アイオメガ
毎年一度、地球の公転方向が、惑星アイオメガを向く日がある。
人々はそれを「アイオメガの日」と呼んだ。
アイオメガに行けば、海と大気の毒を塩に変え、第三次世界大戦で汚染された地球を救う、地球にはない元素があった。
アイオメガの地殻にだけ眠る、原子番号一二六番の安定元素「ルミナ」。五百年前、分光観測によって、アイオメガにルミナが存在する可能性が示された。
それ以来、NASAはアイオメガの日に、重水素や着替えを詰め込んだコンテナ、俗称「ダンボール」を、秒速三十キロメートルという地球の公転速度を使って射出してきた。
いまや、ダンボールは地球からアイオメガへ向かって、びっしりと一直線に並んでいた。
いよいよNASAは、人類をアイオメガへ送るため、宇宙船を建造した。
燃料も物資もダンボールから調達できるため、質量を減らすべく、必要最低限の大きさに設計された。
俗称「軽トラ」。
人類の命運を背負い、ミナ大佐とタクヤ少佐は出発した。
秒速三十キロで進むダンボールの「道」の上を、軽トラは“時速”三十キロの安全運転で進んだ。
相対速度はほぼゼロ。超高速で移動している実感はなく、あくびが出た。
ときどき助手席のタクヤが外に出て、ダンボールを開け、燃料や着替えを取ってきた。
ダンボールがならぶ真っ暗な「道」を、二人はひたすら延々と進んだ。
やがて、二人は険悪になった。
ミナがぶっきらぼうに言った。
「タクヤ、ダンボール取ってきてよ」
「……わかったよ」
「なによ、その口のきき方!」
外に出たタクヤは、腹立ちまぎれに足元のダンボールを蹴飛ばした。
洗濯物が詰まったダンボールが、宇宙の果てに飛んでいく。
その瞬間、タクヤも反対方向に吹っ飛んだ。
タクヤはとっさに軽トラのドアをつかんだ。
その瞬間、軽トラも「道」から外れ、宇宙に横転した。
二人を乗せた軽トラも、宇宙の果てへ飛んでいった。




