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第12話王国の骸、英雄の刃

巨大な骸の王が、ゆっくりと一歩を踏み出した。


それだけで――


地震が起きた。


床が波打つように隆起し、玉座の間の外壁が音を立てて崩れ落ちる。

空気が震え、耳鳴りがして、肺の奥が押し潰される感覚。


「……っ……」


ルミナは、思わず膝をついた。


(……なに、これ……)


敵というより、災害だ。

生物じゃない。国家規模の破壊兵器。


ネクロディウスは、ゆっくりと腕を振り上げた。

次の瞬間。


――城壁が、飛んできた。


いや、正確には「剥がれた城壁」が、質量兵器みたいな速度で投げつけられてきた。


「……来るよルミナ!」


リリアが叫ぶ。

城壁ブロックは、直径十メートルはある。

あれが直撃したら、跡形も残らない。


「……防御、展開します……!」


ルミナが、震える声で詠唱を叩き込む。


「――グランド・サンクチュアリ!」


魔力が爆発するように広がり、二人を包み込む半球状の結界が展開された。

淡い金色の光が、ドーム状に固定される。


次の瞬間。


城壁ブロックが、真正面から結界に激突した。

衝撃波が走り、地面がえぐれ、周囲の瓦礫が宙を舞う。


「……っ……!」


ルミナの膝が、がくりと沈む。

結界に、ひびが走った。


(……耐えて……!)


二発目。

三発目。


雨のように降り注ぐ城壁ブロック。


「……っ、ぐ……!」


ルミナの口から、血が零れた。


「……支援職……舐めないで……ください……!」


必死に魔力を流し込み、結界を維持する。


(……見えない……)


視界の端が、暗くなっていく。

音が、遠い。


結界に流し込んでいる魔力の量が、自分でも分からなくなっていた。

ただ、止めたら終わる。

それだけは、本能で分かる。


「……壊……させ……」


喉の奥から、ひゅっと変な音が漏れた。


足の感覚がない。

床に立っているのか、浮いているのかも分からない。


それでも、杖だけは離さない。


(……私が……ここで……止めないと……)


結界が、またひび割れた。


「……っ……!」


ルミナは、歯を食いしばって、無理やり魔力をねじ込んだ。

視界が、完全に白く飛びかける。


それでも。


結界は――壊れなかった。


そしてついに、リリアが――前に出た。


「ありがとね、ルミナ」


城壁ブロックに向かって、剣を振る。


一閃。


直撃する前に、城壁が粉砕された。


二発目。

三発目。


今度は、全部――


剣で叩き落とす。


「……は……?」


ルミナの思考が、一瞬止まった。


「ルミナ、結界維持して!全部は捌ききれない!それに、私はもう防御魔法は展開できそうにない!」


「……は、はい……っ……!」


巨大王が、今度は地面を叩きつけた。


床が割れ、無数の骸の腕が生えてくる。


「……っ!」


リリアは、一歩踏み込む。


剣を振るう。

薙ぎ払う。

叩き潰す。


腕が、まとめて吹き飛ぶ。


「……ルミナには触れさせない」


巨大王の胸部が、赤黒く発光した。

黒いエネルギーが、砲身みたいに収束していく。


空気が、焦げた匂いを帯びる。


「……っ……あれ……撃つ気……!」


ルミナの声が、震えた。


魔力が、圧縮されすぎている。

目に見えないはずのエネルギーが、空間そのものを歪ませていた。

周囲の瓦礫が、吸い寄せられるように浮き上がり、

赤黒い光の渦へと引き込まれていく。


(……あれ……当たったら……結界ごと……消し飛ぶ……)


本能が、はっきりと「死」を告げていた。


「……やば……」


リリアは、短く呟いた。


次の瞬間。


巨大王の胸部から、

直径三メートルはあろうかという黒い光の奔流が、解き放たれた。


音が、遅れてきた。


轟音というより、

世界そのものが引き裂かれるような破壊音。


「リリアさん――!!」


ルミナが叫ぶ。


ビームは、一直線に二人を捉えていた。

回避は、間に合わない。

結界で受け止めても――耐えられない。


「……正面から行くしかないか」


リリアは、そう言って――笑った。


次の瞬間、

彼女は結界の前に飛び出した。


「ルミナ、下がって!」


「……無理です……今切ったら……!」


叫びが重なる。


リリアは、正面から走った。


剣を、両手で構える。

全身の筋肉が、悲鳴を上げる。


(……斬れる……)


根拠なんて、ない。

でも、なぜか分かる。


(……今なら……斬れる……)


「――はああああっ!!」


リリアは、ビームに向かって跳んだ。


一閃。


剣が、赤黒い光に触れた瞬間――

衝撃が、全身を叩き潰した。


視界が、真っ白になる。


それでも、腕を止めない。


二閃。

三閃。


まるで、滝を剣で割っているみたいな感覚。


やがて――


ビームが、真っ二つに裂けた。


左右に逸れた光の奔流が、

玉座の間の壁をえぐり、天井を吹き飛ばし、

外の空まで一直線に貫通していく。


その爆風で、

リリアの身体が、後方へ吹き飛ばされた。


「……っ!!」


床を転がり、

壁に叩きつけられる。


衝撃で、肋骨の奥が軋む感覚。


「……っ……」


一瞬だけ、リリアの呼吸が止まった。


(……あ、これ……普通に当たってたら……死んでたな……)


口の中に、鉄の味が広がる。


それでも――


立つ。


「……あっつ……」


軽口みたいに言いながら、

剣を握る指が、わずかに震えているのを

ルミナだけが見ていた。


リリアは、気づかれないように一瞬だけ左腕を振った。

指先の感覚が、少しだけ――鈍い。


結界に戻る。

息が、少し荒い。


「……ほら、全部止めてるでしょ」


ルミナは、涙目だった。


「……なんで……そんな……平然と……」


「だってさ」


リリアは、剣を肩に担ぎ直す。


「私はゴリ押し、ルミナは支援でしょ」


その時。


巨大王が、怒りに任せるように腕を振り上げた。


城壁と墓標で構成された、

幅二十メートルはある巨大な剣。


それが――


音を置き去りにする速度で、リリアに叩きつけられた。


「……っ!!」


ルミナの喉が、ひゅっと鳴る。


(……無理……!あれ……受け止めたら……潰れる……!)


だが。


リリアは――逃げなかった。


一歩、前に出る。


そして――


片手で、剣を受け止めた。


ごきん、という嫌な音。


地面が、放射状に砕け散る。

衝撃波が、ルミナの結界を叩いて揺らす。


「……っ、重……!」


リリアの足が、地面にめり込む。

膝が、わずかに沈む。


腕の筋肉が、みし、と悲鳴を上げた。


(……これ……普通に人間の骨格じゃ……無理だな……)


それでも、止まっている。


巨大王の剣は――

それ以上、落ちてこなかった。


「……な……」


巨大王の動きが、一瞬止まる。


「……止めた……?」


ルミナは、目を見開いた。


(……片手……?

あれ……城一個分の質量じゃ……?)


リリアは、歯を食いしばりながら笑った。


「……悪いけどさ……」


ぎり、と剣を押し返す。


「……私、今めっちゃ楽しいかも」


次の瞬間。


リリアは、巨大剣を――投げ返した。


いや、正確には。


押し返した“だけ”なのに、

巨大剣は、そのまま巨大王の腕ごと吹き飛ばされた。


「……我が……腕が……!」


轟音とともに、

骸と石でできた腕が、粉砕されて宙を舞う。


巨大王が、よろめいた。


その一瞬。


リリアの目が、鋭く光る。


(……今……!)


地面を、思い切り蹴る。


「――っ!」


音が、消えた。


次の瞬間、

リリアの姿は、巨大王の胸元にあった。


(……速……!?)


ルミナの視界が、追いつかない。


リリアは、空中で身体をひねり、

巨大王の胸部――赤黒く脈打つ“コア”を見据えた。


(……あそこが……心臓……!)


剣を、両手で構える。


全身の力を、一本に集約する。


「……はああああっ!!」


突き。


剣が、コアに深々と突き刺さる。


バキン、という鈍い破壊音。


赤黒い光が、暴走するように噴き出した。


「……終わり――」


巨大王の身体が、

内側から、ひび割れ始める。


腕、胴体、脚。


すべてに、蜘蛛の巣みたいな亀裂が走る。


「……ば……かな……」


巨大王の声が、歪む。


次の瞬間。


コアが――砕けた。


閃光。


衝撃波。


巨大王の身体が、

一斉に崩れ落ちていく。


「……我が……王国……が……」


その声は、怒りでも呪いでもなく、

ただ――悔しさみたいに掠れていた。


城壁が、骸骨が、瓦礫が、

雪崩みたいに崩壊していく。


ルミナは、思わず目を覆った。


(……終わっ……た……?)


だが――


その崩壊の中心から。


“何か”が、飛び出した。


人型の影――ネクロディウス本体。


だが、その魔力密度は、

さっきまでの巨大王よりも、明らかに“濃い”。


圧が、変わった。


重たいのに、鋭い。

刃物みたいな気配。


「……あ……」


ルミナが、思わず声を漏らした。


(……これ……今までの……“前座”……?)


「……やはり……英雄は……化け物だ……」


リリアの目が、見開かれる。


「……は?」


巨大王の身体は、ただの“鎧”だった。

本体は、最初から別にあった。


ルミナは、もう立てなかった。

魔力は、完全に枯渇している。


リリアの身体も、重くなり始めていた。

反動が、来ている。


ネクロディウスが、静かに詠唱を始める。


「……次は……本体で……殺す……」


ネクロディウスの周囲一帯が、赤黒く発光する。


(……やば……)


リリアが、歯を食いしばった。


――ここからが、本当の地獄だ。

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