付与魔術師としての日常へ4
かなりの期間空いてしまいました。読んでいただいてる皆様申し訳ありません。(読んでいただけてるんだろうか。^^;)更新停止かと思わせておい更新するのが私なんです。タブン。
一樹が下山の相手をしている間に、ハル達は襲われていた女性へ駆け寄る。俯せに倒れた彼女の体には多数の切り傷が確認でき、特に酷そうなのは、右腕と左足にある刺し傷と、背中にある左肩から右わき腹にかけての大きい切り傷だということが一目で解る。
「ハルちゃんお願い!」
「りょーかーい。」
彼女の傷の状態を確認したナツが、自分より回復が得意な姉に場所を譲ると、ハルが倒れた女性の傍に膝立ちの状態で座りこみ、傷に触らないように気を付けながら女性の服の背中を捲り上げる。捲り上げた服の端をソフィーに持つように頼み、自分のウエストポーチから赤い液体の入った淡い光を放つ小瓶と、『あずま特性』と赤文字でデカデカと描かれた巨大な絆創膏(かわいいピンク色)を2枚取り出す。
「これで、ほんとーに治るといいけど~。」
不安そうな表情を浮かべながらも、大きく切り裂かれた背中の傷をマンガでよく出てくるようなバッテン印になるように絆創膏を張り付ける。すると張り付けられた巨大な絆創膏が一瞬強く光ると端の方から徐々に淡い光の粒になって消えていった。
絆創膏がすべて消えると、背中にあったはずの大きな切り傷が跡も残さずに消えていた。
「ふぇ~~。」
なんとも緊張感のない声を出してその様子を見ているハル。他の2人も大きく目を開けてそれを見ていたが、落ち着きを取り戻したナツが、ゆっくりと他の傷を刺激しないように気を付けながら仰向けにすると、
「えっ!?先生!」
「ほぇ!?」
「Oh…。」
下山に襲われていたのは、彼女たちと一樹・下山の担任教師である安部京子だった。
慌てて、彼女の口へ赤い液体の入った小瓶を近づけて中身を飲ませようとするソフィー。が、彼女の呼吸は浅く、呼び掛けても反応が薄い。仕方なく中身を彼女に振りかけるが、それでも、右肩と左足の刺し傷の大きさが小さくなった程度で、彼女の意識と呼吸の浅さは回復しそうにない。どうにかして彼女に|ポーション(赤い液体)を飲ませないと色々と手遅れになりそうだ。この場に純粋な回復職が居ないことが悔やまれる。
「ハルちゃん!早くポーション操って!」
「あ~!すっかり忘れてたー。そふぃー、せんせーの口開けといてー。でないと鼻から入れないといけないからー。」
「?ヨクわかりまセンが口を開ければイイのですネ?」
「そーそー。おねがーい」
ソフィーが京子の口を開けたのを確認すると、ハルは新たに取り出したポーションの蓋を開け、その器を両手で包み込むように持ち集中する。すると、器の中の液体がウネウネと動き出し、蛇が鎌首をもたげたような形になると、ゆっくりと京子の口の中へと入っていった。
「これで、治るといいけどー。」
ハルがそう言うのとほぼ同時に、京子の体に残っていた傷がゆっくりと消え始め、最後には傷など初めから無かったかのように消え去った。
「Oh!ハル!イマのは一体何ですか?」
その様子を見ていたソフィーが驚いた様子でハルに尋ねると今度は、ドバァ!という勢いで京子の鼻から大量の血が流れ出てきた。それを見たナツが慌ててハルに一体どのレベルのポーションを使ったのか聞く。
「ハルちゃん!一体|どの(何等級)のポーション使ったの!?」
「ぇ…えっとぉ~。ポーションⅥの+…。」
「「は?」」
「だからぁ~。ポーションⅥ+…。」
「ば…ばかぁーーーーーーーーーーーーーーーっ?!」
「ポーションⅥ?シカモ+?何ソレ?ワタシ普段使ってるポーションⅢの+デスヨー?」
ナツはハルの肩を押さえつけ前後にガクガクと何度もゆすり、ハルはそのおかげで目を回し、ソフィーは何処かを見ながらそう呟いた。
一樹やハル・ナツ達がプレイしていたMMORPGを含め、他のゲームでもポーションは生命力(体力)を回復させるアイテムの一つとして扱われる。
彼等が使用するポーションの適正レベルは以下のとおり設定されている。
Lv01~20 ポーションⅠ (下級ポーション)
Lv20~25 ポーションⅠ+
Lv25~35 ポーションⅡ
Lv35~40 ポーションⅡ+
Lv40~50 ポーションⅢ
Lv40~45 ポーションⅢ+
Lv45~55 ポーションⅣ (中級ポーション)
Lv55~60 ポーションⅣ+ (ソフィーがこの辺り)
Lv60~70 ポーションⅤ
Lv70~75 ポーションⅤ+
Lv75~85 ポーションⅥ
Lv85~90 ポーションⅥ+
Lv90~100 ポーションⅦ (高級ポーション)
Lv100~ ポーションⅦ+
以上のようなものであるが(マジックポイントを回復させるマナポーションも同じ使用レベル)ハルが京子に使ったのは中級から高級に替わる境目の強い効果が見込める品であった。しかもこのポーションというアイテムは、プレイヤーキャラクターの回復力というステータス項目の数値を元に計算された数値を、30秒間、3秒毎に回復させる効果のアイテムである。
今回の場合、京子の姿を見て考えると、彼女はゲームのプレイヤーでは無くただの一般人と言う事になる。つまりLvも何もないLv1以下のステータスの持ち主と言える。
ハル達は過去に一度だけギルド内イベントで、最下位になったギルドメンバーに対する罰ゲームとして『自分の適応Lvよりも高い効果のポーションを使用する』という事をしたことがある。その時はランクが2つ上のポーションを使用したが、それでもHP(体力)が最大まで回復した途端、そのギルドメンバーが倒れ、ビクンビクンと妙な痙攣をし始めたのである。ポーションの回復時間が終わると、ギルドメンバーのHPが半分になり、そればかりでなく、1時間の間、ステータスの数値が25%ダウンしたのだ。後にその効果を利用した武器をギルド内の鍛冶屋がゲームの運営に直訴して作り上げたのだが。(注射器の機能を持った投げナイフ・槍の先が注射器の槍や、矢じりが小型の注射器型の矢等)変なところに無駄な|対応力(悪のり)がある運営だ。
ナツは過去のこの出来事を瞬時に思い出し、顔を一気に青ざめさせた。ハルの肩から手を放し、京子の方を恐る恐る見る。そこには色々とやばそうな痙攣をしている自分たちの担任の姿があった。そして慌てて彼女に近づこうとした瞬間、
「おろろろろろろろろろろろろっ!?」
謎の叫び声をあげガバッという勢いで彼女は目を覚ますのと、『ドンドン』という音が一樹たちがいる方向から聞こえてきたのはほぼ同時だった。
◇ ◇ ◇
下山を突っ込んでいったトラックの荷台をじっと見据える一樹。荷台に空いた穴の中からゆっくりと下山が出てきた。
「へっ。武器をぶっ壊された時は焦ったぜ。が、残念だったな?俺は大したダメージは受けてないぜ?しっかしよぉ。すげぇよなぁおい。この頑丈なトラックの荷台に穴ぁあける位の攻撃受けても、なんともねえなんてよ。何があったのかは知らねぇが、最ッ高ッって感じだな。」
そう一樹に語りかけながらトラックの荷台から地面に降りる。その姿を見て一樹は、唖然とし次の瞬間には、思わず吹き出しそうになるのを必死に堪えていた。その体も小刻みに震えている。
その一樹の姿を認めた下山は一瞬不振に思ったものの、次の瞬間にはニヤリと口元を歪め『ビビってんのかよ』と言いながら大声で笑い出した。
それを見た一樹はもう我慢できないといった感じで左手で口を抑え、右手に持った両手紺を落として地面に膝をついて下山と同じように大声で笑いながら地面をドンドンと右手でたたき出した。目も涙目である。
「あ?ナニ笑ってんだよ。粋がってんじゃねぇぞ?おい。テメェの攻撃は俺には通用しねぇってのが証明されたんだろぉが。」
ゆっくりと一樹に近づいていく下山。そのために歩き出すと何やら頭の方に違和感を感じ、確認のために右手を頭にやると、『もさっ』という感覚が右手全体を覆い、次の瞬間『ヌメッ』とした何かを掴んだ感触が伝わってきた。驚いた下山はその『ヌメッとした何か』を勢いよく頭から引っ張り下ろし確認する。下山の右手に握られていたもの。それは…。
「…タコ…?」
そう。大きさが1メートル近くありそうな大きなタコだった。どうやら下山が突っ込んだトラックは鮮魚関係の荷物を積んでいたらしい。
「ぷーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?も…もう駄目っ!アハッ?アハハハハハハハハハハハハハハハハ!ひーーーーーーーーーーっひっひっひっひっ!?しっしぬぅぅぅぅううううう…。か…勘弁して…。何て…何て極悪で最高のくっ、組み合わせっ。『アフロ』化にタコ…『アイテムボックス』化だとっ?くくくくくく。は…腹がぁ~。」
その姿を見た一樹は更に大声で笑い出す。
それを見た下山がふと傍にあったカーブミラーに視線を移すと、そこには…。
「な…なんだコリャ?」
右手にタコを鷲掴みした、やけにモッサリとしたアフロヘアー姿の自分の姿が映っていた。愕然とその姿を見ていると、自分が向かおうとしていた方向から一樹とは違う笑い声が聞こえてくる。慌てて視線をそちらに向けると、そこには自分を指さして笑うソフィーと、口元を押えながら笑っているナツの姿があった。
「Oh!?ナンデスカアレハーーー!AHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA…!」
「…プッ。カズ君ひょっとしてアレを使ったんですか…?だとしたら出来すぎです…。クスクスクス…。」
「あ…ああ。まさかアンナ組み合わせになるとは思ってもみなかったが…。流石に怪我とかはさせたくなかったから、とりあえず精神的ダメージ与えたくてな。お仕置き用武器変幻で思いっきり突いたんだが結果は見ての通りだ…。あ~駄目だ。まともに観れないっす!」
一樹は笑いたいのを堪え、ナツの問いに答えるが、今の下山の姿を認めるとどうしても堪え切れずに再び笑い出す。それにつられて、ナツとソフィーも腹を抱えて笑い出した。
そんな三人の姿を呆然と見つめる右手でタコの頭を鷲掴みにしたアフロヘアーの下山を置き去りにして時間はゆっくりと流れていった…。
一寸長くなりそうなので一旦ここで区切ります。付与魔術師としての日常へ~は次で終わる予定です。次の話の組み立てもある程度済んでるんですが、時間が。のんびり進めます。(休みがほしい~~;;)修正は後日入れます。早めに。