特に問題なし(会議録)
会議は定刻どおりに始まった。
議題は「特に問題がない件についての確認」である。
出席者は七名。全員が資料を持っている。
資料の表紙には、太字でこう書かれていた。
――特に問題なし(案)
司会が咳払いをする。
「では、本件について確認を行います。
まず前提として、問題はありますか?」
沈黙。
誰も手を挙げない。
誰も首を横に振らない。
ただ全員が、問題がないことを慎重に確認している。
一人目が口を開いた。
「現時点では、問題は確認されていません」
全員が頷く。
二人目。
「将来的な問題の発生可能性について検討しましたが、
現時点では問題とは言えません」
三人目。
「問題がないこと自体が問題ではないか、
という指摘も想定しましたが、
その指摘自体が成立しないため、問題はありません」
司会は満足そうにメモを取る。
「ありがとうございます。
では“問題がない”という認識について、
認識のズレがないか確認しましょう」
四人目が資料をめくる。
「問題が“ない”というのは、
“見落とされている問題がない”という意味であって、
“今後も永遠に問題が発生しない”という意味ではありません」
五人目が即座に補足する。
「ただし、
“今後問題が発生する可能性”を問題として扱うと、
現時点では問題があることになってしまうため、
今回は問題に含めない、という理解でよろしいかと」
全員、深く頷く。
司会「異論は?」
ない。
六人目が慎重に手を挙げる。
「一点だけ確認ですが、
“特に問題なし”という結論に至ったこと自体が、
外部から見て“問題がある”と受け取られる可能性については……」
七人目が即座に答える。
「その場合の問題は“外部の受け取り方”に属するため、
本件の問題ではありません」
司会、即決。
「では、その点についても問題なしとします」
会議室の空気が、少しだけ軽くなる。
ここで一人が言った。
「議事録にはどう書きますか?」
司会は迷わず答える。
「“特に問題なし”と書きます」
「詳細は?」
「詳細は、
“特に問題がなかったことを確認した”と書いてください」
「確認の結果は?」
「問題がないという結果です」
全員が一斉にペンを走らせる。
書くことは多い。
だが、起きたことは何もない。
最後に司会が宣言する。
「では本件の結論をまとめます」
全員、背筋を伸ばす。
「結論。
本件については、
特に問題はありませんでした」
拍手は起きない。
なぜなら、問題がなかったからだ。
会議は五分早く終了した。
議事録の最終行には、こう記された。
――結論:特に問題なし
※本結論は満場一致で再確認された
なお、この議事録は、後に保留された記録として再分類された。
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