第10話:貴方との約束
植物園の奥にあるガゼボは、
風通しが良く、花の香りが集まる場所だ。
私は、いつもひとりで来るそこへ向かった。
アレクシード様は、
無言で周囲を見渡している。
「ここは、休憩所です」
「植物園の中でも、
一番落ち着く場所ですよ」
彼は、
ゆっくり腰を下ろした。
私も、
向かいに座る。
しばらく、
沈黙。
不思議と、
居心地は悪くなかった。
やがて、
彼が口を開く。
「……結婚式がある」
私は、
頷いた。
「第1王子殿下と、
リリアナ様ですね」
その瞬間。
アレクシード様の目が、
鋭くなった。
「……なぜ知っている」
しまった。
私は、
言葉を探す。
「噂で……」
「噂で?」
彼は、
じっと私を見る。
「王子の婚約者を、
名前で呼ぶほどの噂か?」
胸が、
どくんと鳴った。
「君は、妙だ」
「花屋にしては、
振る舞いが貴族的だ」
「言葉遣いも、
立ち居振る舞いも」
逃げ場が、
なくなっていく。
私は、
小さく息を吸って言った。
「……元貴族でした」
彼の目が、
大きく見開かれる。
「だが」
「貴族令嬢が没落した話は、
聞いたことがない」
「ましてや、
王太子の婚約者と
面識がある身分など……」
もう、
これ以上は無理だ。
私は、
勢いよく立ち上がった。
――ガタッ。
「すみません」
「急用を思い出しました」
「失礼します!」
そして、
走った。
植物園の道は、
頭に入っている。
平民の服は、
動きやすい。
――逃げ切れる。
そう、
思った。
だが。
腕を掴まれた。
「……待て」
低い声。
騎士団長の力。
敵うはずがなかった。
私は、
振り返る。
「……捕まえるつもりですか?」
彼は、
静かに首を振った。
「安心しろ」
「君に危害は加えない」
「騎士として、誓う」
その口の動きは、
嘘ではなかった。
「リア」
彼は、
私の名を呼ぶ。
「君は、
いつもここに来ているのか」
私は、
小さく頷く。
「……最近は、毎日
「なら」
「俺も、
毎日ここに来よう」
心臓が、
大きく跳ねた。
「リアも、来るな?」
私は、
少し迷ってから、
頷いた。
「……はい」
こうして。
女嫌いの騎士団長と、
元悪役令嬢の私は――
毎日、植物園で会うことになった。




