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どうやら僕の心臓は賢者の石らしい  作者: (や)
ルーフェン伯爵編
108/192

小人達との折衝

 ()は隠し扉から続く細い通路を進み、前に通ったときと同様に制御室にたどり着いた。


「この部屋もそのままか。まあ二日しかっていないから当たり前なんだけど。…小人達(あいつら)はここにいないのかな?」


 小人達を探そうとしたところで、マリオンが目の前に現れた。


『大変です。ミシェルさん達がいません!』


 そう言ってマリオンは僕の後ろを指差す。慌てて後ろを振り返るが、僕に続いて部屋に入ったはずの三人の姿が見当たらなかった。いや、それ以前に通路からの入り口そのものが消えていた。


「入り口が消えている。もしかして小人達の(トラップ)に引っかかったのか?」


 入り口があったはずの壁をたたいてみたが、しっかりとした壁の感触しか返ってこなかった。マリオンも壁をすり抜けようとしたが、何度試しても壁は通り抜けられず通路は見つからなかった。


 慌てふためく僕とマリオンに背後から声がかけられた。


『あの三人は亜空間の通路で堂々巡りしているだろう。いや、本来ならお前もそうなるはずだったのに…何故なぜここに入ってくることができたのだ?』


 声のする方を向くと、いつ現れたのかホァナノが立っていた。


「やはり君達(小人達)(トラップ)だったのか。三人は無事なのか?」


『ああ、今のところは無事だ。儂が解除しない限り亜空間の通路に閉じ込められたままだがな』


「…彼女達を解放してくれないか?」


『お前の返答次第だな。儂はお前に地下迷宮(ダンジョン)にちょっかいをかけるなと言ったはずだが、どうしてここにやってきた』


「どうしても君たちに頼みたいことができたんだ。それで地下迷宮(ダンジョン)に入ったんだ。僕が地下迷宮(ダンジョン)に入れは、君達とすぐに会えると思ったんだが…。結局君たちも魔獣も出てこないので、ここまで来てしまったんだ」


『頼みたいこと? 今は取り込み中だ。閉じ込めている奴らは今解放する。だからさっさと迷宮から出て行ってくれ』


 ホァノナはため息を付いて、壁の一部にコンソールを表示させると操作し始めた。


「…取り込み中って? もしかして地下迷宮(ダンジョン)に何か問題が発生しているのか?」


 僕がそう言うと、コンソールを操作していたホァナノの手が止まる。

 よく見ると、ホァナノは目の下にくまを作り憔悴しょうすいしきった顔をしていた。そして相棒のロンパンの姿も見えなかった。


地下迷宮(ダンジョン)の管理は儂らの仕事だ。お前には関係のないことだ』


 ホァナノは「シッシッ」と犬でも追い払うように僕に手を振ると再びコンソールを操作し始めた。


 そのとき突然「プシュー」と圧搾空気の漏れるような音を立て松○メーターで埋め尽くされた壁の一部が開いた。壁から出てきたベッドには、ゴーグル付きのヘルメットを被ったロンパンが横たわっていた。


『駄目だ、また逃げられた。ここの設備じゃあの女をシステムから追い出すのは無理だ!』


 ロンパンはそう言いながらヘルメットをとった。彼もホァナノと動揺に目の下にくまを作り憔悴しょうすいしていた。


『ええい、泣き言を言うな! 早くあの女を追い出さないと地下迷宮(ダンジョン)が乗っ取られるぞ!』


 ホァナノはそう叫ぶとコンソールに拳をたたき付けた。


地下迷宮(ダンジョン)が乗っ取られる。もしかして、地下迷宮(ダンジョン)で魔獣と遭遇しなかったのは、地下迷宮(ダンジョン)のシステムが誰かに進入(クラッキング)されているからなのか?」


『くっ、お前には関係がない。さっさと出て行け』


 ホァナノはそう言って再びコンソールを操作し始めた。


『関係無い…訳じゃ無いな。あの女は、こいつがここに連れてきたんだ。少しは責任を感じてもらいたいな』


 そう言ってロンパンは僕を見て肩をすくめた。


『だが、システムに侵入されたのは儂らのミスだ。ダンジョンキーパーとして他人の力…特にどこの氏族の手の者か分からん奴の力を借りるつもりはない。ロンパン、お前は何とかしてあいつをシステムから追い出す方法を考えるんだ』


『しかしここの設備じゃ限界が…。もっと高速なシステムがあれば良いのだが』


 ロンパンはそう言って肩を落とした。


「どうやら、地下迷宮(ダンジョン)を何者かに乗っ取られかけているみたいだな」


 二人の会話を聞いて僕はそうつぶやいた。


『私にはシステムとか良く分からないのですが、私が悪霊だった時、"瑠璃"さんに取りいていた時のような状況でしょうか?』


 僕にマリオンは尋ねてきた。


(小人達の技術が優れていると言っても、この世界にインターネットみたいなネットワークはないだろうな。そうなると地下迷宮(ダンジョン)のシステムはスタンドアローン型だ。そんなシステムにクラッカーが進入したということは、内部からか。"瑠璃"の時のように悪霊がシステムに侵入した? だけど、小人達も普通の悪霊の侵入を許すほど間抜けじゃないはずだ。となると、小人達の想像を超えた力を持つ悪霊が地下迷宮(ダンジョン)に現れたってことか。そんな悪霊って…)


 マリオンの問いかけから、僕は地下迷宮(ダンジョン)のシステムに侵入した者の正体が分かってきた。


「もしかして、侵入者は僕達の知っている人かもしれないな」





『弱音を吐くな! 時間が足りないなら日緋色金巨人ヒヒイロカネ・ゴーレムのハードでも使えば良いだろう』


『いや、二号機のスペックじゃ駄目だ。…ホァナノ、お前が趣味で作っていたあの人形(・・・・)なら何とか…』


『あ、あれは駄目だ。儂があいつを作るのにどれだけ苦労したと思っているんだ。あれは使わせんぞ』


『お前こそ何を言っているんだ。地下迷宮(ダンジョン)がどうなっても良いのか!』


 僕が侵入者の正体を推理している間、ホァナノとロンパンは侵入者を追い出すシステムをどうやって構築するかで口論していた。


『それに、あれは人工知能を組み込んで使用するのを前提としたシステムだぞ。そのままでは端末として流用はできない!』


『お前か儂の魂をコピーすれば良いではないか』


『そんな設備を作るだけでどれだけ時間がかかると思っているのだ。第一そんなことしたら寿命が縮んでしまうわ!』


 :


 二人の話は延々と続きそうだったので僕は強引に二人の間に割り込んだ。


「ホァナノ、ロンパン少し話を聞いてくれないか?」


『『邪魔をするな!』』


 口論していたくせに、二人は息を合わせて僕を叱りつけた。


「くっ…。君たち、このままじゃ地下迷宮(ダンジョン)が危ないんだろ? 僕に良い案があるんだが、聞いてくれないか?」


『『良い案だって~?』』


 二人はうさん臭そうな顔をしたが、自分たちも手詰まりだと感じていたのか取りあえず僕の話を聞いてくれることになった。



「まず状況を確認したいんだけど、現在地下迷宮(ダンジョン)の制御システムに誰かが進入しているんだよね?」


『…そうだ』


 ホァナノが悔しそうにうなずく。


「…進入しているのは、霊体となったソフィアで合っているかな?」


『ッ! よく分かったな』


 ロンパンが僕の推理に驚く。


「同じようなことを一度経験してるからね。そのときは僕がシステムに入って解決したんだけど、今回も同じことができないかと思ってね。つまり僕が地下迷宮(ダンジョン)の制御システムに入って、ソフィアの霊体をシステムから追い出すか退治する…ということなんだけど」


『…そんなこと不可『できるのか?』』


 ホァナノは不可能と言いかけたが、ロンパンはそれを遮って僕に詰め寄った。


「現在僕のシステムに取りいている彼女…マリオンは、元は悪霊でね。僕のサブシステムに取りいていたことがあるんだ。僕はそれを悪霊と正常な霊体の二つに分離して、システムを正常に修復した実績がある」


 マリオンははっきりと姿が見える状態で二人の前に出現した。


『ケイさんは、悪霊だった私を救ってくださいました』


『なるほどな。巨人(ゴーレム)に悪霊を取りかせるとは変わった手法だと思ったが、悪霊ではなくて霊体をシステムに取り込んでいるのか』


 ロンパンは興味深そうにマリオンを見ていた。


『こいつを儂らのシステムに接続させるのは反対だ!』


 ホァナノはまだそう叫んでいたが、


『だから、そんなことを言っている状況じゃなかろう。このままじゃ儂らは悪霊に地下迷宮(ダンジョン)を乗っ取られた間抜けなダンジョンキーパーとして、精霊人の間で笑い物になるぞ』


 ロンパンはそれをたしなめた。


「ホァナノ、聞いてくれ。もし僕がこの地下迷宮(ダンジョン)をどうにかするつもりなら、この前魔力(マナ)を提供しなかっただろう。取りあえず、今は僕を信用してくれないかな?」


 結局、ホァナノはロンパンに説得される形で僕がシステムに入ることを認めた。





「問題は、君達のシステムに僕が接続できるかだけど。どうすれば良いのかな」


『儂らはこのダイレクト・リンク・システムを使っているが、精霊人のサイズだからな。お前がこれを使うのは無理だ』


 ロンパンは先ほど彼が寝ていたベッドとヘルメットを指さした。確かに三十センチほどの小人達サイズのベッドとヘルメットを僕が使うことはできない。


サブシステム(瑠璃)とは有線か無線で接続していたんだけど…」


 僕は"瑠璃"と接続するための物理端子(コネクタ)を見せたが、『規格が違うな』と当然なことを言われてしまった。

 そうなると残る手段は無線接続となるのだが、まず小人達に電波という概念があるのか、あったとして通信プロトコルが合うのかといった話になる。

 それをロンパンに告げると、『そいつ(マリオン)を使えば良い』と言われた。



その霊体(マリオン)にはこれに取りいて(入って)もらう。(:D)+<)==>(...)』


 ホァナノが呪文のらしき物をとなえると、何も無い空間から…おそらく空間操作魔法で亜空間倉庫から取り出したのだろう…銀色の人形が姿を現した。


「○ュラルかよ!」


 鏡面加工された外観の人形を見て、僕は某3D格闘ゲームのラスボスを思い出して叫んでしまった。


『○ュラル? こいつ(人形)にはまだ名前がついてない。こいつは次世代巨人(ゴーレム)として儂が開発している物だ。ミスリルやオリハルコン、アダマンタイト、非緋色金(ヒヒイロカネ)といった多種の金属を特殊加工して流体金属にした物をボディの素材として使っている。流体金属とすることで、こいつは様々な形状をとることができるのだ』


 ホァナノが懐から取り出したリモコンのボタンを押すと、一瞬で人形の形が崩れ銀色の液体となった。そして別なボタンを押すと再び人形に戻った。


(○ュラルじゃなくて○-1000だったのか)


 ホァナノが嬉々(きき)としてリモコンのボタンを押す度に、人形は人型だけではなく様々な魔獣の形に変形していく。


『そして、今までの巨人(ゴーレム)とは比べものにならないほど高度な自己判断の機能を持つ…』


『はずだった。だけど開発がうまくいっていないのだ』


 どや顔で人形の自慢をするホァナノにロンパンが茶々を入れた。


『そ、それは今からじっくりと開発する予定だったんだ』


 ロンパンに対してホァナノが反論する。


『それに、この流体金属…確か神鋼銀と名付けていたようだが、そいつはこの形状を維持するのに大量の魔力(マナ)を消費するのだ。地下迷宮(ダンジョン)でこんな巨人(ゴーレム)を大量配備したらあっという間に迷宮を維持する魔力(マナ)が無くなるぞ』


『賢者の石とは言わんが、伝説級の魔獣の核が手に入ればそれも何とかなる…はずだ。魔力(マナ)供給さえできれば…』


 ロンパンに次々と欠点を指摘されて、ホァナノは意気消沈していった。僕は"賢者の石"と言われて、胸のあたりを押さえてしまった。


『だが、こいつの制御システムは優秀だ。人工知能さえ何とかできれば地下迷宮(ダンジョン)のシステムより実行速度が上だからな』


 ロンパンはホァナノからリモコンを取り上げ操作すると、人形のスペックらしき物を空中に表示させた。


『人工知能は完成していない。そこで、そこの霊体…マリオンとやらにこれ(人形)の人工知能の代わりをしてもらい、お前と地下迷宮(ダンジョン)のシステムとの中継をやってもらうのだ』


 元々、ロンパンとホァナノは霊体を人工知能の代わりにすることを検討していた。しかし都合良くそんな霊体が存在するわけはなかった。

 人は死ぬとその体から霊体が出てくる。しかし霊体は不安定であり、すぐに魔力(マナ)となって世界に溶け込み消えてしまうのだ。

 不死者(アンデッド)のように悪霊となって残る場合もあるが、恨みやのろいで悪霊となってしまった霊体を使えば大惨事になることは目に見えている。

 そう言った理由から小人達は霊体を人工知能の代わりにすることをあきらめていた。


 しかし、今回マリオンという純粋な状態で存在する霊体が僕の中にいた。しかもマリオンは他人に憑依ひょういする能力を持っている。彼女なら人形に入ることが可能であるとロンパンは考えたのだ。


「この人形のシステムをプロトコル変換器として使用するのか。うまくいくか試してみるしかないか。…マリオン、いけそうか?」


『やってみます』


 マリオンはそう言って人形に姿を重ねていった。


『ちょっと、抵抗がありますね。だけど…な、何とかなりそうです』


 人形の姿がブレると、一瞬でマリオンの姿に変化した。どうやらマリオンは人形のシステムを掌握することに成功したようだった。


「どうでしょうか?」


 マリオンとなった人形は、その場でクルリと回って見せた。


「うぁっ、マリオンその格好はまずいって」


 人形はマリオンの姿になったが、それは素っ裸な状態であった。僕は慌ててマリオンから目をそらした。


「ああ、ごめんなさい。最近そういうことには疎くなってました」


 マリオンが目を閉じて念じると、銀色のレオタードのような衣装を着た姿に変身(・・)した。


『うむ、うまくいったようだな。地下迷宮(ダンジョン)のシステムと接続できそうか?』


 ロンパンはマリオンが人形にうまく入り込めたことを確認して、満足げにうなずいた。


「はい、できそうです」


 マリオンはガッツポーズでうなずいた。

 しかし、そこで僕は問題が発生したことに気づいた。


「ちょっと待ってくれ。マリオンと僕の通信が切断されている。このままじゃ僕はシステムに入れない」


 人形がマリオンに変身したあたりで、マリオンとの接続が切れたことがログに表示されていた。


『チッ。特殊フィールドがネックか。どうやら離れていては駄目なようだな。…多分接触すればいけるだろう』


 ロンパンの説明によると、人形は外部からのアクセス(進入)を遮断するために特殊なフィールドを体表に張り巡らしており、それが僕との通信を妨げているとのことだった。


「接触? 触れば良いのか?」


 接触と言うことで、僕はマリオン(人形)と手をつないで見た。マリオンの手は液体金属という割には人のように柔らかく暖かかった。


《マリオンと接続中……。転送レートは1Kbit/secです》


 ログに接続状況が表示されるが、通信速度はお話にならないぐらい低かった。


「駄目だ、こんな速度ではシステムと接続しても無意味だ」


 僕の叫びを聞いて、ロンパンがリモコンを操作して原因を調べる。


『ええい、そんな末端に触るからだ。もっと人形のコアに近い部分を触れ』


 数秒表示を見て、ロンパンが叫ぶ。


「コア? それはどこにあるんだ」


『コアは、今はここ…心臓の位置にある』


 ロンパンはマリオンの胸を指差した。


「え゛っ」


『人形のコアは心臓の位置だ。コアに近い位置に接触するほど通信速度が上がるはずだ』


 ロンパンの言うとおりであれば、マリオンの胸に手を当てれば、通信速度が上がる。


(確かに元は人形だけど、今はマリオンの姿をしてるんだ。その胸に手を当てるって…)


 ロンパンに言われてマリオンの胸を凝視してしまった僕は、彼女の視線を感じて慌てて手を離してしまった。


「はぁ、そうですか。じゃあ、失礼します」


 その離してしまった僕の手をマリオンはつかむと、躊躇ちゅうちょせずに彼女の胸にあてがった。


「うぁっ」


 マリオンはスレンダーな体型の女性であるが、それでもリリーよりは女性らしい体型をしている。BからCカップの中間サイズのバストの柔らかな膨らみを感じ、僕は慌てて手を離そうとした。

 しかし、マリオンは僕の手をしっかりと抱きしめて離さなかった。


《転送レート上昇中、1Gbit/sec...100Gbit/sec...1Tbit/sec...10Tbit/sec...》


 コアに近い部分に接触することで、通信速度はどんどん上がっていった。ついでに僕の顔も赤くなっていく。


『これだけ速度があれば、システムに入るのに支障はないだろう』


 ロンパンは表示された数値を見てうなずいた。


「…う、うん。大丈夫だ」


 そう返事をして、僕は胸から手を離すことをあきらめた。


「じゃ、じゃあ、マリオン、このままシステムに接続するよ?」


「はい」


 マリオンの返事を聞いて、僕は仮想現実(VR)システムを立ち上げると、地下迷宮(ダンジョン)のシステムに接続した。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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