グリフォンの卵
02/17 誤字脱字修正しました
大暴走から一週間が経ち、村は落ち着きを取り戻していた。教会で負傷者の治療に奔走していたエミリーも戻ってきており、僕たちはいつでもアルシュヌの街に出発できる状態である。
この一週間の間には、エステルとリリーにだけハンバーグを食べさせたことを知ったエミリーが自分も食べたいと言うことで再度ハンバーグ祭りがあったり、ワイバーンを倒したのは誰だという犯人探しとか色々あった。
そして今日は朝から岩頭猪の肉と毛皮を売ったお金を取りにユーインさんの店を訪れていた。
「ケイ、またハンバーグ作ってくれないか?」
顔を見せるなりユーインさんがハンバーグを作ってくれないかとねだって来る。彼は何故か僕の作るハンバーグがお気に入りなのだ。
「ユーインさんにも作り方教えたじゃないですか。自分で作ってください。」
「自分でやるとケイみたいにうまく焼けないんだよ。」
僕は赤外線センサーで肉の焼き加減が理解るので、外はこんがり、中はジューシーに焼くことができる。普通の人ではあの焼き加減は無理だろう。
「それよりも岩頭猪を売ったお金下さいね。」
「わかってるよ。」
岩頭猪はユーインさんに頼んで村の店のセリに出してもらった。大暴走で結構な数が倒されたのだが、僕が倒した奴は頭以外に損傷が少なかったので毛皮がかなりの良い値段で売れたようだ。
「はい、全部で金貨百枚だ。」
金貨を貰ってホクホクの笑顔で宿に戻る。
宿に三人が居たので僕は金貨を四等分してみんなに配ることにした。
「ケイが倒したのになぜあたし達に分けてくれるの?」
「そうです。」
エミリーもエステルもリリーも僕が倒したのだから全部僕がもらってしまえば良いと言う。
「いや、パーティ組んでるんだし、収入があったんだからみんなで割るのが一番さ。」
僕は強引にパーティの収入だからと金貨二十五枚ずつみんなに配った。
「壁の上で弓射っていただけなのに...」
「岩頭猪はケイが倒したのに」
「戦いには一切参加していないのですが。」
「エステルもリリーも戦いでは頑張ってくれたし、エミリーなんて沢山の怪我人を治療して大活躍だったじゃないか。それで報酬が緊急依頼の金貨一枚って割りに合わないでしょ。だからみんなで分けたんだよ。」
「「「でも」」」
「僕が良いっていってるんだから、遠慮しないの。」
「ケイって意外と頑固だね」
「ワガママです」
「強引なところも素敵です」
パーティの女子の間でなにか僕に対する評価がなされているようだが、分け前については僕の意見を押し通した。
その日の午後は鍛冶屋のヴォイルの所で修理に出した剣を受けとりに行った。
最初にワイバーンを切ったときに若干歪んでしまったらしく振ると剣筋がぶれるのだ。
緊急依頼が解除された翌日に持ち込んだが他の冒険者達の修理も殺到していたため一週間かかると言われたのだ。
「ヴォイルさん、剣の修理は終わってますか?」
「お前か、修理は終わってるぞ。」
「ありがとうございます。」
「何と戦ったのか知らないが無茶な使い方をしたもんだ。この剣は鉄の塊に切り付けても大丈夫なぐらい丈夫に作ったつもりだんだがな。」
「オーガと...ワイバーンを切りました。」
「もしかして誰が倒したか不明の奴か?」
「ええ、でも僕が倒したことは秘密にしておいてください。」
「ん? ワイバーンを倒したと言えばランクも中級の上まで一気にあげてもらえるし、冒険者としても引く手数多だぜ。何故隠す?」
「冒険者として名声を求めていないと言うか、目立ちたくないので...」
「変わった奴だな。まあ俺はお前がこの剣を使いこなしてくれりゃそれで良いや。で、ワイバーンを切ったからこいつは歪んじまったって訳か。剣でもまだワイバーン相手には不足なのかな。しかし"麗しき翼"の連中はワイバーンを倒してたよな。彼奴等は....」
ヴォイルはなにかぶつぶつと考え込み始めた。
「お前、魔法は使えるか?」
「使ったことは...ありません。」
いきなり魔法が使えるかと聞かれ僕は面食らった。そして今まで僕は魔法を使って見ようと思ったことが無いことに気づいた。
「ふむ、お前さん程の怪力なら物凄いマナが体にあるはずだから魔法ぐらい使えると思ったんだがな。」
「怪力とマナに関係があるのですか?」
僕は初めて聞く話に興味をそそられた。
「長い間冒険者と付き合っていると、まれに力が強い奴や足が速い奴に会うが、そういう奴は普通の人より多くマナを体に持ってる。それで体を活性化させて力やスピードを得ているらしい。俺たちドワーフの力強さもマナによる身体の活性化を自然に行っている結果だ。」
「マナが多ければ強くなるなら、魔法使いは物凄く強いのでは?」
「不思議と魔法を使える奴は体を活性化出来ない。逆もしかりでな、活性化か魔法のどちらかしか使えない奴が大半だ。で、ごくまれに両方を使える奴がいるんだが大概化け物みたいに強いらしい。」
「そうなのですか。」
「魔獣も実はマナを使った身体の活性化を行っていて、それで怪力だったり身体が鉄より固かったりするわけだ。」
「なるほど、ヴォイルさん、よく知っておられますね。」
「魔獣の森のそばで暮らして五十年も鍛冶屋をやっていたらそれぐらいはわかってくるさ。...本当のところは昔知り合った魔法使いの奴が酒場で自慢気にしゃべっていたことの受け売りだけどな。」
ドワーフの鍛冶屋がこんな賢者みたいな話をしていることが恥ずかしいのだろう、ヴォイルは少し照れながら話していた。
「で、この剣だが黒鋼甲虫の角から作ったと話したよな。つまりこれは魔獣の体と一緒でマナを通せるはずなんだ。俺はそう思って作った。」
「つまり、僕がマナを出せればこの剣はもっと切れ味がよくなると?」
「たぶんな、こればかりはやってみないと解らんよ。」
ヴォイルは笑いながらそう言ったが、僕にとっては非常に為になる話であった。
僕は手からマナを放出することができる。剣をもってマナを出してみればなにか反応があるはずだ。
剣の修理の代金を支払い色々教えてくれたお礼をヴォイルに言って僕は鍛冶屋を後にした。
◇
翌日僕たちはアルシュヌの街に向けて出発した。
いまだ街道は魔獣が多いらしく危険だと言われたが急ぐ必要が出てきたからだ。
急ぐ理由、それはグリフォンの卵である。エステルとリリーと出会った時に手に入れた卵だが、リリーの見立てではそろ孵りそうなのだ。
「不味いよ、孵っちゃったら一銭にもならないんだよ。」
「孵ったら依頼は失敗?」
「持ち込みの依頼なので失敗によるペナルティーはありません。」
「金貨一万枚を逃したくはない。」
エステルとリリーの目が黄金色の欲望に染まっている。僕とエミリーはそんな二人に引っ張られるように街道を急ぎ進む。
アルシュヌの街までの道のりは徒歩で三日ほど。行商人も多く通るため街道も整備され、普通なら魔獣は出ないはずなのだが、
「またゴブリンかよ。」
大暴走の影響なのだろう魔獣と頻繁に遭遇する。
まあ、遭遇する魔獣はゴブリンや一角狼など雑魚も良いところだが、一時間に数回も遭遇すると時間が取られる事この上ない。
昼夜問わず襲ってくる魔獣と戦いながら街をめざす僕たちだったが、破局は街まであと一日とういうところで訪れた。
ミシッ
僕が背負っている卵の入っている袋から殻が割れる音がすると「ピィピィ」と可愛らしい鳴き声が聞こえた。
エステルは鳴き声を聞きたくないと耳を押さえているが卵が孵ったのは間違いない。
袋を開くと中から大型犬サイズのグリフォンが顔を出した。
袋から飛び出したグリフォンは体を振って卵の殻の欠片を振り落とすと、一番近くにいた僕に飛び付いた。
(インプリンティングかな)
小さい(大型犬サイズだが)と言ってもグリフォンである、その突撃を喰らって僕は危うく倒されそうになった。
「なついてるね。」
「そうみたいです。」
「可愛いです。」
「助けて欲しいんですが?」
グリフォンに飛びかかられている僕を三人は生暖かい目で見つめていた。
「孵ってしまったらもう売れないんだよな~。」
「ええ、グリフォンを騎獣とするなら、孵るときにその人がいないとダメだそうですから。」
「じゃあこいつはどうするの?」
僕の問いかけに目をそらすエステルとリリー。
エミリーはどこが気に入ったのかグリフォンを撫でている。
「案としては
[1]騎獣としてケイが育てる
[2]ケイが責任をもって始末する
[3]おいて逃げる
があるけどどれが良いと思う?」
エステルはむちゃくちゃな三択で提案してくる。
「3は却下です。無責任すぎます。」
リリーは放り出すのは反対らしい。魔獣なんだから放置はマズイだろう。
「2は可哀想です。」
エミリーが反対する。僕だって生まれたばかりのコイツを殺すのは嫌だ。
「となると1しかないのですが、グリフォンを騎獣にする方法って知っておられますか?」
「「「...」」」
僕たちは無言で他の人を見回すだけだった。
「ギルドなら誰か知っているかもしれません。」
「卵を買い取る依頼を出した奴が居るんだから、飼い慣らし方ぐらい聞けるだろう。」
エステルとリリーの言葉を信じ、僕たちはギルドに一抹の望みをかけ街への旅路を再開するのだった。
街へ急ぐ僕達の後をグリフォンの子供は孵ったばかりのヒヨコのように付いてくる。
実際孵ったばかりなのだが、その姿はかなり可愛らしい。
「シフォンに干し肉みんな食べられちゃったよ。」
勝手にグリフォンに名前をつけたエミリーは餌をねだるグリフォンの子供に手持ちの食料から干し肉を与えていたが、全て食べつくされてしまったらしい。
それでも足りないのかグリフォンは僕に餌をねだる。
ちなみにシフォンはエミリーが小さい時に教会で飼っていた犬の名前だそうだ。
「こういう時に一角狼でも出てきてくれると助かるんだが。」
「出てこないね~。」
先ほどとは打って変わって魔獣が出てこないことに不満を漏らす僕達。腹が減ったとピィピィと泣く子には勝てないのだ。
街まで後ちょっとというところで僕は街道の遠くの方にキラキラ光る水晶の塊のような山のような物を発見した。
(さすがファンタジー、水晶が山になっているんだな。)
ファンタジー系のイラスト等で水晶の山とか描かれていたりするので、僕もてっきりこの世界では水晶の山なんてファンタジーな物が存在するのだろうと思ったのだ。
「アルシュヌの街の側には水晶の山があるのか。すごいね~。」
僕がそう言うと三人が怪訝な顔をする。
「ケイ、水晶の山なんて何処を探しても無いわよ? もちろんアルシュヌの街の側なんかない無いわよ?」
「先ほどグリフォンに頭でも啄かれてしまったのでしょうか?」
「ええっ、回復の奇跡....」
「まって、エミリー、回復の奇跡は要らないから。」
三人が僕を可哀想な目で見てくる。
「おかしいな、街道の先の方に水晶の山が見えたんだけど?」
「どこどこ、全然見えないじゃん。」
「あっちだよ。あれ?位置が変わってる?」
「山が動くわけ無いですね。ケイさん、やはり頭を...」
「いや頭を啄かれていないって。あっちにほら..」
僕はキラキラ光る山を指さすと彼女達もようやく見つけた。
「本当に山が光ってるね。」
「うん、でも山というにはちょっと小さいのではないでしょうか。」
僕は望遠で山を見てみることにした。
(水晶の山...? 足が付いて動いている?何かを襲っているようだが?)
《未確認生命体:スキャン開始.....終了。距離が遠すぎます。》
どうやら水晶の山のように見えたのは巨大な魔獣らしい。
「水晶の山を背負った巨大な亀? みたいな魔獣だ。」
僕が言うとエステルとリリーが固まる。
「水晶を背負った巨大な亀?」
「それって...大水晶陸亀です。」
大水晶陸亀は背中に水晶の山を背負った全長三十メートルの肉食の陸亀の魔獣だ。もちろんこんな街の側にいるような魔獣ではない。ドラゴンに匹敵する巨体と水晶のような堅固な装甲を持ち水晶のブレスを吐くという最悪の魔獣の一体だ。普通は魔獣の森の奥で数年単位で寝ていて腹が減ると起きて暴れると言われている。
「もしかして、あれが大暴走の原因じゃ?」
「かもしれませんね。」
「誰かが襲われているみたいなんだが?」
僕の目には荷馬車とそれを守る冒険者達の姿が見えている。どうやら商人が襲われているみたいだ。
「無理無理」
「さすがにあれに勝てる人はいません。」
エステルとリリーが首を振って勝てないアピールをする。
「でもあいつがこのまま進むとアルシュヌの街にたどり着くかもしれない。そうなったら街は壊滅だ。いやそれより今襲われている人を僕は助けたい。だから僕は行くよ。」
僕は三人にそう告げる。
「ケイがいくら強くても大水晶陸亀に勝てるとは思わない。」
「でも三人で気を引けば、襲われている人を逃すぐらいは出来るかもですね。」
「ケイに一度救われた命だし、あんたに預けるよ。」
「私もです。」
「ケイの思うとおりにして下さい。」
エステル、リリー、エミリーが僕のわがままに付き合ってくれると言ってくれた。
「それにアイツを倒せば金貨一万枚以上で売れるからね。」
「大儲けです。」
「おいおい...」
エステルとリリーはグリフォンで儲けそこなった分を取り戻すつもりなのだろうか。そう言って気合を入れていると僕は思いたい。
「でも皆が危なくなったら逃げるよ。誰も死なせたくはないからね。出来る範囲でがんばろう。」
「「「おー!」」」
気合の入ったような入らなかった様な感じで僕達は大水晶陸亀に向けて進んでいった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
お気に召しましたら、ご感想・お気に入りご登録・ご評価をいただけると幸いです。誤字脱字などのご指摘も随時受付中です。