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空から落ちてきた男

SFな部分はつまなので設定がいい加減です。

御都合、不条理な話ですが、細かいところは突っ込まず見逃して下さい。


03/21 改稿


「(あれ?)」


 僕は、澄み切った青空の下で目覚めた。


「(さっきまで星空だったはず…って、僕は何をしてたんだ?全く思い出せないぞ)」


 立ち上がろうと手足に力を込めるが、体全体がしびれた様に動かせなかった。声を出そうにも、口も動かせなかった。


「(体がズキズキと痛むな…だけどそれが心地良いというか、体の感触があるのは久しぶりだな)」


 手足を持ち上げ何とか起き上がろうと努力したが、ピクリとも動かない。


 そうしているうちに、


《システムプログラムに不具合が発生しました。現在の環境に合わせるため、全てのパラメータを初期化して再起動します》


 突然目の前に文字が表示された。そして視界がだんだん暗くフェードアウトしていった。


「(えっ、まさかこのまま死んじゃうの?)」


 そんな不安の中、僕の視界は真っ暗になってしまった。


《ピッ...》


 脳内にPCの起動音のような電子音が鳴ると、また目の前にメッセージが表示される。


《義体制御システムVer1.2 ...》


 自己診断らしきものやドライバ設定のログがずらずらと表示されて、スクロールしてゆく。最後にはOSらしきものが起動する旨を表示する。


(HumanSystem Ver99.2 えらくバージョンが高いな。まあ、これだけ高いバージョンなら致命的なバグも無いよな…)


 何故そんな知識があるのか不明だが、僕はこの画面に表示されていることが理解できた。

 ログが流れていくのを眺めていると、突然目の前が赤くなりダイアログが表示された。


《データベースに不具合が発生しました。破損したデータの修復に失敗しました。再度、修復を試みますか? Yes/No》


「(これはYesかNoを選択する必要があるんだろうな。取りあえず修復を選んでみよう)」


 僕は、心の中で"Yes"を選択する。


《修復を試みます...データの80%が修復できました。残りは現状復元不可能です。データを破棄しますか?》


 データの修復は八割ほど成功したと、表示される。


「(どんなデータかわからないから破棄はまずいな)」


 僕は、心の中で"No"を選択する。するとダイアログは消えた。


《データは、破損データ保護区画に退避されました。正常なデータのみ、記憶ストレージに結合します》


 データは保護区画に保管されたと表示され、しばらくするとその表示も消えてしまった。


 そして、再び僕の目には澄み切った青空が映った。





《システムプログラムを再起動に成功しました。義体は正常に動作しています》


 しばらくすると、そんな表示が映る。手足を動かしてみると、先ほどと異なり何とか動かせそうだった。


「(だけど、手足は何か型にはまったように感じるな。…もしかして、僕は地面に埋もれているのかな?)」


 顔を動かすと、左右に土の壁が見える。どうやら僕の体は、まるで高い空から落ちたギャグマンガのキャラクターのように、地面の人型の穴にはまった状態らしい。


 僕はこの状況を不思議に思ったが、取りあえず体を起こそうと、手を踏ん張り体を起こそうとした。


「大丈夫ですか?」


「うぁっ!」


「きゃあ」


 突然目の前に少女の顔が出てきたので、僕はびっくりして叫んでしまった。それにつられて、少女もびっくりしたのか、小さく悲鳴を上げて後退った。


《人間(女):スキャン開始.....終了。危険物を所持せず。脅威度0.01%》


 何をどうスキャンしたのかわからないが、僕の目の前に彼女の脅威度が表示される。


「あ、あのー、驚かせてすみません」


 少女は、僕に謝ってきた。


「こちらこそ驚かせてしまって、ごめんなさい」


 僕は、日本人らしく反射的に謝ってしまった。そこで、僕はさっきまで出なかった声が出せていることに気付いた。


「(日本人らしくって、…僕は日本人なのか?)」


 頭の中は霞がかかったように、はっきりしない。


「あの、なぜ地面に埋まっておられるのですか?」


 僕が悩んでいると、少女は僕を覗きこんで尋ねてきた。


「僕にも分かりません。何故こんな所にいるのでしょう。」


 彼女に聞かれても、なぜこんな所で地面にめり込んだ状態でいるのか、僕も分からないのだから答えようがない。


「(まず立ち上がろう)」


 立ち上がるべく両手をおもいっきり踏ん張ると、上半身が勢い良く起き上がる。


「きゃっ!」


 また少女が悲鳴を上げてしまった。


「ごめんなさい、ちょっと力加減がおかしくて…。(僕ってこんなに力強かったっけ?)」


 今度はゆっくりと手と足に力を入れて、僕は立ち上がった。


「(立ち上がるだけで一苦労だな)」


 ふらふらしながら立ち上がる僕を、少女は心配そうに見つめていた。


「あの、お体の調子が悪いのでしょうか?」


 彼女の問いかけに、僕は自分の体を調べて見ることにした。


《体の状態をスキャンします...完了。現在不具合は認められません》


 調べたいと思っただけで、何か処理が実行されたのかログが表示される。ログでは「体に問題ない」と表示されたが、僕は目視で自分の体の状態を再度確認した。


「(目視確認は基本だとよく言われたな。…誰に言われたんだっけ?)」


「大丈夫みたいだけど」


 自分の体をチェックして、問題無いことを確認したが、そこで僕は自分の体が普通ではないことに気付いた。


 僕は中世の金属鎧のような物を着てていた。真黒なそれを触ってみると、鎧の表面を触った感覚が感じられ、鎧自体が自分の皮膚のようになっていることが分かる。

 腕も薄いラバー状の物を着ており、ラバー状の物が自分の皮膚であることを感じた。顔は、触ってみた感じでは人の形をしているように思うのだが、鏡を見ないと細かなところまでは分からなかった。


「(うーん、これってマスクを取った仮面○イダーか暗黒卿○ースベーダーみたいだな。…って、仮面○イダーとか暗黒卿○ースベーダーとかってなんなんだ)」


「大丈夫ですか…良かった」


 少女は、僕が大丈夫と聞いて安堵したようだった。


「(見ず知らずの僕の事を心配してくれるのか、やさしい少女だな)」


「すいません、ご心配をかけました。……ところでここは何処なんでしょうか?」


《現在位置検索中...検索失敗。位置を特定できません》


 また僕が思っただけで何かの処理が開始され、ログが表示される。ログを見る限り、位置は不明らしい。


「ここは、ディルック村の南側にある畑ですよ、騎士様」


「ディルック村…聞いたことがない…」


《現在位置をディルック村の畑と登録》


 少女が言った地名をこの場所の位置として、勝手に記録するログが流れる。


「あの、騎士様よろしければお名前を?」


 少女の問いかけに僕は自分の名前すら判らないことに気付いた。


「(名前…僕の名前って…)」


《データの結合が終了しました》


 そのログが表示されると共に、僕は自分の記憶を取り戻した。





 僕の名前は佐橋 慶(さはし けい)、十八歳の日本人男性だ。

 両親は僕が幼いころ事故で無くなっており、僕は祖父と二人で日本で暮らしていた。


 僕は十五歳の時に身体の筋肉が衰え動かなくなっていく難病にかかってしまった。普通ゆっくり進行するはずの病気なのだが、僕の場合は急激に筋力が衰え、十六歳になる頃には立つこともできなくなっていた。僕は、いつ心臓が止まるか判らない状況であった。


 そんな僕を救ったのは祖父、佐橋 進(さはし すすむ)であった。

 祖父はロボット、生体工学、ロケット工学の天才で、各分野で特許を多数持っており、その特許料によって莫大な資産を持っていた。


 祖父は、その知恵と資産を使って、病気で動けなくなっていた僕をサイボーグにしたのだ。

 漫画やアニメの世界でしかお目にかかれないサイボーグ、それを現実のものとして、僕の身体にサイボーグ化するには、莫大な金額が必要であった。

 祖父は、自分の資産だけでは足りないと分かると、僕のサイボーグ化を国家プロジェクトとして申請し、国家予算を獲得するという荒技に取りかかった。


 もちろん、いくら祖父が天才的な科学者であっても、個人のサイボーグ化という物を国家プロジェクトに出来る訳がないと、僕は思っていた。


 しかし、祖父はどんな伝手を使ったのか、宇宙航空研究開発機○(JAX○)から分離した日本月面開発企画という胡散臭い研究所を立ち上げ、その所長に収まった。そして僕をこの日本月面開発企画の所員にしたのだ。

 日本月面開発企画というのは、その名前の通り、この研究所は月面開発を行う事を主目的としていた。僕はその宇宙船のパイロットとして、サイボーグ化されることになったのだ。


 莫大な国家予算をつぎ込み、多数の科学者の努力により、僕の体はサイボーグ化された。最大の難点であった動力や内臓系の置き換えも、どこから引っ張ってきたのか出所不明のテクノロジーで、祖父は解決してしまった。

 そして、最初は歩くだけのA○IMOモドキだった体も、たった二年で普通に人間と一緒に過ごせる状態にまで進化していった。


 そうやって、サイボーグとして過ごしてた僕に、ある日、祖父はこう言った。


「慶、お前の身体の八割は、現代科学の粋を集めてできている。しかし残り二割は、儂にもわからない技術が使われている。それを覚えておいてくれ」


 その頃には、僕は脳と脊髄などの一部を覗いて、ほぼ機械の体となっていた。祖父の言う技術が何処に使われているかは、怖くて聞けなかった。


 僕の身体が日常生活に支障が無いレベルに仕上がる頃、祖父と日本月面開発企画は、使われた莫大な国家予算についてマスコミに嗅ぎつけられ、メディアに叩かれ始めていた。


『祖父が、孫を救うために国家予算を食いつぶした! 役にも立たないサイボーグ技術の開発を中止せよ』


 メディアはこぞって、祖父を叩いた。


 祖父は、その追求をかわすために様々な手を打ったが、結局のところ追求をかわしきれなかった。そして最後の打開策として、祖父は本当に月面探査計画を立ち上げ、僕を月に送り込むことにした。


 メディアは、また無謀な事を始めたと祖父を叩いたが、祖父は半年という短期間で月面探査ロケットの実機を作り上げた。


 祖父が、そんな短期間でロケットを作り出せたのは、僕がサイボーグだったからだった。


 サイボーグは普通の人間と違い、食料も水もそして空気もそれほどほぼ必要としない。アポロ計画の有人ロケットのように、人の居住スペースさせ不要となれば、ロケットは小型にでき、それは開発が簡単になると言うことだった。安全性の高い固体ロケットをベースに作り上げられた月面探査ロケットを見て、メディアは驚いた。


 しかしロケットが完成すると、メディアは本当に打ち上がるのかと叩き始めた。こうなると実際に打ち上げるしかない状況に祖父は追い込まれた。


 月面探査ロケットの打ち上げ当日、コクピットに乗り込む僕を抱きしめて、祖父はこういった。


「慶よ、なんとか月面に着陸してくれ。そうすればマスコミも国会も黙らせられる。帰ってくれば二人で静かに暮らそう」


 僕は、祖父を抱きしめ返すと、


「今まで有難うございました。おじいさんの作ってくれたこのロケットで必ず着陸を成功させます」


 そう言って、ロケットに乗り込んだ。


 そして、月面探査ロケットの打ち上げカウントダウンが始まり、月面探査ロケットは打ち上げられた。


 そこで僕の記憶は途切れていた。





「僕の名前は、慶、佐橋慶(さはしけい)です」


 記憶を取り戻した僕は、少女を見て名前を言う。


「サハシ・ケイ? 変わったお名前ですね」


「君の名前は?」


「私は、エミリーと申します。このディルック村の教会のシスターをしております」


 これが僕とエミリーの出会いであった。



ここまでお読みいただきありがとうございます。


お気に召しましたら、ご感想・お気に入りご登録・ご評価をいただけると幸いです。誤字脱字などのご指摘も随時受付中です。

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