付与魔術師としての日常へ 2
なんのかんので4話目です。都合のよい設定が多々出てきますが、そんなものなんだ思ってください。知識が浅いところもありますのでご容赦を。
時を遡ること数時間前の某国某所のとある建物の一室。ここに、ある男が潜伏していた。彼こそ、自分の欲望の為に仲間達を裏切った男だった。
嘗て仲間達の中でも飛びぬけた才能を持つ、天才と呼ばれた男の些細な異変に気付き、原因を調べ上げ、その苦悩の原因を知り、それを己の欲望の為に利用するために行動した男。
その欲望がもう少しで叶うという時に、天才に気付かれてしまい、結局、ろくな準備もできずに逃亡生活を余儀なくされた。しかも逃げる時に、自分の欲望を叶える計画に必要な部分を持ち出すことができなかったという失態まで犯す始末。そのせいで、計画は更に遅れる事になった。
それから数か月後、男は今いる地に身を隠し、ひたすら逃亡するときに持ち出せなかった計画の重要部分を再構築する事に時間を費やした。
「これでようやく願いが叶う。」
男は目の前にある特性のコンピュータに記憶媒体をセットし、自分だけが知る日本に隠していた、目的の為だけに作り上げた空間にあるコンピュータに接続を開始し、目を閉じ、静かにその時を待った。
◇ ◇ ◇
「…接続を確認。全員を呼び出してくれ。」
彼は自分の秘書を務めると同時に彼の仲間の1人である女性に指示をする。その言葉を受け彼女は直ぐに残りの10人の仲間たちに呼び出しの連絡をいれた。
「いよいよ始まるのね。」
そう小さく呟いた彼女の言葉は、彼の耳にも届いていた。
連絡をつけると、彼女は彼『天才』の傍にゆっくりと近づいていく。すると「今ならまだ間に合うぞ。」という彼の呟きが聞こえてきた。彼女は、今まで同じような台詞を、何度も他の仲間たちと共に聞いた。その度に彼と彼女たちは口論となったものだと、何度も繰り返した口論の内容を思い出してしまい、思わずクスクスと笑ってしまう。
そんな彼女と彼は、苦笑いを浮かべながら互いに見つめあい、同時にこう言った。
「そんなの今更だろう?」
「そんなの今更でしょう?」
耐え切れずに、アハハハと大きめの声を出して二人が笑い出すと同時に、次々と彼の仲間たちが入室してきた。
そんな二人の楽しそうな姿を、一体どうしたんだと不思議そうな表情を浮かべ見る10人の男女。
そんな彼らに、天才は何でもないと言いながら全員の顔を見つめた。
「さぁ。始めようか?生き残るための戦いを!」
そう言いながら彼は右手を肩の高さまで挙げると、彼の仲間たちが次々とその手に自分たちの手をパンッと勢いよく合わせ、ある空間を取り囲むように配置された、ぞれぞれの机に向かっていった。
「5番から67番までの作業完了しました。」
「こちらも今のところ予定通り。問題は発生していません。」
「こっちはAの256からF256まで、移行中…っと今完了しました。」
「システム今のところ異常ありません。」
「探査プログラム起動完了。」
「おーい、レベル5のシステムチェックはどうなってる~?」
「早く終わらせてのんびりしたいです。どーぞ~。OK。」
「俺、これが無事に終わったら、彼女に告白するんだ…。っと、オワタ。」
「…なんか変なフラグたちそうだからやめれ…。つーか今関係あるか?それ。だいたい、お前奥さんいるだろう?こっちもチェック終わりっす。」
「たちそうじゃなくて、たてようとしてるのよ。いつもの事でしょう。っと、此方も終了です。」
「残り予想時間、後6分。作業進行率97%…。あとは、天才次第です。」
作業開始から、約2時間が経過し、不気味な決して人が発することも、理解することもできない不快な音が流れる中、それぞれが作業の進行状況を報告・確認しながら必要な工程を次々とこなしていく。
「こっちも今終わった。結構ギリギリだな。…っ出るぞっ!」
天才がそう叫ぶと同時に、彼らが取り囲んだ空間の中央に淡く紫色の光を放つ立方体が浮かび上がった。
「これが、禁断の箱『パンドラ』か。」
そう。この浮かび上がる立方体こそが、彼が偶然見つけてしまった『願望変換機』とも言える『パンドラ』と呼ばれるモノだった。これが実際にこの世界に出現したのは、おそらく過去に数度。その名残が世界中にのこる神話や伝承の元になったのではないかと彼は考えていた。『パンドラ』という名称でさえも本来のものではないのだろう。
とにかく、強大な力を有した『ナニカ』であることは変わりない。
ブウゥン…
重低音が聞こえたと同時に、箱が浮かんでいる下に、2つの円を中心とした幾何学模様が、毒々しい光を放ちながら浮かび上がった。
そして対をなすように、箱を挟んだ真上の空間に12個の机から発せられた光が造りだした別の幾何学模様が浮かび上がる。
その場でゆっくりと回転していた箱は、白く強い光を放つとゆっくりと展開していく。
「さて。箱はどちらを選ぶ。」
天才が、そう呟きながら最後のキーを押しこんだ。
12人が見守る中、箱は完全に展開し、地上に浮かび上がった幾何学模様ではなく、箱の上に浮かぶ幾何学模様を取り込み、ゆっくりと消えていく。
◇ ◇ ◇
「!?なんだ?」
男がいる部屋の明かりがすべて消えた。小さな窓から差し込む日の光さえも。
明かりと言えるものは、すでに目の前にあるモニタの光だけ。
「一体、何がどうし…ヒィッ!?」
男は見た。最後の明かりを放つモニタの中に映し出される大きな目。その大きな目の瞳の中には更に多くの瞳が、昆虫の複眼のように無数に存在し、何故かは知らないが、その複眼を構成する瞳の中にも更に同じような瞳があるのが理解できた。
男は不意に、子供の頃に流行った合わせ鏡の事を思い出した。すると、ニタリとその瞳がワラウように細められると同時に、その目の中から、無数の小さな腕が伸びだし、男を拘束する。
「や…やめ…ヒャァヒィィイイイイ!!」
そしてそのまま、男は黒い無数の小さな腕に拘束されたまま、モニタに映る目の中に引きずり込まれていった。
◇ ◇ ◇
箱が天才達が作った幾何学模様を吸収し消えると同時に、世界にズシンと何かが重くのしかかった様に感じた。次に、地面に浮かび上がっていた幾何学模様が砕け、それを用意した男の存在そのものと、男が世界を変えるために代償として用意していた、世界中に現存する『核兵器』と『核関連施設』の存在を代償として世界は変わった。
それは丁度、彼らが用意したVRMMORPGの正式サービス開始日の開始時間であるAM10時の事だった。
◇ ◇ ◇
「ううん…。」
やけに重く感じる体を起こし、ヘッドギアのゴーグル部分を上にずらし周りを見渡す。
時間を確認すると、PM12:15を表示している。どうやら、約2時間近く気を失っていたらしい。
更にキョロキョロと視線を動かして確認してみる。そこは確かに慣れ親しんだ自分の部屋だ。自分の部屋に間違いないのだが、何か違和感がある。この違和感は何なのだろうと、更に周りを見渡してみると…。
「!?」
ハルとナツの2人の着ている服が、普段着ではなく、どこかで見たことがある物に変わっていることに気付いた。更に、ソフィーの服装に関しても、西部劇で出てきそうなガンマンが身に着けている服装の女性版のような物に変わっていた。
それを確認すると、一樹は慌てて自分の現在の姿を部屋にある鏡を使って確認する。するとそこには。
黒を基調とした、胸・鳩尾・臍の上に当たる部分に、大きなベルトの金属製の留め金が付いている長袖の上着。
同じく黒を基調とした何かの皮でできたズボン。
白地に黒く十字に模様が入ったショートブーツ。
銀色の金属が付いた白いフィンガーレスグローブ。
左右の腕にはそれぞれ、絡みつくようにデザインされた5個の腕輪がはめられている。
極めつけは、白地で背面に黒く描かれた左二つ巴紋が特徴の袖がないフード付きのコート。
髪の色こそ、元の黒髪のままだが、この姿は間違いなく。
「まさか、これって…。Baumの装備品か?」
一体どういうことなんだろう。もし、ここがゲームの世界ならば、今頭に着けているヘッドギアは表示されないはず。まして、登録確認の時には感じなかった、装備品の重さと、まるで現実の物であるかのように感触まである。
混乱する考えの中で、とりあえず出した答えは。
「とりあえず、ハル達が目を覚ますまで待つことにするか。」
一人では、ますます混乱しそうなので、頼りになるかどうかはわからないが、3人が目を覚ますのを待つことにするということだった。
ヘッドギアを外し、怠さの残る体を自分のベッドに寄りかかるようにして床に座らせる。
脇に置いた、先ほどまで頭に着けていたヘッドギアを何となく見つめる。これがあるということは、少なくとも今いるのは、ゲームの世界ではなく、現実の世界なのだという証拠にはなると思うが、それでも自分たちの格好を見るとゲームの中であるような気もする。
一体何がどうなっているのやら。
「よくある異世界召喚ものや転生小説でもないだろうに…。」
アハハと笑いつつ、試しに右手の人差指を立て、軽く意識を集中し、ゲームの中でよく使った魔法スキル名『ライト』と言ってみる。
-ポウッ-
「へっ!?」
すると、かなり強い光を放つ、ソフトボール大の大きさの玉が指先に発現し、そのままゆっくりと上昇して、部屋の天井すれすれの所で止まった。
「え…あれ?ってことは、やっぱりゲーム?でも、ヘッドギアはあるし、あれぇえ?」
…益々混乱しただけだった。
そのまま10分ほど、一人でアタフタ・ジタバタとしていると、
「…カー君。何してるの?」
ハルがいつの間にか目を覚まし、次いで、ソフィー・ナツが順番で目を覚まして、ヘッドギアのゴーグルを上げながらひとりパントマイムをしていた自分に声をかけてきた。微妙に距離をとっているように見えたのは、気のせいだと思いたい。
コホンと咳払いをして、誤魔化しつつ、あれを見てみろと天井付近にふよふよと浮かぶ光球を指さす。
「アレって、『ライト』デスよネ?」
それが何?と言いたげに、ソフィーが自分を見る。
「じゃあ、次に自分たちの格好を見てみなよ。」
彼女たちは、ヘッドギアのゴーグルをロックがかかるまで完全に上げ、自分達の今の姿を確認する。
「へぇ。すっごい綺麗なグラ(グラフィック)だねぇ。登録の時から可なり向上してる~。」
「ソフィーは、銃闘士系の職なんですか。」
「ソーデス。そう言う2人は、両方とも魔法職っぽいデスね。カズの職は良くワカリませんが。」
キャイキャイと楽しげな会話をする3人。このままだと何時まで気付きそうにないので、パンと手を打合せ、自分に意識を向けさせる。
「はい。とりあえず其処まで。気付いてなさそうだから言うけど、3人とも、今自分たちの姿を確認するために、一体何をどうしたか解るか?」
「カズ君。一体どうしたんですか?」
ナツが不思議そうに自分に尋ねてくるが、今は気付かせることが先決。
「いいから。よく考えて。今自分たちがとった行動を思い出して。」
そんな自分の様子に何かを感じたのか、ようやく3人が考え出す。
「先ず、目を覚ましたらカー君が、ひとりパントマイムをしててぇ。」
…お願いします。忘れてください。
「次に、カズがアレをミロと言ったノデ、ゴーグルを上げてその方向をミマシた。」
「その後でお互いの姿の事で、盛り上がってたんですよね。あ、カズ君も似合ってますよ。」
似合っていると言われて恥ずかしいがうれしくも感じるが、まだ気付かんか。いい加減、じれったくなってきた。
「…アリガトウ。ってか、まだ気付かない?見るために、『ナニ』を『どうした』のさ。」
「ナニってヘッドギアのゴーグルを…!?ゴーグルっ!?」
3人が慌てて自分達が頭にかぶっているヘッドギアを確認する。
「ヘッドギアがあるってことは、ここは現実の世界の方なの?」
「ソーユー事になりますネ。」
「じゃあ、あれは何なのぉ~~?」
3人とも、光球を見たり、ヘッドギアを見たり、互いの姿を見てアタフタし始めた。
…当然だよなぁ…。
「兎に角3人とも落ち着いて。これで自分が変だったのは納得してもらえたと思うけど、今の自分達の状況ってどんなだと思う?」
「どんなって。そう訊かれても。」
ナツがそういった時だった。
- きゃあ!誰か助けて -
そんな誰かの悲鳴が聞こえてきた。
次回、戦闘に入る予定です。どうなるでしょうね?はじめてなもので…。
文面が変なところは後ほど修正します。