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短編コメディ

特に問題なし(会議録)

作者: 月見酒
掲載日:2026/01/23


会議は定刻どおりに始まった。


議題は「特に問題がない件についての確認」である。

出席者は七名。全員が資料を持っている。

資料の表紙には、太字でこう書かれていた。


――特に問題なし(案)


司会が咳払いをする。


「では、本件について確認を行います。

 まず前提として、問題はありますか?」


沈黙。


誰も手を挙げない。

誰も首を横に振らない。

ただ全員が、問題がないことを慎重に確認している。


一人目が口を開いた。


「現時点では、問題は確認されていません」


全員が頷く。


二人目。


「将来的な問題の発生可能性について検討しましたが、

 現時点では問題とは言えません」


三人目。


「問題がないこと自体が問題ではないか、

 という指摘も想定しましたが、

 その指摘自体が成立しないため、問題はありません」


司会は満足そうにメモを取る。


「ありがとうございます。

 では“問題がない”という認識について、

 認識のズレがないか確認しましょう」


四人目が資料をめくる。


「問題が“ない”というのは、

 “見落とされている問題がない”という意味であって、

 “今後も永遠に問題が発生しない”という意味ではありません」


五人目が即座に補足する。


「ただし、

 “今後問題が発生する可能性”を問題として扱うと、

 現時点では問題があることになってしまうため、

 今回は問題に含めない、という理解でよろしいかと」


全員、深く頷く。


司会「異論は?」


ない。


六人目が慎重に手を挙げる。


「一点だけ確認ですが、

 “特に問題なし”という結論に至ったこと自体が、

 外部から見て“問題がある”と受け取られる可能性については……」


七人目が即座に答える。


「その場合の問題は“外部の受け取り方”に属するため、

 本件の問題ではありません」


司会、即決。


「では、その点についても問題なしとします」


会議室の空気が、少しだけ軽くなる。


ここで一人が言った。


「議事録にはどう書きますか?」


司会は迷わず答える。


「“特に問題なし”と書きます」


「詳細は?」


「詳細は、

 “特に問題がなかったことを確認した”と書いてください」


「確認の結果は?」


「問題がないという結果です」


全員が一斉にペンを走らせる。


書くことは多い。

だが、起きたことは何もない。


最後に司会が宣言する。


「では本件の結論をまとめます」


全員、背筋を伸ばす。


「結論。

 本件については、

 特に問題はありませんでした」


拍手は起きない。

なぜなら、問題がなかったからだ。


会議は五分早く終了した。


議事録の最終行には、こう記された。


――結論:特に問題なし

※本結論は満場一致で再確認された


なお、この議事録は、後に保留された記録として再分類された。


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