表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうやら僕の心臓は賢者の石らしい  作者: (や)
ルーフェン伯爵編
17/192

アルシュヌの街での出来事

今回のような展開の話は苦手です...うまくまとめられれば良いのですが。

 大水晶陸亀(クリスタル・トータス)との戦いから三日目の昼過ぎ、僕達はようやくアルシュヌの街にたどり着いた。大水晶陸亀(クリスタル・トータス)と闘った場所は、アルシュヌの街から半日程の距離であり本当に目と鼻の先だったのだが、僕が解体作業を手伝わされていたのでこんなに遅くなってしまったのだ。



 アルシュヌの街は人口一万人と地方都市としてはかなり大きい。周囲には街へ食料や鉱石・食肉などを供給する大小の町や村が点在し、それらの流通の中心としてアルシュヌの街は存在する。

 そしてこの一帯を統治するルーフェン伯爵の居城もこの街にある。ルーフェン伯爵はバイストル王国の東部辺境を治める伯爵で、王家から降嫁されるほどの勢力を持つ大貴族である。


 街に近づくと、アルシュヌの街は周囲を城壁で囲っていることが見て取れた。その高さはネイルド村の比ではなく、おそらく高さ十メートルはあるだろう。この世界の土木技術を考えると、どれだけの年月をかけて城壁を建築したのか想像もつかない。


(それともドワーフの職人とか魔法で簡単に作れるのかな?)



 アルシュヌ街へ入るには、東西南の門を通るしかないのだが、今回僕達は東の一番大きな門から街には入ることにした。


 荷馬車が五台ぐらい横にならんで出入りできる東門は見上げるほど大きかった。僕とエミリーはおのぼりさんよろしく巨大な門を見上げている。


「大きい門ですね。」


「サハシ様、アルシュヌの街はこの辺で一番大きくルーフェン伯爵様の居城があるのですから、これぐらいの門構えは当然です。」


 僕達を街に戻るまでの護衛として雇ったイザベルが自慢げに説明する。

 歩いて半日しか離れていないアルシュヌの街まで護衛など必要ないのだが、僕達が街に行くと聞いたイザベルがまた魔獣に襲われたら心配だからと半ば強引に護衛に雇ったのだ。

 まあ、一緒に街道を行くのだし護衛を引き受けても問題はなかったのだが、なぜかエミリー・エステル・リリーがこの依頼を受けるのを渋った。

 結局半日の護衛としては金貨四枚と破格の報酬を提示されて受けることになったが、イザベルが道中僕に話しかけてくるので三人は凄く不機嫌であった。


 門の前には街に入る人が列を作っており、僕達はギーゼン商会の荷馬車と共に列の最後尾についた。


「なぜか注目されている気がするんだけど。」


シフォン(グリフォン)が目立ってるんだと思います。」


 大水晶陸亀(クリスタル・トータス)の肉を餌にしたお陰でシフォンはすでに馬を越えるサイズにまで成長している。

 シフォンは頭がよく、僕の言うことをかなり理解して人などは襲わないのだが、さすがにそのままでは街に入れないと言うので、イザベルに頼んで騎獣の手綱という魔獣をおとなしくさせる魔法のアイテムを入手してもらい着けさせている。

 そうはいってもこれだけ大きな魔獣がおとなしく列に並んでいるのだ、みんなの注目を集めてもしょうがないだろう。


 門の前には伯爵家の兵士が門番として二十名ほどおり、手際よく街を出入りする人をさばいていた。

 大暴走の影響も収まり、街と村を繋ぐ街道もいままで通りに通行できるようになった為か門の前に並ぶ人が多く、街に入るのには後一時間はかかりそうだった。


「入るのに時間かかりそうですね。」


 エミリーが街に早く入りたいのかソワソワしている。僕も門から見える中世のヨーロッパといった感じの町並みを見て早く街の中に入りたい気持ちで一杯である。


「貴族様ならこんな列に並ばなくてもさっさと入れるんだけどね~」


 貴族はその特権で門はスルーパスらしい。

 街について話しながら一時間ほど待ってようやく僕達の順番が回ってきた。


 いかにも実直そうな門番の兵士に僕のタグを見せる。

 彼は僕の連れているグリフォンに驚きつつも冷静に僕達に応対してくれた。


「グリフォン連れとは珍しいな。ディルック村のケイか、そっちのお嬢さんは?」


「エミリーともうします。同じディルック村からやって来ました。」


「二人ともこの街は初めてか?お嬢さんはタグを持っていないなら銅貨五枚を払ってもらう。グリフォンは銀貨一枚だ。タグは街の役場で金貨一枚で作ってもらえるから、作っておいたほうが便利だぞ。街中で騎獣の手綱は外さないようにしろ。外すと罰金として金貨十枚だ。騎獣は宿には預けられないが、冒険者ギルドなら預かってくれる。...」


 兵士は親切に街に入る上での注意事項を僕達に教えてくれる。


「ありがとうございます。」


 僕は兵士にお礼を言い、銀貨一枚と銅貨五枚を支払って門をくぐった。


「ギースさんお久しぶりです。」


「エステルとリリーか良く生きて帰ったな。」


「ええ、私達を囮にしようとしたあいつらは死んじゃいましたけどね。」


「ふむ、運が良かったのか悪かったのか。まあがんばってくれ。」


 エステルとリリーはこの門番と顔見知りなのかタグを見せながら話をしている。


「次は...」


「私です。」


 馬車からイザベルが降りてタグを見せる。イザベルの顔を見た門番、ギースの顔が苦虫を噛み潰したような顔になる。


「ギーゼン商会のイザベルさんだよな。」


「何言ってるの、ギース、私の顔を見忘れたの?」


「いや忘れてはないさ。...すまないがイザベル=ギーゼン、貴方を拘束させてもらう。」


 イザベルの回りを兵士が取り囲む。


「えっ?何の冗談なの?」


「冗談じゃないんだイザベル、あんたには大水晶陸亀(クリスタル・トータス)の素材を不法に売りさばいた嫌疑がかけられている。」


「そんなバカな話が...誰がそんなことをいっているのですか?」


「タウンゼンとか言う冒険者さ。」


「その冒険者の言うことを信じているのですか?」


「俺も信じちゃいないが、ドヌエル男爵のお抱えの冒険者らしくてね...兵士としてはお上に逆らえないのさ。悪いけど城まで連行させてもらう。」


 イザベルは兵士に連れられていってしまった。

 僕達はあまりの急展開に唖然としているだけだったが、兵士につれていかれるイザベルが、僕に向かって「助けて」といったのを聞きのがしはしなかった。





「ケイ、どうする。」


「濡れ衣ですね。」


「イザベルさんを助けてあげてください。」


 三人が僕に詰め寄ってくるが、僕もどうしたら良いのか判らない。


「とりあえず情報が少ないよ。どこかでこの件について情報を仕入れないと。...訴えてきたタウンゼンは冒険者だよな。冒険者ギルドにいけば何か情報が手に入らないか?」


 もともと僕とエミリーの冒険者登録をするつもりだったので、僕達は冒険者ギルドの向かうことにした。






 エステルとリリーに連れられ僕達はアルシュヌの街の冒険者ギルドに向かった。

 アルシュヌの街の冒険者ギルドは街の大通りに面した二階建ての大きな建物であった。


 建物の外にシフォンを繋ぎおとなしくしているように言い含め、僕達はギルドの中に入っていく。


 僕の抱くギルドのイメージは荒くれ者の巣窟というイメージだったのだが、中は結構綺麗であり、受付のカウンターに職員が並ぶ様は、銀行の窓口に近い感じがした。

 まあ、銀行と違い鎧やローブを着込んだ冒険者達が大勢ロビーに居て、騒然としてるのだが。


「僕とエミリーは冒険者登録を済ませてくるから、エステルとリリーはタウンゼンの情報を聞いてくれないかな?」


「わかったよ。」「わかりました。」


 エステルとリリーは知り合いらしい冒険者に声をかけて話し込んでいる。

 僕はエミリーと空いている受付に向かった。


「本日はどのようなご用件で?」


 受付は二十代ぐらいの女性だった。


「えっと、冒険者の登録に来ました。僕はディルック村で冒険者の仮登録を済ませましたが、彼女は冒険者になるのは初めてです。」


 僕は受付嬢にタグを見せる。


「はい、確認しました。ケイ=サハシ様ですね。本登録に書き換えてきますのでタグをお預かりしてもよろしいでしょうか?」


「はい」


「そちらの女性はこの申し込み書に必要事項をお書きください。もし字が書けないようでしたら銅貨五枚で代筆させていただきます。」


 エミリーは代筆を断り自分で記述している。彼女が申し込み書を書き終える頃に受付嬢が帰ってきた。


「サハシ様タグの書き換えが終了しました。」


 受付嬢がタグを渡してくれる。タグにはアルシュヌの街の冒険者ギルド所属と記載されていた。


「あと、ディルック村で受けた依頼の依頼書があるのでこれも受け取ってください。」


 僕が羊皮紙を渡すと、受付嬢は中身をざっと確認する。


「すいません、このゴブリン退治ですが、退治数が50匹となっておりますが、どなたかとパーティを組まれておられたのでしょうか?」


「村の狩人の一人と組んでました。」


「そ、そうですか。で、こちらのオーガ退治とは?」


「その狩人と一緒に倒しましたが?」


 僕はそのとき自分がやった依頼が初級の冒険者がやるような、しかも狩人と二人で達成できるような依頼では無いことに気づいていなかった。


「タグをもう一度お貸し願えますか。あと少々お待ちください。」


 受付嬢は僕のタグを受け取ると依頼書を持って慌ててギルドの奥の部屋に入っていった。


「ケイ、どうしたんですか?」


「村長から貰った依頼書を渡しただけなんだけどね。どうしたんだろう?」


 奥の部屋から受付嬢が出てきたが、その顔が青ざめている。


「サハシ様申し訳ありません、こちらの依頼書の件で少々お尋ねしたいことがありまして、あちらの部屋に行ってもらえませんでしょうか?」


 受付嬢は彼女が出てきた奥の部屋を指し示す。


「はあ? エミリーは?」


「彼女はこちらで冒険者の登録をしておきますので、サハシ様はあちらに。」


 僕は何がどうなっているのかわからないまま奥の部屋に入る。



 部屋に入るなり目の前に棍棒が振り下ろされる。

 普通の人なら絶対に避けられない速度で振り下ろされた棍棒を僕はスローモーションの様に感じ取る。


《自動回避プログラム:起動...》


 ログが一瞬で流れ、僕は横に流れるように移動して棍棒を避ける。


「これを避けちまうか。」


 僕に棍棒を振り下ろしたのは、熊の頭が付いた毛皮を被った身長二メートルぐらいの大男だった。身長も高いが横幅もかなり広く、まるで肉の壁が立ちはだかっているような感じだった。


《人間(男):スキャン開始.....終了。棍棒を所持。脅威度:2.0%》


(脅威度2.0%ってオーガ並だよな)


「いきなり危ないじゃないですか。当たったらどうするんですか?」


 僕は大男に文句を言うが、男はニヤリと笑って


「オーガをたった二人で倒しちまうような奴がどれほどの腕か確かめたくてな。大丈夫当たっても死なないように手加減してるさ。」


 と棍棒で肩を叩きながら部屋の奥に歩いて行く。

 部屋の奥には大きな執務机があり、そこには長い銀髪と褐色の肌を持つ妙齢の美女が座っていた。


「姉さん、こいつかなりやりますぜ。」


「フランツ、馬鹿やってるんじゃないよ。彼がびっくりしてるじゃないか。」


 美女は立ち上がると僕のに近寄ってくる。また何かされるのかと警戒していると


うち(ギルド)のサブマスターが失礼な事をして申し訳なかった。私はディーナ、アルシュヌの街の冒険者ギルドのマスターだ。」


 彼女は自己紹介をして右手を差し出してきた。

 この世界にきて握手を求められたのは初めてだったので一瞬戸惑ったが、僕はディーナの手を握り


「ケイ=サハシです。なぜここに呼ばれたか教えていただけますか?」


 と彼女に問いかけた。


「それは...ギーゼン商会の件に君が関わっているとギルドの調査で判明したからだ。」


「え?」


 いきなりギルドマスターにそんな話を振られ、僕は握手をしたまま固まってしまった。


「お前のパーティがアドルのパーティと一緒に大水晶陸亀(クリスタル・トータス)死骸を見つけ(・・・・・・)、それをギーゼン商会に売り払ったことは判っている。大水晶陸亀(クリスタル・トータス)を誰が倒したのかは不明だが、少なくともタウンゼンとか言う小物が倒したとは私は思っていない。」


「なら、イザベルさんの嫌疑は晴らせるのでは?」


「証拠がないのだ。大水晶陸亀(クリスタル・トータス)を倒した者が他に名乗りでていない以上タウンゼンの奴が倒していないとは証明できない。そして奴の背後にはドヌエル男爵がいる。ギルドとしてもこの街の財政を預かるあいつとは確かな証拠なしに事を構える事はできない。」


「名乗りでてくれると助かるんだけどよ~」


「...」


 フランツが僕をジーっと見つめてくるが、僕は黙秘権を行使している。


「冒険者ギルドは国の枠に縛られない組織でな、大きな力を持っている。その為うかつには動けんのだよ。それにギルドは冒険者を守る為にあるのだ、タウンゼンは冒険者であるからギルドは建前として奴の権利を守らなければならない。」


「でも、罪を犯した冒険者は処罰しないと...」


「それが証明できればな。ああ、そういえばこんな話をするために君をここに呼んだ訳ではない。これが君のタグだが、ランクは中級の下で登録してある。」


 ディーナは僕にタグを渡してとんでもないこと言ってくる。


「僕は初級の下では?」


「オーガを二人で倒した君をそんなランクに置いておける訳がないだろう。本当なら中級の上ランクを与えたかったんだが、ギルドの規則で中級の下しか与えられないので我慢して欲しい。」


「いや、できれば初級の下で登録して欲しいんですか?」


「中級ランクになるとギルドの情報屋を使えるようになる。」


「...そうですか...」


「まあ、私の話はこれだけだ。」


 僕はタグを握りしめ部屋を後にした。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

お気に召しましたら、ご感想・お気に入りご登録・ご評価をいただけると幸いです。誤字脱字などのご指摘も随時受付中です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ