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どうやら僕の心臓は賢者の石らしい  作者: (や)
ルーフェン伯爵編
103/192

国王との謁見

 大理石で作られた巨大な扉が開かれ僕とルーフェン伯爵は御前会議が開かれている謁見の間に入った。


 部屋に入ると、扉の位置から真っ赤な絨毯が通路の様に一直線に敷かれていた。その両脇に左右に分かれて四、五十人の貴族と官僚が立ち並んでいた。そして絨毯のたどり着いた先には、バイストル国王が豪華な王座に座り、僕達を待ち受けていた。


 貴族や官僚達の注目の視線を浴びながら、僕とルーフェン伯爵は王座に向かって進んでいった。


 左右の貴族や官僚は、バイストル王国に人種差別が無いことを示す如く様々な種族で構成されていた。

 豪華な衣装を着ているのは貴族達であろう。また官僚らしい服を着た人や宮廷魔法使いらしい杖を持った皺だらけのお爺さんとか、筋肉モリモリのマッチョな獣人の巨漢とか、ドワーフやエルフ等が立ち並んでいた。


(ロケットの打ち上げ前に総理大臣と会見した時より緊張するな。それで、王座に座っているあの人が国王なのか?)


 ルーフェン伯爵に「驚くな」と言われていたので、僕は国王がどんな人物か楽しみにしていた。そして僕は、棒付き飴を持った駄目王とか、ワイルドな王様とか、色々なパターンの国王を想像していたのだが…その期待は見事に裏切られてしまった。


「あの方が国王陛下(キング)ですか。確かに驚くなと言われるだけは有りますね」


「うむ、あの御方が国王陛下であらせられる」


 僕の呟きに対しルーフェン伯爵は小声でそう返した。


 バイストル国王ウード四世は御年55歳の少し小柄な男性であった。白い立派な顎髭と白髪ではあるが豊かな頭髪、鼻の下のなまず髭は何故か黒く、切れ長の目をした美中年であった。ウード四世は、大きめの王冠を被り金糸を使った豪華と言うより派手な衣装を(まと)っていた。


 その容姿を僕が一言で言い表すなら、


(うん、どう見てもトランプのキングだよな。しかもスペードのキングだよ)


 であった。


 ウード四世の容姿は、どう見てもトランプのキングの絵柄と瓜二つであった。その姿は他の人と比べ異質であり、ウード四世だけまるで絵画の世界から抜けだした様に見える程、バイストル国王ウード四世は異質な容姿であった。


(出来の悪いCG合成みたいな感じだよな。ログに何も表示されていないって事は、本当にあの容姿ってことか)


 ウード四世は、内政においては農地改革や魔獣の討伐を勧めて税収を増やし、また外政においては、隣国のアルメギス王国やリアモル連邦と平和的な外交政策を取っており、内外から賢王と評判が高い。しかしその容姿に関して聞かれると、国民は皆黙りこくってしまうのだった。




 ルーフェン伯爵は、ウード四世の前に進み膝を着いて臣下の礼を取った。僕はその斜め後で同じように膝を着いた。


「ルーフェン伯爵よ、地下迷宮(ダンジョン)から戻って来るのが早過ぎるのではないか。余は神託の真偽を確認せよと命じたはずだが?」


 ルーフェン伯爵が来るまで、貴族や官僚達と"邪神の降臨"という神託に対しての御前会議が開かれていた。おそらく王国存亡の危機に直面した神託を受けての会議は揉めに揉めたはずである。

 そして、神託の真偽を確かめるように命じられたルーフェン伯爵が、地下迷宮(ダンジョン)に兵も入れずに引き返してきた。それを聞いた貴族達が不審に思い、更に会議はもめたはずだ。


 ウード四世は、疲れたような声で理由を尋ねてきた。


「ははっ、陛下からの書簡を読み、これは急ぎ報告せねばと思いまして、迷宮より戻った次第でございます」


「報告とな? 余の命令を実行せずして何を報告するつもりなのだ」


 ルーフェン伯爵の返答を聞いてウード四世は小首を傾げた。


「邪神の降臨と聞いて怖くなって逃げてきたんじゃねーのか?」


「確認もせずに戻ってこられるとは、陛下の信も厚いルーフェン伯爵とは思えない所業ですわね」


「国王陛下の命を無視して戻ってきておるし、軍も引き返しておると…これは背信行為では無いのか?」


 立ち並ぶ貴族や官僚達の中、皆に聞こえるようにルーフェン伯爵に対して暴言を言うものが三名いた。

 一人は身長二メートル程の巨漢の犬獣人。もう一人はこの場にはあまりふさわしくない、紫の扇情的なドレスをまとった金髪の妖艶な美女。最後の一人はドワーフかホビットかと思うような小柄の皺だらけの老人であった。


 後でルーフェン伯爵に聞いた所、三人は伯爵と対立する立場の人間であった。

 犬獣人(本当は狼獣人らしい)は、傭兵や獣人など雑多な種族で構成された部隊の団長ウーゴ将軍。妖艶な美女は、ウード四世の第一王妃の姉のアナスタシア・カレーラス伯爵夫人。そして小柄の皺だらけの老人は宮廷魔術師のギデオンである。


 その三人の声に触発されたか、先程まで静かにしていた貴族や官僚達が再びざわめきだした。


「静まれ。御前である!」


 ルーフェン伯爵はその三人を睨みつけると、周囲を一喝した。それで貴族や官僚達のざわめきが一気に収まった。


「此処に戻ってきたのは、国王陛下の命である「邪神の降臨の神託の真偽を確認せよ」を果たしたからである。それを今から報告するつもりだ」


「…ルーフェン伯爵、報告を聞こう」


 ウード四世がそう促すと、ルーフェン伯爵は僕が話した地下迷宮(ダンジョン)での出来事を要約しながら話し始めた。


 :


「というわけで、邪神の降臨という神託は間違っておりません。しかし邪神はバルバ男爵夫人ソフィアを…実は彼女は"天陽神"の神官ではなく"不死の蛇"の神官だったのですが、彼女をリッチに変えただけで神界に戻ってしまったのです」


「ふむ、神託は間違っていなかったということか。して、伯爵よ、邪神によってリッチに変わったソフィア夫人はどうなったのだ?」


ソフィア夫人(リッチ)ですが、この国、いえこの世界に害を及ぼそうとしたため、ここにいるサハシとその仲間の冒険者によって討伐されました」


「なっ、ルーフェン伯爵様?」


 ルーフェン伯爵によってリッチを倒した冒険者と紹介されてしまった僕は驚いて声を上げてしまった。


「(伯爵、ソフィア(リッチ)を倒したのは地下墓地の吸血鬼(ヴァンパイヤ)の真祖ですが?)」


「(真祖が倒したなどと言えるわけがなかろう。ここはお主が倒したことにしておくのだ。普通の冒険者なら真祖が倒したなどと言わず、自分の手柄として吹聴するものだろう)」


「(そんな(手柄)いらないのですが…)」


「(ここは儂に任せておけ)」


 振り返ったルーフェン伯爵と小声で話したが、伯爵はミーナ(真祖)によってソフィア(リッチ)が倒されたことを隠すために僕をスケープゴート(生贄)にするつもりのようだった。


「…ほう、その者がリッチを討伐したと。伯爵の報告通りであれば王国を滅亡の危機から救ってくれたことになるが?」


「その通りでございます」


「…ルーフェン伯爵よ、その者にどの様な褒美を与えれば良いと思う」


「騎士、いえ、名誉士爵位を授け、この国に召し抱えると言うのがよろしいかと」


(は、伯爵。なぜ爵位を勧めるんですか。もしかして計られたのか?)


 ルーフェン伯爵は僕に爵位を与えてこの国に取り込む腹づもりだ。王宮に付き合わされたのはそれが目的だったのだろう。

 このままでは僕はバイストル国の貴族に叙任されてしまうだろう。普通の冒険者としてならば物凄く名誉なことだが、僕の場合は、身体の秘密もあるしこの国に取り込まれてしまうのは不味い。


「…国王陛下、ルーフェン伯爵様。私のような…「父上、冒険者のような下賎の者に爵位を与えるなどおやめください」」

 僕が貴族への叙任を断ろうと言い出したが、それはウード四世の背後のカーテンの影から現れた若い男によって遮られてしまった。


(あれは、王子…なんだろうな)


 ウード四世の背後から唐突に現れることが出来る者が臣下の訳はなく、しかもウード四世を父上と呼ぶのだからその者は王子以外に考えられなかった。


 謁見の間に現れたのは、バイストル国第一王子ロベール殿下であった。今年二十五歳になるこの国の第一王位継承者である。父親譲りの容姿…長い金髪と黒い髭と国王をそのまま若くしたような容姿であった。つまり、ウード四世がトランプのキングであるなら第一王子はジャックにそっくりであったのだ。


(ちょっと目がタレ気味だから、クローバーのジャックだな。…しかしバイストル王家って、あんな容姿が遺伝しているのか? これで王妃がクィーンそっくりだったら…すごいな)


 僕はロベール王子を見てそんな失礼な事を考えていたが、それが伝わったのだろうか彼に睨まれてしまった。


「下賎な冒険者を使って何を企むのだ、伯爵」


 ロベール王子は、僕から視線を外してルーフェン伯爵にそう言うと、ウード四世に詰め寄った。


「父上、邪神の降臨の神託の真偽も、リッチをこの冒険者が倒したというのも全てルーフェン伯爵が言っているだけで何ら確かな証拠が無いではないですか。伯爵の言葉をそのまま信じてしまうのは早計過ぎます」


「ロベールよ、ルーフェン伯爵はこの国の国防を担う重鎮、余も信頼をおいておる。その伯爵の言葉を余は信じておる」


「父上はルーフェン伯爵を信用し過ぎでございます」


 ルーフェン伯爵はウード四世とロベール王子の遣り取りを渋い顔で見ていた。


(第一王子はルーフェン伯爵を嫌っているのか。でも彼のお陰で助かった)


 ロベール王子が乱入してくれたおかげで、叙任の件が有耶無耶のまま終わりそうである事に僕は安堵した。

 そしてこの状況を貴族達はどう捉えているか、周りの貴族と官僚達の様子を見る程度の余裕が出てきた。


 先ほど伯爵に暴言を吐いた三人は薄笑いを浮かべており、その他数名の貴族と官僚が同様な態度であった。後はルーフェン伯爵と同じような渋い顔をしている者と、困った顔をしている者が少数いた。


(ルーフェン伯爵を支持するのは半数以上、中立が3分の1、残りが反伯爵ってところか)


 ここに全ての貴族や官僚が揃っているわけではないだろうが、王宮の勢力のパワーバランスは概ねこのような比率であるのだろうと僕は予想した。



「ロベール殿下、今回の件で多数の邪教徒共を捕縛しております。その者達に事の真偽を吐かせれば、私の言ったことの裏付けが取れるでしょう」


「ふん、そんな邪教徒共の自白なぞ信用できるか。それに事の始めの邪神の降臨という神託も伯爵が懇意にしている"大地の女神"の教会からもたらされたのだが。全て伯爵の自作自演ではないのか?」


「ロベールよそこまでにするのだ。"大地の女神"の教会の神官長はそのような事をする方ではない。…皆の者、ルーフェン伯爵の報告の真偽は別として、とりあえず「邪神の降臨」という王国の危機は無くなったと言えるだろう。一旦御前会議は解散とする」


 ウード四世とロベール王子にルーフェン伯爵が進言したのだが、ロベール王子は全く取り合わず、"大地の女神"の教会との自作自演とまで言ってしまった。

 それに対してウード四世はロベール王子を窘め、御前会議の解散を宣言した。





 御前会議が解散となり、僕とルーフェン伯爵は執務室にやって来ていた。

 そこでは、


「ルーフェン伯爵様、勝手にソフィア(リッチ)を倒した手柄なんてでっち上げないでください。吸血鬼(ヴァンパイヤ)の真祖が目覚めたのを隠したいのは判りますが、できれば事前に相談してください」


「そんなこと先に言ってしまったら…お主は王宮に付いてこなかったであろう?」


「そ、それはそうかもしれませんが…、とにかく僕は嘘の手柄の褒章として貴族に叙任されたくはありません」


「チッ! 欲のない男だな。名誉士爵となれば領地はないが王国からの俸禄で一生安泰に暮らせるのだぞ」


「いえ、そんな生活望んでませんから!」


 という遣り取りが、僕とルーフェン伯爵の間で交わされたのだった。


 :


「国王陛下への報告は終わったのですから、僕はもう退城してもよろしいでしょうか?」


「名誉士爵が駄目なら、名誉準男爵として取り立てても…」


「お断りいたします」


 しつこく勧誘してくるルーフェン伯爵を振りきって僕は王宮を後にした。





 ケイが出て行った後、ルーフェン伯爵は執務室でたたずんでいた。その背後に黒い影がフッと現れた。


「伯爵様」


 それは忍者の様な黒装束に身を包んだ男だった。


「戻ってきたか。それで、サハシの言っていた事の裏は取れたのか?」


「はっ! 邪神の降臨に使われたと思われる魔法陣は確認しております。後、邪教徒の物と思われる彷徨う死体(ゾンビ)の残骸も見つけておりますが、ディーノ男爵とソフィア夫人の遺体は見つかっておりません」


 男は王国軍の諜報部隊の手の者であった。諜報部隊の者達は、ルーフェン伯爵の命により王国軍の地下迷宮(ダンジョン)派兵に先駆け迷宮に入りその内情を探っていたのだった。


「サハシの話通りであれば死体は残らないはずだからな。国王陛下だけなら儂の報告で納得させることができるのだが…。ロベール殿下を説得する材料が足りぬな。…すまぬが、もうしばらく迷宮で証拠となりそうな物を探してくれ」


「御意」


 男はかき消すように執務室から消えた。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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