの話をしてくるばかりで、僕達のことについてはあまり聞いてこない。


(うん、これはグリフォンが大好きな貴族の若様に違いない。)


 僕はジョンが諜報員ではないと確信する。僕は彼がどこの貴族の若様か知っておきたいので少し話をして正体を探ることにした。


 エミリー達が戻ってくるまで時間があるので街のことでも教えてくれないかとジョンと他愛のない話をする。その話の中で街に入った際の出来事(イザベルの件)について話を振ってみた。


「護衛してきたギーゼン商会のイザベルさんがいきなり捕まってびっくりしたよ。」


「へえ、それは大変だったね。」


「おかげで護衛料も貰い損ねたし、シフォンの餌代稼がないとな~。」


「それは大変だ、僕に出来ることがあったら何でも言ってくれ。」


 予想通りにシフォンを餌にしたらジョンはたやすく食いついてくれた。


「いや、知り合ったばかりのジョンに頼ることは出来ないよ。しかしイザベルさんも大変だな。大水晶陸亀(クリスタル・トータス)を倒した奴..えーっとタウンゼンだっけ、本当に倒したんならちゃんとギルドに報告しないとね。誰もいない所で死骸を見つけたらそりゃ自分の物だって思うよな。」


「それだけ大物の魔獣を倒したのにギルドに報告しないとは確かに変だね。」


「僕はイザベルさんと一緒にいたから知ってるんだけど、発見してからギルドに報告して回収まで手伝ってもらっているのにタウンゼンが訴えたのはずいぶん後らしいじゃないか。ほんとおかしいよね。」


「...」


「噂ではタウンゼンってドヌエル男爵って人のお抱えらしいし、何かあるんじゃないの?」


「またあいつか、なんとか王都の父上に報告できないものか。」


 ジョンはボソリとつぶやいたが、僕の耳はそれを聞き逃さなかった。


「まあ、一介の冒険者の僕にはどうしようもないけどね。」


 その後ジョンにはルーフェン伯爵について知っていることを話してもらった。


 ルーフェン伯爵自身は公明正大な人で文武に優れ、国王からの信頼も厚い。そのためほとんど領地におらず王都で仕事をしているらしい。

 ルーフェン伯爵には二十歳と十八歳の二人の息子がいて、どちらも可愛がっている。兄弟は仲もよく、継承権とかで兄弟が争ってるなどのお家騒動も今のところない。

 問題なのは、アルシュヌの街を含む領地は長男のフィリップが代理で治めているが、領地の経営を伯爵配下の貴族たちが牛耳っており、フィリップは経営の内容を把握できないことで、その領地経営を牛耳っている貴族の筆頭がドヌエル男爵らしい。


 ここまで聞いて、ジョンはかなり伯爵家に近い筋の貴族の若様であることが僕にも理解できた。シフォンを餌にえらく大物が釣れたようだ。


 エミリーが僕を迎えに来たのでジョンとは厩舎の前で別れることになった。


「明日またシフォンを撫でさせてはくれないかな。」


「明日もギルドに顔を出すから、その時で良ければ。」


 絶世の美女の顔で頼まれては断りきれなかった僕は、明日の昼過ぎにギルドで彼を落ち会う約束をした。





 アルシュヌの街は中心に伯爵の居城があり、北側は岩山で東西南に町並みが広がっている。伯爵の城に近いほど貴族や大商人など身分が高い人や裕福な人たちが住んでいる。街の外壁に近いあたりではスラムとなっている場所もある。

 エミリーが連れて行ってくれた宿はアルシュヌの街の外壁から少し内側にある冒険者向けのものだった。エステルとリリーが前にこの街にいた時にお世話になっていた宿で、値段も高くなく、食事のボリュームが多いことが売りらしい。


 宿につくと部屋は四人部屋でとってあった。


「うーん、僕が一緒でも良いのかな?」


「大丈夫です。」「問題なし。」「ご不満でもあるのですか?」


 女性陣が問題なければ僕には何も言うことがありません。



 宿の部屋でそれぞれが集めた情報をすり合わせることにした。

 リリーとエステルがタウンゼンとそのパーティに付いて調べてくれた事を報告してくれる。


「えーっと、タウンゼンって冒険者についてですが、知り合いに聞いたところ中級の中ランクでそこそこ腕の立つ冒険者らしいです。パーティは"アルシュヌの星"と言うらしく、タウンゼンを含めメンバーは五人で、パーティランクは中級の中です。一流とは言えないですが、実力のあるメンバーが揃っています。実力があると言っても大水晶陸亀(クリスタル・トータス)を倒すほどの力はないとのことです。」


「あたしが聞いたところだと、冒険者ギルドに大水晶陸亀(クリスタル・トータス)の回収依頼がきて二日ほどしたら、タウンゼンが突然俺達があの魔獣を倒したんだと言い始めたらしいよ。みんなタウンゼンに倒せるはずは無いことを知っているけど、ドヌエル男爵が背後にいるんで見て見ないふりをしているね。」


「私は冒険者登録の間に受付の方に聞いたのですが、大水晶陸亀(クリスタル・トータス)の素材はギーゼン商会から別の商会に売られることになったみたいです。」


 エミリーの報告から、どうやらドヌエル男爵だけじゃなく商会も事件に絡んできたことが理解った。おそらくドヌエル男爵とつながりのある商会だろう。


 僕はギルドマスターが大水晶陸亀(クリスタル・トータス)を倒したのが僕じゃないかと疑って(ほぼ確信している)いること、ギルドとしてはタウンゼンが嘘を付いている証拠が無いのでギーゼン商会を助けることができないこと、ギルドマスターは僕達が証拠を集めタウンゼンの嘘を暴くことを暗に期待していることを話した。


 問題なのはたとえ証拠を集めてもドヌエル男爵に握りつぶされることだ。

 そこで本当に奇跡みたいな偶然で知り合ったジョンを頼ることが出来るのではないかとエミリー達に話してみた。


「ケイの話通りならジョンは城に出入りできそうだし、伯爵本人とはいかなくても長男とかに今回の事を話してくれないかな。」


「明日、もう一度ギルドで会う約束をしたから、その時に本当に信頼が置けそうならダメ元で彼に話を持ちかけてみるよ。」


(ジョンが期待通りの人物であってくれれば良いのだが。)


 イザベルを助ける為には僕はジョンの力に期待するしか無いのだ。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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